犬伯爵様は永遠の愛を誓う

あまみ

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訪問者

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 「やあ!元気か?」

 いつも通り屋敷で仕事をしているユアンの補助をしていると訪問客があった。
 赤髪に同じ色のピンと尖った耳、白い肌に長いまつ毛にややつり目の瞳の色はグリーンだ。ボリュームのある尾は艶やかでよく手入れされていることがわかる。白い騎士服に身を包んだ訪問者は勝手知ったると言ったふうでどかっとソファに座って長い脚をくみ出してくつろぎ出した。

 「フェリックス、何しにきたんだ」
 「何しにきたってひどいなあ、友達だろ」
 「どうだったかな」
 「おい」

 軽口を叩き合った二人はお互いににやりと視線を交わしたあと声を出して笑い声を上げた。

 「元気だったかユアン」
 「ああ。フェリックス、君も元気そうでよかったよ」

 ソファに座るフェリックスの前にユアンが座ったタイミングでロイが茶を運ぶとフェリックス方から視線を感じ、なんとなく気づかないふりをしてサッと立ち上がって会釈をして部屋の隅に控えた。

 「ふーんあれが君の秘書かあ」

 横目で見ながら脚を組み直すフェリックスの視線に何か気まずいものを感じてロイは視線を合わさずに軽く会釈をした。
 相手が貴族である場合立場が下のロイは主人の許しなしに口を開いてはならない。

 「フェリックスは初めてだったね、紹介するよ。おいで、ロイ」

 先ほどから感じる彼から威圧感が増していることにユアンは気づいているのだろうか。主人の手前断るわけにもいかずロイは二人の前に立つ。
 
 「この子はロイ。お手柔らかにね」
 「はっ、どうしよっかなー」
 「ロイ、こいつは騎士団時代の腐れ縁で騎士団の副団長フェリックス・オーゼル」

 オーゼル家は赤狐の獣人族であり、伯爵で騎士の家系である。確か前騎士団長もオーゼル家の当主が担っていたことを思い起こす。
 細長い体躯に背丈はユアンと変わらないくらいで二人して見下されると威圧感がとてつもない。特にフェリックスは騎士だからか腰には剣を携えており見慣れていないロイは少しばかり緊張した。

 「よろしくー」
 「よ、よろしくお願いします」

 頭を下げて目線をチラリとフェリックスの方へ向けると一瞬だけ視線がかち合い、その眼差しが氷のような冷たさをはらんでいることに思わず怯む。
 口元は笑っているのに目が全く笑っていない。
 フェリックスはすぐにロイから視線を外してユアンの方へ「ねえ、ユアンさー」と話題を変え、二人で会話を始めた。
 向けられた先ほどの視線に心臓の音が緊張からか早い。そのままロイは部屋の隅に控え、平静を装う。動揺してユアンに心配をかけるわけにはいかない。
 お互いの近況など和やかに会話が進んでいき、フェリックスが騎士団に戻るとのことでお開きとなった。
 
 玄関まで送っていくとのことでユアンとフェリックスが会話しながら歩く後ろをなるべくロイは気配を消しながら歩く。
 時折肩を叩き合いながら親しげに笑顔を向け合う二人の姿を見てると居心地の悪い気持ちにかられる。自分は秘書なのだから席を外すことは主人であるユアンの許しなしにはできない。この気持ちがなんなのかわからないままただじっとやり過ごすしかできなかった。

 玄関先で見送る際にオーゼル伯爵に渡す文があることに気づいたユアンが部屋に取りに戻ろうとした。慌ててロイが取りに行こうとすると引き出しに入っているから自分で取りに行くとフェリックスに断って足早に部屋に取りに行った。
 残されたロイとフェリックスの間には沈黙が流れる。

 「主人に手間を取らすなんて使えない秘書だな。普通手紙の管理は秘書の仕事だろ。ああ、大事な手紙を任されないほど信用されてないのか」

 先ほどとは打って変わって蔑むような表情でロイに話しかけた。
 思わず顔がカッと熱くなる。フェリックスの言葉は少なからず当たっていることをロイはわかっていた。
 俯くロイにフェリックスの言葉が容赦なく飛んでくる。

 「ユアンが秘書をとったというから見にきてみれば……こんなやつだなんて」

 唇を噛み締めてただ俯く。

 (そんなの自分が一番わかってる……)

 ただ黙っているロイにイラついたように舌打ちが頭上から降ってくる。



 「俺はお前がユアンの秘書だなんて認めない。しかも人間だなんて尚更だ。お前にユアンの隣を歩く資格なんてない」

 
 
 

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