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第7章
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現場検証を終え雑貨屋から出る頃には、すでに日は落ち、街は電飾で眩しくなっていた。
──まだ、間に合うだろうか?
そう思いながら腕時計に目を遣ると、時刻は7時半を回ったところだった。
確かパーティーは8時からだと、ドーズが言っていた。家に戻る時間はないが、何とか間に合いそうだ。
車に乗り込み手早くエンジンをかける。そしてサイドブレーキを下ろし、ゆっくりとアクセルを踏み込むと、車は低い唸りを上げながら発進した。
1月上旬の夜はまだ随分と冷え込む。車内も寒かったが、暖房をつける訳にはいかなかった。つけるとこの古い車がエンストを起こし兼ねない。
取り敢えずゲイナーは警察署に戻る途中、花屋に立ち寄りバラの花束を作って貰った。
──女性に花束を贈るのは、結婚記念日に妻にプレゼントするぐらいなものだ。
そう思いながら、再び道路を走る。警察署に着くまでの間、ゲイナーは助手席に乗せたバラの香を楽しんだ。そして花束を受け取ったクレイズの様子を思い浮かべ、照れ臭い気持ちになった。
──喜んでくれるだろうか?
そんな事を考えている間に、車は警察署に到着した。駐車場に車を停め暫く思案した後、ゲイナーは花束を助手席からトランクへと移した。花束を移した理由は特になかったが、同僚に見られると恥ずかしい。
白い息を吐きながらコートのポケットに手を突っ込み、ゲイナーは早足で署内に入った。中は暖房が行き届いていて温かい。
「お疲れ様です、本部長」
ゲイナーの姿に気付いた部下が、そう言って頭を下げた。
「あぁ、お疲れ様」
ゲイナーもそう返すと、ひと足先に戻っていたリリが駆け寄って来た。
「本部長、執務室でお客様がお待ちです」
「客?誰だ?」
執務室に向かいながらそう尋ねると、リリはその横を歩きながら言った。
「ハリス検事です。10分程前にいらっしゃいました」
「そうか。ありがとう」
ゲイナーは扉を開き、執務室へと入った。
夜になり、辺りは暗く染まった。ドーズの呼んだ客達が続々と集まり出し、クレイズは居心地の悪さを感じた。
「おい、ロゼ。ゲイナーはまだ来てないのか?」
玄関先に立ち、客達に頭を下げて挨拶をしているロゼの脇に立ったクレイズは、そう尋ねた。調度客足が途切れ、ロゼがゆっくりと振り返る。
「まだ来られておりません。それよりクレイズ様、そろそろお着替えになられてはいかがですか?」
そう答えたロゼの言葉を無視するように、クレイズは外を眺めた。新たな高級車が庭へ入って来るのが見える。
「まだ来てないなら、迎えに行って来よう」
「クレイズ様、お着替えを」
背後からロゼの声が聞こえていたが、クレイズはそのまま屋敷を出た。
相変わらず雑然としている警察署は、むさ苦しい匂いでいっぱいだった。
「よう、美人さん、どこ行くんだよ?俺と遊ぼうぜ」
そう言った囚人のからかいを無視して執務室に直行したが、部屋の中から話し声がして、クレイズはふと足を止めた。
「うん、分かった。こっちも調べてみるよ」
聞き慣れない男の声がして、クレイズは少し聞き耳をたてた。
「頼む。どうも怪しくてな」
「俺もそう思ったよ。敗訴ではなかったけど、しこりの残る裁判だったしね」
どうやら、昨年末にやったクレイズの裁判について話し合っているらしい。
