精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

文字の大きさ
上 下
76 / 91
2章

2−47

しおりを挟む
 「俺もいるよ~」

 リクの背後からひょっこりとレイ様が覗き込み、私に近づく。

 「あーあ。傷だらけの泥だらけじゃん」

 そう言ったレイ様は私の前にしゃがんで自分の袖で私の顔をゴシゴシと拭った。手足の自由は奪われていたし、這って移動したりしたので今の私は細かい傷が手足にもたくさんできていた。顔にもできているかもしれない。されるがままに顔を拭かれていると、またもや妖精がこちらに向かって魔力を放とうとする。それに気づいたリクがすぐさま魔法を妖精に向かって放った。風の刃を飛ばすも妖精は空中でクルリと旋回してリクの攻撃をかわした。

 「精霊だ! アタシだーいきらーい」

 妖精はリクを見て思いっきり顔を顰めた。

 「奇遇だな、私も昔から妖精は大嫌いなんだ」

 リクが目を細める。心なしかリクから漂っている雰囲気が怖い。以前にリクが言っていた精霊と妖精の話を思い出して二人の対峙に思わず息を飲んだ。

 「魂を抜くから気をつけて!」

 慌てて注意を促すと目の前のレイ様は私とイアンの縄を解きながら「あ~やっぱり妖精なんだ」と呑気そうな声で呟いた。
 リクと妖精はお互い攻撃し合ってこちらには目もくれない。

 「ここに来るまでに変な死体あってさー、それを見たリクが急に走り出すから何かと思ったよ」

 レイ様の言う変な死体というのは先程男達が言っていた売人たちのことだろう。

 「ここがどうやってわかったんですか?」

 レイ様にたずねながら縛られて赤く擦り切れた腕をさすっているとレイ様はどこからか小さな容器を出して私の腕をとって中の軟膏のようなものを塗った。薬草の匂いが漂ってくる。

 「んーとね、子供の受け渡しは森の中かなって見当はついてたんだけど、なかなか場所の特定まではわからなくてさ。森に入った途端リクが何かに反応して俺はそれに慌ててついてきたってわけ」

 そう言って布を取り出して手際よく私の腕に巻いていく。巻き終えると「ん、できた」と呟いて立ち上がった。軟膏だけ渡されたイアンは戸惑いがちにレイ様に「あの、神父様は……?」とたずねた。

 「それはあとでね」

 レイ様はニコッと笑ってイアンに言うと立ち上がって伸びをした。

 「そろそろ終わるかなあ……」

 そう呟きながら目の前で繰り広げられている戦闘に視線を移すと妖精はこちらに視線をやってニイと笑った。ぞくりと悪寒が走る。妖精はリクの攻撃を交わした瞬間こちらに一目散に飛んできた。

 レイ様が狙われる!

 その時だった。レイ様が前に踏み出したと思ったら妖精に斬りかかっていた。妖精は上から一直線に切られ自分が切られたことに驚いた表情を見せた。
 切られたところからサラサラと砂のように妖精の姿が崩れていく。妖精は口を開こうとするがそのまま妖精の姿は跡形もなく崩れ去っていった。

 「あー斬っちゃった。リクごめんね~」

 悪びれた様子もなくそのままレイ様は魔法剣を鞘に納めた。レイ様が一瞬で妖精を倒したことにイアンも私も唖然とした。

 「いや、いい。こちらこそ長引かせて悪かった。お嬢様、怪我はございませんか」
 
 リクがペタペタと歩いて私の顔を覗き込んだ。

 「平気よ、来てくれてありがとう」

 リクは私の腕に巻かれた布を見てしょんぼりと項垂れた。

 「助けにくるのが遅くなり申し訳ありません……。魔導具を使う恐れだってあったのに完全に気付かなかった私の落ち度です」
 「仕方がないわ。マリウス神父は精霊を欺くことができる稀少な魔導具だって言っていたし、あの場に他にも仲間がいたなんて思わなかったもの」

 思わずリクの頭を撫でる。

 「まあまあ、こうして間に合ったんだしよかったじゃないの。妖精が出てきたのはちょっと想定外だったけど」

 レイ様がいつもの調子で明るく言うとリクがジトリとした視線をレイ様に向けた。

 「だいたい、レイ殿がもっと早くに私たちに話してくれていればこんなことにならなかったのだと思うが?」
 「それはごめんね~、俺もいろいろ事情があったんだよ」

 にっこりと笑ってレイ様がリクに言ってから首を傾げている私の方を見た。

 「あとでちゃんと説明するね」

 リクはため息をついたあと私の方に向き直った。

 「お嬢様、精霊石を見せていただけますか」

 あっと思い出して私はいそいそと首から下げている小さな皮袋を取り出し、袋から精霊石を取り出した。先程まで光り輝いていた精霊石はもらったときと同じ状態に戻っていた。

 「さっきまで光っていたのに……」

 リクはまじまじと精霊石を確認してから頷いた。

 「やはり、精霊石がお嬢様を守ったようですね」

 私は先程妖精が攻撃をしてきたとき結界のようなものが現れて私たちを守ってくれたことを話した。

 「グレース様の魔力が感じられたおかげと言っていいのかわかりませんが精霊石が反応したことでこの場所がわかりました」

 途中石の光が淡くなったことを伝えると

 「精霊石は永遠に使えるわけではありませんが、グレース様ほどの精霊の精霊石はすぐに効力が消えるはずがありません……見たところ精霊石の力はまだ使えそうですし」

 そう言ってリクは少し考え込んだあと諦めたように首を振った。

 「今考えてもわかりませんし、とりあえずここを出ましょう」
 
 こうして私たちは森を出てキヨラの町に戻ることになった。

 
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

転生したら捕らえられてました。

アクエリア
ファンタジー
~あらすじ~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 目を覚ますと薄暗い牢獄にいた主人公。 思い付きで魔法を使ってみると、なんと成功してしまった! 牢獄から脱出し騎士団の人たちに保護され、新たな生活を送り始めるも、なかなか平穏は訪れない… 転生少女のチートを駆使したファンタジーライフ! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 見切り発車なので途中キャラぶれの可能性があります。 感想やご指摘、話のリクエストなど待ってます(*^▽^*) これからは不定期更新になります。なかなか内容が思いつかなくて…すみません

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...