精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−9

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 「森の方はどうでしたの?」
 
 昼食を昨夜利用したレストランで摂りながら前に座っているレイ様にたずねる。
 夜とは違った雰囲気で個室もなんだか雰囲気が明るい。レイ様はモリモリと食べながら「うーん」と宙を見つめて考えた。
 じゃがいものチーズで重ねて焼いたものが気に入ったのか先程からそれを繰り返すおかわりして食べている。

 「ゴブリンが何匹か出たからそれを倒したかなー」
 「近くまでゴブリンが来ていますの?」
 
 思わずギョッとしていると「あー違う違う。けっこう奥まで探したからね」とフォークを持ったままひらひらと振る。
 その姿にハンナがものいいたそうにするのを横目に続けてレイ様にたずねた。

 「どんな捜査をされていますの?」
 「子供がいた形跡がないかを探しているんだよ。血の跡とか、靴とか破れた衣服とか」

 思った以上に生々しい答えが返ってきてロールキャベツを食べていた手が止まってしまう。気にしない、と頭を振る。

 「それで何か手がかりはありましたか?」
 「それがねー、人間がいた形跡はあるんだけど全然わからないんだよね」
 「わからない?」

 レイ様は自分の握っているフォークを見つめて真剣な表情になる。

 「草むらを踏みならした跡があってさ、それが何箇所かあったんだよね」
 「町の人間では?」
 
 リクが怪訝そうな表情でレイ様に言うもレイ様は「うーん」と唸る。

 「すぐ近くには町の人間が利用する小道があって普通はそれを利用するよ~。それにその草むらをかき分けたあとが途中でそれがパッタリとなくなるの。変じゃない?」
 「大型の鳥の魔物とかの可能性は? 草むらを歩いて途中で飛び立ったとか」
 「それも考えたけど羽一枚残ってないのはおかしいよ。あとね~なーんかだったんだよね」
 「とは?」

 聞き返すとレイ様はニンマリと笑って私の顔を見た。心なしかレイ様の琥珀色の瞳がキラキラして見える。

 「ルリの花が散乱していたんだよね~」
 「ルリの花? ルリの花って精霊召喚の儀に使うあのルリの花?」

 脳裏に瑠璃色の可憐な花を思い浮かべる。瑠璃色の百合の花に似た花弁で年中咲く花だ。うちの屋敷でも育てている。

 「それは謎ですね」
 「そうなんだよね~、リクなんか思い当たることある?」

 レイ様がリクに話を振ると視線がリクに集中する。リクは私達の視線にたじろぎながら、「いえ、特には」と答えた。

 「レイ様、子供がダンテさんの息子さんの前に三人その前に行方不明と聞きましたがその子達の手がかりはありますの?」
 「それがさ! 三人目の子しかわからないんだよね」
 「わからないとは?」
 「ん~、それがおかしなことに誰も知らないんだよねえ~」
 「
 「三人目は教会が運営している孤児院の子供がいなくなったのはわかるんだけど、一人目と二人目がどこのなんていう名前の子がいなくなったって誰も知らないんだよ」
 
 訝しげな表情でハンナがたずねる。

 「そんな、じゃあ誰からいなくなったと聞いたのですか」
 「自警団のえらい人に聞いたんだけど、一人目二人目の被害は直接届けられてないんだって。森へ捜索するのは三人目の子が初めてなんだって~」
 「じゃあ、なんでそんな噂が?」
 「自警団の人もなんでかわからないけど他にもいなくなった子がいるかもしれないって町の人に聞いてるんだって」

 つまりみんな人伝いに聞いて誰かはわからないということか。

 「三人目の教会の孤児院の子がいなくなったのはいつごろですの?」
 「一週間前だったかな~」
 「一人目と二人目がいなくなったという噂がたちはじめたのは?」
 「そこまでは聞いてないや~、また聞いてみるね」

 そう言ってレイ様はコップに入った水を一気に口に入れると立ち上がった。

 「さーて、昼からも森に行ってくるね」

 護衛の仕事なのにここで違う仕事をさせてしまっていることに申し訳なくなり、レイ様に再度謝罪をするとレイ様は歯を見せて笑った。

 「気にしなくていいって。どっちみち二日はここで過ごすんだからさ。暇をもて余すより森でゴブリン倒している方が腕もなまらないし」
 「ありがとうございます……私も何かできることがあればいいのですが」

 そういうとレイ様は何かを思い出したような表情をすると「じゃあさ」と切り出した。

 「屋敷で食べたお菓子が食べたいな~、休憩中に食べたいからさ持ってきてるならちょうだい」

 それを聞いた私はリクにお腹の収納ポケットからスコーンを出してもらう。初めてリクの収納を見たレイ様は「すげー」と目を丸くしていた。
 クリームなしで食べることができるチョコチップや紅茶のスコーンを出してもらって包む。それをレイ様に手渡すとレイ様は嬉しそうに受け取った。
 
 「これお嬢様の手作りなんでしょ? 屋敷で食べたとき美味しいなーって思ってたからまた食べられて嬉しいなあ」

 その言葉が心から思って言ってくれているように思えて嬉しくなる。レイ様はそのまま店を出て森へと向かっていった。

 その背中を見送りながら、どうかレイ様が怪我なく無事で戻って来られますように、そして行方不明の子供たちが早く見つかりますようにと心の中で祈った。

 
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