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帰り道
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孤児院からの帰り道、ロイは帰り道馬車の窓からユアンと共に外の景色を楽しんでいた。
「今日はどうだった?」
「子供と遊ぶなんて初めてだったのでちょっと新鮮でした」
あのあとユアンの授業見学をひとしきりしたあと子供達の遊び相手になりロイは駆け回ることになった。
最初子供達のあまりの元気の良さに押され気味になっていたロイだが人懐っこい子達ばかりで、すぐにロイは打ち解けた。
特にウトにはなぜかずっとくっつかれて、それにヤキモチを焼いたニアにまた睨まれるハメになったときは少し焦ったがロイがウトに危害を加えないことがわかったニアは面白くない表情をしながらも我慢しているようだった。
帰る際には「絶対にまた来て」とねだる子供達とロイはまた来る約束をした。
「あの孤児院はね、『希望』なんだ」
「『希望』……ですか」
たずねるロイに少し目を向けてフッと微笑むとユアンは窓の外を見ながら口を開いた。
「この国は様々な種族が暮らしているとはいえいまだに差別があってね、中でも半獣に対する差別は地域によってはひどいものがあるんだ。人間は昔からこの国には少数ながらもいたんだけどね……」
古い歴史からこのステルク王国は獣人が支配していた国だった。
今よりも小さな国土だったステルク王国は、何百年も前についた王が国土を拡大していくために近隣の国と戦をして徐々に国土を広げていった歴史があった。長い歴史の中で繰り返し戦をしてやがて人間が出入りするようになり、少数ながらも人間もこの国に増えた。そして二十年前に現王が即位してから貿易に力を入れ始めたことを皮切りに、それまで獣人より低かった人間の地位が引き上げられた背景がある。
「それまで奴隷扱いを受けていた人間も少なからずいて、人間の地位は今よりもずっと低いものだったと聞く。僕の叔父である王は、奴隷などそういったことを嫌悪する人でね、人間に対して好き嫌いは別として国のためになるのなら優秀な者は種族がなんであろうと引き上げた。奴隷制度も廃止して、人間に対しての必要以上の罰則なども取り締まった。反発も大きかったようだけど若いときは苛烈な性格だったから好き方題したみたいだよ。今では考えられないくらい温厚な人だけどね。今は爵位もある人間がいるなんて当時では考えられないだろうね」
真剣に聞き入っているロイをみて満足そうにユアンはうなずいた。
「半獣は今よりもっと少なくてね……いや、いても身を潜めていたのかもしれないな」
昔は獣人と人間はくっきりと線引きがあったという。古い歴史の中では生活圏内でさえも分けられた過去があった。
それ故獣人と人間が子を成すこと自体がめずらしく……
獣人でもない、人間でもない『半獣』は半端者として忌み嫌われてきた──。
「獣人も人間も自分たちと違うことに不寛容な部分があるからね」
「そんな……」
言葉をなくすロイを横目にユアンは無表情で窓の外を眺めている。まるでそこにはないどこか遠くを眺めるように。
「俺はこの国に来たときは絶望していた。よりによって獣人の国に来るだなんて思ってもみなかったけど、それでも人間の国よりかは幾分マシだったよ。見た目には獣人の耳や尻尾はあるし、人間と混ざったような体臭は獣人用の特殊な香水で隠せる。獣化したときはバレてしまうけどね。やはり半獣だとバレたときは集団でリンチに合いそうになったこともあったけど、そのときは周りよりは腕が立ったからね」
自嘲気味に笑うユアンにロイは胸が痛む。
(いったいこの人はここまでどれだけ傷ついてきたのだろう……)
「今では半獣も昔よりかは生きやすい世の中にはなったとは思うけど、それでもまだ理解が得られないことも多くてね。一部では就職や結婚に不利な場面もあったりすることもあるんだ。……僕はいつか半獣も、獣人も人間も自由に過ごせる時代が来ればいいなと思っている。だからこそあの孤児院は僕の『希望』なんだ。あそこでは種族の壁なんてなかっただろう?」
コクリとうなずくロイにユアンは、はにかんだように笑った。
少ない時間だったが先ほどの孤児院では皆種族関係なく子供達は皆自由に過ごしていたように思えた。
「ソフィーや職員が気をつけて接しているからね。次の時代を作っていく子供達が、種族や生き方に偏見のない目を持っていれば今よりももっと生きやすい時代が来ると信じているんだ。僕は今は貴族だけどまだまだひよっこで、できることは少ない。だからできることのなかで少しずつ変えていけたらと思っているよ」
「きっと、(そんな時代が)来ると思います」
ロイが思わず身を乗り出して真っ直ぐにユアンの目をみながら伝えるとユアンは破顔する。
「来るといいなあ」
