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新しい人(猫)生の始まり*プロローグ

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 「俺、なんでこんなことになってんだ……?」

 目が覚めると見知らぬ景色。むくりと起き上がり、痛む頭に顔を顰める。薄暗さに目をこらしてみるとまず石畳が目に入った。
 見渡すと次にどこかの建物の路地裏だとわかった。
 ふと座り込んだ自分の足元をみるとギョッとする。
 
 ──白くて毛むくじゃらの足。股の下からはふわふわの尻尾。先っぽだけゆらゆらと揺れている。

 「え……?」

 咄嗟に自分の手を確認すると、十八歳の割には小さいことがコンプレックスだった手がぷにぷにのピンクの肉球になっていた。

 (待て待て待て待て!)

 サッと立ち上がると目線が思ったより低い。そして何よりなんだかバランスがとりづらい。
 足元をみると先程と同じ毛むくじゃらの足に白いふわふわのお腹。肉球のついた手で頭と顔を確認する。
 顔も毛むくじゃらで、本来人間ならあるはずの場所に耳はなく、恐る恐る頭の方まで手を伸ばす。そこには昔飼っていた猫、マロ助の耳と同じ懐かしい手触り。

 「ど、どうしよう……」

 パニックになってキョロキョロとあたりを見渡すと、少し離れたところに水溜りがある。
 ゆっくりと移動しようとすると自然に四足歩行になっていた。それよりも今は自分の姿を確認したい気持ちでいっぱいだった。
 薄暗いけど自分の姿を確認できないほどではない。そうっと水溜りに近づいて覗き込む。
 嘘であってほしいと願いは虚しくそこには白くて薄茶色の模様のハチワレ猫が映っていたのだった。

 「どどどどどうしよう、いや、落ち着け。まずは状況を整理するんだ」

 スーハーと深呼吸しながら舌で自分の牙を確認してしまい、動揺して余計心臓が脈打つ。

 少年の名前は高崎天音たかさきあまね、十八歳の高校三年生。
 ある日の放課後、補習が長引いてしまい急いでバイト先に向かっていたときだった。めいいっぱい走っているとき、ふと道路に目をやると黒猫が道路をゆっくりと横切る姿を目撃する。
 天音が「猫か」と何の気なしに思ったとき、そこへトラックが右折してきた。

 天音の身体は気がつくと勝手に動いていた。昔飼っていた猫のマロ助に少し似ていたからかもしれない。
 
 猫を抱き抱えて放り投げたとき、黒猫は見事な着地で向こう側の歩道に降り立った。──それを確認したときにはもう遅かった。
 衝撃が身体を襲い、自分の身体が宙に浮いて反転した空の向こうが見えたとき「あ、俺死ぬ」と思った天音はそこで記憶が途切れていた。

 (俺、死んだのか……? というか猫になってる!?)
 
 十八歳という若さで死んだかもしれないこと、さらになぜが自分が猫になっているのかわからず天音は混乱した。

 茫然自失といったところでその場で打ちひしがれているところにバサバサと羽音が聞こえてきた。
 嫌な予感がしながらもゆっくりと羽音のする頭上を見上げるとそこには一羽のカラスが上空からこちらを見下ろしていた。
 その目は獲物を見定めているといったふうで、旋回しながらこちらの様子を伺っている。
 
 「ヒイイッ……!まさか俺を狙ってる?」


 逃げなければ、と思ったのも束の間カラスはこちらに向かって飛んできた。
 
 

 
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