更に聞き耳をたてるが、裁判の話しは終わったらしく、ゲイナーのそろそろ、と言う声がした。
「約束があるんだ」
「あ、奥さんとデート?」
「いや、違う」
そうゲイナーが答えた後、クレイズは扉を開いた。執務室にはどこかで見た男と、ゲイナーが向かい合って座っていた。
「ルーク・ハリス……?」
男の方へ目を向けると、裁判の時に見た顔だった。
「君は、クレイズ?」
ハリスはそう言いながら、クレイズの方へ顔を向けた。
「こうして口をきくのは初めてだな、ハリス」
そう答え、確かハリスは裁判の時、検察側の席に座っていたな、と思った。
遅いから迎えに来た、と伝えると、ゲイナーはデスクから立ち上がった。
「ありがとう。調度、仕事も終わったところだ」
「え、彼女と約束してたの?」
驚いたように金色の目を丸くすると、ハリスはゲイナーとクレイズを交互に見遣った。
「今からドーズの屋敷で、オレの出所パーティーをやるんだ。それでゲイナーを迎えに来た」
早口にそう説明すると、ハリスは目を輝かせた。
「へー。そのパーティー、俺も連れて行って貰えないかな?」
そう言ったハリスにクレイズは首を縦に振ると、ゲイナーへ視線を向けた。
ゲイナーは黙ったまま、ハリスとクレイズを交互に見ている。
「構わんよ。今から向かうところだ」
そう言い、クレイズはゲイナーとハリスを連れ警察署を出た。
屋敷に戻ると、ドーズがクレイズ達の元へやって来た。
「みんな集まってるよ?早く着替えなよ」
「あぁ、分かってるさ」
リビングからは男女の雑談が騒がしく聞こえてくる。クレイズはハリスを振り返ると、ドーズに指差した。
「こいつも連れて来たが、良かったかな?」
「構わないよ、全然。確か、検事さんだったよね?」
そう言ってドーズが手を差し出すと、ハリスはその手を握った。
「初めまして、ドーズさん。ハリスです」
2人が儀式的な挨拶を交わしている間に、クレイズはゲイナーの手を掴むと半ば無理矢理階段を上がった。
「どこへ行くんだ?」
少し戸惑いながら、ゲイナーは階下の様子を一瞥した。
「今から着替える。あと、お前に相談があるんだ」
階段を上りきり、廊下を歩いて自室へとゲイナーを招くと、クレイズは部屋の扉を閉めた。雑談は遮断され、静かになる。
「相談?一体、何の?」
そう尋ねるゲイナーを背に、クレイズはワンピースを脱ぎ捨てた。そしてクローゼットを開き昼間ドーズが選んだ緋色のドレスを引っ張り出す。
「普通、着替えの時は恥じらうものだ」
慌てたような声がして振り返ると、ゲイナーはクレイズに背中を向けていた。
「別にいいだろ。お前に見られてもオレは別に困らない」
「いいから早く着替えるんだ」
そう急かされ、クレイズはドレスを身に纏った。そしてクローゼットの下段から靴箱を取り出すと、蓋を開け中に入っているヒールを履いた。
「もういいぞ」
そう言うと、ゲイナーはゆっくりと振り返った。
「なぁゲイナー。以前お前は、堕胎は早い方がいいと言ってたろ?」
部屋を見回しドレッサーの前に歩くと、クレイズは引き出しからダイヤのついたイヤリングとネックレスを取り出した。
「あぁ。そう言った。それが、どうかしたのか?」
鏡に映るゲイナーはどこか落ち着きなく部屋を見渡している。
手早く化粧をし、クレイズはゲイナーを振り返った。
「今日、ドーズと産婦人科に行ったんだが……」
ゲイナーがクレイズに視線を戻した。その顔は、まさか、と言いたげに困惑し、鋭い目は更に鋭利になっている。
