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第13章
1.
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「ゲイナー、いいかな?」
そう言ってハリスが病室へやって来た。昼食を取っていたゲイナーはその手を止め、顔を上げた。
「ハリスじゃないか。どうしたんだ?思い詰めたような顔をして」
ハリスは椅子を引き寄せてゲイナーの側に座ると、辛そうな顔を向けてきた。
「ゲイナー、落ち着いて聞いてくれ」
そう前置きするハリスに、ゲイナーは嫌な気分になった。鼓動が早くなり、頭の奥ではずっとまさか、まさか、と言葉が警報器のように鳴り響いている。
「なんだ……?」
唾を沢山飲むが、緊張の為、喉が酷く渇いた。
「クレイズが、刺されて、ここに運ばれてるんだ」
「なん……だと?」
渇いた喉がつまり、うまく言葉が出てこない。
「俺も、さっき病室を見て来たよ。今はドーズが付き添ってる。まだ意識はないみたい」
ゲイナーはハリスを睨んだ。ハリスを責めても仕方がない事は分かっている。だが、睨まずにはいられなかった。
「どうしてそんな事になったんだ!一体誰が?」
「分からない。けど、ドーズはカルロスと何か話してたよ」
やはり、と言うべきか。危険なのは分かっていた。それなのに自分はクレイズを頼った。不甲斐ない。情けない。
「何か、とは、何だ?」
語尾を荒げてそう言うと、ハリスは首を振った。
「聞こえなかったよ」
ハリスの言葉にゲイナーは体を捻り、足をベッド脇からの下へ垂らすと、そのままスリッパを履いて立ち上がった。
「どこ行くのさ?そんな体で」
ハリスがゲイナーの腕を引っ張った。だが、ゲイナーはそれを振り払い、壁に立てかけてある松葉杖を手に取った。するとすぐに、痛みに顔を歪めた。
「ドーズに話しを聞かなくては……それに、彼女が心配だ」
扉に手をかけると、ハリスがその手を押さえた。
「クレイズの意識が戻ったら、ドーズに来てもらおうよ?」
ハリスは必死だった。
「今ゲイナーまで傷を開かせて入院が長引いたら、クレイズはもっと悲しむよ!」
ゲイナーは抵抗を止めた。どうであれ、もうこれ以上クレイズを悲しませたくなかった。
「じゃあどうすればいいんだ!なぁ?教えてくれ!頼む……」
振り返りハリスの腕を掴んだ。どうすればいいか分からない。道に迷ってしまったように、右往左往し、困惑し、悲しくて辛い。
──助けて欲しい、彼女を。
崩れそうになったゲイナーを、ハリスは支えながらベッドへと導いてくれた。端に腰を下ろしたゲイナーは、眼鏡を外した。
「すまない……取り乱してしまって」
恥ずかしいかぎりだ。そんな事をしても、いい方法なんて浮かびやしない。
「仕方ないよ。ゲイナーはクレイズが大好きなんだから」
子供みたいな事を言うと、ハリスは再度椅子に腰掛けた。
「俺もゲイナーも、そしてドーズも、クレイズを守りたい、カルロスを逮捕したいって言う気持ちは一緒だよ」
そう言うと、ハリスは真剣な表情になった。法廷で見せるような、相手を射るような目だ。普段ハリスは温厚なだけに、この目は鋭さを通り越して、狂気を含んでいるように見える時がある。
「あぁ」
そう短く答えると、ハリスは体を前傾させ、ゲイナーに近付いた。
「そこで考えたんだ」
そう言うと、ハリスは人差し指を立て、話し出した。
「第三者を介入しようよ。どうしても俺達は、互いを知っていて、感情的に考え、行動しやすい。それって、1番危険だと思うんだ」
そう提案するハリスを、ゲイナーはじっと見つめた。頭が硬いかも知れないが、その意見に賛成しかねる。
「誰を?」
取り敢えず、聞いてみる事にした。誰か、信頼の置ける人物がいるような口ぶりだ。
「リック・ローレン。ゲイナーも名前ぐらいは聞いた事あるんじゃない?」
「あぁ、勿論だ」
リック・ローレンは、ここブレイブシティより少し離れた、都心に近いナシャンテシティの警察署に勤務する刑事だ。
敏腕で、いくつもの事件を解決している。
「彼、俺の友達なんだよ。だから、少し頼ってみようと思ってるんだ」
ハリスは膝の上で手を組んだ。それはハリスの固い意志を表しているように、強く結ばれている。
「そうだな……彼なら、この状況をなんとかしてくれるかも知れない」
