32 / 37
助け
しおりを挟む
地鳴りのような轟音が鳴り響く。耳が痛くなるほどの轟音と共に地下全体が揺れ動くほどの振動が揺らす。
男たちはどよめきながらもスーツの男が手下に指示を出して部屋の外へ駆け上がっていく。
スーツの男も後に続くとこちらには目もくれず、扉を閉めて出て行った。
思わず先ほど受けた痛みにうめきながらも放心状態のウトを呼び寄せる。
「おにいちゃん、血が……!」
先ほど打ち付けられたときに額を切ったらしく、脈打つような痛みに手で抑えるとぬるりと血液が指先に触れた。
「大丈夫、それより頭を低くして」
振動でパラパラと天井と石壁から小さな木屑や石屑が落ちてくる。ウトを庇うようにして身を縮こませているとしばらくすると音が止んだ。
起き上がってあたりを見回すと階段の一部が崩れており石壁にはヒビが入っている。
天井が崩れ落ちないでよかったとホッとしていると扉の外から何やら怒号のような声が聞こえてきた。
ウトが怯えるようにロイにしがみつくので安心させるように背中をさすって様子を伺っていると程なくして勢いよく扉が開かれた。
「ロイ!!」
「ユアン様!?どうしてここに」
いつもとは違う鎧姿のユアンが階段を一足飛びで降りてロイに駆けよる。いつも屋敷でもゆったりとした動きで優美な佇まいでいるユアンが俊敏な動きを見せたのが初めてでロイが呆気に取られていると、ユアンが目の前にきて質問に答えることなくロイを心配そうな表情で見下ろした。
「怪我をしてる……」
「あ、少し切っただけです」
そっとユアンの指先が頬に触れたとき、今朝会ったというのにまるでずっと長い間会ってないようにロイには感じられた。
ユアンの金色の瞳がロイを捉えた瞬間稲妻に撃たれたかの様に動けない。
お互いの視線が交差して見つめ合うと数秒の間がまるで永遠にも思えた。
「ユアンさま!ニアは!!」
ウトにたずねられて我に帰ったユアンはウトの方へ視線を移した。
「ニアは今から探し出す。ウトは怪我は?」
「ないよ。ぼくよりおにいちゃんのほうがけられたりしたから……」
「蹴られた……」
呟くなり顔色を変えたユアンの目つきが仄暗いものに変わると「もう少し痛めつけてやればよかったな」と呟くのが聞こえてきた。
「ユアン様?お一人で来られたんですか」
「ん?ああ、一人では来ないよ。多分今頃色々吐かせているんじゃないかな」
そう言ったところで開け放たれたドアの向こうからひょっこりと見知った顔が顔を覗かせた。
「ユアン様、ただいま片付け終えました」
「トーマスさん!」
「ロイ様、命がご無事で何よりです」
いつもの好々爺とした微笑みで胸に手を当てて会釈をするトーマスにギョッとしたロイは思わずユアンになぜ連れてきたのかと言いたげな視線を向ける。
「ああみえてトーマスはものすごく強いから大丈夫だよ」
笑みを浮かべて話すユアンに半信半疑な気持ちになってしまう。
獣人に人間は力で劣るというのは共通認識であるため、この国でも騎士団などは獣人が多い。最も最近では人間の騎士もいるらしいが。
先ほどの男たちはどうみても荒事が日常茶飯事のような連中だったため、人間のしかも老齢間近のトーマスが荒事に強いというのはいささか信じ難い。
「じゃ、出ようか」
ロイの肩を引き寄せてウトに声を掛ける。久しぶりに密着するほどの近さにロイの心臓が跳ね上がる。
(こんなときだってのに……顔が熱い)
ロイの肩を包む力強い手のひらの大きさを意識しながらも平常心を保とうと俯く。
そんなロイの心の内を知らずユアンは時々二人に注意を促しながら階段を昇り切り、開け放たれた扉の向こうを見ると部屋の全貌が見渡せた。
椅子とテーブルが散乱しており、飲みかけの割れた酒瓶が床に転がっている。テーブルの上にはカードゲームをしていたのかカードが散らばっていた。
