精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−44

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 私たちはお互い後ろ手で縛られた状態のまま、背中合わせになったりして何とか縄を緩めようと試みるも、縄は固く結ばれていて子供の力ではびくともしなかった。こんなことならハンナにナイフの一本でも貸して貰えばよかったと後悔する。私が考え込んでいるとイアンが縛られた状態で部屋の隅に置かれている、薪の束の方へにじり寄って移動していた。
 
 「イアン、何をしているの?」
 「薪の角で縄を擦ったら切れないかと思って」

 そう言ってイアンは真剣な表情で身体を上下に動かしている。それを見た私は急いで芋虫のように這って移動した。
 今日はスカートじゃなくてよかったとこんなときにそんなことが頭をよぎった。
 二人して縄を薪の角に擦り付ける。時折薪のささくれだった部分が腕を擦り、すり傷のようになって痛い。痛みを考えないように無心で縄を擦っていると隣のイアンが動かしながらおもむろに口を開いた。

 「神父様に会ったの?」

 どう答えるべきか迷って少しの間沈黙が流れた。

 「マリウス神父様がアリアちゃんにこんなことしたの?」

 隣にいるイアンの顔を見ることができなくて俯く。なおも黙っている私にイアンは手を止めた。

 「アリアちゃん、何も知らないままは嫌なんだ。教えて?」

 私はイアンにマリウス神父とキヨラの町長が結託して魔力量が多い子供を売買していることを正直に話した。カイとヨシュアはそれを突き止め、マリウス神父とキヨラの町長の犯行をつまびらかにするために動いていることを話した。

 「そう……なんだね。カイお兄ちゃんとヨシュアお兄ちゃんは無事なんだね……よかった。神父様は……実はそんな気はしてたんだ」

 イアンの言葉に驚いて思わずイアンの方を見る。イアンは下を向いて唇を噛み締めていた。

 「カイお兄ちゃんが言ってたんだ……『神父様には気をつけて』って」
 「そうだったの……」
 
 カイはイアンにマリウス神父のことを忠告していたのか……。
 イアンは俯いたまま自分の身の上を少しずつ話し出した。イアンとフローラはキヨラの生まれではなく、キヨラの隣の村の出だそうだ。
 ドワーフの父と人間の母の元に生まれ、ドワーフである父は大工の棟梁を、母は針子の仕事をしていてささやかな暮らしながらも仲睦まじく暮らしていたという。ところがある日、父が仕事先で事故にあったとの知らせがあり、慌てて家族で父の元へ向かうとそこには冷たくなった父の姿があったという。
 
 「父さんがやっていた現場で足場が崩れる事故が起きてさ、高いところで作業をしていた父さんは打ちどころが悪くて呆気なく死んじゃったんだ。それまでどんなに大怪我したって『父さんはドワーフだから丈夫なんだ』って言って笑ってたのに」

 静かに話すイアンの表情は俯いていて読み取れない。

 「父さんが死んだ後、母さんが寝る間も惜しんで針子の仕事以外にも掛け持ちしたりして頑張って僕達二人を育ててくれてたんだ。けど五年前に肺を患って死んじゃった」

 淡々とした口調で話すイアンの様子に胸が痛む。

 「それでキヨラの教会孤児院に連れて行かれて神父様に会ったんだ。僕とお姉ちゃんに神父様は言ったんだ。『ずっとここにはいられないからここにいながら自分で生きる方法を身につけなさい』って」

 それから二人は教会孤児院で暮らしていくなかで算術を始め、世の中のことを色々マリウス神父に教わったという。

 「僕もなんか怖いなって思うときはあったんだ、魔法の訓練のときにさ、カイお兄ちゃんが魔力訓練で上手くいったときすごく怖い顔してたんだ。すぐに戻ったけどなんかモヤモヤしてさ。カイお兄ちゃんは気づいていたみたいで僕に後から言ったんだ。『あまり、神父様を信用しちゃダメだよ』って。どういう意味か教えてくれなくてさ。……カイお兄ちゃんが言った通りだったんだね」

 そう言ってイアンは顔を上げた。

 「それでも、僕は嬉しかったんだ。いろんなことを教えてくれて……」

 そう語るその目には涙が光っていた。どう声をかけたらいいのかわからずただ黙っているとイアンは鼻を啜ってから微笑んだ。

 「早くここから出て神父様に会わないとね」

 その言葉に私は黙って頷くしかなかった。そのときだった。外から足音が聞こえてくる。隠れる場所もないので、私たちは身を寄せ合って薪で縄を擦っているのを知られないように薪を背にして身構えているとすぐにドアは開かれた。

 「おや、起きたみたいだな」
 
 入り口には見覚えのある人物が立っていた。

 「ロックさん……」
 「さっき会ったばかりで名前を覚えててくれたんだ」

 フッと鼻で笑った後馬鹿にしたような表情で私たちを見やった。

 「予定より早いがもいるし何とかなるだろう」

 そう言ってドアから新たに入ってきたのは鎧を着た男だった。二人とも今朝方見かけた者たちだ。

 「私たちをどうする気?」

 目の前の男たちにたずねるとロックは下卑げひた笑みを浮かべた。

 「お前たちはなあ、売られるんだよ」

 隣でイアンがショックを受けているのがわかる。私は想像通りの答えに目の前の二人を睨みつけた。

 「あなたたちこんなことをしてもいいと思っているの?」
 「商人の娘だか何だか知らねえがうるせえガキだな」

 そう言ってロックはため息をつくとおもむろに私に近づき、束ねた髪を掴んで引き上げた。ギリギリと引き上げられてあまりの痛さに顔を歪めるとロックは私に顔を近づけた。

 「よく見ると顔立ちはいいし、毛色もウケが良さそうだな……知ってるか、の野郎にお前みたいなガキは需要あるんだぜ」
 「くっ……」
 「アリアちゃんを離せ!」

 横からイアンがロックに体当たりをするも、ロックはなんなくかわすと床に転がったイアンを見て顔を顰めた。

 「何だよ、ナイト気取りってか」

 私の髪から手を離すと転がるイアンを蹴り付けた。うめき声を上げたイアンは床に顔を伏せている。

 「イアン!」

 名前を呼ぶもイアンはうめき声を上げている。

 「おい、あまり傷をつけるな。売るときに値段を下げられたらどうすんだ」

 鎧の男がロックに言うとロックは「ケッ」としらけたように私たちから視線を外した。

 「いつ来るんだよ」
 「もうじき来るはずだ」

 男二人が会話をしているのを尻目に私はイアンに近寄ってイアンに小声で声を掛けた。イアンは呼吸を荒くしながらも「大丈夫」と答えた。
 ホッとしながらも私は頭の中はこれからどうするかでいっぱいだった。このままでは売られてしまう。売られてしまう前に何とかしなければ。
 
 「様子を見てくる」
 「俺はここでこいつらを見張っとく」

 そう言って鎧の男が外に出ようとしたときだった。その瞬間感じたことのない魔力のゆらめきのような物を感じて私の肌が粟立った。

 遠くの方で何かの叫び声が聞こえた。
 
 
 
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