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第4章
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刑務所での生活は、クレイズにとって酷く退屈だった。同部屋と言うべきか、同じ檻に入っているミンと言う中国女はお喋りで、常に口を開いているようなタイプだ。
自分は2人も殺しただとか、出所したら結婚するだとか、クレイズには興味のない事ばかりを話してくる。
それを2日我慢した。
「ねぇクレイズ、聞いてよ!あそこにいる看守、ワタシに色目を使ってくるノ」
朝一番にミンはそう言って、廊下に立っている看守を指差した。クレイズはその看守を一瞥すると、妄想に近い事を話しているミンの口元を見つめた。
喋り通しのミンの口角に、唾液が泡になって見える。
──そもそも、この女は鏡を見た事があるのか?
クレイズはミンの顔をじっと見遣った。
細い一重の目にダンゴっ鼻で、そばかすも見える。
お世辞にも美人とは言えない。なのに、どこから色目を使われただとか、アイツは自分に気があるだとか言う自信が湧いてくるのだろう?クレイズには不思議でならなかったが、その前にミンを黙らせてやりたかった。
「おい、お前」
話しを中断させるように声をかけると、ミンは明らかに不愉快そうな顔をした。不細工が更に不細工になって、見れたもんじゃない。そうクレイズは思った。
「何ヨ。まだ、話しの途中なんだけド」
黙って話しを聞いていればいいのよ、と言いたげな顔だった。クレイズはそんなミンに近寄ると、素早く後頭部を押さえ、そのまま便器に突っ込んだ。
「……!ぐっ……がぼっ」
抵抗するようにミンは手をばたつかせる。それを無感情に眺めながら、クレイズは更にミンの顔を奥に突っ込んだ。
「お前、毎日毎日煩いんだよ!少しは黙れ!このブス!」
そう罵っていると、廊下にいた看守が慌てて駆け寄って来た。
「こらクレイズ!何をしているんだ!」
仲間を呼ぶように大声を上げながら、看守は──腰にぶら下げている鍵束からクレイズの入っている檻の鍵を探り当て──勢いよく扉を開いた。その短い間にもミンは激しく手を上下させ、まるで泳いでいるようだった。
「放せ!こいつ……!」
そう言って看守は、背後からクレイズを羽交い締めにすると、ミンから引き離した。
「がっ……げほげほっ……げぇっ……!」
漸く便器から顔を上げたミンは醜く顔を歪め、水びたしになった顔を拭いながら何度も吐く真似をした。
「どうしたんだ?」
別の看守が2人廊下の向こうからやって来ると、クレイズとミンを交互に見比べた。1人はクレイズが檻に入った時に側にいた、恰幅のいい看守だった。
「こいつ、彼女の頭を便器に突っ込んでやがったんだ!」
クレイズを羽交い締めにしている看守が早口に報告すると、後からやって来た看守達は互いに顔を見合わせ、そして言葉もなく頷いた。
「じゃあクレイズを拘禁室にぶち込もう。君はミンを医務室に連れて行ってやってくれ」
そう恰幅のいい看守が言うと、隣に立っていた若い看守はまだ咳込んでいるミンを立たせ、檻を出て行った。
「早速やってくれたなぁ、クレイズ」
恰幅のいい看守はそう言うと、廊下の向こうに拘束着を持って来てくれ、と話しかけた。
「何が原因かは分からないが、それは君が拘禁室から出て来てから聞く事にしよう」
自分は2人も殺しただとか、出所したら結婚するだとか、クレイズには興味のない事ばかりを話してくる。
それを2日我慢した。
「ねぇクレイズ、聞いてよ!あそこにいる看守、ワタシに色目を使ってくるノ」
朝一番にミンはそう言って、廊下に立っている看守を指差した。クレイズはその看守を一瞥すると、妄想に近い事を話しているミンの口元を見つめた。
喋り通しのミンの口角に、唾液が泡になって見える。
──そもそも、この女は鏡を見た事があるのか?
クレイズはミンの顔をじっと見遣った。
細い一重の目にダンゴっ鼻で、そばかすも見える。
お世辞にも美人とは言えない。なのに、どこから色目を使われただとか、アイツは自分に気があるだとか言う自信が湧いてくるのだろう?クレイズには不思議でならなかったが、その前にミンを黙らせてやりたかった。
「おい、お前」
話しを中断させるように声をかけると、ミンは明らかに不愉快そうな顔をした。不細工が更に不細工になって、見れたもんじゃない。そうクレイズは思った。
「何ヨ。まだ、話しの途中なんだけド」
黙って話しを聞いていればいいのよ、と言いたげな顔だった。クレイズはそんなミンに近寄ると、素早く後頭部を押さえ、そのまま便器に突っ込んだ。
「……!ぐっ……がぼっ」
抵抗するようにミンは手をばたつかせる。それを無感情に眺めながら、クレイズは更にミンの顔を奥に突っ込んだ。
「お前、毎日毎日煩いんだよ!少しは黙れ!このブス!」
そう罵っていると、廊下にいた看守が慌てて駆け寄って来た。
「こらクレイズ!何をしているんだ!」
仲間を呼ぶように大声を上げながら、看守は──腰にぶら下げている鍵束からクレイズの入っている檻の鍵を探り当て──勢いよく扉を開いた。その短い間にもミンは激しく手を上下させ、まるで泳いでいるようだった。
「放せ!こいつ……!」
そう言って看守は、背後からクレイズを羽交い締めにすると、ミンから引き離した。
「がっ……げほげほっ……げぇっ……!」
漸く便器から顔を上げたミンは醜く顔を歪め、水びたしになった顔を拭いながら何度も吐く真似をした。
「どうしたんだ?」
別の看守が2人廊下の向こうからやって来ると、クレイズとミンを交互に見比べた。1人はクレイズが檻に入った時に側にいた、恰幅のいい看守だった。
「こいつ、彼女の頭を便器に突っ込んでやがったんだ!」
クレイズを羽交い締めにしている看守が早口に報告すると、後からやって来た看守達は互いに顔を見合わせ、そして言葉もなく頷いた。
「じゃあクレイズを拘禁室にぶち込もう。君はミンを医務室に連れて行ってやってくれ」
そう恰幅のいい看守が言うと、隣に立っていた若い看守はまだ咳込んでいるミンを立たせ、檻を出て行った。
「早速やってくれたなぁ、クレイズ」
恰幅のいい看守はそう言うと、廊下の向こうに拘束着を持って来てくれ、と話しかけた。
「何が原因かは分からないが、それは君が拘禁室から出て来てから聞く事にしよう」
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