犬伯爵様は永遠の愛を誓う

あまみ

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 地鳴りのような轟音が鳴り響く。耳が痛くなるほどの轟音と共に地下全体が揺れ動くほどの振動が揺らす。
 男たちはどよめきながらもスーツの男が手下に指示を出して部屋の外へ駆け上がっていく。
 スーツの男も後に続くとこちらには目もくれず、扉を閉めて出て行った。
 思わず先ほど受けた痛みにうめきながらも放心状態のウトを呼び寄せる。

 「おにいちゃん、血が……!」

 先ほど打ち付けられたときに額を切ったらしく、脈打つような痛みに手で抑えるとぬるりと血液が指先に触れた。

 「大丈夫、それより頭を低くして」

 振動でパラパラと天井と石壁から小さな木屑や石屑が落ちてくる。ウトを庇うようにして身を縮こませているとしばらくすると音が止んだ。
 起き上がってあたりを見回すと階段の一部が崩れており石壁にはヒビが入っている。
 天井が崩れ落ちないでよかったとホッとしていると扉の外から何やら怒号のような声が聞こえてきた。
 ウトが怯えるようにロイにしがみつくので安心させるように背中をさすって様子を伺っていると程なくして勢いよく扉が開かれた。

 「ロイ!!」
 「ユアン様!?どうしてここに」

 いつもとは違う鎧姿のユアンが階段を一足飛びで降りてロイに駆けよる。いつも屋敷でもゆったりとした動きで優美な佇まいでいるユアンが俊敏な動きを見せたのが初めてでロイが呆気に取られていると、ユアンが目の前にきて質問に答えることなくロイを心配そうな表情で見下ろした。

 「怪我をしてる……」
 「あ、少し切っただけです」

 そっとユアンの指先が頬に触れたとき、今朝会ったというのにまるでずっと長い間会ってないようにロイには感じられた。
 ユアンの金色の瞳がロイを捉えた瞬間稲妻に撃たれたかの様に動けない。
 お互いの視線が交差して見つめ合うと数秒の間がまるで永遠にも思えた。

 「ユアンさま!ニアは!!」

 ウトにたずねられて我に帰ったユアンはウトの方へ視線を移した。

 「ニアは今から探し出す。ウトは怪我は?」
 「ないよ。ぼくよりおにいちゃんのほうがけられたりしたから……」
 「蹴られた……」

 呟くなり顔色を変えたユアンの目つきが仄暗いものに変わると「もう少し痛めつけてやればよかったな」と呟くのが聞こえてきた。

 「ユアン様?お一人で来られたんですか」
 「ん?ああ、一人では来ないよ。多分今頃色々吐かせているんじゃないかな」

 そう言ったところで開け放たれたドアの向こうからひょっこりと見知った顔が顔を覗かせた。

 「ユアン様、ただいま片付け終えました」
 「トーマスさん!」
 「ロイ様、命がご無事で何よりです」

 いつもの好々爺とした微笑みで胸に手を当てて会釈をするトーマスにギョッとしたロイは思わずユアンになぜ連れてきたのかと言いたげな視線を向ける。
 
 「ああみえてトーマスはものすごく強いから大丈夫だよ」

 笑みを浮かべて話すユアンに半信半疑な気持ちになってしまう。
 獣人に人間は力で劣るというのは共通認識であるため、この国でも騎士団などは獣人が多い。最も最近では人間の騎士もいるらしいが。
 先ほどの男たちはどうみても荒事が日常茶飯事のような連中だったため、人間のしかも老齢間近のトーマスが荒事に強いというのはいささか信じ難い。

 「じゃ、出ようか」
 
 ロイの肩を引き寄せてウトに声を掛ける。久しぶりに密着するほどの近さにロイの心臓が跳ね上がる。

 (こんなときだってのに……顔が熱い)
 
 ロイの肩を包む力強い手のひらの大きさを意識しながらも平常心を保とうと俯く。
 そんなロイの心の内を知らずユアンは時々二人に注意を促しながら階段を昇り切り、開け放たれた扉の向こうを見ると部屋の全貌が見渡せた。
 椅子とテーブルが散乱しており、飲みかけの割れた酒瓶が床に転がっている。テーブルの上にはカードゲームをしていたのかカードが散らばっていた。
 その近くには二人の男が気を失った状態で床に横たわっており、二人とも泡を吹いてぴくりとも動かない。
 よく見ると先ほどロイに暴行した手下の男と二人の家で見たもう一人の男だった。死んでいるのかと思い、思わず声をあげそうになる。

 「少し眠ってもらっています。しばらく目を覚ましませんのでご安心を」

 ロイの頭の手当てをしながら朗らかに告げるトーマスが僅かばかり怖い。

 「もうひとりがいない!」

 ロイの服の裾をギュッと掴んでいたウトが焦った声で叫ぶ。顔色を変えたユアンがロイの方へ問うような視線を向ける。

 「はい、この男たちを従えていたスーツの男がいたんですが」
 
 辺りを見回してもそれらしい男はいない。嫌な予感が頭をよぎる。


 ユアンがトーマスに伸びている男たちの捕縛を命じた後、駆け出しそれに続いてウトが走り出すのでロイは慌てて二人の後を追いかけた。
 部屋の外に出ると廊下につながっており、ユアンたちが探索したであろう扉を開け放した部屋がいくつか並んでいる。
 廊下を抜けて建物の勝手口のような扉を開けて外に出ると建物の裏手側であろう場所に出た。
 外はもう闇に包まれており、かろうじて月灯りで辺りの様子がわかる程度だった。
 周囲に建物はなく、目の前には鬱蒼とした木々が立ち並んでおり人の気配も感じられない。ロイはユアンたちが助けにきてくれなかったらと思うと改めてゾッとした。
 立ち止まったユアンが辺りを見回す。固唾を飲んで見守っているとユアンの頭上の獣耳がピクピクと動く。

 「こっちだよ。ニアがいる」

 ウトが暗闇を指差す。ウトの指す方向はぐるりと囲んでいる木々のある一点の方向を指していた。
 今にも飲み込まれそうな闇に身震いしそうになるも、ウトは構わずひとり走りだした。
 なぜウトがまるで確信を持ったようにニアのいる場所がわかるのか不思議に思ったがユアンとロイは顔を見合わせて頷いたのちウトに続いた。
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