「オレの腹に、ドーズの子が出来ていた」
そう言って腹部に手を宛てた。ゲイナーは目を剥き、唇をわななかせた。
「そ……そうか」
感情を押し殺すような静かな言葉を吐くと、ゲイナーは少しだけクレイズに歩み寄って来た。
「産みたくない。だから、堕胎したいんだ。なのに……なのにドーズは、オレに産めと。妊娠届も出したし、母子手帳まで貰ったんだ……!」
訴えるように拳を握り、クレイズはゲイナーを見つめた。
「本気か?本気で堕胎を考えているのか?」
「そうだ、本気だ。ドーズの子など、いらない」
クレイズはそう漏らすと、小さく首を振りながら俯いた。
内心では、産むべきだ、とも考えるが、やはり嫌だった。
──産むのが怖い。
ドーズは人が変わるかも知れない、と言っていた。
変わる事が怖かった。
そんな思いを巡らせていると、暫く黙っていたゲイナーが口を開いた。
「なぁ、クレイズ。君の気持ちも分かる。だが、子供には罪はないんだ。君の勝手で、せっかく芽生えた命を絶つのは、私は賛成しかねるよ」
そう言ったゲイナーの表情は重苦しく、暗かった。そこでクレイズは、忘れていたゲイナーの暗い過去を思い出した。
娘を幼くして失った悲しみ。
それがゲイナーの表情を暗くしている。
──なんて自分は残酷なんだ。
クレイズは自分を責めた。とんでもない相談を、ゲイナーにしていた事になる。
「すまない。お前の、その」
「いや、いいんだ。君が謝る事はないさ」
そう言うと、ゲイナーは無理に笑顔を作った。その笑顔を見たクレイズは、堕胎を諦めた。諦めた、と言うよりは、産む事を決めた。
「産むよ。子供」
そう呟き、クレイズはゲイナーに抱き着いた。
「あぁ。その方がいい」
クレイズを抱きしめ返し、ゲイナーはそっと髪を撫でた。
「クレイズ様、お着替えはお済みですか?」
扉の向こうからロゼの声がし、クレイズは慌ててゲイナーから離れた。
「あぁ。今終わったところだ。すぐそっちに向かう」
扉へ顔を向けてそう言うと、ロゼはかしこまりました、と言った。そして足音が遠退くと、クレイズはゲイナーを振り返った。
「じゃあ、行こう」
ゲイナーがそう言い、クレイズの手を握った。温かく大きな手に包まれたクレイズは、素早く体を捻ると少しだけ背伸びをしてゲイナーにキスをした。
「こ……こら」
そう言ったものの、ゲイナーの顔は少しだけ赤くなっている。
「相談に乗ってくれた礼だ」
クレイズは扉を開いた。
──まだ、間に合うだろうか?
そう思いながら腕時計に目を遣ると、時刻は7時半を回ったところだった。
確かパーティーは8時からだと、ドーズが言っていた。家に戻る時間はないが、何とか間に合いそうだ。
車に乗り込み手早くエンジンをかける。そしてサイドブレーキを下ろし、ゆっくりとアクセルを踏み込むと、車は低い唸りを上げながら発進した。
1月上旬の夜はまだ随分と冷え込む。車内も寒かったが、暖房をつける訳にはいかなかった。つけるとこの古い車がエンストを起こし兼ねない。
取り敢えずゲイナーは警察署に戻る途中、花屋に立ち寄りバラの花束を作って貰った。
──女性に花束を贈るのは、結婚記念日に妻にプレゼントするぐらいなものだ。
そう思いながら、再び道路を走る。警察署に着くまでの間、ゲイナーは助手席に乗せたバラの香を楽しんだ。そして花束を受け取ったクレイズの様子を思い浮かべ、照れ臭い気持ちになった。
──喜んでくれるだろうか?
