Dark Moon

たける

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自室に戻ったファイは、溜まった仕事をこなすべくデスクに座った。明かりをうっすらと点けていても、誰に文句を言われる事もない。
ファイには個室を与えられていた。
静寂の中では、その作業効率が格段に上がる。それは研究からも自身の経験からも、同一の結果が得られていた。
タッチパネルを指でなぞりながら、コンソールに目を走らせると、その液晶画面に何者かの姿が一瞬映った。
この部屋に同居人はいない。ましてや、誰かを招いた覚えもない。


──だとしたら、考えられる結果はたった1つだ。


不要な物を順番に削除していけば、残るのは真実のみだ。例えそれが信じ難い物でもだ。それをファイは、対ラナフとの戦いで学んだ。
静かに、自分がその存在を悟っていると知られないように手を引き出しへと動かす。そこにはレーザーガンが入っている。

「止めとけ」

何者かが言葉を発した。それは共通言語で、ファイにも理解出来る物だった。
部屋の主は困惑を見せる事なくデスクの上へ手を戻すと、落ち着いた口調で質問した。

「何の用ですか?」
「聞きたい事がある」
「そちらを向いても?」

そう尋ねるが返事はない。ファイはそれを肯定だと思い、振り返った。
若い男が扉の前に立っている。その姿は不気味な程静かで、気配はない。

「聞きたい事、と言うのは何でしょう」

制服は着ているが、新しい士官候補生ではないだろう。新入生のデータを全て記憶しているファイは、見覚えのない男を見遣った。
彼はファイの問いに鋭い目を細めている。

「何処で知ったんだ?その名前を」
「名前?私は誰の名前も口にしていません」

不可解な質問に、ファイは異様さを感じた。何かを見据えるような男は、ファイがアカデミーに戻ってから口にしていない名前を示した。だが、慌てるそぶりは見せない。

「俺はお前の頭の中を読む事が出来る」

ファイの表情が俄かに強張る。

「その名前を、俺はもう70年近くも口にしてなかったんだ」
「貴方の聞きたい事は分かりました。ですが、貴方は誰なんです?」

そう尋ねると、ファイの頭に言葉が伝わってきた。それはリタルド人にもある、テレパシー能力と類似している。

「ノッド」

聞き覚えのある名前だ。確か、何かの文献でその名前を見た気がする。
膨大な情報の中からそれを探っているファイへ、ノッドはそうはさせない、とでも言うように言葉を投げ掛けてきた。

「さぁファイ、話せ」




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