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2章
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あれから町長を始め、横領や人身売買の罪に関わったとされる者達は王都に移送された。
正式に裁判所で裁かれ、それぞれ刑務所送りになるだろうとローランドさんは言っていた。ただ、主犯格の一人とされるマリウス神父に関しては亡くなっているため、罪には問うことはできないし教会は関知しない姿勢を決め込むだろうとのこと。
まさか町長と先代の領主の部下、教会孤児院の神父が人身売買などの犯罪を犯していたことにキヨラの町は一時騒然となった。けれどローランドさんが領主ハインツ子爵であることを町民の前で明かすと、謎に包まれた領主が自警団の団長であったことに皆驚いたものの、普段から自警団の団長としての働きぶりを見ていた町民達は安堵と喜びの声を上げていた。
そして次期町長はなんと以前、町長と契約書を交わす際に訪れたあの男性が務めることになった。
元々、町長の業務をこの男性が大半請け負っていたこともあり、スムーズに引き継ぐことができるためそう決まったという。
以前会った印象は痩せていて元気がなさそうだったので体調の心配をしたがもともと虚弱体質で、普段からあのような感じらしい。
ローランドさんと話している様子を遠くから見かけたが、以前よりは顔色は良かったことに少しホッとした。
ローランドさんはそのことについて
「とりあずいろいろひと段落したからな、ストレスの原因がなくなったことも大きいだろう。町長になることについては今までとやることが変わらないことと、町長の許可を得ることができなかった町の公共事業に取り掛かることができると張り切っていた」
と笑いながら言っていた。
詳しくは聞くことができなかったがおそらく彼がローランドさんに人身売買の件について密告したんじゃないかと私は思う。
そしてローランドさんはハインツ家に戻って領主として正式に引き継ぐことになった。
今なら以前ローランドさんがハインツ子爵のことを「周りの信用を得られておらず使い物にならない」と言っていたのは自嘲めいて言った言葉なのだと腑に落ちた。
今は自警団の団長のときより堂々と自信に溢れた佇まいで、おそらく今回のことで自信になって、ハインツ家で信用を得ることができたのではないかと思う。
「実は君のお父様であるサーナイト伯爵からも助言を頂いたり、力をお借りしたんだ」
ローランドさんはまだ人通りのある広場だというのに膝をついて私の手をとって両手で包み込んだ。
「本当に君にはなんとお礼を言ったらいいのか……。何かしてほしいことはあるかい?」
騎士のような佇まいに思わずドキドキしてしまう。そういえばこの人は王都の騎士団にいたんだったと今更ながら思い出す。
「あー……そうですね……、実は折いってお願いがありまして」
その「あるお願い」を口にするとローランドさんは驚いたものの、すぐに了承してくれた。
「おーい!アリア!」
二人で会話をしているとカイとヨシュアが走ってきた。その後をフローラとイアンが手を駆け寄ってくる。
ローランドさんは「じゃあ、また会おう」と言ってそばに控えていたキリクさんを引き連れて行ってしまった。
ちなみにキリクさんは新しく自警団の団長になるそうだ。懸念されていた自警団の実践不足も訓練を強化して強い自警団にするとローランドさんに言っていたそうだ。
「お前、明日発つってほんとかよ」
ヨシュアが息を切らしながら私に問いかけた。
「そうよ、馬車の手配もできたしここを発つことになったの」
馬車の手配についてはダンテさんが是非次の目的地まで送っていきたいと申し出てくれたこともあり、ありがたくお願いすることになった。
「寂しいけれど、しょうがない、わよね……」
フローラが唇を噛み締めて俯いた。その様子にカイがフローラの肩を叩いて慰めた。
「本当にありがとう。君がいなかったらどうなっていたかわからない」
カイが私に向かって微笑む。教会孤児院は次の神父が来るまで調理員であるサーニャさんを始め、町の人を派遣することになったそうだ。
教会孤児院の子供達はマリウス神父の行いにショックを受けている子もいるが、大人達やカイ、ヨシュア、フローラが率先してその子達の面倒を見ているそうだ。
カイはそのまま教会孤児院を出ることになった。教会孤児院を出て、王都の教会に行くことになっていたがもちろんマリウス神父はそのような手続きはしておらず、入学は断念することになりそうだった。しかしそこへローランドさんが助け舟を出した。魔力量の多いカイの才能は勿体無いとのことでローランドさんが身元引き受け人となり、魔法学園へ通うことができるそうだ。
「契約できなくてもあれだけ魔力コントロールがうまかったら生活魔法も難なく習得できるだろうし引く手数多だろう。なんなら騎士を目指してもいいだだろう。俺も精霊と契約できなかったからな、そのへんは気にしていない」
そう言ってローランドさんは笑いながら言っていたことを思い出す。それを聞いたときは思わずどきりとしたものの、ローランドさんは気にしていないようであっけらかんとしていた。ふとマリウス神父の顔が浮かぶ。精霊と契約することができなかった二人。生き方や考え方がこうも違うのかと思った。
