精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

文字の大きさ
上 下
79 / 91
2章

2−50

しおりを挟む
 翌日私達は宿を出て、教会へと向かった。いつもよりは遅い時間に起床したものの、まだ眠たい。あくびを噛み締めながら歩いて町を見ていると、露店では威勢の良い声が飛び交っている。平和な町そのものの光景に思わず笑みが溢れる。

 「アリアー!」

 自分の名前を呼ぶ声がしたので立ち止まって振り向くと後方からヨシュアが走ってこちらにやってきた。

 「ヨシュア!」

 ヨシュアが息を整えるのを待っていると後ろから「早いよ、ヨシュア」とカイが走って向かってきた。ヨシュアよりも少し遅れてやってきたのにも関わらずなぜだか息切れすらしていない。爽やかな笑顔で「おはよう」と挨拶をする姿は昨日会ったときよりも顔色がだいぶいい。

 「森から出てきたの?」
 「ああ、今朝レイって人が森にやってきてさ、『片付くからもう町に帰っておいで』って」
 「姿を見せたの?」

 不思議に思ってたずねるとカイは苦笑しながら「それがさ」と話してくれた。
 なんでも早朝にレイ様がふらりと一人で森に現れたそうだ。早朝に森に入る者に緊張感を走らせているとレイ様は何を思ったのか大声で叫んだそうだ。
 自分はよその町からきた冒険者だ、事件のことはしっかり届いている。今日で片をつけるから町に戻っておいで……と。
 二人は疑心暗鬼になりながらも、レイ様の前に姿を現すとレイ様は二人に食料を渡して明日の昼前には教会にくるようにとだけ告げてさっさと帰っていったそうだ。

 「人気がなかったとはいえまさか森で大声で叫ばれるとは思わなかったよ」
 「魔物がきたらどうするつもりだったんだ」

 カイが苦笑しながら説明して、ヨシュアが顔を顰める。
 それを聞いたリクはため息をつき、ハンナはギョッとした表情を見せ、私は乾いた笑いしか出なかった。
 レイ様はA級の冒険者であることから魔物に対しても対処できると踏んだのだろう。聞いていてハラハラしてしまうのもあるが何よりレイ様ならやりそうと思ってしまった。レイ様はいまだに掴みどころがない。今回のことも何やら別で色々と動いていたようだし、そのことも後で聞けるだろうか。


 「そういえばリリュは?」

 なんの気無しにたずねるとカイは「森にいるよ」と答えた。リリュがついてこなかったことを不思議に思った。
 あの精霊はカイのことをとても大切に思っていたようだったから。私の考えが透けて見えたのかカイはクスリと笑いながら話してくれた。
 リリュはあまり人間自体が好きじゃないらしい。だから人間が多い町に行くことを嫌がったのだという。人間嫌いなのにカイとヨシュアに手を貸すあたり全くの人間嫌いではなさそうだし、町に行くことを嫌がるのもリリュなりにきっと理由があるのだろう。

 雑談を交わしながら教会に着くと教会の門の前には男性が門番のように立っていた。ハンナが小走りで駆け寄ってその男性に話しかける。
 男性はこちらをチラリと見やると頷いた。

 「行きましょう」

 ハンナが戻ってきて私達はその物々しい雰囲気に緊張しながらも門をくぐった。中に入ると「あ!カイ兄ちゃんだ!」「ヨシュア兄ちゃんもいる!」と子供達の声がしたと思ったら子供達がすぐさま駆け寄ってきた。カイとヨシュアはあっという間に囲まれてしまった。二人は身動きが取れなくなっているのにも関わらず笑顔を見せながら子供ひとりひとりと言葉を交わしていた。

 「カイ! ヨシュア!」

 聞き覚えのある声が響き渡る。少し離れたところからフローラがカイとヨシュアを見て立ち尽くしていた。

 「フローラ……」

 どちらかがフローラの名前を呟いたのと同時にフローラが二人の元へ駆け出していた。二人を囲っていた子供達はサッと横にはけていく。

 「ばか! 心配したんだからね!」

 そう言うが早いかフローラは二人に抱きついた。

 「ごめんね、フローラ」
 「悪かったな」

 カイとヨシュアがフローラに抱きつかれながらフローラに謝罪の言葉を述べた。それを見た私達はそのまま二人を残して先程からこちらに手を振っているレイ様の方へと歩き出した。
 今はあのままにしておいた方が良いだろう。
 
 「おはよー、さっそくだけどこっちだよ~」

 レイ様と軽く挨拶を交わすとまずは教会の方へ案内された。レイ様は先程まで寝ていたのか寝癖があちこち跳ねている。その後ろ姿を眺めながら歩いていると教会の方に着いた。教会の入り口の方もそこには屈強な男性が門番のように立っていた。先程の男性よりも強面で思わず怯んでいるとレイ様はそちらを見向きもせずにスタスタと入っていってしまった。ハンナに促されて慌てて入り口の扉を開けると教会内は数人の大人達が行き交っていた。
 そしてやっぱり私は昨日も見たはずなのに祭壇の上に飾られたあの絵画に目が吸い寄せられていく。教会内を行き交う人で慌ただしく感じるのにあの絵だけは独特の雰囲気を放っている。

 「お嬢~?」

 レイ様に呼びかけられてハッと意識を浮上させると目の前に背の高い黒い髪を後ろに撫でつけた男性がこちらを探るような目つきで見ていた。
 
 「あ、あの……?」

 視線に戸惑いながら見返すと背の高い男性は少し鋭い目を細めた。

 「ちょっと顔が怖いよ~」
 
 レイ様が男性に笑いながら肩を叩いた。

 「顔はどうにもできん」

 男性は低い声でボソッと呟いた。視線でレイ様に問うとレイ様は「ああ、ごめんごめん」と言うと目の前の男性を紹介してくれた。

 「この人ミルランタのギルドマスター」
 「え?」
 「ヒューズだ」
 「あ、アリアです」

 ヒューズさんは短く自己紹介を終えるとそのまま部下らしき人を引き連れて何処かへといってしまった。

 「あの……なぜミルランタのギルマスの方が?」

 レイ様にたずねるとレイ様は少し困ったような笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら捕らえられてました。

アクエリア
ファンタジー
~あらすじ~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 目を覚ますと薄暗い牢獄にいた主人公。 思い付きで魔法を使ってみると、なんと成功してしまった! 牢獄から脱出し騎士団の人たちに保護され、新たな生活を送り始めるも、なかなか平穏は訪れない… 転生少女のチートを駆使したファンタジーライフ! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 見切り発車なので途中キャラぶれの可能性があります。 感想やご指摘、話のリクエストなど待ってます(*^▽^*) これからは不定期更新になります。なかなか内容が思いつかなくて…すみません

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

処理中です...