上 下
12 / 33

密かに思うこと

しおりを挟む
 ユエルとしては弟のような可愛らしい部下ができて嬉しい気持ちもあったがもう一つ嬉しいことがあった。
 なんとテオドールに拉致されたイオが最近夜にエリオットに顔を出すらしい。

 「イオはどうして夜にしか来ないんですかねえ」
 
 そんなことを言うと書類から目を離さないエリオットが手を一瞬止めたのをユエルは見逃さなかった。

 「知らん。ここでしばらく過ごした後、窓を開けて外に出せと言っているかのように鳴き続けるんだから止められないだろう」

 不貞腐れたようにエリオットが呟く。本当はそばにいて欲しいのに猫は気ままな生き物だからとエリオットは閉じ込めずに素直に窓を開けて帰すあたりやっぱり自分の主は優しいとユエルは心の中で思う。
 
 「できれば私もイオに会いたいのですが」
 「駄目だ」

 答えがわかっててもつい言ってしまうあたりユエルもイオに会いたいと思っていた。あのもふもふの毛並みは撫でるだけで疲れが吹き飛ぶし、あの猫が好むささみのスープご飯を食べているときは必死な形相でなんとも愛らしかった。またここで過ごすようになってほしいとユエルは思う理由は他にもある。

 「殿下、そろそろ休憩しましょう」
 「俺はいい、お前らだけで休憩しろ」
 「上司であるあなたが休まないと私たちも休憩は取りづらいです」
 「そんなの気にするな」

 このようにイオが来る前と同じように仕事中毒になってしまった。流石に夜は寝ていると思いたいが、ここのところ各地方領主からの決算報告で仕事は山積みだ。それでもイオが夜に顔を見せるようになってからのここ数日顔色はだいぶマシになった。イオがいた頃彼はイオと共に寝ていたし、仕事中の休憩もとっていた。

 「

 二人でいるときのように名前を呼べばエリオットはため息をついてペンを置いた。この従者は頑固者なのをエリオットは理解していた。
 
 「十分だ」
 「わかりました。本当はもう少しとってほしいところなんですが」

 懐から懐中時計を取り出して時間を確認したユエルはそばの机で書類整理をしていた天音に声をかける。

 「天音、隣の部屋の戸棚からお菓子をとってきてください」
 「ひゃいッ!」
 「大丈夫ですか?なんだか汗をすごくかいていますが」
 「だだだ大丈夫です!とってきます」

 自分のことを先程まで二人が話していることに動揺した天音は慌てて席を立った。
 挙動不審な天音を不思議に思いながら見送ったユエルはお茶の準備をしながらエリオットに問いかける。

 「エリオット……あなた天音がここへ来てから何か会話しましたか?」
 「……」
 「仮にも上司なんですから声くらいかけてあげてください」
 「挨拶は返している」
 「あれが挨拶!?おはようございますと言われて『ああ』と返すのは挨拶を返したことになりません。まったく無愛想で人見知りの仕事中毒の男なんていくら顔がよくてこの国の王子でもお断りです。そんなんじゃ一生一人ですよ」
 「別にお前と結婚するわけじゃないからいいだろう」

 (結婚する気なんてないくせに……)

 この男が仕事を理由に結婚相手を断り続けているのをユエルは知っている。もともとユエルやテオドールに対しても無愛想なエリオットは、社交の際や部下に対して無愛想に加えて人見知りを発揮する。外交の際は必死に引き攣った笑顔を見せているが基本無表情だ。
 このままでは結婚したとしても家庭崩壊するのは目に見えている。イオに見せるあの微笑みを他の誰かに見せる相手がいつか来るのだろうか……とユエルは思いを馳せた。

 (いっそイオと結婚できたらいいんですけどねえ……)

 そんなことを考えながらユエルは自分の主にお茶を淹れたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。 攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w ◇◇◇ 「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」 マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。 ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。 (だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?) マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。 王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。 だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。 事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。 もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。 だがマリオンは知らない。 「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」 王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

【完結R18】異世界転生で若いイケメンになった元おじさんは、辺境の若い領主様に溺愛される

八神紫音
BL
 36歳にして引きこもりのニートの俺。  恋愛経験なんて一度もないが、恋愛小説にハマっていた。  最近のブームはBL小説。  ひょんな事故で死んだと思ったら、異世界に転生していた。  しかも身体はピチピチの10代。顔はアイドル顔の可愛い系。  転生後くらい真面目に働くか。  そしてその町の領主様の邸宅で住み込みで働くことに。  そんな領主様に溺愛される訳で……。 ※エールありがとうございます!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!

鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。 この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。 界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。 そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。

処理中です...