なんとかして欲しい。ゲイナーはそう強く望んだ。クレイズの為にも、この街のこれからの為にも。
そう言ってハリスが病室へやって来た。昼食を取っていたゲイナーはその手を止め、顔を上げた。
「ハリスじゃないか。どうしたんだ?思い詰めたような顔をして」
ハリスは椅子を引き寄せてゲイナーの側に座ると、辛そうな顔を向けてきた。
「ゲイナー、落ち着いて聞いてくれ」
そう前置きするハリスに、ゲイナーは嫌な気分になった。鼓動が早くなり、頭の奥ではずっとまさか、まさか、と言葉が警報器のように鳴り響いている。
「なんだ……?」
唾を沢山飲むが、緊張の為、喉が酷く渇いた。
「クレイズが、刺されて、ここに運ばれてるんだ」
「なん……だと?」
渇いた喉がつまり、うまく言葉が出てこない。
「俺も、さっき病室を見て来たよ。今はドーズが付き添ってる。まだ意識はないみたい」
ゲイナーはハリスを睨んだ。ハリスを責めても仕方がない事は分かっている。だが、睨まずにはいられなかった。
「どうしてそんな事になったんだ!一体誰が?」
「分からない。けど、ドーズはカルロスと何か話してたよ」
やはり、と言うべきか。危険なのは分かっていた。それなのに自分はクレイズを頼った。不甲斐ない。情けない。
「何か、とは、何だ?」
語尾を荒げてそう言うと、ハリスは首を振った。
「聞こえなかったよ」
ハリスの言葉にゲイナーは体を捻り、足をベッド脇からの下へ垂らすと、そのままスリッパを履いて立ち上がった。
「どこ行くのさ?そんな体で」
ハリスがゲイナーの腕を引っ張った。だが、ゲイナーはそれを振り払い、壁に立てかけてある松葉杖を手に取った。するとすぐに、痛みに顔を歪めた。
「ドーズに話しを聞かなくては……それに、彼女が心配だ」
扉に手をかけると、ハリスがその手を押さえた。
「クレイズの意識が戻ったら、ドーズに来てもらおうよ?」
ハリスは必死だった。
「今ゲイナーまで傷を開かせて入院が長引いたら、クレイズはもっと悲しむよ!」
ゲイナーは抵抗を止めた。どうであれ、もうこれ以上クレイズを悲しませたくなかった。
「じゃあどうすればいいんだ!なぁ?教えてくれ!頼む……」
振り返りハリスの腕を掴んだ。どうすればいいか分からない。道に迷ってしまったように、右往左往し、困惑し、悲しくて辛い。
──助けて欲しい、彼女を。
崩れそうになったゲイナーを、ハリスは支えながらベッドへと導いてくれた。端に腰を下ろしたゲイナーは、眼鏡を外した。
「すまない……取り乱してしまって」
恥ずかしいかぎりだ。そんな事をしても、いい方法なんて浮かびやしない。
「仕方ないよ。ゲイナーはクレイズが大好きなんだから」
子供みたいな事を言うと、ハリスは再度椅子に腰掛けた。
「俺もゲイナーも、そしてドーズも、クレイズを守りたい、カルロスを逮捕したいって言う気持ちは一緒だよ」
そう言うと、ハリスは真剣な表情になった。法廷で見せるような、相手を射るような目だ。普段ハリスは温厚なだけに、この目は鋭さを通り越して、狂気を含んでいるように見える時がある。
「あぁ」
そう短く答えると、ハリスは体を前傾させ、ゲイナーに近付いた。
「そこで考えたんだ」
そう言うと、ハリスは人差し指を立て、話し出した。
「第三者を介入しようよ。どうしても俺達は、互いを知っていて、感情的に考え、行動しやすい。それって、1番危険だと思うんだ」
そう提案するハリスを、ゲイナーはじっと見つめた。頭が硬いかも知れないが、その意見に賛成しかねる。
「誰を?」
取り敢えず、聞いてみる事にした。誰か、信頼の置ける人物がいるような口ぶりだ。
「リック・ローレン。ゲイナーも名前ぐらいは聞いた事あるんじゃない?」
「あぁ、勿論だ」
リック・ローレンは、ここブレイブシティより少し離れた、都心に近いナシャンテシティの警察署に勤務する刑事だ。
敏腕で、いくつもの事件を解決している。
「彼、俺の友達なんだよ。だから、少し頼ってみようと思ってるんだ」
ハリスは膝の上で手を組んだ。それはハリスの固い意志を表しているように、強く結ばれている。
「そうだな……彼なら、この状況をなんとかしてくれるかも知れない」
なんとかして欲しい。ゲイナーはそう強く望んだ。クレイズの為にも、この街のこれからの為にも。
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