精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

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 宿に戻り私はベッドの上で考えていた。

 「うーん……なんだかわからなくなってくる」

 先程のマリウス神父から聞いた話を思い出す。そういえば人間がさらったという可能性はどうなっているのかハンナに聞いてみる。

 「宿の従業員に聞いたのですが、この町を出入りする際検問所で積み荷を確認しているため人を連れ出すとなると難しいそうです」
 「検問所を通らずにキヨラを出る方法は?」
 「一応ここを出ることのできる門は全て兵を配置してありますし、掻い潜って出るとなると難しいのではないでしょうか。あとは森への入り口があって、ここは住民も狩に出かけるため、街道に出るには遠回りになりますし危険もあるので外部の人間はまず利用しないそうです」

 では行方不明の子供達はキヨラから出ていないか、森へいる可能性が大きいのか。内部の人間か、外部の人間かはたまた自らいなくなったのか……。
 今は誘拐の線も考えて目撃者がいないか自警団が聞いてまわっているらしい。
 正直手がかりが少なすぎる。こんなときはもくもくとお菓子作りをするに限るんだけどなー。
 私が唸っている横でハンナがテキパキとお茶の準備をしている。
 
 「お嬢様が考えてもしょうがないのでは? さあ、お茶の準備ができましたよ」

 一息つこうとベッドから起き上がり、リクを見ると収納ポケットからお菓子を取り出していた。

 「もう夕食前ですよ」
 「レイ殿がいつ帰ってくるかわからないから少しならいいだろう」

 収納ポケットから取り出したのは見覚えのないお菓子だった。砂糖の甘い匂いが鼻をくすぐる。

 「昨日、レイ殿と屋台をまわっていた時に買ったお菓子です。カラーチというそうです」
 「食べていいの?」
 「もともとお嬢様とハンナに買ってきたものなので」

 リクから紙包を受け取り、まじまじと見つめる。一見ドーナツのように見えるが、形はドーナツより幅が細く大きい。外側にたっぷりと砂糖がまぶしてあり、内側は切ったパンのようにふわりとしている。リクの収納ポケットに入れていたからかまだほんのりと温かい。
 一口かじるとクロワッサンのようにサクッとした食感で砂糖の甘さが口に広がる。意外と中はふわふわで菓子パンのようだ。

 「おいしー……」

 思わず呟くとリクはモグモグとしながらこちらを見て得意げにうなずいた。ハンナは気に入ったのか黙って黙々とリスのように食べ続けている。

 「ありがとう、リク。レイ様にもお礼を言わなきゃね」

 そう言ってハンナの顔を見ると「え、ええ。そうですね」と口を拭きながら視線をずらした。

 「そういえばハンナはレイ様に会ったことがないって聞いてはいたけど叔父と姪同士なのにどうしてやたら他人行儀なの?」

 ふと思ったことを尋ねるとハンナは途端に苦い表情になった。
 頭に浮かぶのはレイ様に対してやや辛辣な対応のハンナとニコニコと受け流すレイ様のやりとりが浮かぶ。
 屋敷にいたときから二人はそうだった気がする。

 「それは……」

 言い淀んでいるハンナにリクがやれやれと言ったふうにため息をついた。

 「ハンナに対してレイ殿は幼少期会ったときのことを言って軽口をたたいたそうです」

 それは……自分もされたら嫌だ。いったい何を言ったのかは気になるけど。

 「その……私はまったく覚えていないのですが、幼い頃にレイ殿に会ったときにひとめ見て『結婚しよ』って言ったそうで……。それで会ったときに『あんなに結婚したがっていたのにまだ結婚してないんだ』と言われて思わずナイフを投げてしまって……」

 そう言ってハンナはどんよりとした雰囲気になる。

 レイ様、最悪すぎる。そしてデリカシーがまったくない。

 「それは怒っていいと思うわ! なんてデリカシーのない方なの!」

 憤慨しているとリクが「その後セバスとマーサに袋叩きにされてましたので報復は済んでいます」と答える。
 そのときのことを思い出しているのかリクが遠い目をしていて、ハンナは死んだ目をしている。
 先程嘘とはいえマリウス神父にレイ様と恋仲にしてしまったのを申し訳なく思う。

 ハンナはそもそもまだ十六歳である。こちらの世界は早婚ではあるが、十六歳で結婚していなくとも「まだ」と言われるいわれはないのだ。
 そこでハッとする。もしかしてハンナは早くに結婚したい願望があるのだろうか……それでレイ様に言われて図星を指されて思わずナイフを投げてしまったのだとしたら……。だとしたら私にこうして着いてきてくれるのはハンナにとっていいことなのだろうか……。ハンナの希望を聞いてそれに向けて動いてあげなければ。

 「あ、あのハンナ……」

 思い切ってハンナにたずねようとハンナに向き直る。ハンナは不思議そうに私を見た。

 「あのね……ハンナは……もしかして早くに、け、けっ結婚したいとかの願望があるのかしら?」
 「ないです」

 即答したハンナの顔を見ると驚くほど無表情だった。

 「不躾なことを言われて思わずレイ様に攻撃してしまったのは事実ですが、私はもともと結婚願望はまったくありません」
 「そ、そうなの?」
 「ええ、まったく。生涯独身でアリアお嬢様にお使えしたいと思っています」

 そう言ってハンナは私の前まで来て膝まづく。心なしかハンナの瞳は爛々と輝いて見える。
 圧がすごい……。思わず両手で壁を作りハンナの顔を見えないように隠す。

 「そんな生涯だなんてすぐ決めるものではないわ」
 「いいえ! それにずっとおそばにいるとお伝えしたではありませんか!」
 
 確かに屋敷を出る前にそんなことを言っていたような気がするが生涯だなんて聞いていない。

 ホッとしたのは事実だが素直に喜ぶべきか、ハンナを諌めるべきかわからない。
 結婚することが必ずしも幸せにつながるとは限らないとは私は思っているけど。

 
 その後帰ってきたレイ様に対して私が若干冷ややかな視線を向けたのは言うまでもない。
 
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