精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

文字の大きさ
上 下
87 / 91
2章

2−58

しおりを挟む
 教会孤児院に戻ると、門の前にダンテさんが立っており、こちらを見て目を見開いた。会ったときより髭は伸びて目の下にはクマがひどい。
 イアンを背負っていたヨシュアの足が止まる。ヨシュアは察して「もう大丈夫だから」と言ってヨシュアの背中から降りた。
 ヨシュアはゆっくりとダンテさんのもとへ駆け寄った。ダンテさんもヨシュアに駆け寄り、お互い向かい合った途端ヨシュアの頭に拳骨を落とした。
 「ゴツ!」っとこちらまで聞こえてくる音に思わず私もたじろぐ。

 「いってええ!!」

 ヨシュアが痛みにうめき声を上げた。

 「この、馬鹿野郎! 人様に迷惑かけて!」

 憔悴しきった男から出たものとは思えないほどの声量が響き渡る。

 「なっ…にすんだよ!」

 ヨシュアがダンテさんに文句を言いかけたときだった。ダンテさんがヨシュアを抱きしめた。

 「よかった……無事で、本当によかった……」

 ヨシュアはされるがまま、そのままダンテさんの肩に顔を埋める。

 「じゃ、いこっか」

 その様子を眺めていた私達はレイ様に促されて二人を尻目に教会孤児院の門をくぐった。

 それから私達は森であったことの聴取を受けることになり、やむをえず長時間教会孤児院に滞在する羽目になった。
 聴取が終わる頃には陽もどっぷりと暮れていて、くたくたの状態でやっと解放されたのだった。
 
 「つ、疲れた……」

 教会孤児院からの帰り道、思わずそう零すとハンナは申し訳なさそうに

 「申し訳ございません。せめて聴取は明日とお願いしたのですが、ミルランタのギルマスの方がどうしてもとおっしゃられて……」
 「しょうがないわよ。むしろ子供の私が着いていったのを見逃してくださったのよ。聴取くらい甘んじて受けないとね」
 「伯爵令嬢を咎めることはできませんよ」

 リクが隣を歩きながら突っ込む。

 「リークー? あなた私が聴取を受ける際逃げたわね? どこにいたのよ。ヒューズさんはあなたからも話を聞きたかったみたいよ?」

 うらめしげにリクを見るとリクは「いやー、私は怪しい魔導具がないかレイ殿に頼まれてまして」と視線を泳がせた。
 「ふーん?」と言ってリクを見つめているとハンナが「それにしても」と口を開いた。

 「まさかローランドさんがハインツ子爵家の当主でキヨラの領主だったとは驚きました」
 「本当ね、私も驚いたわ」



 ヒューズさんの部下の方から聴取を受けたあと、ヒューズさんがキヨラの領主が挨拶をしたがっていると聞いて、連れてきたのがローランドさんだったのだ。
 驚いている私に罰が悪そうな表情で現れたローランドさんは「すまなかった」と開口一番に謝罪の言葉を述べた後、事のあらましを説明してくれた。

 ローランドさんはずっとキヨラに住んでいた訳ではなく、元々王都の騎士団にいたそうだ。
 先代の領主であるお父様が亡くなった後、代替わりのため久しぶりにキヨラに足を踏み入れた際、町の老朽化による修繕が長い間手付かずの状態でいたるところに見受けられたそうだ。不思議に思ったローランドさんは子爵家に帰った際にキヨラから提出される帳簿を確認したところ、修繕費用は記載されている。正しく町の修繕がされていないのではないかと先代の部下に指摘したところ、「そんなはずはない、修繕などの公共事業はあなたが思っているよりも時間がかかるし他にもたくさんあるのだ」と突っぱねられたそうだ。
 その要領を得ない説明に納得いかず不審に思い調べると先代が生前、病床に伏している間はその部下が領主の仕事を受け持っていたという。

 「亡くなったときは急病と思っていたのだが、どうやら先代の領主である父は私を心配させまいと亡くなるまで知らせないようにと命じていたらしい」

 しかも部下であるその男はローランドさんのことを周りに「父親がなくなるまで見舞いにも帰ってこなかった男」と吹聴していたらしい。
 先代領主が信頼している部下が子爵家でそのようなことを吹聴すれば信じ込んでしまう者が多くなるのは自然だろう。
 そうすれば自ずとローランドさんの子爵家での立ち位置は良くないものとなる。
 後を継いだはいいが、領主の仕事はその男経由で帳簿が上がってくるため表立って調査したくともできない状況だったという。
 どうしたものかと思いながら身分を伏せてキヨラに行った際、たまたま自警団の模擬演習に参加したことがきっかけでそのときの団長に自警団の団員にスカウトされた。ローランドさんはそこで考えついたらしい。

 ──自分が身分を隠して町長直轄の自警団に入れば何かわかるかもしれない……と。

 前団長は、聞けば先代領主とも仲が良かったらしくよくお酒を一緒に飲む仲だった。
 それを知ったローランドさんは前団長に思い切って自分の身分とこの町に来てからのことを打ち明けたところ、キヨラの町のここ数年のことを教えてくれた。前団長も町長のやり方に不審を抱いてはいたものの、どうすることもできず歯痒い思いをしていたらしく、力を貸してくれることになったという。
 そしてローランドさんは自警団に入団してから王都の騎士団に所属していた実力を遺憾なく発揮し、異例のスピードで団長まで上り詰めた。

 「それから私は少しずつ情報を集め、仲間を増やして町長と先代領主である父の部下が不正をしていることを突き止めた」


 
 

 

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら捕らえられてました。

アクエリア
ファンタジー
~あらすじ~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 目を覚ますと薄暗い牢獄にいた主人公。 思い付きで魔法を使ってみると、なんと成功してしまった! 牢獄から脱出し騎士団の人たちに保護され、新たな生活を送り始めるも、なかなか平穏は訪れない… 転生少女のチートを駆使したファンタジーライフ! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 見切り発車なので途中キャラぶれの可能性があります。 感想やご指摘、話のリクエストなど待ってます(*^▽^*) これからは不定期更新になります。なかなか内容が思いつかなくて…すみません

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

処理中です...