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いきなりピンチ

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 強い衝撃で身体が跳ね飛ばされる。トラックで飛ばされた衝撃ってこんな感じだったかなと天音が思ったのと同時に身体が地面に打ちつけられる。
 
 (いったああああ!!)

 身体を起こしたところで今度はカラスによるくちばしでの攻撃が天音を襲った。
 痛みが身体を走る。「カアカア」と鳴いて威嚇しながら何度もカラスは嘴で天音の身体を刺すように攻撃する。

 (痛い!怖い!)

 次第に辺りに自分のであろう血の匂いが漂う。あまりの痛さと自分より大きなカラスに足がすくんで動けない。

 そうだ、これは夢なんだ。自分がトラックに轢かれて死んだのも夢で、知らないところで猫になって、カラスに襲われているなんて夢なんだ。
 痛みからも、目の前の出来事からも現実逃避して天音は目を瞑る。次第に熱くなった身体がどんどん冷えて、ドクドクと血が流れ出ていくのがわかる。
 冷えた石畳が余計に自分の体温を奪っていって意識がだんだん遠のいていく。
 
 ──もう、だめだと思ったときだった。

 「どけ」

 一言だけ低い声が響き渡る。次の瞬間風が巻き起こったかと思うとしばらくするとあたりがしんと静まり返る。
 先程まで耳をつんざくようなカラスの鳴き声と羽音が聞こえてこない。
 カツカツと靴音がこちらに近づいてきて人の気配がした。意識が朦朧とした中で目だけ動かすと、天音の身体がふわりと宙に浮いた。

 「もう大丈夫だ」

 冷えた自分の身体が温かい何かに包まれる。天音は頭上から聞こえてくる声の方へゆっくりと視線を向けた。
 サラサラとした金の髪に薄い氷のような青い瞳の恐ろしく綺麗な顔立ちの若者だった。

 (天使ってこんな感じかな)

 朦朧とした頭でそんなことを考えていると若者は天音の頭をゆっくりと撫でた。
 それが気持ちよくて、天音は思わず目を細める。ゴロゴロと自分のものとは思えない音が喉から鳴った。

 「お前は俺が助けてやる」

 その言葉を聞いた天音の瞳から涙がポロリとこぼれ落ちた。
 若者は目を見張ったかと思うと抱きしめる腕に少しだけ力がこもる。

 猫が涙を流すなんてことがあるのかと思いながらも、この儚い小さな命をなんとしてでも助けなければと若者は思った。

 たまたまお忍びで街を散策していると、カラスの鳴き声が路地裏から聞こえてきたのでなんとなく覗いたのがきっかけだった。
 カラスが猫を攻撃していて、猫は攻撃されるがままで地面の上に倒れている状態だった。もともと弱っていたのか逃げる様子もない。
 気まぐれでカラスを追い払ってやると、猫は横たわったままこちらを見た。猫なんて生まれてこのかた触れ合ったことがないのでどう触っていいのかわからず、とりあえず抱き上げるとあちこちに先ほどのカラスに攻撃されたのか傷だらけなのを確認する。

 「とりあえず帰るか」

 そういって若者に抱き上げられた天音はそのまま意識を手放した。
 
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