犬伯爵様は永遠の愛を誓う

あまみ

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お手伝いの見返り

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 大量の本を両手に抱えてロイがダニエルに連れてこられたのはロイが今まで見たことのないほど大きな神殿だった。
 ステルク王国の国教である女神教は国のいくつかに神殿があり、そのなかの本殿が王城のあるここ首都ストラがお膝元だという。
 騎士が守り固める神殿の門を手続なくダニエルの後を離されないように早足でついていく。ダニエルの顔を見た行き交う神官達が頭を恭しく下げたことから高位の神官なのが伺えてロイは一層緊張して手伝いを申し出たことを少しだけ後悔したが、本を落とさないことに集中することにした。
 無言でひたすら前を歩くダニエルはロイより本を大量に抱えているというのにいっさいふらつきを見せない。
 がっしりした背中は神官服の上からでもわかるほどで、先ほどからすれ違う獣人の神官たちに並ぶほどだ。

 (獣人の方が人間より体格はしっかりしているにのに、この人も負けてないな。ユアン様と同じくらい、かな。見たところ人間っぽいけど……人間だよな?)

 貧相な自分の腕を見て少し悲しくなる。ロイは細身で尚且つ身長も平均より少し低いので大柄な獣人と並ぶと余計目立つ。ロイにもアルバイトをしていたときは肉体労働もやったことはあるが筋肉量があまりないので役に立たず三日と持たずクビになってしまった過去がある。
 筋肉質な身体に憧れはあるものの、筋トレをしてもあまり筋肉がつきづらい自分とは縁遠く感じてしまう。
 
 「ここだ」

 人通りの少ない廊下を歩いたところで一つの部屋の前でダニエルが立ち止まって本を抱えたまま鍵を開けて扉を開けると、ダニエルはそのまま室内に入った。
 慌てて続いて中に入るロイの目に飛び込んできたのは広い部屋の壁に所狭しと並べられた本棚だった。入って右側の方は本棚が立ち並んでおり、部屋の左側の隅の方には木製の机が置かれている。壁際には調度品一つなく本棚が置かれており、机の前にあるテーブルとソファにも本が置かれていた。ダニエルの私室なのか本棚の個人で抱えるには大量の本はヘンリーと同じように古本屋ができるのではないかと思うほどだ。

 「わあ……!」
 
 ロイが思わず感嘆のため息を漏らしているとダニエルはロイの反応をよそに本を机に置くと「ここに置いてくれ」と示すとソファの前のテーブルに置いていた本を移動し始めた。本を指示された場所に置くとダニエルは先ほどまで本が占領していたソファとテーブルを片付けたあとロイに座るように促した。
 
 「腹が減っているのだろう。昼食を食べていくといい」

 先ほど店でロイの腹の音が鳴ったことを覚えていたのかダニエルはロイの返答を待たずに早足で部屋を出て行ってしまった。
 ロイはおとなしくソファに座って待つことにしたが近くにある本棚が気になってしょうがない。
 見たいのを我慢してロイはおとなしく待っていると、しばらくすると盆を抱えた状態のダニエルが帰ってきた。
 盆にはサンドイッチが二皿置かれており盆をテーブルに置くとダニエルはロイの向かい側に腰掛けて皿をロイと自分の前にそれぞれ置いた。

 「食べなさい」
 
 お礼を言ってから手に取って一口食べる。なんの変哲もない普通の野菜が挟んであるサンドイッチだが野菜がシャキシャキと歯応えがあって美味しい。
 ロイが食べたのを確認するとダニエルは立ち上がってどこからか持ってきた水差しからコップに水を注いでロイの前に置いてから食べ始めた。
 話しかけるべきか迷い、ロイは思い切って「おいしいです」と言うとダニエルは一瞬止まってロイに視線をうつし、「そうか」と返事してまた食べ始める。
 無言のまま食べ続けようやく食べ切る頃にはロイは空腹は満たされたものの何故か疲れてしまっていた。

 (せっかくのサンドイッチを水でほぼ流し込んでしまった……)
 
 「君、名はなんという」
 「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。ロイです」
 「私はダニエル・ユラーグだ。ここの神官長をしている」
 「ダニエルさんですね。……って神官長!?」
 「そうだ」

 感情の読めない表情でダニエルはロイを見つめる。神官長と聞いてなんだか恐れ多くなったロイは身を小さくしている。

 「ロイ、本は好きか」
 「は、はい!好きです」
 「ならば本を貸してあげるからそこの本棚から好きな本を持っていきなさい」

 呆気に取られているとダニエルは怪訝そうな表情をし、「どうした。本が好きなのだろう。選びなさい」と近くの本棚を顎でしゃくった。
 ロイは先ほどから気になっていた本棚の前へいそいそと近づき並べられた本の背表紙を確認する。
 ジャンルは伝記、神話からミステリなどさまざまだ。中でも魔法に関する本が多い。魔法に関する本は高額でなかなか売っているのを見かけない。
 好奇心からそっと手に取って開いてみると魔法の成り立ちや魔法の歴史などが書かれている。

 かつてこの世界には誰でも魔力があったという。
 魔力があって、魔法が誰でも使えた時代。今では魔力を持つ者は少数派となっている。幼い頃魔法に憧れたロイはいつも魔法を使えることができたらいいのにと空想にふけっていたことを思い出す。

 「魔法に興味があるのか」
 「!!!」

 いつの間にか背後に立っていたダニエルに驚きロイは飛び上がりそうになった。

 (全然気配がしなくてびっくりした……)

 「あ、あまりこういった本は見かけたことがなかったもので」
 
 ロイがたじろぎながら本を戻すとダニエルは逡巡した後本棚から違う本を取り出してロイに手渡した。

 「こっちの方がわかりやすいだろう」

 表紙には「魔力と魔法の基礎」と書かれている。パラパラとページをめくってみると魔力を魔法の結びつきから体内魔力の放出など実践的なことが書かれている。

 「いや、こんな高価な本をお借りするわけには……それに俺は魔力ないですし」
 「……何を言っている。自分に適性がなくとも少しでも興味があるのなら知識を得ることを躊躇するな。それに知っておいて後から何が役立つかはわからんだろう」
 「役立つ……ときがくるでしょうか」
 「知識を何に使うかによるのではないか?自分のためか、人のためか。少なくとも無駄ではない。知識をつけることは自信にもなる」

 ダニエルの言葉が何故かストンと胸に落ちた。何故だか一瞬ユアンの顔が浮かぶ。

 「それにこれは読み物としてもおもしろい」

 真顔で言い放つダニエルにロイは思わず吹き出した。

 

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