arkⅣ

たける

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キルトン船医長に連れられ集会場に到着したモハンドは、ジュリア・バートンと再会した。相変わらず彼女は凛としていて美しい。

「ジュリア……」

引き合わせてもらったのはいいが、何と声をかければいい分からない。ここへ来る前にいくつも考えていたのに、突然それらは威力を無くし、消えてしまった。

「バートン、さっき言った通りだ。さぁ、ワイズ。俺達は先に艦へ戻るとしよう」

デビット艦長は、にこやかに笑っている。モハンドから見てもハンサムなこの異星人は、とても若いだろう。それなのに、あのアルテミス号の艦長なのだ。


──羨ましい……


ふと、モハンドの中に嫉妬や妬みといった感情が湧き上がってきた。だがそんな事を感じさせず、無表情に、モハンドはジュリアとの場を設けてくれた艦長に礼を言った。

「ありがとうございます、デビット艦長」
「どうぞごゆっくり」

キラキラとした光に包まれた2人だったが、船医長はずっと黙ったままだった。
それはモハンドを連れて歩いていた時から。


──あのペンダントは、どうするんだろう?


そう考えている間に、その姿は消えてしまった。すると残されたジュリアは、緊張の面持ちでモハンドを振り返った。

「艦長から、貴方が私にお話があると聞いています」

白い、清潔そうな服を着ているが、モハンドはそれが何と言うものなのか知らなかった。それに、彼女が何を好きなのかも。


──ジュリアは私を受け入れてくれるだろうか……


そんな不安は、ずっと拭いきれず胸の中にあった。地球人から見れば、モハンド達ヨラヌス人は異形の姿に見えるだろう。そんな自分を、こんな綺麗な女性が選んでくれるだろうか?
ハンサムな艦長と紳士な船医長を友人に持つジュリアは、きっと選んではくれないだろう。
最初は、選んでくれなくても構わないと思っていた。ただこの想いを伝え、忘れられなければいいと。
だがあの艦長を見ていると、胸がムカムカしてきたのだ。


──負けたくない……


だがどうやったって、モハンドの容姿は変わる事はない。なら彼女の優しさにつけこもう。


──心優しいジュリア……


「モハンドさん?」
「あ、すまない……場所を変えたいんだが、君は花は好きか?」

我に返り、何とか笑みを浮かべる。ジュリアも微笑すると、好きです、と答えた。

「ここに花があるんですか?」
「ある。荒れた土地だが、少しなら」

並んで集会場を後にする。モハンドにとって、デビット艦長がもたらした平和軍加入など、どうでも良かった。以前まではそう考えていたが、ジュリアと出会ってから変わった。平和軍に加入していれば、彼女との接点は少なからずあるのだと。

「それで、私にお話って何ですか?」

小さいジュリアは、平均的に背の高いヨラヌス人達の間では、尚更小さく見える。

「それは、着いてから話す」

商店の立ち並ぶ通りを抜け──遠くに精製工場と倉庫を眺めながら──モハンドは乾いた砂が作る小高い丘を上った。

「我々は、宇宙連邦の平和軍に加入する事になった」

あまり黙っているのも悪いと思い、モハンドはそう言った。すると背後で、おめでとうございます、とジュリアが言った。
丘を上りきると、眼下に所々咲く花が見える。荒れた土にも咲く、強い花だ。

「あれはヨターヌと言う花で、年中咲いている」

薄紫の花弁が3枚、歪に延びた茎に引っ付いているように開いている。

「ヨターヌ……綺麗ですね」

花の方へ歩み寄る姿を見つめながら、モハンドは拳をきつく握り締めた。
ヨラヌス人はずっと、異星人とは結婚をした事がなかった。中には恋をする者もいたが。
何故結婚しないのか。それは、異星人との間に子孫が出来ないからだ。その為ヨラヌス人は、子孫を残す為なら──兄弟や親など関係なく──誰とでも交配してきた。お陰で種族は莫大に増え、絶滅など遠いもののように感じられる程になった。

「摘んでもいいですか?」

振り返った彼女は、モハンドに微笑みかけている。屈託のない優しい笑みに、自然とモハンドも笑った。

「構わない。それはあまり水をやらなくともいいから、きっと育てやすいだろう」

モハンドはジュリアの側に立った。そして、ヨターヌを1輪だけ手折る姿を見下ろしながら、覚悟を決めて言った。

「ジュリア、私と結婚してくれないか?」

見上げた彼女は、驚きに目を見開いている。

「え……そんな」

困惑し、視線があちこちに泳いでいた。

「急に言われても……私と貴方は出会ったばかりだし、互いによく知らないでしょうし……」

その言葉の節々に、拒否があるように感じられる。モハンドは同じ様に屈むと、そんなジュリアの手を握った。

「拒否するのか?出会ったばかりだとか、よく知らないだとか……それは、ただの断る口実だろう。ハッキリ言えばいい。私が醜いから嫌なのだろう?」

何と酷い言葉だろう。
自分の欠点を自身で指摘すれば、大抵の者はそうじゃない、と言う。

「そんなじゃありません」
「互いの事なら、これから知っていけばいい」

断る口実を、1つずつ消して行く。するともう、断る事が出来なくなるのだ。彼女が差別的でないのだとしたら、受け入れる事で差別的ではないと示すしかない。

「そっ……それは……」

美しい顔が僅かに歪む。まだ、何と言って断ろうかと、思案している顔だ。

「もう恋人がいるのか?それとも、将来を約束した者がいるのか?」

その可能性を考えなかった訳ではない。だが彼女の返答は、そのどちらでもなかった。

「そんな人はいません……ただ……好きな人はいます……」

そう言って真っ直ぐにモハンドを見つめ返す瞳には、偽りなどなかった。




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