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授業
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「初めての人もいるだろうからまず獣化のおさらいをしようか」
孤児院の中庭で子供達数名を前にユアンが話し出す。子供達の方を見ると目をキラキラさせながらユアンの方を見つめている。
どの子も獣人の子供達で年齢層はだいたい十歳から十八歳までの子達だ。時折ユアンが孤児院を訪れてはこうやって獣人の子供達むけに授業を行なっているそうだ。
「獣化とは半獣含む獣人が獣に変化させることをいう。獣化することによって普段の姿形が変わるだけでなく持って生まれた爪や牙、脚力などの身体能力が著しく向上される。けれど、獣化することによって身体的負担は大きく獣化を解くと一気に体力を消耗する。ここまではわかるかな?」
ここでユアンが辺りを見渡すと一人の女の子が手を挙げてユアンが「どうぞ」と指す。
「はい。ユアン様、獣化しているときは疲れないんですか」
「疲れることはもちろんあるよ。けれど獣化しているときは一種の興奮状態になりやすいから戦闘の場合だと特に自分の体力消耗に気付けなかったりするんだ」
あちこちで驚いたり頷いたりしている子供達を見て微笑んだユアンはいつもの雰囲気より心なしか柔らかい。
「そして半獣と獣人の違いは獣化したときの姿にある。獣人は獣化すると二足歩行の人の形から毛や爪、牙、翼などがまるでそのまま人の形と合わさったようになる。これはより戦いやすくするためではないかと言われている。そして半獣は獣化すると祖先である獣の形そのものの姿となる。定説によると身体に混ざっている人間の血が獣の血に何らかの作用を引き起こすからだと言われている」
少し離れた場所からユアンの話にロイも思わず真剣に聞き入っていると、ふとこちらを見たユアンがその姿をみて少し笑みを浮かべる。
「ではここから獣化についての注意点を踏まえた上で獣化の練習をしていこう」
ユアンが号令をかけた途端あちこちで子供達が獣化していつもとは違う姿に変化していく。
ロイが邪魔をしないようにさらに場所を移動して離れたところで見学していると再びユアンと目が合い、ユアンがロイに微笑んだ。
心臓がギュッと掴まれたような気がしてロイが思わず心臓を抑えていると突然後ろから服を引っ張られる。驚いて振り向くと先ほどロイに話しかけたウトと呼ばれる子が見上げていた。
「ウト……くん?」
「うん。おにいちゃんもみにきたの?」
そういってロイの服の裾を握ったままウトは視線を前に向けると視線の先には次々と獣化していく子供達の中でニアだけがじっと佇んでいた。
ニアの表情はどことなく暗い。その様子に気づいたユアンがニアの方へ近づき声をかけている。
「ニアはねーぼくのまえでじゅうか?したくないんだって」
「そうなの?」
「ぼくのことがわからなくなりそうだからしたくないんだって。ニアは「はんじゅう」だから」
「半獣」のウトの言葉に思わずどきりとする。動揺したことを必死に表情に出さないようにしているロイに構わずウトはぽつりぽつりと話す。
「ニアはニアなのにねー、いっかいだけかくれてみてたんだけどニアはぼくがいるのすぐきづいちゃうんだ。でもぼくニアのじゅうかしたとこみたことあるんだけどかっこいいんだよ!」
目をキラキラさせながら話すウトに思わず笑みが溢れる。ロイがニコニコとウトのニアがどんなにすごいのかを聞いているとこちらに気づいたニアがかけてくる。
「ウト!シスターと待ってろって言っただろ」
「ニア!」
駆け寄ってきたニアにウトはすぐさま抱きつく。抱きつかれたニアはジロリとロイを睨んだ。驚いて何も言えないでいるロイにニアはウトを自分の後ろに隠した。
