精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

文字の大きさ
上 下
81 / 91
2章

2−52

しおりを挟む
 マリウス神父は昨日伯爵令嬢の誘拐に関与したとして拘束された。この伯爵令嬢というのは言わずもがな私のことである。
 まず昨日私がロック達に連れ去られたあと、リクはいつまでたっても出てこない私の身を案じていたところに教会の中を魔法で探ろうとした。ところがリクの魔法が結界に弾かれたという。慌てたリクは教会内に突入したところ、そこにはマリウス神父しかおらず私の姿がなかった。ロックが持っていた魔導具の残滓を感じ取り、私に危害を加えたことを知ったリクはカッとなってマリウス神父を魔法で縛り上げて問い詰めたという。
 最初こそしらばっくれていたマリウス神父だが、精霊相手に誤魔化しが効かないとあっさりと諦めて認めたという。
 
 「ハンナに呼ばれて慌てて行ったらびっくりしたよ~リクがマリウス神父をボッコボコにして締め上げてんだもん~。俺たちが着いた途端いきなり出ていくしさあ」
 「なかなか口を割らなかったんだからしょうがないだろう。お嬢様を助けにいこうにもあいつをそのままにしておく訳にはいかない」

 リクが罰が悪そうな表情で答えていた。その場では証拠なると書類を見つけられなかったため、名目上伯爵令嬢である私の行方不明に関与しているとしてその場では拘束されたらしい。そのとき私の身分を明かしたのは平民が行方不明になっただけでは教会孤児院の神父を拘束するには不十分だったためやむを得ず明かしたという。奴隷商人に売られてしまえば足取りが掴みにくいのと私の身の安全のためしょうがない。

 それがここまで昨日聞いていた内容なんだけど。


 「逃げられたというのは?マリウス神父はどこに入れられていたのですか」
 「一応、容疑者扱いだけどまだ確定するまでここの空室に鍵かけて見張ってたよ。さっき見張りの目を掻い潜って逃げ出したっぽい~多分魔導具を隠し持っていたんだろうけど」

 それでどこかものものしい雰囲気だったのかと合点が入った。

 「警備はどうなってるんだ」

 ジロリとリクがレイ様に視線を寄越すとレイ様は「ハハハ~」と笑って誤魔化した。

 「まあ、ここはさっきギルマスの指揮で探したから教会孤児院内に隠れているなんてことはないと思うよ。だから子供達に危険はないし、一応町の出入り口は封鎖しているし、マリウス神父が現れそうなところは今探しているよ」


 そこまで言うとレイ様はマリウス神父の捜索に加わると言ってどこかへ行ってしまった。
 

 「アリア! ここにいたのね」

 教会を出た入り口のところでフローラが抱きついてきた。

 「大変な目に遭ったって聞いたわ、無事で本当によかった」
 
 ぎゅうぎゅうと抱きしめられてくすぐったい気持ちになるも少々力が強い。思わず「うっ……」と変な声が漏れ出たところで静止が入った。

 「おい、お前の馬鹿力でアリアが潰れるぞ」

 そう言ってヨシュアがフローラを軽く小突く。ハッとした表情で私を抱いていた手を緩めるとフローラは慌てて私に謝罪をした。

 「ごめんなさい! 私、人より力が強いみたいでいつも気をつけるように言われてたのに……」
 「ううん、大丈夫よ。気にしないで」

 そう言いながら以前固いパンを包丁で一刀両断した姿を思い出して少し背筋が寒くなる。 
 今度から気をつけようと自分に言い聞かせた。

 「そういえばカイは?」

 先程まで三人一緒だったことからカイの姿が見えずなんの気無しに聞いて見ると、カイはイアンの様子を見に行ったらしい。確かに昨日いろいろなことがあったしイアンの様子は気になる。フローラは昨日の事やマリウス神父のことなどおおまかなことは自警団の聞き取り調査とサーニャさんから聞いているようだった。

 「神父様のことは正直混乱していて……私以外は聞かされていないの。歳が上の方の子たちはうすうす感じているみたいだけど」

 戸惑ったように話すフローラはチラリとヨシュアの方へ視線を向けた。すると視線を向けられたヨシュアは顔を顰めた。

 「アイツはそういうやつだったんだよ」

 フローラはヨシュアの言葉を聞いて俯いた。フローラからすればマリウス神父は育ててくれた恩人とも言える人物だ。胸中は複雑だろう。
 私はフローラの肩をポンポンと叩きながらヨシュアをジロリと睨むとヨシュアはたじろぎながら「なんだよ」と小さな声で呟いた。


 「おーい! ねえ、イアン見てない? 部屋にいないんだけど」

 カイが小走りでこちらに走ってきた。見ていないことを伝えるとカイは怪訝な表情を見せてフローラに尋ねた。

 「フローラ、カイは今朝はいたんだよね?」
 「ええ、今朝は朝食をみんなと一緒にとったあと寝不足だからってもう一度部屋に戻って寝ると言っていたけど」

 思わずリクの顔を見るとリクもこちらを見た。私たちはレイ様にも説明して手分けして教会孤児院内でイアンを探すことにした。
 私の胸の中で嫌な予感が広がっていく。私は昨日のイアンのマリウス神父に対しての話を思い出していた。


 ──「早くここから出て神父様に会わないとね」

 脳裏にイアンが言っていた言葉がよぎる。

 「ねえ、イアンはマリウス神父に会いにいったということはないかしら」

 側にいたリクに問いかける。リクは何かを考え込んだように立ち止まる。

 「可能性はあるでしょう、ですが今は見張りがいますし。いくら子供とはいえ見張りの目を掻い潜るのは難しいのでは?」
 「じゃあ、どこに……」

 何気なく子供たちが過ごしている庭を見渡すとカイたちに懐いている子供たちの姿が見える。



 「ねえ、あの子達前に森へ行っていたと言っていたわよね。マリウス神父の目を盗んで行っていたというのなら大人の知らない出口や森への入り口があるのではない?」

 そう言うとリクは「カイたちに聞きましょう」と言って頷いた。

 言いようのない不安が私の胸に広がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら捕らえられてました。

アクエリア
ファンタジー
~あらすじ~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 目を覚ますと薄暗い牢獄にいた主人公。 思い付きで魔法を使ってみると、なんと成功してしまった! 牢獄から脱出し騎士団の人たちに保護され、新たな生活を送り始めるも、なかなか平穏は訪れない… 転生少女のチートを駆使したファンタジーライフ! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 見切り発車なので途中キャラぶれの可能性があります。 感想やご指摘、話のリクエストなど待ってます(*^▽^*) これからは不定期更新になります。なかなか内容が思いつかなくて…すみません

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

処理中です...