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密かに思うこと
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ユエルとしては弟のような可愛らしい部下ができて嬉しい気持ちもあったがもう一つ嬉しいことがあった。
なんとテオドールに拉致されたイオが最近夜にエリオットに顔を出すらしい。
「イオはどうして夜にしか来ないんですかねえ」
そんなことを言うと書類から目を離さないエリオットが手を一瞬止めたのをユエルは見逃さなかった。
「知らん。ここでしばらく過ごした後、窓を開けて外に出せと言っているかのように鳴き続けるんだから止められないだろう」
不貞腐れたようにエリオットが呟く。本当はそばにいて欲しいのに猫は気ままな生き物だからとエリオットは閉じ込めずに素直に窓を開けて帰すあたりやっぱり自分の主は優しいとユエルは心の中で思う。
「できれば私もイオに会いたいのですが」
「駄目だ」
答えがわかっててもつい言ってしまうあたりユエルもイオに会いたいと思っていた。あのもふもふの毛並みは撫でるだけで疲れが吹き飛ぶし、あの猫が好むささみのスープご飯を食べているときは必死な形相でなんとも愛らしかった。またここで過ごすようになってほしいとユエルは思う理由は他にもある。
「殿下、そろそろ休憩しましょう」
「俺はいい、お前らだけで休憩しろ」
「上司であるあなたが休まないと私たちも休憩は取りづらいです」
「そんなの気にするな」
このようにイオが来る前と同じように仕事中毒になってしまった。流石に夜は寝ていると思いたいが、ここのところ各地方領主からの決算報告で仕事は山積みだ。それでもイオが夜に顔を見せるようになってからのここ数日顔色はだいぶマシになった。イオがいた頃彼はイオと共に寝ていたし、仕事中の休憩もとっていた。
「エリオット」
二人でいるときのように名前を呼べばエリオットはため息をついてペンを置いた。この従者は頑固者なのをエリオットは理解していた。
「十分だ」
「わかりました。本当はもう少しとってほしいところなんですが」
懐から懐中時計を取り出して時間を確認したユエルはそばの机で書類整理をしていた天音に声をかける。
「天音、隣の部屋の戸棚からお菓子をとってきてください」
「ひゃいッ!」
「大丈夫ですか?なんだか汗をすごくかいていますが」
「だだだ大丈夫です!とってきます」
自分のことを先程まで二人が話していることに動揺した天音は慌てて席を立った。
挙動不審な天音を不思議に思いながら見送ったユエルはお茶の準備をしながらエリオットに問いかける。
「エリオット……あなた天音がここへ来てから何か会話しましたか?」
「……」
「仮にも上司なんですから声くらいかけてあげてください」
「挨拶は返している」
「あれが挨拶!?おはようございますと言われて『ああ』と返すのは挨拶を返したことになりません。まったく無愛想で人見知りの仕事中毒の男なんていくら顔がよくてこの国の王子でもお断りです。そんなんじゃ一生一人ですよ」
「別にお前と結婚するわけじゃないからいいだろう」
(結婚する気なんてないくせに……)
この男が仕事を理由に結婚相手を断り続けているのをユエルは知っている。もともとユエルやテオドールに対しても無愛想なエリオットは、社交の際や部下に対して無愛想に加えて人見知りを発揮する。外交の際は必死に引き攣った笑顔を見せているが基本無表情だ。
このままでは結婚したとしても家庭崩壊するのは目に見えている。イオに見せるあの微笑みを他の誰かに見せる相手がいつか来るのだろうか……とユエルは思いを馳せた。
(いっそイオと結婚できたらいいんですけどねえ……)
そんなことを考えながらユエルは自分の主にお茶を淹れたのであった。
なんとテオドールに拉致されたイオが最近夜にエリオットに顔を出すらしい。
「イオはどうして夜にしか来ないんですかねえ」
そんなことを言うと書類から目を離さないエリオットが手を一瞬止めたのをユエルは見逃さなかった。
「知らん。ここでしばらく過ごした後、窓を開けて外に出せと言っているかのように鳴き続けるんだから止められないだろう」
不貞腐れたようにエリオットが呟く。本当はそばにいて欲しいのに猫は気ままな生き物だからとエリオットは閉じ込めずに素直に窓を開けて帰すあたりやっぱり自分の主は優しいとユエルは心の中で思う。
「できれば私もイオに会いたいのですが」
「駄目だ」
答えがわかっててもつい言ってしまうあたりユエルもイオに会いたいと思っていた。あのもふもふの毛並みは撫でるだけで疲れが吹き飛ぶし、あの猫が好むささみのスープご飯を食べているときは必死な形相でなんとも愛らしかった。またここで過ごすようになってほしいとユエルは思う理由は他にもある。
「殿下、そろそろ休憩しましょう」
「俺はいい、お前らだけで休憩しろ」
「上司であるあなたが休まないと私たちも休憩は取りづらいです」
「そんなの気にするな」
このようにイオが来る前と同じように仕事中毒になってしまった。流石に夜は寝ていると思いたいが、ここのところ各地方領主からの決算報告で仕事は山積みだ。それでもイオが夜に顔を見せるようになってからのここ数日顔色はだいぶマシになった。イオがいた頃彼はイオと共に寝ていたし、仕事中の休憩もとっていた。
「エリオット」
二人でいるときのように名前を呼べばエリオットはため息をついてペンを置いた。この従者は頑固者なのをエリオットは理解していた。
「十分だ」
「わかりました。本当はもう少しとってほしいところなんですが」
懐から懐中時計を取り出して時間を確認したユエルはそばの机で書類整理をしていた天音に声をかける。
「天音、隣の部屋の戸棚からお菓子をとってきてください」
「ひゃいッ!」
「大丈夫ですか?なんだか汗をすごくかいていますが」
「だだだ大丈夫です!とってきます」
自分のことを先程まで二人が話していることに動揺した天音は慌てて席を立った。
挙動不審な天音を不思議に思いながら見送ったユエルはお茶の準備をしながらエリオットに問いかける。
「エリオット……あなた天音がここへ来てから何か会話しましたか?」
「……」
「仮にも上司なんですから声くらいかけてあげてください」
「挨拶は返している」
「あれが挨拶!?おはようございますと言われて『ああ』と返すのは挨拶を返したことになりません。まったく無愛想で人見知りの仕事中毒の男なんていくら顔がよくてこの国の王子でもお断りです。そんなんじゃ一生一人ですよ」
「別にお前と結婚するわけじゃないからいいだろう」
(結婚する気なんてないくせに……)
この男が仕事を理由に結婚相手を断り続けているのをユエルは知っている。もともとユエルやテオドールに対しても無愛想なエリオットは、社交の際や部下に対して無愛想に加えて人見知りを発揮する。外交の際は必死に引き攣った笑顔を見せているが基本無表情だ。
このままでは結婚したとしても家庭崩壊するのは目に見えている。イオに見せるあの微笑みを他の誰かに見せる相手がいつか来るのだろうか……とユエルは思いを馳せた。
(いっそイオと結婚できたらいいんですけどねえ……)
そんなことを考えながらユエルは自分の主にお茶を淹れたのであった。
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