「ウトが何か?」
「え……」
「ウトに何かしたのか」
殺気立つニアに「ただ会話していただけ」と言おうとするもあまりの殺気に気圧されて声が出ない。戸惑いながら口をぱくぱくさせていると後ろから強く抱き抱えられる。
「はい、そこまで」
静止する言葉と共にユアンがロイの腰に腕を回しニアの前に立った。ニアはウトを庇ったままユアンを見上げた。
「関係ないだろ」
「この人は私の秘書だからね。関係なくはないかな」
バチバチと火花が散るような睨み合いに思わず足がすくみそうになっていると庇われているウトがひょっこりとニアの横から顔を出した。
「なんでけんかしてるのー?ぼくこのおにいちゃんといっしょにみてただけだよ。ウト、こわいかおしちゃだめ」
そう言って睨み合う二人の間に入り、ニアの顔へ手を伸ばしたウトはムニムニとニアの頬を触った。
「こ、こら!牙が当たったらどうするんだ!いつもやめろって言ってるだろ」
「だいじょーぶだよ、そんなへましないもん」
されるがままのニアに思わずぷっとユアンが吹き出すと声をあげて笑い出した。
「ははは!ウトは大物になるなあ。獣人の睨み合いに入ってこられるなんて初めてだよ」
腹を抱えているユアンにキッとニアが睨むも頬をムニムニと潰されているので先ほどより凄みはない。
「ぼくニアより「おおもの」になるー?」
「ああ、そうかもしれないな」
「じゃあ、ニアよりおおものになってニアをまもるね」
ユアンの言葉に嬉しそうにニアに笑いかけるウトをみてハッとした表情をするニアはウトの手を優しく重ねて下ろした。
ユアンとロイへ方向き直るニアはロイとユアンを見てから頭を下げた。
「俺の早とちりですみませんでした」
優しく微笑むユアンはロイの方へ視線を向けて「どうする?」とでもいうように首を傾げた。
「誤解が解けたのなら俺は大丈夫です」
「ロイが許すなら私も不問にしよう」
頭を上げたニアはどこかほっとした表情で息を吐いた。その仕草がまだ少年なんだと感じさせてロイは思わず笑みを浮かべた。
孤児院の中庭で子供達数名を前にユアンが話し出す。子供達の方を見ると目をキラキラさせながらユアンの方を見つめている。
どの子も獣人の子供達で年齢層はだいたい十歳から十八歳までの子達だ。時折ユアンが孤児院を訪れてはこうやって獣人の子供達むけに授業を行なっているそうだ。
「獣化とは半獣含む獣人が獣に変化させることをいう。獣化することによって普段の姿形が変わるだけでなく持って生まれた爪や牙、脚力などの身体能力が著しく向上される。けれど、獣化することによって身体的負担は大きく獣化を解くと一気に体力を消耗する。ここまではわかるかな?」
ここでユアンが辺りを見渡すと一人の女の子が手を挙げてユアンが「どうぞ」と指す。
「はい。ユアン様、獣化しているときは疲れないんですか」
「疲れることはもちろんあるよ。けれど獣化しているときは一種の興奮状態になりやすいから戦闘の場合だと特に自分の体力消耗に気付けなかったりするんだ」
あちこちで驚いたり頷いたりしている子供達を見て微笑んだユアンはいつもの雰囲気より心なしか柔らかい。
「そして半獣と獣人の違いは獣化したときの姿にある。獣人は獣化すると二足歩行の人の形から毛や爪、牙、翼などがまるでそのまま人の形と合わさったようになる。これはより戦いやすくするためではないかと言われている。そして半獣は獣化すると祖先である獣の形そのものの姿となる。定説によると身体に混ざっている人間の血が獣の血に何らかの作用を引き起こすからだと言われている」
少し離れた場所からユアンの話にロイも思わず真剣に聞き入っていると、ふとこちらを見たユアンがその姿をみて少し笑みを浮かべる。
「ではここから獣化についての注意点を踏まえた上で獣化の練習をしていこう」
ユアンが号令をかけた途端あちこちで子供達が獣化していつもとは違う姿に変化していく。
