精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

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 ハンナに手伝ってもらいながら傷の手当や着替えを済ませて居間に行くと、リクがテーブルの上に軽食をポケットから出しているところだった。
 テーブルの上にはサンドイッチやスコーン、屋台で見かけたカラーチやポテトなども置かれている。
 空腹で先程からお腹が鳴りっぱなしだ。いそいそとソファに腰掛けると、ティーセットの乗ったお盆をハンナが持ってきてお茶を入れる。茶葉の香りが湯気と共に鼻をくすぐる。私はテーブルの上にあるサンドイッチにすぐさま手を伸ばして口に入れる。バゲットに挟まれた生ハムとクリームチーズのサンドイッチは私のお気に入りのひとつだ。生ハムの塩気がクリームチーズと合わさって美味しい。黙ってもぐもぐと夢中で食べているといつもは一切れでお腹がいっぱいになるのに気がついたら二切れも食べてしまった。

 「お疲れのところ申し訳ありませんが教会であったことを話していただけますか。レイ殿にもいてほしかったですがレイ殿は今日は教会の方にかかりきりですし」

 空腹が満たされたところでリクがちょこんとソファに腰掛けて私の顔を見た。ハンナが心配そうに覗き込むも私は姿勢を正して二人の顔を見回した。

 お茶で喉を潤してからリクと離れたところから話し始めた。マリウス神父が隠している子供を売買している証拠となる書類を見つけたこと、マリウス神父に見つかってしまい、会話の途中から具合が悪くなって意識を失ってしまったこと。目を覚ますと森の小屋の中でイアンも一緒だったこと、そして妖精が現れてもうダメだと思ったところでリクとレイ様に助けられたことを話した。
 一気に話し終えたところでふうっと息を吐いた。しばしの間沈黙が流れる。リクは少し考え込むようにしてから口を開いた。

 「おそらくお嬢様の意識を奪ったのはあの自警団員だったロックという男の魔導具でしょう」
 「それなんだけど、ロックの持っていた魔導具は皮袋に入った状態だったんだけれどリクはどうして『嫌な魔導具を持っている』ってわかったの?」

 ずっと気になっていたことをたずねた。リクによると魔導具などは少なからず持ち手の魔力がまとわりついていて古いものほどその魔導具を使ってきた人間の思念のようなものが感じられることがあるそうだ。

 「あの魔道具は人間で言うと骨董品レベルの古い魔導具のようでしたし少なからず思念がまとわりついているのはわかりました。しかも精神干渉系の魔導具ほどがまとわりついているものですので……袋から出さずとも漏れ出ていました」
 「そんなことを聞くと少し気味が悪いわね」

 思わずそう言うとリクは「まあ、魔導具に思念がつくのはあまり見かけませんので」と言って小さな手でスコーンを手に取って齧り付いた。

 「それよりもお嬢様、妖精に対して魔法を放ちましたね」

 リクにならってスコーンに伸ばした手が止まる。

 「なんのことかしら」

 咄嗟にしらばっくれるもリクはまんまるの目を細めた。

 「私たちがお嬢様の元へ辿り着いたときには妖精の腕が消滅していました。明らかに魔法によるダメージでしたし、妖精からお嬢様の魔力が感じられましたから」

 言い逃れはできないと悟った私は妖精に攻撃しようとしてでたらめな魔法を放ったことを話した。もちろんあのままでは妖精に魂を抜かれるところだったということを強調して。私の話を聞いたリクはため息をついた。

 「やはり危険なことをしたのですね。妖精にで当たったからよかったものの……下手したら暴発してしまうかもしれなかったんですよ? そんなことになってしまったらお嬢様だけでなくイアンも無事ではすまないことだってあるんですよ」

 リクの指摘にハッとする。咄嗟にやってしまったこととはいえイアンを危険に晒したのは確かだ。また以前と同じことをしてしまったことに顔を青くしていると、リクは慌てたように「まあ、おかげでお嬢様の強い魔力が感じられたので場所がわかったのもあるんですが」と言った。

 「魔法はイメージと言われていることから使いようによっては危険なものです。でたらめな魔法を放つほど危険なものはありません、ましてやお嬢様はまだ魔法について初期段階しか身についていない状態です。今回は仕方がなかったとはいえ、もうこんな危険なことはしないでください。お嬢様の身を案じているもののためにも」

 そう言ってリクはハンナの方をチラリと見やった。私もハンナの方を見ると、ハンナは私たちの会話を聞こえているだろうに何も言わずにお茶を入れ直していた。私はその姿を見て先程の泣きそうになっている表情のハンナを思い出して思わず唇を噛み締めた。そしてリクの方を見て黙って頷いた。

 「とはいえ、私がお嬢様を守ると言っておきながら危険に晒したのが悪いんですけどね。このようなことになることも予測できたはずなのに安易にお嬢様に書類を取りに行かせたばかりに……」

 リクが落ち込んだように肩を落とす。

 「そんなことはないわ! あの時は時間がなかったし、私にしかできないわ。それに、すぐに逃げずにマリウス神父と話をしていた私も悪いのだし!」

 しょんぼりと項垂れているリクに慌てる。小さな可愛らしい姿の生き物が肩を落とす様子は可愛らしくもあるが可哀想に思えてきてしまう。

 「では私も次から気をつけますのでお嬢様も頑張っていただけますか?」
 「もちろん! たくさん頑張るわ!……頑張る?」

 リクは顔を上げて髭をピクピクと動かした。髭にスコーンのくずがついているのも構わず口の端を上げた。

 

 「やはり不測の事態に備えて少しでも身を守る術をご自分で身につけるべきだと考えたのです。ですから、この旅の間に魔法を頑張って身を守れるくらいには鍛えましょうね!」


 魔法で身を守れるくらいというのは魔法学園入学前の十歳の女児にはハードルが少々高いように思えたが私はゆっくりと頷くことしかできなかった。


 
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