そんな事を考えている間に、車は警察署に到着した。駐車場に車を停め暫く思案した後、ゲイナーは花束を助手席からトランクへと移した。花束を移した理由は特になかったが、同僚に見られると恥ずかしい。
白い息を吐きながらコートのポケットに手を突っ込み、ゲイナーは早足で署内に入った。中は暖房が行き届いていて温かい。
「お疲れ様です、本部長」
ゲイナーの姿に気付いた部下が、そう言って頭を下げた。
「あぁ、お疲れ様」
ゲイナーもそう返すと、ひと足先に戻っていたリリが駆け寄って来た。
「本部長、執務室でお客様がお待ちです」
「客?誰だ?」
執務室に向かいながらそう尋ねると、リリはその横を歩きながら言った。
「ハリス検事です。10分程前にいらっしゃいました」
「そうか。ありがとう」
ゲイナーは扉を開き、執務室へと入った。
夜になり、辺りは暗く染まった。ドーズの呼んだ客達が続々と集まり出し、クレイズは居心地の悪さを感じた。
「おい、ロゼ。ゲイナーはまだ来てないのか?」
玄関先に立ち、客達に頭を下げて挨拶をしているロゼの脇に立ったクレイズは、そう尋ねた。調度客足が途切れ、ロゼがゆっくりと振り返る。
「まだ来られておりません。それよりクレイズ様、そろそろお着替えになられてはいかがですか?」
そう答えたロゼの言葉を無視するように、クレイズは外を眺めた。新たな高級車が庭へ入って来るのが見える。
「まだ来てないなら、迎えに行って来よう」
「クレイズ様、お着替えを」
背後からロゼの声が聞こえていたが、クレイズはそのまま屋敷を出た。
相変わらず雑然としている警察署は、むさ苦しい匂いでいっぱいだった。
「よう、美人さん、どこ行くんだよ?俺と遊ぼうぜ」
そう言った囚人のからかいを無視して執務室に直行したが、部屋の中から話し声がして、クレイズはふと足を止めた。
「うん、分かった。こっちも調べてみるよ」
聞き慣れない男の声がして、クレイズは少し聞き耳をたてた。
「頼む。どうも怪しくてな」
「俺もそう思ったよ。敗訴ではなかったけど、しこりの残る裁判だったしね」
どうやら、昨年末にやったクレイズの裁判について話し合っているらしい。
更に聞き耳をたてるが、裁判の話しは終わったらしく、ゲイナーのそろそろ、と言う声がした。
「約束があるんだ」
「あ、奥さんとデート?」
「いや、違う」
そうゲイナーが答えた後、クレイズは扉を開いた。執務室にはどこかで見た男と、ゲイナーが向かい合って座っていた。
「ルーク・ハリス……?」
男の方へ目を向けると、裁判の時に見た顔だった。
「君は、クレイズ?」
ハリスはそう言いながら、クレイズの方へ顔を向けた。
「こうして口をきくのは初めてだな、ハリス」
そう答え、確かハリスは裁判の時、検察側の席に座っていたな、と思った。
遅いから迎えに来た、と伝えると、ゲイナーはデスクから立ち上がった。
「ありがとう。調度、仕事も終わったところだ」
「え、彼女と約束してたの?」
驚いたように金色の目を丸くすると、ハリスはゲイナーとクレイズを交互に見遣った。
「今からドーズの屋敷で、オレの出所パーティーをやるんだ。それでゲイナーを迎えに来た」
早口にそう説明すると、ハリスは目を輝かせた。
「へー。そのパーティー、俺も連れて行って貰えないかな?」
そう言ったハリスにクレイズは首を縦に振ると、ゲイナーへ視線を向けた。
ゲイナーは黙ったまま、ハリスとクレイズを交互に見ている。
「構わんよ。今から向かうところだ」
そう言い、クレイズはゲイナーとハリスを連れ警察署を出た。
屋敷に戻ると、ドーズがクレイズ達の元へやって来た。
「みんな集まってるよ?早く着替えなよ」
「あぁ、分かってるさ」
リビングからは男女の雑談が騒がしく聞こえてくる。クレイズはハリスを振り返ると、ドーズに指差した。
「こいつも連れて来たが、良かったかな?」
「構わないよ、全然。確か、検事さんだったよね?」
そう言ってドーズが手を差し出すと、ハリスはその手を握った。
「初めまして、ドーズさん。ハリスです」
2人が儀式的な挨拶を交わしている間に、クレイズはゲイナーの手を掴むと半ば無理矢理階段を上がった。
