犬伯爵様は永遠の愛を誓う

あまみ

文字の大きさ
上 下
30 / 36

二人の家

しおりを挟む

 街の路地裏のようなところを何度か通った後平民の家が立ち並ぶ住宅街を抜けると、今度は先ほどの住宅街に比べるともっと作りも粗末な小屋のような家がずらりと並んでいる地域に足を踏み入れた。
 人はまばらに存在しているが、他所から来た三人を訝しむようなあちこちから視線を感じる。
 腰の曲がった老婆たちがこちらをコソコソと何か話している。その視線は明らかに好意的なものではない。
 居心地の悪い思いをしながら歩くロイに対して 二人は気にもしない様子で早足でロイの先を進んでいく。
 どこへ向かうのか聞きたい気持ちはあるものの、ニアはともかくいつも笑顔のウトまで無表情なのを見ると今、口を開くべきではないかもしれないと思った。

 しばらくすると一軒の家の前で立ち止まった。
 家に人気はなく、あちこちから草が生い茂るように生えている。よく見ると外壁に使用している木材が朽ちてあちこちに穴が開いている。
 誰も住んでいる様子のない家の中に二人は黙って家の中に入って行った。
 慌ててロイが後に続くと、やはり家の中には誰もおらず、そこは誰かが暮らしていたであろう痕跡だけが残っていた。

 「ここって……」
 「ここは俺たちの家場所」

 ニアが誰もいない家の中を見渡しながら呟く。ウトもニアの手を握って唇を噛み締めながらどこか遠くを見つめている。
 茫然と佇んでいる二人を見てロイは言葉をなくす。

 ニアとウトは両親が再婚してすぐに亡くなった。シスターのソフィーから聞いた話によると、不幸な事故だったという。
 同じ職場だったという両親が、職場から帰宅する際に、雨でぬかるんだ土で足を滑らせた馬車の転倒事故に巻き込まれ亡くなった。
 当たり前にずっと一緒にいるものと思っていた存在が突然いなくなることは耐え難い苦痛だろう。

 ロイも自分の母のことを思い起こす。

 よく頭を撫でてくれる人だった。ロイと話す時は決まってロイを膝に抱き上げて後ろから抱きしめながら頭を撫でてくれた。
 ロイの母親は労働者の手らしく固くあかぎれだらけだったけれどロイはそんな母の手が好きでよく手を握った。

 (幸せだった、お母さんとの唯一の思い出)

 

 「ババアどもが騒いでるから来てみればお前たちか」

 突然玄関先で声がして我に帰ったロイが振り返ると三人の男たちがズカズカと家に入ってきた。
 男たちが現れた途端素早くニアがウトの前に守るようにしてウトを背に隠した。

 「よお、久しぶりだなニア。ってことはその後ろにいるのがウトか。……あんたはみねえ顔だな」

 ニヤニヤと笑みを浮かべ、真ん中にいる一際背の高いスーツ姿の男が顎に蓄えた髭をなぞりながらロイを見下ろした。
 それぞれ獣人の明らかに堅気でない男たちに困惑しながらもロイは先ほどから尻尾を逆立てているニアの前に出た。

 「あの……どちら様で?」
 「これは自己紹介が遅れまして。我々はそこにいる兄弟の親の同僚です」
 「同僚……」

 二人に目をやると唇を噛み締めて男たちを睨みつけていた。その二人の様子から何となく嫌な予感がよぎり、背中を汗が伝う。

 「その同僚の方たちが何の用でしょう」
 「何の用か答えてもいいが……その前にあんたは誰だい?」
 「私はこの子達の保護者のようなものです」
 
 そう答えると男はロイの爪先から頭のてっぺんまで舐め回すような視線を送った。
 
 「見たところ貴族……いや、その屋敷に雇われているやつか」

 言い当てられてどきりとする。
 
 「教えてやろう、こいつらの親は優秀な奴でよ、俺らは重宝してたんだわ。ところが大事な仕事中にあっけなく死んじまってよお、片方ならまだしも二人揃って逝きやがった。お陰様でこっちは大損害よ。」
 
 「そんな言い方……」

 あまりの言いように思わず咎めるような視線を送ると男はニヤリと笑った。
 
 「俺らの職業はよ、依頼があれば探し物をしたり、商品を売ったり買ったり所謂何でも屋で手広く商売やってんだ。もちろんお貴族様にもお得意様がいてね」

 スラスラと喋り続ける目の前の男に不気味な物を感じながら聞き入る。


 「お貴族様の中には色々な嗜好の方がいて、特に見目のいい子供なんかは獣人、人間関係なく需要があるのさ」

 その言葉を聞いた途端背後からウトの声がし、振り向いたと同時に後頭部に強い衝撃が走った。
  
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

ニケの宿

水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。 しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。 異なる種族同士の、共同生活。 ※過激な描写は控えていますがバトルシーンがあるので、怪我をする箇所はあります。  キャラクター紹介のページに挿絵を入れてあります。  苦手な方はご注意ください。

甘えんぼウサちゃんの一生のお願い

天埜鳩愛
BL
あらすじ🐰 卯乃は愛くるしい兎獣人の大学生。気になる相手は亡き愛猫の面影を宿すクールな猫獣人深森だ。 卯乃にだけ甘い顔を見せる彼に「猫の姿を見せて」とお願いする。 獣人にとって本性の姿を見せるのは恋人や番の前だけ! 友人からのとんでもない願いを前に、深森は……。 (ねこうさアンソロジー 掲載作品) イラスト:わかめちゃん https://twitter.com/fuesugiruwakame

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

異世界では総受けになりました。

西胡瓜
BL
尾瀬佐太郎はある日、駅のホームから突き飛ばされ目が覚めるとそこは異世界だった。 しかも転移先は魔力がないと生きていけない世界。   魔力なしで転移してしまったサタローは、魔力を他人から貰うことでしか生きられない体となってしまう。 魔力を貰う方法……それは他人の体液を自身の体に注ぎ込んでもらうことだった。 クロノス王国魔法軍に保護され、サタローは様々な人物から魔力を貰うことでなんとか異世界を生き抜いていく。 ※アホ設定なので広い心でお読みください ※コメディ要素多め ※総受けだけど最終的には固定カプになる予定

オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙
BL
薬学部に通う理人は植物採集に山に行った際、救世主として異世界に召喚されるが、熊の獣人に拾われてツガイにされてしまい、もう元の世界には帰れない身体になったと言われる。そして、世界の終わりの原因は伝染病だと判明し……。 

処理中です...