そういって窓の外に視線を移す。その表情は先ほどとは打って変わって明るく、いつもはあまり動かないユアンの手入れされた艶やかな毛並みの尻尾は少しだけ揺れていた。
「今日はどうだった?」
「子供と遊ぶなんて初めてだったのでちょっと新鮮でした」
あのあとユアンの授業見学をひとしきりしたあと子供達の遊び相手になりロイは駆け回ることになった。
最初子供達のあまりの元気の良さに押され気味になっていたロイだが人懐っこい子達ばかりで、すぐにロイは打ち解けた。
特にウトにはなぜかずっとくっつかれて、それにヤキモチを焼いたニアにまた睨まれるハメになったときは少し焦ったがロイがウトに危害を加えないことがわかったニアは面白くない表情をしながらも我慢しているようだった。
帰る際には「絶対にまた来て」とねだる子供達とロイはまた来る約束をした。
「あの孤児院はね、『希望』なんだ」
「『希望』……ですか」
たずねるロイに少し目を向けてフッと微笑むとユアンは窓の外を見ながら口を開いた。
「この国は様々な種族が暮らしているとはいえいまだに差別があってね、中でも半獣に対する差別は地域によってはひどいものがあるんだ。人間は昔からこの国には少数ながらもいたんだけどね……」
古い歴史からこのステルク王国は獣人が支配していた国だった。
今よりも小さな国土だったステルク王国は、何百年も前についた王が国土を拡大していくために近隣の国と戦をして徐々に国土を広げていった歴史があった。長い歴史の中で繰り返し戦をしてやがて人間が出入りするようになり、少数ながらも人間もこの国に増えた。そして二十年前に現王が即位してから貿易に力を入れ始めたことを皮切りに、それまで獣人より低かった人間の地位が引き上げられた背景がある。
「それまで奴隷扱いを受けていた人間も少なからずいて、人間の地位は今よりもずっと低いものだったと聞く。僕の叔父である王は、奴隷などそういったことを嫌悪する人でね、人間に対して好き嫌いは別として国のためになるのなら優秀な者は種族がなんであろうと引き上げた。奴隷制度も廃止して、人間に対しての必要以上の罰則なども取り締まった。反発も大きかったようだけど若いときは苛烈な性格だったから好き方題したみたいだよ。今では考えられないくらい温厚な人だけどね。今は爵位もある人間がいるなんて当時では考えられないだろうね」
真剣に聞き入っているロイをみて満足そうにユアンはうなずいた。
「半獣は今よりもっと少なくてね……いや、いても身を潜めていたのかもしれないな」
昔は獣人と人間はくっきりと線引きがあったという。古い歴史の中では生活圏内でさえも分けられた過去があった。
それ故獣人と人間が子を成すこと自体がめずらしく……
獣人でもない、人間でもない『半獣』は半端者として忌み嫌われてきた──。
「獣人も人間も自分たちと違うことに不寛容な部分があるからね」
「そんな……」
言葉をなくすロイを横目にユアンは無表情で窓の外を眺めている。まるでそこにはないどこか遠くを眺めるように。
「俺はこの国に来たときは絶望していた。よりによって獣人の国に来るだなんて思ってもみなかったけど、それでも人間の国よりかは幾分マシだったよ。見た目には獣人の耳や尻尾はあるし、人間と混ざったような体臭は獣人用の特殊な香水で隠せる。獣化したときはバレてしまうけどね。やはり半獣だとバレたときは集団でリンチに合いそうになったこともあったけど、そのときは周りよりは腕が立ったからね」
自嘲気味に笑うユアンにロイは胸が痛む。
(いったいこの人はここまでどれだけ傷ついてきたのだろう……)
「今では半獣も昔よりかは生きやすい世の中にはなったとは思うけど、それでもまだ理解が得られないことも多くてね。一部では就職や結婚に不利な場面もあったりすることもあるんだ。……僕はいつか半獣も、獣人も人間も自由に過ごせる時代が来ればいいなと思っている。だからこそあの孤児院は僕の『希望』なんだ。あそこでは種族の壁なんてなかっただろう?」
コクリとうなずくロイにユアンは、はにかんだように笑った。
少ない時間だったが先ほどの孤児院では皆種族関係なく子供達は皆自由に過ごしていたように思えた。
「ソフィーや職員が気をつけて接しているからね。次の時代を作っていく子供達が、種族や生き方に偏見のない目を持っていれば今よりももっと生きやすい時代が来ると信じているんだ。僕は今は貴族だけどまだまだひよっこで、できることは少ない。だからできることのなかで少しずつ変えていけたらと思っているよ」
「きっと、(そんな時代が)来ると思います」
ロイが思わず身を乗り出して真っ直ぐにユアンの目をみながら伝えるとユアンは破顔する。
「来るといいなあ」
そういって窓の外に視線を移す。その表情は先ほどとは打って変わって明るく、いつもはあまり動かないユアンの手入れされた艶やかな毛並みの尻尾は少しだけ揺れていた。
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