犬伯爵様は永遠の愛を誓う

あまみ

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遭遇

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 あれからロイは一念発起してユアンに相応しい秘書になるべく今まで以上に励んだ。
 
 ユアンの隣に立つには恥ずかしくない秘書でいなければならないと思い立ったロイは、まず仕事の合間に言葉遣いや立ち振る舞い、マナーや貴族に関することについて自発的にトーマスやメイド長に頼み込みレッスンを受けるようになった。
 やる気みなぎるロイに苦笑しながら無理しないようにと言いながらも皆快く教師をしてくれた。
 その様子をユアンも陰ながら見守って、ときには並んで授業を受けたりもした。

 あれ以来ユアンは何度かロイに近づこうものなら、何かを感じ取ったロイはユアンが触れようとするとスルリとかわすようになった。
 ユアンからしたら触れたいのに触れられないというのは歯がゆいもので、髪に触れようものなら「こういったことはにはおやめくださいね」と笑顔でやんわりと拒否される。
 前まではなんとなく許してもらえていたことが出来ず、髪に触れる以上のことをしてしまったユアンは本人がはっきりと拒否する以上嫌われたくはないので無理強いできない。
 ユアンはただ悶々とした日々を過ごすしかなかった。

*  *  *


  トーマスから頼まれたお使いの帰り道街を歩いていると聞いたことがあるような声がした。 
 

 「おにいちゃん!!」

 後ろから腰に衝撃が走り、思わずロイは「ぐえ」と声を出してよろけた。
 痛む腰を押さえながら振り向くとここにはいないはずのウトがニコニコしながら立っている。

 「あれ?ウト、どうしてここに?」


 孤児院で会うことはあっても街中で会うのは初めてだったロイは不思議に思いながらたずねるとウトは「シスターには内緒だよ」と人差し指を口に当てた。
 天使のような笑みで騙されそうになるがロイはこの笑顔に何度も騙されているので効果はない。
 シスターには内緒というのは黙って孤児院を出てきたということになる。ロイは思わず表情をこわばらせた。

 「黙って出てきたの」
 「そうだけどぼくだけじゃないよ」

 悪びれた様子もないウトは後ろを振り返った。そこにはこちらに恨めしそうな視線を送るニアが立っていた。
 相変わらずのニアにロイがたじろぐと、ウトはニコニコしながらウトに甘えるように腕を絡ませてきた。
 実年齢よりも幼く見えるほど身体が小さく、舌ったらずの可愛らしい話し方もだったウトも孤児院で過ごすにつれ栄養状態が改善されたおかげか年相応にふっくらしてきて一気に少年らしい面差しになってきた。毎回会うたびにロイに甘えてくるのは会ったときから変わらず、可愛らしいと感じる。
 ニアの方もここ最近身長が伸びて孤児院で会うたびにロイの身長にすぐにでも追いつきそうな勢いで成長しており、いつ追い越されるかとヒヤヒヤしている。
 自由奔放で誰にでも人懐っこいウトに対してニアは大人しく物静かであまり人と関わらない。
 孤児院でも二人は、というかニアがウトの後ろをまるでナイトのようについて回っている。
 ウトと親しげに話そうもんなら警戒心を露わにして何も言ってこないがニアの背後で無言の圧をかけてくるのだ。
 他の子供たちにはそんなことはないがロイに対してニアはいまだに警戒心のようなものを見せてくる。
 シスターのソフィーいわく、大人に対しての警戒心は二人が今までいた環境も影響しているのだという。

 ウトがロイに対して懐くような行動を取るのはニアの反応を見て楽しんでいる節があると思うようになったのは最近である。

 孤児院は外出許可を貰えば街に出かけたりすることも可能なはずだ。なのに黙って出てきたことに家出かと頭をよぎるもロイの考えを見透かしたようにウトが「家出じゃないからね」とロイに向かって念を押すように言った。
 
 「じゃあ、なんで」
 「うーんと……あ!じゃあおにいちゃんもついてきてよ」
 「え」

 腕を引っ張り出すウトに「こら!ウト!」とニアが近づいてきてロイの腕を掴むウトの腕を掴んで引き離した。

 「なあに?ニア」
 「俺らだけでいいだろ」
 「でも、こどもだけはあぶないよ。それにもどったとき、おにいちゃんもいればあんまりおこられないかもよ」
  
 ウトがそういうとニアは頭の上の薄灰色の耳をぴくりと動かして「ウトがそういうなら……」と渋々納得したようだった。
 そのやりとりを聞いていたロイはもしかして自分がついていかなければならない雰囲気に冷や汗をかいているとウトがにっこりとロイに向き直った。
 
 「おにいちゃんもいこ」

 これから屋敷に戻るところだというのに子供二人だけにしておくわけにもいかず、日没までには孤児院に帰ると二人に言い聞かせてロイは二人についていくことを決めたのだった。


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