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第12章
2.
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翌日、再びゲイナーの病室を尋ねた。ドーズは引き止めたがっていたが、自分が言う事を聞かないのを知って何も言わず見送ってくれた。
ありがたい。
そう思いながらクレイズが病室に入ると、そこにゲイナーの姿がない事に慌てた。
退院はまだの筈だ。もしかしたらトイレに行っているのかも知れない。そう思い暫く病室にいたが、5分たっても戻って来る様子はなかった。
まさか、カルロスが?そう思ったクレイズは、慌てて鞄からノートパソコンを取り出し、無人のベッドの上に広げた。
──ゲイナーは一体どこに?
マウスをクリックすると、居場所を示す印はこの病院の上で点滅している。どうやら病院内にはいるようだ。更にマウスを操り病院内の詳細地図を表示させると、印は2つ隣の空き部屋の上で点滅した。それを確認するとクレイズは病室を飛び出し、廊下を滑るように移動した。
目的の病室前には、何故か清掃中の小さな看板が立てられている。人払いの為の擬装だと感じたクレイズは、看板を跨いで病室の引き戸を勢いよく開いた。
すると、扉に背中を向け、ベッドを見下ろしている長身の男が1人いた。カルロスだと分かったクレイズは、早くなる呼吸を落ち着かせるよう、深く息を吸い込んだ。
「何をしてるんだ、カルロス」
「何もしていない」
そう言いながらカルロスが振り返ると、その奥にゲイナーが見えた。ベッドに横たわり、目を閉じている。だが、その腹部は赤く染まっていた。
「ゲイナー!貴様、ゲイナーに何を……!」
慌ててゲイナーに駆け寄りカルロスを睨むと、クレイズは歯を食いしばった。
「死んではいない。少し、怪我が酷くなっただけだ」
何食わぬ顔でそう言うと、カルロスはゲイナーを見つめた。
「お前がやったんだろう?何故ゲイナーばかりを狙うんだ……!狙いがオレなら、何故オレを狙わない……?」
まくし立てるように言うと、カルロスはため息を漏らした。ゲイナーは、苦しそうに息をしている。
「無理矢理は好かん。お前自身が選ばなければ意味がない」
そう言ったカルロスの言葉に目を丸くしていると、ゲイナーが血に濡れた手でクレイズの手を掴んだ。
「私なら、大丈……夫だから……」
そう言ったゲイナーの手を握り返し、クレイズは窓に映るカルロスを見つめた。
──カルロスは何を言ってるんだ?
ゲイナーも何を?
カルロスは、オレが選ばなければならないって、何をだ?
頭が混乱する。紐がこんがらがってしまっているように、思考がバラバラだ。
「何を選べと?まさか、お前をか?」
そう口にすると、カルロスは優しく、そして冷酷に微笑んだ。
「ゲイナーを死なせたくなければな」
──嫌だ。カルロスを選ぶ事も、ゲイナーを見殺しにするのも、どちらも嫌だ。
そう思った。だがこのままだと、確実にゲイナーはカルロスにいたぶられ、いらない怪我を負わされるだろう。そして殺されてしまうかも知れない。それならば、自分が堪えればいい。
簡単だ。ゲイナーが傷を負う事にくらべれば。
暫く考えてから、クレイズは握り返したゲイナーの手をそっと撫でた。
「お前は、いつも大丈夫じゃない時に大丈夫だと言うな。悪い癖だぞ?」
そう言ってからナースコールを押すと、クレイズはゲイナーから手を放した。力なく、ゲイナーの手がベッドから垂れる。
「クレイズ、駄目だ。行くんじゃない……!」
扉に向かって歩き出したカルロスの背中を、クレイズは見つめていた。
「クレイズ、頼む、行かないでくれ……!」
ゲイナーがそう叫んだのとほぼ同時に、看護婦達が病室へやって来た。それと入れ違いに、クレイズはカルロスの後を追った。
耳にゲイナーの声がこびりついてしまった。すぐには消えないだろう。そう思いながら、廊下を歩いた。
──不甲斐ない。
どうしようもない。
助けたくても結局どうしてやる事も出来ず、カルロスの思惑通りになってしまった。
「あぁぁぁあっ……!」
叫んだ。だがもう、クレイズには届いていないだろう。
自分を囲むように看護婦達が立ち並び、何か喚いている。
ゲイナーにはそれが聞こえない。
看護婦達がゲイナーを押さえ付けると、医者が注射器を取り出し、腕に注した。
どうして行かせてくれないんだ?
