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息抜き
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その後ロイが目が覚めると自室で朝を迎えており、ユアンと顔を合わせてもユアンはいたっていつも通りで、あの出来事は夢かと錯覚しそうになった。
けれど鏡に映る自分の姿を見ると、鎖骨の下にくっきりと赤い花が咲いているのを見たロイはあれが夢ではなかったことを実感させられた。
(夢、じゃないんだよな……)
あの日の出来事を思い出すと顔から火が出そうなほどの恥ずかしさに襲われる。
ユアンがなぜあんなことをしたのか考えるも答えが出ない。
(俺のことが……なんてありえないし、……欲求不満とか?)
忙しいユアンのことだから女性と遊ぶなんてことはできないだろうし、恋人の存在も聞いたことがない。
きっといっときの気の迷い、そんな風に思い込もうとするもくっきりと肌につけられた赤い花がチリッと痛む気がした。
* * *
「ロイ、今日は出かけるからついてきて」
「街へ行かれるのですか?」
今日は午後から来客もなく、買い物だろうかと不思議に思ってたずねるとユアンはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「息抜きに付き合って」
ユアンに言われてついてきたのは街外れにある建物だった。錆びた門の前に馬車を止めると子供のものと思しき元気な声が聞こえてくる。
馬車から降りてユアンが慣れた様子で門の扉を開けるとすぐそばで遊んでいた子供達がこちらに気づいて「ユアン様だ!」と駆け寄ってきた。
十数人ほどに一気に囲まれたユアンは柔らかな笑顔で子供たちに挨拶をしていく。
先ほどからユアンのすぐ後ろに立つロイに興味津々の子供達の視線にたじろいでいるとユアンからからロイの腕を引かれる。
「ロイだ。初めてだから仲良くしてやってね」
紹介した途端に「にんげんだ!」「ぼくとおんなじ!」「おにいちゃんあそぼ」と新しい遊び相手と認識されたのか子供達はロイの腕をぐいぐいと引っ張り出した。
「ほら、遊ぶ前に荷運びを手伝って。今日はお菓子もあるよ」
そう言って子供達に戸惑っているロイにユアンが助け船を出すと「お菓子!」「やったあ」と馬車の外で荷下ろしをしていた御者の方へバタバタと駆けて行った。
子供達は顔馴染みなのかユアンの屋敷の御者にも元気よく挨拶をして荷運びをしていく。獣人、人間関係なく一緒にいる様子を見てなんだかロイは不思議な感じがして胸が暖かくなった。
わいわいと賑やかな声を聞きながらその様子に思わず見入っていると「ロイ」とユアンに名を呼ばれた。
振り向くと建物から修道服に身を包んだ老齢の女性が杖をつきながらこちらへ歩いてくる。
女性はユアン、そしてロイの顔を見るとにっこりを笑った。ロイは会釈をするとユアンが口を開いた。
「紹介するね。こちらはこの孤児院を運営しているシスターのソフィー。ソフィー、こちらは秘書のロイ」
「ロイです。よろしくお願いします」
「まあまあ!ユアン様が誰かをお連れになられる日がくるなんて!」
ソフィーはロイをみて手を叩いて朗らかに笑うとユアンは少し慌てたようにソフィーの肩を持った。
「ソフィー、杖を地面から離さないで。ふらついて転んだらどうするの」
「ユアン様、こんな老いぼれでもそんなすぐには転んだりはしませんよ」
「そういって調子にのって子供達とはしゃいで走って転んだの忘れたの?」
「まあ!トーマスですね!あの子はすぐにユアン様に喋ってしまうんだから。困ったわ」
ほほほと笑って杖をつき直すとソフィーはロイに「こんな姿で申し訳ございません。生まれつき足が悪いものですから」と左足をポンポンと叩いた。
「ソフィーはトーマスの姉だよ」とユアンが説明する。確かにどことなく目元が似ている気がするとロイがそんなことを思っていると、後ろから服を引っ張られ思わずロイの身体がのけぞった。
振り返ると五歳くらいの子供がこちらを見上げており、子供の右手にはしっかりとロイのシャツの裾が握られていた。
よく見るとつぶらな瞳と髪の色は同じ榛色で長いまつ毛が影を作るほど長く、女の子のような顔立ちをしている。
「おにいちゃんもいっしょにはこぼ」
上目遣いで舌足らずの口調で可愛く言われてロイが思わず「う、うん!」と返事をすると「ウト!」と荷運びの列から少年がかけてきた。
「ニア!おにいちゃんもさそったの」
「俺のそばから離れるなって」
はあと呆れたように話す少年は薄灰色の髪に金の目、そして髪と同じ獣耳があった。
ニアと呼ばれた子はロイやその後ろにいるソフィー、ユアンを確認するとぺこりと頭を下げるとニアの腕を引いていってしまった。
「あの子達が最近入った子かい?」
「ええ。獣人の兄がニアで人間のウトが弟ですわ。両親それぞれの連れ子で一緒に暮らし始めてすぐに事故で亡くなったそうで。血は繋がってはいないですけどここでは兄弟としてみんなに言ってほしいとニアの方から」
「賢い子だね。人間であるウトに危害が及ばないようにしているのか」
ここが獣人と人間が入り混じった孤児院といっても獣人より力の弱い人間であるウトを守るためにニアが目を光らせているという。
「警戒心はいずれ解けてくるとは思いますけどウトの方がまだ幼いせいか無邪気にああやって誰にでも話しかけるのでニアの方は振り回されていますわ。それで……今日もユアン様には授業をお願いいたしますね」
「私でいいのかい?他にも適任はいるんじゃないかな」
「何をおっしゃいますか。半獣のあなた様しかできないことです」
ほほほと笑うソフィーはロイの方へ顔を向ける。
「あなたもぜひ見ていってくださいな」
「はい……?」
不思議そうに首を傾げるロイにソフィーはにっこりと笑みを浮かべた。
けれど鏡に映る自分の姿を見ると、鎖骨の下にくっきりと赤い花が咲いているのを見たロイはあれが夢ではなかったことを実感させられた。
(夢、じゃないんだよな……)
あの日の出来事を思い出すと顔から火が出そうなほどの恥ずかしさに襲われる。
ユアンがなぜあんなことをしたのか考えるも答えが出ない。
(俺のことが……なんてありえないし、……欲求不満とか?)