精霊と契約できなかったとき、私はどんな道を選ぶのだろう……。
正式に裁判所で裁かれ、それぞれ刑務所送りになるだろうとローランドさんは言っていた。ただ、主犯格の一人とされるマリウス神父に関しては亡くなっているため、罪には問うことはできないし教会は関知しない姿勢を決め込むだろうとのこと。
まさか町長と先代の領主の部下、教会孤児院の神父が人身売買などの犯罪を犯していたことにキヨラの町は一時騒然となった。けれどローランドさんが領主ハインツ子爵であることを町民の前で明かすと、謎に包まれた領主が自警団の団長であったことに皆驚いたものの、普段から自警団の団長としての働きぶりを見ていた町民達は安堵と喜びの声を上げていた。
そして次期町長はなんと以前、町長と契約書を交わす際に訪れたあの男性が務めることになった。
元々、町長の業務をこの男性が大半請け負っていたこともあり、スムーズに引き継ぐことができるためそう決まったという。
以前会った印象は痩せていて元気がなさそうだったので体調の心配をしたがもともと虚弱体質で、普段からあのような感じらしい。
ローランドさんと話している様子を遠くから見かけたが、以前よりは顔色は良かったことに少しホッとした。
ローランドさんはそのことについて
「とりあずいろいろひと段落したからな、ストレスの原因がなくなったことも大きいだろう。町長になることについては今までとやることが変わらないことと、町長の許可を得ることができなかった町の公共事業に取り掛かることができると張り切っていた」
と笑いながら言っていた。
詳しくは聞くことができなかったがおそらく彼がローランドさんに人身売買の件について密告したんじゃないかと私は思う。
そしてローランドさんはハインツ家に戻って領主として正式に引き継ぐことになった。
今なら以前ローランドさんがハインツ子爵のことを「周りの信用を得られておらず使い物にならない」と言っていたのは自嘲めいて言った言葉なのだと腑に落ちた。
今は自警団の団長のときより堂々と自信に溢れた佇まいで、おそらく今回のことで自信になって、ハインツ家で信用を得ることができたのではないかと思う。
「実は君のお父様であるサーナイト伯爵からも助言を頂いたり、力をお借りしたんだ」
ローランドさんはまだ人通りのある広場だというのに膝をついて私の手をとって両手で包み込んだ。
「本当に君にはなんとお礼を言ったらいいのか……。何かしてほしいことはあるかい?」
騎士のような佇まいに思わずドキドキしてしまう。そういえばこの人は王都の騎士団にいたんだったと今更ながら思い出す。
「あー……そうですね……、実は折いってお願いがありまして」
その「あるお願い」を口にするとローランドさんは驚いたものの、すぐに了承してくれた。
「おーい!アリア!」
二人で会話をしているとカイとヨシュアが走ってきた。その後をフローラとイアンが手を駆け寄ってくる。
ローランドさんは「じゃあ、また会おう」と言ってそばに控えていたキリクさんを引き連れて行ってしまった。
ちなみにキリクさんは新しく自警団の団長になるそうだ。懸念されていた自警団の実践不足も訓練を強化して強い自警団にするとローランドさんに言っていたそうだ。
「お前、明日発つってほんとかよ」
ヨシュアが息を切らしながら私に問いかけた。
「そうよ、馬車の手配もできたしここを発つことになったの」
馬車の手配についてはダンテさんが是非次の目的地まで送っていきたいと申し出てくれたこともあり、ありがたくお願いすることになった。
「寂しいけれど、しょうがない、わよね……」
フローラが唇を噛み締めて俯いた。その様子にカイがフローラの肩を叩いて慰めた。
「本当にありがとう。君がいなかったらどうなっていたかわからない」
カイが私に向かって微笑む。教会孤児院は次の神父が来るまで調理員であるサーニャさんを始め、町の人を派遣することになったそうだ。
教会孤児院の子供達はマリウス神父の行いにショックを受けている子もいるが、大人達やカイ、ヨシュア、フローラが率先してその子達の面倒を見ているそうだ。
カイはそのまま教会孤児院を出ることになった。教会孤児院を出て、王都の教会に行くことになっていたがもちろんマリウス神父はそのような手続きはしておらず、入学は断念することになりそうだった。しかしそこへローランドさんが助け舟を出した。魔力量の多いカイの才能は勿体無いとのことでローランドさんが身元引き受け人となり、魔法学園へ通うことができるそうだ。
「契約できなくてもあれだけ魔力コントロールがうまかったら生活魔法も難なく習得できるだろうし引く手数多だろう。なんなら騎士を目指してもいいだだろう。俺も精霊と契約できなかったからな、そのへんは気にしていない」
そう言ってローランドさんは笑いながら言っていたことを思い出す。それを聞いたときは思わずどきりとしたものの、ローランドさんは気にしていないようであっけらかんとしていた。ふとマリウス神父の顔が浮かぶ。精霊と契約することができなかった二人。生き方や考え方がこうも違うのかと思った。
精霊と契約できなかったとき、私はどんな道を選ぶのだろう……。
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