そう怒鳴ったつもりだったが、言葉にはならなかったようだ。
医者は顔を歪め、看護婦に何かを指示している。眠気がくる。眠ってはいけないのに。
──早く彼女を追わないと。
手を伸ばすが、扉には届かなかった。
ありがたい。
そう思いながらクレイズが病室に入ると、そこにゲイナーの姿がない事に慌てた。
退院はまだの筈だ。もしかしたらトイレに行っているのかも知れない。そう思い暫く病室にいたが、5分たっても戻って来る様子はなかった。
まさか、カルロスが?そう思ったクレイズは、慌てて鞄からノートパソコンを取り出し、無人のベッドの上に広げた。
──ゲイナーは一体どこに?
マウスをクリックすると、居場所を示す印はこの病院の上で点滅している。どうやら病院内にはいるようだ。更にマウスを操り病院内の詳細地図を表示させると、印は2つ隣の空き部屋の上で点滅した。それを確認するとクレイズは病室を飛び出し、廊下を滑るように移動した。
目的の病室前には、何故か清掃中の小さな看板が立てられている。人払いの為の擬装だと感じたクレイズは、看板を跨いで病室の引き戸を勢いよく開いた。
すると、扉に背中を向け、ベッドを見下ろしている長身の男が1人いた。カルロスだと分かったクレイズは、早くなる呼吸を落ち着かせるよう、深く息を吸い込んだ。
「何をしてるんだ、カルロス」
「何もしていない」
そう言いながらカルロスが振り返ると、その奥にゲイナーが見えた。ベッドに横たわり、目を閉じている。だが、その腹部は赤く染まっていた。
「ゲイナー!貴様、ゲイナーに何を……!」
慌ててゲイナーに駆け寄りカルロスを睨むと、クレイズは歯を食いしばった。
「死んではいない。少し、怪我が酷くなっただけだ」
何食わぬ顔でそう言うと、カルロスはゲイナーを見つめた。
「お前がやったんだろう?何故ゲイナーばかりを狙うんだ……!狙いがオレなら、何故オレを狙わない……?」
まくし立てるように言うと、カルロスはため息を漏らした。ゲイナーは、苦しそうに息をしている。
「無理矢理は好かん。お前自身が選ばなければ意味がない」
そう言ったカルロスの言葉に目を丸くしていると、ゲイナーが血に濡れた手でクレイズの手を掴んだ。
「私なら、大丈……夫だから……」
そう言ったゲイナーの手を握り返し、クレイズは窓に映るカルロスを見つめた。
──カルロスは何を言ってるんだ?
ゲイナーも何を?
カルロスは、オレが選ばなければならないって、何をだ?
頭が混乱する。紐がこんがらがってしまっているように、思考がバラバラだ。
「何を選べと?まさか、お前をか?」
そう口にすると、カルロスは優しく、そして冷酷に微笑んだ。
「ゲイナーを死なせたくなければな」
──嫌だ。カルロスを選ぶ事も、ゲイナーを見殺しにするのも、どちらも嫌だ。
そう思った。だがこのままだと、確実にゲイナーはカルロスにいたぶられ、いらない怪我を負わされるだろう。そして殺されてしまうかも知れない。それならば、自分が堪えればいい。
簡単だ。ゲイナーが傷を負う事にくらべれば。
暫く考えてから、クレイズは握り返したゲイナーの手をそっと撫でた。
「お前は、いつも大丈夫じゃない時に大丈夫だと言うな。悪い癖だぞ?」
そう言ってからナースコールを押すと、クレイズはゲイナーから手を放した。力なく、ゲイナーの手がベッドから垂れる。
「クレイズ、駄目だ。行くんじゃない……!」
扉に向かって歩き出したカルロスの背中を、クレイズは見つめていた。
「クレイズ、頼む、行かないでくれ……!」
ゲイナーがそう叫んだのとほぼ同時に、看護婦達が病室へやって来た。それと入れ違いに、クレイズはカルロスの後を追った。
耳にゲイナーの声がこびりついてしまった。すぐには消えないだろう。そう思いながら、廊下を歩いた。
──不甲斐ない。
どうしようもない。
助けたくても結局どうしてやる事も出来ず、カルロスの思惑通りになってしまった。
「あぁぁぁあっ……!」
叫んだ。だがもう、クレイズには届いていないだろう。
自分を囲むように看護婦達が立ち並び、何か喚いている。
ゲイナーにはそれが聞こえない。
看護婦達がゲイナーを押さえ付けると、医者が注射器を取り出し、腕に注した。
どうして行かせてくれないんだ?
そう怒鳴ったつもりだったが、言葉にはならなかったようだ。
医者は顔を歪め、看護婦に何かを指示している。眠気がくる。眠ってはいけないのに。
──早く彼女を追わないと。
手を伸ばすが、扉には届かなかった。
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