忙しいユアンのことだから女性と遊ぶなんてことはできないだろうし、恋人の存在も聞いたことがない。
きっといっときの気の迷い、そんな風に思い込もうとするもくっきりと肌につけられた赤い花がチリッと痛む気がした。
* * *
「ロイ、今日は出かけるからついてきて」
「街へ行かれるのですか?」
今日は午後から来客もなく、買い物だろうかと不思議に思ってたずねるとユアンはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「息抜きに付き合って」
ユアンに言われてついてきたのは街外れにある建物だった。錆びた門の前に馬車を止めると子供のものと思しき元気な声が聞こえてくる。
馬車から降りてユアンが慣れた様子で門の扉を開けるとすぐそばで遊んでいた子供達がこちらに気づいて「ユアン様だ!」と駆け寄ってきた。
十数人ほどに一気に囲まれたユアンは柔らかな笑顔で子供たちに挨拶をしていく。
先ほどからユアンのすぐ後ろに立つロイに興味津々の子供達の視線にたじろいでいるとユアンからからロイの腕を引かれる。
「ロイだ。初めてだから仲良くしてやってね」
紹介した途端に「にんげんだ!」「ぼくとおんなじ!」「おにいちゃんあそぼ」と新しい遊び相手と認識されたのか子供達はロイの腕をぐいぐいと引っ張り出した。
「ほら、遊ぶ前に荷運びを手伝って。今日はお菓子もあるよ」
そう言って子供達に戸惑っているロイにユアンが助け船を出すと「お菓子!」「やったあ」と馬車の外で荷下ろしをしていた御者の方へバタバタと駆けて行った。
子供達は顔馴染みなのかユアンの屋敷の御者にも元気よく挨拶をして荷運びをしていく。獣人、人間関係なく一緒にいる様子を見てなんだかロイは不思議な感じがして胸が暖かくなった。
わいわいと賑やかな声を聞きながらその様子に思わず見入っていると「ロイ」とユアンに名を呼ばれた。
振り向くと建物から修道服に身を包んだ老齢の女性が杖をつきながらこちらへ歩いてくる。
女性はユアン、そしてロイの顔を見るとにっこりを笑った。ロイは会釈をするとユアンが口を開いた。
「紹介するね。こちらはこの孤児院を運営しているシスターのソフィー。ソフィー、こちらは秘書のロイ」
「ロイです。よろしくお願いします」
「まあまあ!ユアン様が誰かをお連れになられる日がくるなんて!」
ソフィーはロイをみて手を叩いて朗らかに笑うとユアンは少し慌てたようにソフィーの肩を持った。
「ソフィー、杖を地面から離さないで。ふらついて転んだらどうするの」
「ユアン様、こんな老いぼれでもそんなすぐには転んだりはしませんよ」
「そういって調子にのって子供達とはしゃいで走って転んだの忘れたの?」
「まあ!トーマスですね!あの子はすぐにユアン様に喋ってしまうんだから。困ったわ」
ほほほと笑って杖をつき直すとソフィーはロイに「こんな姿で申し訳ございません。生まれつき足が悪いものですから」と左足をポンポンと叩いた。
「ソフィーはトーマスの姉だよ」とユアンが説明する。確かにどことなく目元が似ている気がするとロイがそんなことを思っていると、後ろから服を引っ張られ思わずロイの身体がのけぞった。
振り返ると五歳くらいの子供がこちらを見上げており、子供の右手にはしっかりとロイのシャツの裾が握られていた。
よく見るとつぶらな瞳と髪の色は同じ榛色で長いまつ毛が影を作るほど長く、女の子のような顔立ちをしている。
「おにいちゃんもいっしょにはこぼ」
上目遣いで舌足らずの口調で可愛く言われてロイが思わず「う、うん!」と返事をすると「ウト!」と荷運びの列から少年がかけてきた。
「ニア!おにいちゃんもさそったの」
「俺のそばから離れるなって」
はあと呆れたように話す少年は薄灰色の髪に金の目、そして髪と同じ獣耳があった。
ニアと呼ばれた子はロイやその後ろにいるソフィー、ユアンを確認するとぺこりと頭を下げるとニアの腕を引いていってしまった。
「あの子達が最近入った子かい?」
「ええ。獣人の兄がニアで人間のウトが弟ですわ。両親それぞれの連れ子で一緒に暮らし始めてすぐに事故で亡くなったそうで。血は繋がってはいないですけどここでは兄弟としてみんなに言ってほしいとニアの方から」
「賢い子だね。人間であるウトに危害が及ばないようにしているのか」
ここが獣人と人間が入り混じった孤児院といっても獣人より力の弱い人間であるウトを守るためにニアが目を光らせているという。
「警戒心はいずれ解けてくるとは思いますけどウトの方がまだ幼いせいか無邪気にああやって誰にでも話しかけるのでニアの方は振り回されていますわ。それで……今日もユアン様には授業をお願いいたしますね」
「私でいいのかい?他にも適任はいるんじゃないかな」
「何をおっしゃいますか。半獣のあなた様しかできないことです」
ほほほと笑うソフィーはロイの方へ顔を向ける。
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「はい……?」
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