arkⅣ

たける

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ヨラヌス人の中には重傷を負った者がいたが、ジュリアには応急措置をとるぐらいしか──医療機器等も壊滅状態だった──出来なかった。


──ここにワイズがいてくれたら……


そう思ったが、すぐに忘れる事にした。彼がこちらへ来るのを拒んだのは、他でもない自分自身だ。

「どうだ?もう終わりそうか」

医務室が全壊し、居住区の一角で治療にあたっていたジュリアのもとへ、モハンドがやって来た。

「えぇ。もう終わります」

あと2人、軽傷の者の手当てをすればいい。

「全て終われば、君をアルテミス号へ返す」

無表情に、モハンドは言った。

「あの……1つ聞いてもいいですか?」
「何だ」

治療をしながら、ジュリアは何故この艦が攻撃を受けたのかを尋ねた。

「我々は、宇宙連邦の違法とする物質を運搬している。それは我々には必要なものだからだ。だから、どうしても持ち帰らなければならなかった。それに、先に攻撃をしたのは我々なんだ」
「それは、一体何に使うんですか?」

治療を終えたヨラヌス人が、部屋を出て行く。モハンドはジュリアを見つめた。

「我々の惑星は現在、疫病に侵されている。セッキ石だけでは多分、足りなくなるだろう。だからあれが……トラボタヌ石が必要なのだ」


──トラボタヌ石ですって?


ジュリアの表情から不安を見てとったモハンドは、目だけで微笑んで見せた。優しい緑色をしている。

「君には近づかせないと誓う」

そう言った時、インターコムが音を立てた。モハンドが急いで通話ボタンを押す。

『副艦長!ただちにメインブリッジへお戻り下さい!』

その声には逼迫した何かがあった。モハンドはジュリアを振り返ると、一緒に来るよう手で示した。
急いで通路を歩き、ターボリフトに乗り込むと、モハンドはブリッジへ通信した。

「モハンドだ。一体何があったのだ?」
『当艦に、ワムール人の航宙艦が近付いています』
「何だと?何故奴等が……」

ジュリアも息を飲んだ。ワムール人と言うのは、いわゆる宇宙の荒くれ者で、宇宙連邦軍の平和的加入をしておらず、好戦的で、あまつさえ他惑星を支配する機会があれば、見逃さない狡猾さもあった。

「早急に君をアルテ……!」

モハンドの言葉は、激しい衝撃によってかき消された。2人はよろけ、壁に叩きつけられた。

『奴等が攻撃を!』

リフトの扉が開き、尚も衝撃を受けながら傾くブリッジへ、慌てて飛び出す。その足でモハンドは、司令席に座るタルボルへ近付いた。ジュリアは、手近な物を掴んだ。

「ワムールから通信が入りました!」
「モニターに映せ!」

壊れて行く音の中、モニターに醜悪な、ヒューマノイドの姿が映し出された。その口元には冷笑が浮かんでいる。

『お前達が所持しているトラボタヌ石を渡せ』

出し抜けにそう言ったかと思うと、また艦が衝撃に揺れた。艦長のタルボルはモニターを睨み付けたが、無感情に言った。

「渡すわけにはいかん。だが、何故我々がトラボタヌ石を持っていると知っているのだ?」
『そんな事はどうだっていいだろう?重要なのは、お前達がトラボタヌ石を所持していると言う事だ。大人しく渡さなければ艦を破壊する。5分後に返事を聞こう』

そう言って通信は途絶えた。タルボルはモハンドを振り返り、何か言いたげに口を開く。だがそこからは、言葉は出てこなかった。

「艦長、今すぐ彼女をアルテミス号へ返すべきです」

モハンドが言い、それに艦長は頷いてインターコムを押した。

「転送室、今すぐ転送準備を行ってくれ。アルテミス号の看護婦長を返還する」

ジュリアは不安ながらも、漸く帰る事が出来ると安堵した。だがそれも、すぐに機関士によって打ち砕かれた。

『さっきの攻撃で、転送機が使えなくなりました!』
「艦長!艦のパワーが60%にまで低下しました」

続いて科学士官の声がし、ジュリアは絶望的な気分になった。

「すぐアルテミス号に通信回線を開け!」

タルボルの怒号に、通信士官が慌ててコンソールを叩いた。すぐにモニターヘ、ファイの姿が映し出される。

「こちらはタルボルだ。そちらも知っているだろうが、現在我々はワムール人の攻撃を受けている。また当艦の転送機が使用不能になった。すぐに誰かを寄越してくれ」

そう言ったタルボルの声は、緊張の為か怒りからか、震えている。

『分かりました。すぐに誰かを向かわせます。また、当艦もワムール人への攻撃を仕掛けます』

落ち着いたファイの言葉に、ジュリアは失いかけた希望を繋いだ。それにタルボルも頷くと、モニターは再びワムールの航宙艦を映し出した。

「大丈夫だ。君はすぐにアルテミス号へ戻れる」

いつの間にか、ジュリアの側へモハンドが立っていた。




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