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目を覚ますと*エピローグ

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 目が覚めると同時に襲ってきたのは猛烈な痛み。天音はベッドの中で寝返りをなんとかうった。
 
 「痛たた…」

 身体を起こそうにも全身が筋肉痛で動けない。何より尻の痛さに昨夜の出来事は夢ではなかったのだとハッとする。
 
 「起きたか」

 隣から聞こえる声に恐る恐る痛む首を動かすとそこにはエリオットの顔が至近距離で天音の顔を除きこんでいた。

 「で、殿下!!」
 
 殿下呼びに少しムッとした表情を見せたエリオットは天音の唇に口づけを落とした。抵抗しようとするも舌先を捉えられて、あっというまに抵抗する気力をなくしてしまう。ムクムクと自身が反応するのを感じて天音は慌てて我に帰った。

 「んっ……ふっ、──ぷはっ!殿下、これは……その……」

 昨夜の出来事を思い出して顔を赤らめている天音を見てエリオットは口の端を上げてニヤリと笑った。

 「もう俺を名前では呼んでくれないのか」
 「え……エリオット……?」

 名前を呼んだ途端エリオットは蕩けるような笑みを見せ、ぎゅうぎゅうと天音の身体を抱きしめた。

 「苦しい……です」
 
 筋肉痛の身体を締め付けられて痛みにうめいていると、天音の身体の痛みを思い出してエリオットは即座に力を緩めた。

 「すまん、つい嬉しくなった」
 「いいえ、大丈夫です」

 照れ臭くなりながらも昨夜の出来事は夢ではなかったのだと感じて嬉しさと羞恥でないまぜになる。
 赤くなった顔を手で思わず隠すとエリオットは赤くなった天音の耳をカプッと甘噛みした。

 「わっ!ちょっと殿下!何するんですか!」
 「エリオット」
 「……エリオット」

 小声で呟くように名前をまた呼ぶとエリオットは満足げな表情で天音の瞼に唇を落とした。唇を受けながら天音はエリオットの腕の中に猫ではない自分がいることが嬉しくて少しだけ涙が出そうになり唇を噛み締めた。

 「エリオットは……猫じゃなくても俺を受け入れてくれますか」

 不安からこぼれた言葉にぎゅっと目を閉じた。
 頭上からエリオットのため息が聞こえて、抱きしめられる力が強くなった。

 「何を言っているんだ、俺はイオ(猫)じゃなくて人間の、天音というお前という人間を好きになったんだ」

 
 思わずエリオットを見上げると目があった。蕩けるような甘い笑みで天音を見下ろしていて、その笑顔を見て天音は喜びに胸がいっぱいになる。

 「もちろんイオであるお前も愛している」

 そういってエリオットは天音の髪をすくように撫でた後「こんなことを言った後でなんだが……」と言って不適な笑みに変わる。
 なんとなくその笑みに不穏なものを感じて天音は思わずエリオットの胸から離れようとしたそのときだった。
 腕輪をつけている方の腕を掴まれて、天音が抵抗する間も無くエリオットは天音の腕からスルリと腕輪を外した。
 
 「あああ!!何するんですか!!」
 「ふむ、猫にならないのは朝方だからか?」

 天音が腕輪を取り上げようと手を伸ばした隙にエリオットは天音の唇に自分の唇を軽く押し当てる。

 「んん!──ちょっと!!」

 唇を慌てて離した途端、天音の身体が光に包まれる。眩しさにエリオットが目を細めながら見守っていると光がだんだんと消え去っていく。
 
 「にゃあああ!!(猫に戻ってるー!!)」

 そこには見慣れた可愛らしい白と薄茶色の模様のパニック状態のハチワレ猫が佇んでいた。

 「イオ!……いや、天音か?でも猫だしイオか?」
 「にゃにゃにゃーー!!(そんなのどうでもいい!!)」
 「猫語がわからないのが難点だな」

 そんなことを言いながらも嬉しそうな表情のエリオットはイオである天音を抱き上げた。
 混乱のあまり尻尾がぶわりとたぬきのように膨らんでいるのがまた可愛らしい。



 「これからどちらの姿でも俺を癒してくれよ?」



 エリオットは不適に笑ったあとイオのもふもふのお腹に思いっきり顔を埋めた。

 「にゃああああ(なんでえええ)」

 王子の使っている離れの部屋から猫の叫び声が聞こえてきたのはメイド達の間で少し話題になったとか、ならなかったとか。


 


 end




 ──────

 拙い文章を最後まで読んでくださりありがとうございました。
 ここでとりあえず完結といたしますが、次回からその後の話などの番外編を少しずつ載せますのでそちらも読んでいただけると嬉しいです。
 

 
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