犬伯爵様は永遠の愛を誓う

あまみ

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傷つかないために

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 目が覚めたと同時に勢いよく起き上がると豪華な店外付きベッドの上だった。

 (なんか前にもこんなことあったような気がする……)

 既視感を感じながらも辺りを見回すとユアンの寝室であることに気づく。カーテンからはすっかり高く登った陽の光がキラキラと窓を反射している。
 意識を失う前の出来事を思い出したロイは慌ててベッドから降りようとすると自分の姿に驚愕する。
 シャツのボタンは全開であちこちにユアンがつけた赤い花が咲いているのがわかる。恐る恐る自分の姿を確認すると下は綺麗にされているものの履いて何もおらず上半身だけシャツをはおっただけの状態である。
 思わずシーツにくるまって自分の姿を隠しているところに扉が開く音が響き渡った。

 「起きたみたいだね」

 ユアンが入るなり笑顔でロイに近づく。自分の姿を見られたくないロイはシーツにくるまったまま床に降り立ち頭を下げた。

 「ユアン様、申し訳ございませんでした」

 平身低頭地に頭を擦り付けて謝罪をする姿にユアンは唖然とした表情になる。

 「なんのこと?」
 「あ、あの……先ほどユアン様は『誰のものかわからせる』とおっしゃいました。俺が、雇われている身でありながら夜会でご迷惑をかけて神殿にて外泊をしたことでご気分を害されたのかと……」

 神殿に泊まったことで気分を害したかと言えばそうであるユアンは言葉に詰まる。だがもとはといえば夜会でロイのことをフェリックスから守れなかった自分のせいである。しかもダニエルに対して面白くない感情を持っている自分がロイに対して少なからず八つ当たりもあって昨夜の行為に及んだのも事実。
まさか謝罪を受けるとは思ってもみなかったユアンは答えに詰まる。

 「夜会のことは私がロイを守れなかったこともあるし君に責任はない。神殿についてはあの場でギシャール殿に治療のためと言われたのだし異論はなかったよ。ただ……ギシャール殿と仲がいいのが少し……面白くなかったかな」

 ほんの少し遠回しにやきもちを焼いたと伝える。すると顔を青くさせたロイが「申し訳ありません!」となおも頭を下げる。
 顔を赤らめて恥ずかしそうにする姿を想像していたユアンは想像と違っていたロイの反応に絶句する。

 「ロイ?」
 「ダニエル様と仲良く……させていただいているほどでもないのです。本を貸していただいたりお話をさせていただいているだけで!仲良くだなんて畏れ多いご身分の方ですし」

 それを仲良くしているというのではないのかと言いそうになるユアンをよそにロイは話し続ける。

 「ご気分を害されるようでしたら今後ダニエル様とのやり取りは控えます」
 「あ、いや、そこまではいいんだ。彼には感謝もしてるしなんの問題もないよ」

 本音は控えて欲しいがそこまで制限するつもりはない。何よりロイに狭量な男と思われたくなかったユアンは慌てて訂正した。

 「その、昨夜はその……悪かったね。疲れているときに、無理をさせてしまって」

 身体を気遣いながらも昨夜のことを確認したかったユアンはそれとなく話題に出してみる。
 途端に顔を赤らめたロイにユアンは一瞬期待するもまた思っていたのと違う言葉を聞かされる。

 「ユアン様のご期待に沿うことができず申し訳ありません。お察しの通り、あまり経験がなく……」
 「そんなの気にしてないよ、ロイ」

 「これから二人で慣らしていこう」とユアンが言葉を続けるつもりがロイが被せるようにして続けた。

 「ですから!俺では役不足ですので、お相手をお探しならユアン様なら他にも良い方がいると思います」

 ユアンはロイのというのが何を差しているのかわからず一瞬硬直する。

 ユアンはもちろんなしくずしにあわよくば恋人同士になるつもりでいたが、ロイのというのは「性欲を発散する相手」を指していることに気がつく。

 「ちが、」
 「もちろん、これから貴族の方が利用する色街の類も秘書として調べておきますのでこれから行為をお望みとあらばすぐに手配できるよういたします!」

 ロイがこんな発言に至ったのはこれ以上つまらぬ期待をしたくないが故だった。ユアンが自分のことを好きだなんて思っているはずがないと思い込んでいるロイが達した結論は「ユアンが自分に過剰に触れるのは欲求不満である」と思い込むことだった。
 でなければ自分に触れるはずがない、勘違いをしてはいけないと傷つきたくない自分の心を守るのがこれが精一杯だった。

 一方でユアンはロイのあまりの発言に硬直したままである。そんなユアンの気持ちは露知らずにロイは立ち上がり、頭を下げる。

 「では、着替えて仕事に戻ります」

 そういってそそくさと着替えた後硬直したままのユアンを残し足早にロイは立ち去った。

 
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