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二人の家
しおりを挟む街の路地裏のようなところを何度か通った後平民の家が立ち並ぶ住宅街を抜けると、今度は先ほどの住宅街に比べるともっと作りも粗末な小屋のような家がずらりと並んでいる地域に足を踏み入れた。
人はまばらに存在しているが、他所から来た三人を訝しむようなあちこちから視線を感じる。
腰の曲がった老婆たちがこちらをコソコソと何か話している。その視線は明らかに好意的なものではない。
居心地の悪い思いをしながら歩くロイに対して 二人は気にもしない様子で早足でロイの先を進んでいく。
どこへ向かうのか聞きたい気持ちはあるものの、ニアはともかくいつも笑顔のウトまで無表情なのを見ると今、口を開くべきではないかもしれないと思った。
しばらくすると一軒の家の前で立ち止まった。
家に人気はなく、あちこちから草が生い茂るように生えている。よく見ると外壁に使用している木材が朽ちてあちこちに穴が開いている。
誰も住んでいる様子のない家の中に二人は黙って家の中に入って行った。
慌ててロイが後に続くと、やはり家の中には誰もおらず、そこは誰かが暮らしていたであろう痕跡だけが残っていた。
「ここって……」
「ここは俺たちの家だった場所」
ニアが誰もいない家の中を見渡しながら呟く。ウトもニアの手を握って唇を噛み締めながらどこか遠くを見つめている。
茫然と佇んでいる二人を見てロイは言葉をなくす。
ニアとウトは両親が再婚してすぐに亡くなった。シスターのソフィーから聞いた話によると、不幸な事故だったという。
同じ職場だったという両親が、職場から帰宅する際に、雨でぬかるんだ土で足を滑らせた馬車の転倒事故に巻き込まれ亡くなった。
当たり前にずっと一緒にいるものと思っていた存在が突然いなくなることは耐え難い苦痛だろう。
ロイも自分の母のことを思い起こす。
よく頭を撫でてくれる人だった。ロイと話す時は決まってロイを膝に抱き上げて後ろから抱きしめながら頭を撫でてくれた。
ロイの母親は労働者の手らしく固くあかぎれだらけだったけれどロイはそんな母の手が好きでよく手を握った。
(幸せだった、お母さんとの唯一の思い出)
「ババアどもが騒いでるから来てみればお前たちか」
突然玄関先で声がして我に帰ったロイが振り返ると三人の男たちがズカズカと家に入ってきた。
男たちが現れた途端素早くニアがウトの前に守るようにしてウトを背に隠した。
「よお、久しぶりだなニア。ってことはその後ろにいるのがウトか。……あんたはみねえ顔だな」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、真ん中にいる一際背の高いスーツ姿の男が顎に蓄えた髭をなぞりながらロイを見下ろした。
それぞれ獣人の明らかに堅気でない男たちに困惑しながらもロイは先ほどから尻尾を逆立てているニアの前に出た。
「あの……どちら様で?」
「これは自己紹介が遅れまして。我々はそこにいる兄弟の親の同僚です」
「同僚……」
二人に目をやると唇を噛み締めて男たちを睨みつけていた。その二人の様子から何となく嫌な予感がよぎり、背中を汗が伝う。
「その同僚の方たちが何の用でしょう」
「何の用か答えてもいいが……その前にあんたは誰だい?」
「私はこの子達の保護者のようなものです」
そう答えると男はロイの爪先から頭のてっぺんまで舐め回すような視線を送った。
「見たところ貴族……いや、その屋敷に雇われているやつか」
言い当てられてどきりとする。
「教えてやろう、こいつらの親は優秀な奴でよ、俺らは重宝してたんだわ。ところが大事な仕事中にあっけなく死んじまってよお、片方ならまだしも二人揃って逝きやがった。お陰様でこっちは大損害よ。」
「そんな言い方……」
あまりの言いように思わず咎めるような視線を送ると男はニヤリと笑った。
「俺らの職業はよ、依頼があれば探し物をしたり、商品を売ったり買ったり所謂何でも屋で手広く商売やってんだ。もちろんお貴族様にもお得意様がいてね」
スラスラと喋り続ける目の前の男に不気味な物を感じながら聞き入る。
「お貴族様の中には色々な嗜好の方がいて、特に見目のいい子供なんかは獣人、人間関係なく需要があるのさ」
その言葉を聞いた途端背後からウトの声がし、振り向いたと同時に後頭部に強い衝撃が走った。
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