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テオドールの企み

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 「んで、君はここに逃げてきたってわけ?」

 ソファに座ってうなだれる人間の姿の天音を見てテオドールはニヤニヤと笑みを浮かべた。
 朝日が登る前に途方にくれた天音が訪れたのはテオドールのもとだった。
 普段秘匿されているこの研究所は特殊な防護壁で周りからは見えない。
 テオドールの屋敷の方に訪れた天音は猫の姿でテオドールを探していると侵入者を察知したテオドールが自らやってきて研究所に通されたというわけだ。

 「あの、バレちゃったかもしれないんですけど……」
 「かしれない、じゃなくて十中八九バレただろうねえ」

 エリオットとは古い付き合いなので断言できるが、エリオットは馬鹿じゃない。
 ユエルに以前天音について探りを入れられて答えたことも報告が入っているだろう。
 目の前で天音が猫になるところを見たというのなら、天音の呪いも猫になってしまう呪いだということ、日中だけ人間の姿に戻ることも検討がついているだろう。

 ──そして自分が呪いについて治療法があることを黙っていることも。

 (だってさあ……こんな面白いの、もうしばらく楽しみたいじゃん)

 バスローブ姿でしょんぼりとうなだれている天音を見てほくそ笑む。

 あのエリオットが執着を見せるなんて今まで見てきた中でなかった。

 最初、エリオットが猫を拾ってきたと耳に入ったのは驚いた。
 気まぐれで連れ出したときにはユエルをわざわざ寄越して魔導具まで使ってこの部屋まで探しにきたこともテオドールの好奇心を駆り立てるにじゅうぶんだった。

 物にも人にも地位にさえも執着をみせなかったエリオットが唯一執着を見せたもの。

 それだけでも興味深いのに、猫を調べてみると実は人間が特殊な呪いをかけられていてなおかつこの世界の人間ではない……これを面白いと言わずになんと言おう。
 しかも昼は普通の顔してエリオットのもとで働いて夜は猫の姿でエリオットに会いにきているというではないか。

 正体を知ったときエリオットはどんな顔をするのか……考えるだけで胸を躍らせていた。
 そしてその場に自分が居合わせてその表情を見たいとテオドールは思っていた。

 (バレちゃったのは思ったより早かったなー。ざーんねん。さて、エリオットはどうするかな)

 テオドールは天音を見ながら考える。本当に執着があるならばここにくるはずだ。
 ──それまで暇潰しでのも悪くない。
 黙って天音に近づくとテオドールはソファに乗り、天音に覆いかぶさった。

 「あ、の……これは……」

 怯えと戸惑いの表情を浮かべている天音にテオドールは弑虐心がむくむくと自分のなかで沸き起こるのを感じた。
 
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