「どこへ行くんだ?」
少し戸惑いながら、ゲイナーは階下の様子を一瞥した。
「今から着替える。あと、お前に相談があるんだ」
階段を上りきり、廊下を歩いて自室へとゲイナーを招くと、クレイズは部屋の扉を閉めた。雑談は遮断され、静かになる。
「相談?一体、何の?」
そう尋ねるゲイナーを背に、クレイズはワンピースを脱ぎ捨てた。そしてクローゼットを開き昼間ドーズが選んだ緋色のドレスを引っ張り出す。
「普通、着替えの時は恥じらうものだ」
慌てたような声がして振り返ると、ゲイナーはクレイズに背中を向けていた。
「別にいいだろ。お前に見られてもオレは別に困らない」
「いいから早く着替えるんだ」
そう急かされ、クレイズはドレスを身に纏った。そしてクローゼットの下段から靴箱を取り出すと、蓋を開け中に入っているヒールを履いた。
「もういいぞ」
そう言うと、ゲイナーはゆっくりと振り返った。
「なぁゲイナー。以前お前は、堕胎は早い方がいいと言ってたろ?」
部屋を見回しドレッサーの前に歩くと、クレイズは引き出しからダイヤのついたイヤリングとネックレスを取り出した。
「あぁ。そう言った。それが、どうかしたのか?」
鏡に映るゲイナーはどこか落ち着きなく部屋を見渡している。
手早く化粧をし、クレイズはゲイナーを振り返った。
「今日、ドーズと産婦人科に行ったんだが……」
ゲイナーがクレイズに視線を戻した。その顔は、まさか、と言いたげに困惑し、鋭い目は更に鋭利になっている。
「オレの腹に、ドーズの子が出来ていた」
そう言って腹部に手を宛てた。ゲイナーは目を剥き、唇をわななかせた。
「そ……そうか」
感情を押し殺すような静かな言葉を吐くと、ゲイナーは少しだけクレイズに歩み寄って来た。
「産みたくない。だから、堕胎したいんだ。なのに……なのにドーズは、オレに産めと。妊娠届も出したし、母子手帳まで貰ったんだ……!」
訴えるように拳を握り、クレイズはゲイナーを見つめた。
「本気か?本気で堕胎を考えているのか?」
「そうだ、本気だ。ドーズの子など、いらない」
クレイズはそう漏らすと、小さく首を振りながら俯いた。
内心では、産むべきだ、とも考えるが、やはり嫌だった。
──産むのが怖い。
ドーズは人が変わるかも知れない、と言っていた。
変わる事が怖かった。
そんな思いを巡らせていると、暫く黙っていたゲイナーが口を開いた。
「なぁ、クレイズ。君の気持ちも分かる。だが、子供には罪はないんだ。君の勝手で、せっかく芽生えた命を絶つのは、私は賛成しかねるよ」
そう言ったゲイナーの表情は重苦しく、暗かった。そこでクレイズは、忘れていたゲイナーの暗い過去を思い出した。
娘を幼くして失った悲しみ。
それがゲイナーの表情を暗くしている。
──なんて自分は残酷なんだ。
クレイズは自分を責めた。とんでもない相談を、ゲイナーにしていた事になる。
「すまない。お前の、その」
「いや、いいんだ。君が謝る事はないさ」
そう言うと、ゲイナーは無理に笑顔を作った。その笑顔を見たクレイズは、堕胎を諦めた。諦めた、と言うよりは、産む事を決めた。
「産むよ。子供」
そう呟き、クレイズはゲイナーに抱き着いた。
「あぁ。その方がいい」
クレイズを抱きしめ返し、ゲイナーはそっと髪を撫でた。
「クレイズ様、お着替えはお済みですか?」
扉の向こうからロゼの声がし、クレイズは慌ててゲイナーから離れた。
「あぁ。今終わったところだ。すぐそっちに向かう」
扉へ顔を向けてそう言うと、ロゼはかしこまりました、と言った。そして足音が遠退くと、クレイズはゲイナーを振り返った。
「じゃあ、行こう」
ゲイナーがそう言い、クレイズの手を握った。温かく大きな手に包まれたクレイズは、素早く体を捻ると少しだけ背伸びをしてゲイナーにキスをした。
「こ……こら」
そう言ったものの、ゲイナーの顔は少しだけ赤くなっている。
「相談に乗ってくれた礼だ」
クレイズは扉を開いた。
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