その近くには二人の男が気を失った状態で床に横たわっており、二人とも泡を吹いてぴくりとも動かない。
よく見ると先ほどロイに暴行した手下の男と二人の家で見たもう一人の男だった。死んでいるのかと思い、思わず声をあげそうになる。
「少し眠ってもらっています。しばらく目を覚ましませんのでご安心を」
ロイの頭の手当てをしながら朗らかに告げるトーマスが僅かばかり怖い。
「もうひとりがいない!」
ロイの服の裾をギュッと掴んでいたウトが焦った声で叫ぶ。顔色を変えたユアンがロイの方へ問うような視線を向ける。
「はい、この男たちを従えていたスーツの男がいたんですが」
辺りを見回してもそれらしい男はいない。嫌な予感が頭をよぎる。
ユアンがトーマスに伸びている男たちの捕縛を命じた後、駆け出しそれに続いてウトが走り出すのでロイは慌てて二人の後を追いかけた。
部屋の外に出ると廊下につながっており、ユアンたちが探索したであろう扉を開け放した部屋がいくつか並んでいる。
廊下を抜けて建物の勝手口のような扉を開けて外に出ると建物の裏手側であろう場所に出た。
外はもう闇に包まれており、かろうじて月灯りで辺りの様子がわかる程度だった。
周囲に建物はなく、目の前には鬱蒼とした木々が立ち並んでおり人の気配も感じられない。ロイはユアンたちが助けにきてくれなかったらと思うと改めてゾッとした。
立ち止まったユアンが辺りを見回す。固唾を飲んで見守っているとユアンの頭上の獣耳がピクピクと動く。
「こっちだよ。ニアがいる」
ウトが暗闇を指差す。ウトの指す方向はぐるりと囲んでいる木々のある一点の方向を指していた。
今にも飲み込まれそうな闇に身震いしそうになるも、ウトは構わずひとり走りだした。
なぜウトがまるで確信を持ったようにニアのいる場所がわかるのか不思議に思ったがユアンとロイは顔を見合わせて頷いたのちウトに続いた。
男たちはどよめきながらもスーツの男が手下に指示を出して部屋の外へ駆け上がっていく。
スーツの男も後に続くとこちらには目もくれず、扉を閉めて出て行った。
思わず先ほど受けた痛みにうめきながらも放心状態のウトを呼び寄せる。
「おにいちゃん、血が……!」
先ほど打ち付けられたときに額を切ったらしく、脈打つような痛みに手で抑えるとぬるりと血液が指先に触れた。
「大丈夫、それより頭を低くして」
振動でパラパラと天井と石壁から小さな木屑や石屑が落ちてくる。ウトを庇うようにして身を縮こませているとしばらくすると音が止んだ。
起き上がってあたりを見回すと階段の一部が崩れており石壁にはヒビが入っている。
天井が崩れ落ちないでよかったとホッとしていると扉の外から何やら怒号のような声が聞こえてきた。
ウトが怯えるようにロイにしがみつくので安心させるように背中をさすって様子を伺っていると程なくして勢いよく扉が開かれた。
「ロイ!!」
「ユアン様!?どうしてここに」
いつもとは違う鎧姿のユアンが階段を一足飛びで降りてロイに駆けよる。いつも屋敷でもゆったりとした動きで優美な佇まいでいるユアンが俊敏な動きを見せたのが初めてでロイが呆気に取られていると、ユアンが目の前にきて質問に答えることなくロイを心配そうな表情で見下ろした。
「怪我をしてる……」
「あ、少し切っただけです」
そっとユアンの指先が頬に触れたとき、今朝会ったというのにまるでずっと長い間会ってないようにロイには感じられた。
ユアンの金色の瞳がロイを捉えた瞬間稲妻に撃たれたかの様に動けない。
お互いの視線が交差して見つめ合うと数秒の間がまるで永遠にも思えた。
「ユアンさま!ニアは!!」
ウトにたずねられて我に帰ったユアンはウトの方へ視線を移した。
「ニアは今から探し出す。ウトは怪我は?」
「ないよ。ぼくよりおにいちゃんのほうがけられたりしたから……」