ロイが邪魔をしないようにさらに場所を移動して離れたところで見学していると再びユアンと目が合い、ユアンがロイに微笑んだ。
心臓がギュッと掴まれたような気がしてロイが思わず心臓を抑えていると突然後ろから服を引っ張られる。驚いて振り向くと先ほどロイに話しかけたウトと呼ばれる子が見上げていた。
「ウト……くん?」
「うん。おにいちゃんもみにきたの?」
そういってロイの服の裾を握ったままウトは視線を前に向けると視線の先には次々と獣化していく子供達の中でニアだけがじっと佇んでいた。
ニアの表情はどことなく暗い。その様子に気づいたユアンがニアの方へ近づき声をかけている。
「ニアはねーぼくのまえでじゅうか?したくないんだって」
「そうなの?」
「ぼくのことがわからなくなりそうだからしたくないんだって。ニアは「はんじゅう」だから」
「半獣」のウトの言葉に思わずどきりとする。動揺したことを必死に表情に出さないようにしているロイに構わずウトはぽつりぽつりと話す。
「ニアはニアなのにねー、いっかいだけかくれてみてたんだけどニアはぼくがいるのすぐきづいちゃうんだ。でもぼくニアのじゅうかしたとこみたことあるんだけどかっこいいんだよ!」
目をキラキラさせながら話すウトに思わず笑みが溢れる。ロイがニコニコとウトのニアがどんなにすごいのかを聞いているとこちらに気づいたニアがかけてくる。
「ウト!シスターと待ってろって言っただろ」
「ニア!」
駆け寄ってきたニアにウトはすぐさま抱きつく。抱きつかれたニアはジロリとロイを睨んだ。驚いて何も言えないでいるロイにニアはウトを自分の後ろに隠した。
「ウトが何か?」
「え……」
「ウトに何かしたのか」
殺気立つニアに「ただ会話していただけ」と言おうとするもあまりの殺気に気圧されて声が出ない。戸惑いながら口をぱくぱくさせていると後ろから強く抱き抱えられる。
「はい、そこまで」
静止する言葉と共にユアンがロイの腰に腕を回しニアの前に立った。ニアはウトを庇ったままユアンを見上げた。
「関係ないだろ」
「この人は私の秘書だからね。関係なくはないかな」
バチバチと火花が散るような睨み合いに思わず足がすくみそうになっていると庇われているウトがひょっこりとニアの横から顔を出した。
「なんでけんかしてるのー?ぼくこのおにいちゃんといっしょにみてただけだよ。ウト、こわいかおしちゃだめ」
そう言って睨み合う二人の間に入り、ニアの顔へ手を伸ばしたウトはムニムニとニアの頬を触った。
「こ、こら!牙が当たったらどうするんだ!いつもやめろって言ってるだろ」
「だいじょーぶだよ、そんなへましないもん」
されるがままのニアに思わずぷっとユアンが吹き出すと声をあげて笑い出した。
「ははは!ウトは大物になるなあ。獣人の睨み合いに入ってこられるなんて初めてだよ」
腹を抱えているユアンにキッとニアが睨むも頬をムニムニと潰されているので先ほどより凄みはない。
「ぼくニアより「おおもの」になるー?」
「ああ、そうかもしれないな」
「じゃあ、ニアよりおおものになってニアをまもるね」
ユアンの言葉に嬉しそうにニアに笑いかけるウトをみてハッとした表情をするニアはウトの手を優しく重ねて下ろした。
ユアンとロイへ方向き直るニアはロイとユアンを見てから頭を下げた。
「俺の早とちりですみませんでした」
優しく微笑むユアンはロイの方へ視線を向けて「どうする?」とでもいうように首を傾げた。
「誤解が解けたのなら俺は大丈夫です」
「ロイが許すなら私も不問にしよう」
頭を上げたニアはどこかほっとした表情で息を吐いた。その仕草がまだ少年なんだと感じさせてロイは思わず笑みを浮かべた。
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