精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

文字の大きさ
上 下
59 / 91
2章

2−30

しおりを挟む

 「今日もありがとうねえ! 助かるよ!」

 威勢のいい声に笑顔で返事をしながらジャガイモの皮むきをする。ここ教会孤児院に通うようになってから私は厨房のお手伝いをしている。
 最初魔法の訓練(私の場合、初歩の魔力訓練)でお世話になる際、マリウス神父からはフローラとお菓子作りをすることが条件になっていたものの、フローラは昼食前になると調理員さんと昼食と夕食の手伝いをしていることから私も一緒になってお手伝いをしている。
 当初、私が手伝うことにフローラも調理員のサーニャさんも心配をしていたが、私が包丁でジャガイモの皮むきをしてみせると即刻許しを得ることができた。ハンナももちろん一緒に手伝っている。リクは手伝うことができないため教会孤児院内を子供に見つからないように散策しているようだ。

 「それにしてもアリアは不思議ねえ……というか商人の娘でも料理はするものなのね」

 フローラもジャガイモの皮むきをしながら私の方を見てしみじみと言う。そういうフローラも手慣れたものでどんどんジャガイモの皮がむかれていく。

 「まあね! 料理はできるに越したことはないじゃない!」
 
 商人の娘は料理をするか疑問だが、ごまかすしかないので慌てて言うと「いや、お嬢様は例外といいますか……」とハンナがボソッとツッコミを入れる。そんなハンナを無視して話を続ける。

 「それに! サーニャさんの料理は見てて勉強になるわ」
 「嬉しいことを言ってくれるね! ただの家庭料理なんだけどね」

 サーニャさんは通いで来ている調理員の中年の女性だ。恰幅のある威勢のいい女性でアリアにも気さくに接してくれる。フローラがサーニャさんとおしゃべりをしながら厨房の手伝いをしているのも何だか頷けるぐらい気のいい人である。
 屋敷の厨房に出入りはするものの、それはお菓子作りのときだけで、さすがに食事の準備は手伝うことはできなかったので包丁で野菜の皮を剥くこと自体が新鮮だ。しかも家庭料理を作るところなんてなかなかお目にかかれないので自分にとっては楽しい時間だった。

 フローラとハンナと大量にジャガイモの皮むきをしている横でサーニャさんは水に晒したジャガイモをどんどん切っていく。
 今日は農家から大量にジャガイモの寄付があったそうだ。お腹も膨れるし使い勝手も良いし私もジャガイモは大好きだ。
 屋敷ではよく料理長がジャガイモでガレットを作ってくれたことを思い出す。お父様はそれに大量のチーズをかけるものだからお母様に健康のために止められたっけ。
 そんなことを思い出して少し胸が締め付けられる。慌ててそれを振り払うようにジャガイモの皮むきに集中する。

 小さな子供じゃないんだからホームシックになるなんて……。

 「ほら、味見してみな」

 突然横からスッと小皿とフォークが手渡された。小皿の上には先程焼き上がったジャガイモとゆで卵などを重ねてオーブンで焼いたものだ。
 受け取ってフォーク刺してふうふうと冷ましながら口に入れる。ジャガイモがホクホクで上にかかったチーズが熱くて美味しい。薄く切ったドライソーセージの塩気が噛むほど味が広がっていく。

 「美味しい……」

 思わずぽつりとこぼすとサーニャさんはニカッと笑った。

 「味見は作り手の特権だよ。アリアちゃん」

 何となくその笑顔に涙が出そうになるのをグッと堪えた。サーニャさんは私の背中をぽんぽんと叩いてまた作業に戻っていく。
 その様子をみていたハンナが気遣わしげに隣にやってくる。

 「お嬢様、どうかなさいましたか?」

 ホームシックになりかけているだなんて言えないので「何でもないわ。美味しかったから屋敷でも作ってみたいなって思っただけ」と適当にごまかした。
作業に再び戻ると、厨房の入り口からマリウス神父が声をかけてきた。

 「サーニャさん、すみませんが少し出掛けてきます」

 マリウス神父はいつもの司祭服ではなくシャツにスラックスといったシンプルな出立ちだった。マリウス神父はこちらの方を見て「アリアさん、魔法の訓練の時間までには戻りますからね」と微笑んだ。マリウス神父を見送るとサーニャさんは先程までマリウス神父がいた入り口を見てふうとため息をついた。

 「マリウス神父様も大変だねえ、あの町長に会いにいくなんて」

 不思議に思っているとサーニャさんは苦笑した。サーニャさんの話によると、町長のもとへ月に何度かマリウス神父は教会孤児院への運営費や修繕費などの予算引き上げの打診に行っているそうだ。教会孤児院の運営費などは教会本部から支払われるものではなく、それぞれ教会がある町が教会の予算を出している。ここキヨラの教会孤児院は貧しくはないものの余裕があるわけでもない。マリウス神父は月に何度か町長のもとへ教会の運営の予算の引き上げの打診に行っているそうだ。

 「予算を引き上げるのは難しいことですの?」
 「一応は少しずつ上がってきてはいるみたいだけどねえ……まあ、あとあの町長は結構マリウス神父様のこと気に入ってるみたいだからね」

 もしかしてこの町に着いた日に宿にいたのも町長と会っていたのだろうか……。そういえばあのときマリウス神父に声をかけられたんだっけ。不審者扱いして申し訳なかった。
 というかあの町長に気に入られるとはさすがマリウス神父……。
 反対に私は初対面でカツラを取ったところを見てしまったし、絶対目をつけられているだろうなとどこか暗い気持ちになりながらジャガイモの皮をむき続けた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら捕らえられてました。

アクエリア
ファンタジー
~あらすじ~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 目を覚ますと薄暗い牢獄にいた主人公。 思い付きで魔法を使ってみると、なんと成功してしまった! 牢獄から脱出し騎士団の人たちに保護され、新たな生活を送り始めるも、なかなか平穏は訪れない… 転生少女のチートを駆使したファンタジーライフ! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 見切り発車なので途中キャラぶれの可能性があります。 感想やご指摘、話のリクエストなど待ってます(*^▽^*) これからは不定期更新になります。なかなか内容が思いつかなくて…すみません

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

処理中です...