「蹴られた……」
呟くなり顔色を変えたユアンの目つきが仄暗いものに変わると「もう少し痛めつけてやればよかったな」と呟くのが聞こえてきた。
「ユアン様?お一人で来られたんですか」
「ん?ああ、一人では来ないよ。多分今頃色々吐かせているんじゃないかな」
そう言ったところで開け放たれたドアの向こうからひょっこりと見知った顔が顔を覗かせた。
「ユアン様、ただいま片付け終えました」
「トーマスさん!」
「ロイ様、命がご無事で何よりです」
いつもの好々爺とした微笑みで胸に手を当てて会釈をするトーマスにギョッとしたロイは思わずユアンになぜ連れてきたのかと言いたげな視線を向ける。
「ああみえてトーマスはものすごく強いから大丈夫だよ」
笑みを浮かべて話すユアンに半信半疑な気持ちになってしまう。
獣人に人間は力で劣るというのは共通認識であるため、この国でも騎士団などは獣人が多い。最も最近では人間の騎士もいるらしいが。
先ほどの男たちはどうみても荒事が日常茶飯事のような連中だったため、人間のしかも老齢間近のトーマスが荒事に強いというのはいささか信じ難い。
「じゃ、出ようか」
ロイの肩を引き寄せてウトに声を掛ける。久しぶりに密着するほどの近さにロイの心臓が跳ね上がる。
(こんなときだってのに……顔が熱い)
ロイの肩を包む力強い手のひらの大きさを意識しながらも平常心を保とうと俯く。
そんなロイの心の内を知らずユアンは時々二人に注意を促しながら階段を昇り切り、開け放たれた扉の向こうを見ると部屋の全貌が見渡せた。
椅子とテーブルが散乱しており、飲みかけの割れた酒瓶が床に転がっている。テーブルの上にはカードゲームをしていたのかカードが散らばっていた。
その近くには二人の男が気を失った状態で床に横たわっており、二人とも泡を吹いてぴくりとも動かない。
よく見ると先ほどロイに暴行した手下の男と二人の家で見たもう一人の男だった。死んでいるのかと思い、思わず声をあげそうになる。
「少し眠ってもらっています。しばらく目を覚ましませんのでご安心を」
ロイの頭の手当てをしながら朗らかに告げるトーマスが僅かばかり怖い。
「もうひとりがいない!」
ロイの服の裾をギュッと掴んでいたウトが焦った声で叫ぶ。顔色を変えたユアンがロイの方へ問うような視線を向ける。
「はい、この男たちを従えていたスーツの男がいたんですが」
辺りを見回してもそれらしい男はいない。嫌な予感が頭をよぎる。
ユアンがトーマスに伸びている男たちの捕縛を命じた後、駆け出しそれに続いてウトが走り出すのでロイは慌てて二人の後を追いかけた。
部屋の外に出ると廊下につながっており、ユアンたちが探索したであろう扉を開け放した部屋がいくつか並んでいる。
廊下を抜けて建物の勝手口のような扉を開けて外に出ると建物の裏手側であろう場所に出た。
外はもう闇に包まれており、かろうじて月灯りで辺りの様子がわかる程度だった。
周囲に建物はなく、目の前には鬱蒼とした木々が立ち並んでおり人の気配も感じられない。ロイはユアンたちが助けにきてくれなかったらと思うと改めてゾッとした。
立ち止まったユアンが辺りを見回す。固唾を飲んで見守っているとユアンの頭上の獣耳がピクピクと動く。
「こっちだよ。ニアがいる」
ウトが暗闇を指差す。ウトの指す方向はぐるりと囲んでいる木々のある一点の方向を指していた。
今にも飲み込まれそうな闇に身震いしそうになるも、ウトは構わずひとり走りだした。
なぜウトがまるで確信を持ったようにニアのいる場所がわかるのか不思議に思ったがユアンとロイは顔を見合わせて頷いたのちウトに続いた。
38
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる