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2章
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「俺もいるよ~」
リクの背後からひょっこりとレイ様が覗き込み、私に近づく。
「あーあ。傷だらけの泥だらけじゃん」
そう言ったレイ様は私の前にしゃがんで自分の袖で私の顔をゴシゴシと拭った。手足の自由は奪われていたし、這って移動したりしたので今の私は細かい傷が手足にもたくさんできていた。顔にもできているかもしれない。されるがままに顔を拭かれていると、またもや妖精がこちらに向かって魔力を放とうとする。それに気づいたリクがすぐさま魔法を妖精に向かって放った。風の刃を飛ばすも妖精は空中でクルリと旋回してリクの攻撃をかわした。
「精霊だ! アタシだーいきらーい」
妖精はリクを見て思いっきり顔を顰めた。
「奇遇だな、私も昔から妖精は大嫌いなんだ」
リクが目を細める。心なしかリクから漂っている雰囲気が怖い。以前にリクが言っていた精霊と妖精の話を思い出して二人の対峙に思わず息を飲んだ。
「魂を抜くから気をつけて!」
慌てて注意を促すと目の前のレイ様は私とイアンの縄を解きながら「あ~やっぱりアレ妖精なんだ」と呑気そうな声で呟いた。
リクと妖精はお互い攻撃し合ってこちらには目もくれない。
「ここに来るまでに変な死体あってさー、それを見たリクが急に走り出すから何かと思ったよ」
レイ様の言う変な死体というのは先程男達が言っていた売人たちのことだろう。
「ここがどうやってわかったんですか?」
レイ様にたずねながら縛られて赤く擦り切れた腕をさすっているとレイ様はどこからか小さな容器を出して私の腕をとって中の軟膏のようなものを塗った。薬草の匂いが漂ってくる。
「んーとね、子供の受け渡しは森の中かなって見当はついてたんだけど、なかなか場所の特定まではわからなくてさ。森に入った途端リクが何かに反応して俺はそれに慌ててついてきたってわけ」
そう言って布を取り出して手際よく私の腕に巻いていく。巻き終えると「ん、できた」と呟いて立ち上がった。軟膏だけ渡されたイアンは戸惑いがちにレイ様に「あの、神父様は……?」とたずねた。
「それはあとでね」
レイ様はニコッと笑ってイアンに言うと立ち上がって伸びをした。
「そろそろ終わるかなあ……」
そう呟きながら目の前で繰り広げられている戦闘に視線を移すと妖精はこちらに視線をやってニイと笑った。ぞくりと悪寒が走る。妖精はリクの攻撃を交わした瞬間こちらに一目散に飛んできた。
レイ様が狙われる!
その時だった。レイ様が前に踏み出したと思ったら妖精に斬りかかっていた。妖精は上から一直線に切られ自分が切られたことに驚いた表情を見せた。
切られたところからサラサラと砂のように妖精の姿が崩れていく。妖精は口を開こうとするがそのまま妖精の姿は跡形もなく崩れ去っていった。
「あー斬っちゃった。リクごめんね~」
悪びれた様子もなくそのままレイ様は魔法剣を鞘に納めた。レイ様が一瞬で妖精を倒したことにイアンも私も唖然とした。
「いや、いい。こちらこそ長引かせて悪かった。お嬢様、怪我はございませんか」
リクがペタペタと歩いて私の顔を覗き込んだ。
「平気よ、来てくれてありがとう」
リクは私の腕に巻かれた布を見てしょんぼりと項垂れた。
「助けにくるのが遅くなり申し訳ありません……。魔導具を使う恐れだってあったのに完全に気付かなかった私の落ち度です」
「仕方がないわ。マリウス神父は精霊を欺くことができる稀少な魔導具だって言っていたし、あの場に他にも仲間がいたなんて思わなかったもの」
思わずリクの頭を撫でる。
「まあまあ、こうして間に合ったんだしよかったじゃないの。妖精が出てきたのはちょっと想定外だったけど」
レイ様がいつもの調子で明るく言うとリクがジトリとした視線をレイ様に向けた。
「だいたい、レイ殿がもっと早くに私たちに話してくれていればこんなことにならなかったのだと思うが?」
「それはごめんね~、俺もいろいろ事情があったんだよ」
にっこりと笑ってレイ様がリクに言ってから首を傾げている私の方を見た。
「あとでちゃんと説明するね」
リクはため息をついたあと私の方に向き直った。
「お嬢様、精霊石を見せていただけますか」
あっと思い出して私はいそいそと首から下げている小さな皮袋を取り出し、袋から精霊石を取り出した。先程まで光り輝いていた精霊石はもらったときと同じ状態に戻っていた。
「さっきまで光っていたのに……」
リクはまじまじと精霊石を確認してから頷いた。
「やはり、精霊石がお嬢様を守ったようですね」
私は先程妖精が攻撃をしてきたとき結界のようなものが現れて私たちを守ってくれたことを話した。
「グレース様の魔力が感じられたおかげと言っていいのかわかりませんが精霊石が反応したことでこの場所がわかりました」
途中石の光が淡くなったことを伝えると
「精霊石は永遠に使えるわけではありませんが、グレース様ほどの精霊の精霊石はすぐに効力が消えるはずがありません……見たところ精霊石の力はまだ使えそうですし」
そう言ってリクは少し考え込んだあと諦めたように首を振った。
「今考えてもわかりませんし、とりあえずここを出ましょう」
こうして私たちは森を出てキヨラの町に戻ることになった。
リクの背後からひょっこりとレイ様が覗き込み、私に近づく。
「あーあ。傷だらけの泥だらけじゃん」
そう言ったレイ様は私の前にしゃがんで自分の袖で私の顔をゴシゴシと拭った。手足の自由は奪われていたし、這って移動したりしたので今の私は細かい傷が手足にもたくさんできていた。顔にもできているかもしれない。されるがままに顔を拭かれていると、またもや妖精がこちらに向かって魔力を放とうとする。それに気づいたリクがすぐさま魔法を妖精に向かって放った。風の刃を飛ばすも妖精は空中でクルリと旋回してリクの攻撃をかわした。
「精霊だ! アタシだーいきらーい」
妖精はリクを見て思いっきり顔を顰めた。
「奇遇だな、私も昔から妖精は大嫌いなんだ」
リクが目を細める。心なしかリクから漂っている雰囲気が怖い。以前にリクが言っていた精霊と妖精の話を思い出して二人の対峙に思わず息を飲んだ。
「魂を抜くから気をつけて!」
慌てて注意を促すと目の前のレイ様は私とイアンの縄を解きながら「あ~やっぱりアレ妖精なんだ」と呑気そうな声で呟いた。
リクと妖精はお互い攻撃し合ってこちらには目もくれない。
「ここに来るまでに変な死体あってさー、それを見たリクが急に走り出すから何かと思ったよ」
レイ様の言う変な死体というのは先程男達が言っていた売人たちのことだろう。
「ここがどうやってわかったんですか?」
レイ様にたずねながら縛られて赤く擦り切れた腕をさすっているとレイ様はどこからか小さな容器を出して私の腕をとって中の軟膏のようなものを塗った。薬草の匂いが漂ってくる。
「んーとね、子供の受け渡しは森の中かなって見当はついてたんだけど、なかなか場所の特定まではわからなくてさ。森に入った途端リクが何かに反応して俺はそれに慌ててついてきたってわけ」
そう言って布を取り出して手際よく私の腕に巻いていく。巻き終えると「ん、できた」と呟いて立ち上がった。軟膏だけ渡されたイアンは戸惑いがちにレイ様に「あの、神父様は……?」とたずねた。
「それはあとでね」
レイ様はニコッと笑ってイアンに言うと立ち上がって伸びをした。
「そろそろ終わるかなあ……」
そう呟きながら目の前で繰り広げられている戦闘に視線を移すと妖精はこちらに視線をやってニイと笑った。ぞくりと悪寒が走る。妖精はリクの攻撃を交わした瞬間こちらに一目散に飛んできた。
レイ様が狙われる!
その時だった。レイ様が前に踏み出したと思ったら妖精に斬りかかっていた。妖精は上から一直線に切られ自分が切られたことに驚いた表情を見せた。
切られたところからサラサラと砂のように妖精の姿が崩れていく。妖精は口を開こうとするがそのまま妖精の姿は跡形もなく崩れ去っていった。
「あー斬っちゃった。リクごめんね~」
悪びれた様子もなくそのままレイ様は魔法剣を鞘に納めた。レイ様が一瞬で妖精を倒したことにイアンも私も唖然とした。
「いや、いい。こちらこそ長引かせて悪かった。お嬢様、怪我はございませんか」
リクがペタペタと歩いて私の顔を覗き込んだ。
「平気よ、来てくれてありがとう」
リクは私の腕に巻かれた布を見てしょんぼりと項垂れた。
「助けにくるのが遅くなり申し訳ありません……。魔導具を使う恐れだってあったのに完全に気付かなかった私の落ち度です」
「仕方がないわ。マリウス神父は精霊を欺くことができる稀少な魔導具だって言っていたし、あの場に他にも仲間がいたなんて思わなかったもの」
思わずリクの頭を撫でる。
「まあまあ、こうして間に合ったんだしよかったじゃないの。妖精が出てきたのはちょっと想定外だったけど」
レイ様がいつもの調子で明るく言うとリクがジトリとした視線をレイ様に向けた。
「だいたい、レイ殿がもっと早くに私たちに話してくれていればこんなことにならなかったのだと思うが?」
「それはごめんね~、俺もいろいろ事情があったんだよ」
にっこりと笑ってレイ様がリクに言ってから首を傾げている私の方を見た。
「あとでちゃんと説明するね」
リクはため息をついたあと私の方に向き直った。
「お嬢様、精霊石を見せていただけますか」
あっと思い出して私はいそいそと首から下げている小さな皮袋を取り出し、袋から精霊石を取り出した。先程まで光り輝いていた精霊石はもらったときと同じ状態に戻っていた。
「さっきまで光っていたのに……」
リクはまじまじと精霊石を確認してから頷いた。
「やはり、精霊石がお嬢様を守ったようですね」
私は先程妖精が攻撃をしてきたとき結界のようなものが現れて私たちを守ってくれたことを話した。
「グレース様の魔力が感じられたおかげと言っていいのかわかりませんが精霊石が反応したことでこの場所がわかりました」
途中石の光が淡くなったことを伝えると
「精霊石は永遠に使えるわけではありませんが、グレース様ほどの精霊の精霊石はすぐに効力が消えるはずがありません……見たところ精霊石の力はまだ使えそうですし」
そう言ってリクは少し考え込んだあと諦めたように首を振った。
「今考えてもわかりませんし、とりあえずここを出ましょう」
こうして私たちは森を出てキヨラの町に戻ることになった。
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