精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

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 ハンナに書き置きとサンドイッチを置いて宿を出ると、空はいまだどんよりした天気だった。
 宿の入り口を箒で掃き掃除をしている女性に「日が暮れる前に帰ってきなよ」と声を掛けられる。「この子がいるから大丈夫」とリクを指すと驚いたような表情をした。

 「魔物?ネズミ?たぬき? それにしちゃ可愛らしいけど」
 「ふふふ。この子は精霊よ」
 

 そういうと女性はリクをじっと見つめて少し訝しげな表情になる。不思議に思っていると私がみていることに気づいたのかパッと表情を変えた。

 「ごめんよ、あたしは魔力がないはずだから不思議に思ってね」
 「この子は姿を見せることができるの」
 「へえ、いろんな精霊がいるんだねえ」

 感心したようにリクを覗き込む。「よく見ると可愛らしいね」と笑う。リクは黙って気まずそうに下を向いた。
 はぐれとは言わない方がいいだろうと事前に打ち合わせをしておいてよかったと心の中で安堵した。

 「このあたりは精霊はいないの?」

 なんの気無しに聞いてみると女性は難しい顔をして話し始めた。

 「まあ、いるとは思うけどどうだろうねえ……最近じゃ観光でちょくちょくお客さんが連れてるのを見かけたりするらしいけどね。あとははぐれ精霊がたまに森で見かけたとかだね」
 「はぐれ精霊が出るの?」
 「森で話しかけられたーとか森で魔物じゃないふよふよ光ってんのが飛んでたとかね。だからあんたが抱いてるその子がはっきり見えるもんだから最初魔物かと思ってびっくりしたよ」
 「そうなんだ……魔力がある人は住んでいないの?」
 「うーん……光っているのがなんとなく見えたりする人は何人かいるみたいだけどね。火起こしだけ使えるとかね。そんなもん使えなくたって今じゃ魔道具があるからね。あ! 教会の神父様は確か魔力があって生活魔法も使えるし見えるらしいよ」

 ここキヨラではあまり魔力のある人間はいないようだ。平民で魔力があれば、生活魔法を習いに教会に通って魔力量が多ければ特待生として魔法学園に入学することができるというのを聞いたことがある。今はこの女性の言う通り魔道具があることで生活に支障はない。
 ではどこから精霊が子供をさらったなんて話が出てきたのだろう……。

 「子供がいなくなってるのが続いているからあんたも気をつけるんだよ。『早く帰んないと精霊にさらわれるからね』」
 「なんで精霊が子供をさらうの?」

 不思議に思って聞いてみるとリクの顔をみてばつが悪そうな表情をした。

 「精霊を連れているあんたに言うことじゃなかったね。ここいらじゃ、昔から子供が家に早く帰るようにこうやって大人が言い聞かせてたのさ」
 「昔あったの?」
 「ああ。あたしのひい爺様だったかひいひい爺様の時代に精霊が子供を連れ去っていったんだってさ。まあ、嘘か本当かわかんないけどあたしらは親にそう聞かされて早く帰るようにって言われて育ってきたのさ」

 そう言うと女性は「気をつけるんだよ」と言って仕事に戻っていってしまった。他にどこの子供がいなくなったのか聞けばよかったと後悔しながら歩き出す。
 考えながらリクをみるとリクも小さい腕を組みながら何かを考え込んでいるようだった。先程の女性ははぐれであるリクをみて驚いていたことからはぐれ精霊がはっきり見えることは知らないようだった。ではなぜはぐれ精霊が子供を連れ去ったと言われているのかますますわからない。

 二人で街中を歩いてしばらくしたら広場のようなところに行き着く。広場の周りをぐるりと屋台が出ていて賑やかだ。
 レイ様がいわく、以前はもっと屋台が並んでいたらしい。ワクワクする気持ちを抑えながら屋台を物色する。朝食は食べたけどたくさんの食べ物の匂いに思わず私は屋台にくぎづけになった。お小遣いはハンナから食べすぎないことを条件にもらっている。
 目に入ったクレープ屋に並び、紙皿に乗せられたクレープを一つ買う。そしてリクに手渡してから別の店に行き、コップに入ったジュースを二つ買う。
 屋台の近くにベンチがあってそこにリクと二人で腰掛けた。クレープの方は紙皿に正方形の形で載せられており、生地の中にはいちごジャムが入っていて、上からシロップがかかっている。それをリクと半分に分けて食べる。

 「美味しいわね」
 「ええ、甘すぎるかと思いましたが意外とジャムが甘さ控えめですね」

 リクも髭をピクピクとさせながらモグモグと咀嚼している。ジュースはベリーのスムージーのようなものだった。甘酸っぱくて爽やかな味が美味しい。
 喉が乾いていたのであっという間に飲み切ってしまった
 
 お腹も満たされて少し休憩していると視界に少年が入ってきた。帽子を目深にかぶっているその少年は屈んで地面を眺めて何かを探しているようだった。
  
 「落とし物かしら」
 「そうかもしれませんね」

 子供をしばらく眺めていると近くまできた。必死に探し続けていたので思わず声を掛けた。

 「ねえ、何を探しているの」

 いきなり声を掛けられて驚いたのかビクッと身体をさせながら私達の方へ視線を向けた。私の方を見てから隣に視線を向ける。
 少し眉間に皺を寄せたあと小さな声で「別に」と言ってまた地面に視線を戻した。リクが見えても気にしないあたり普段から精霊が見える子なのだろうか。
 
 「探し物、手伝いましょうか」

 そう声をかけると「いい」と返された。無視せず返事を返してくれるあたりいい子の気がした。

 「大切な物なんでしょう? 一人で探すよりいいはずよ」

 立ち上がってその子のもとへ近づく。リクも後ろから着いてきた。背丈は私より少し高いくらいで、帽子からブラウンの髪が見え隠れしている。
 こちらをみることなく目線を下のままぶっきらぼうに言った。

 「お前、それはぐれ精霊だろ。気をつけろよ、狙われるぞ」

 そう言ったかと思うとその子はため息をついて突然走っていって狭い路地の方へ行ってしまった。一瞬追いかけようかと思ったがリクにグイッとスカートの裾を引っ張られた。
 
 「リク?」
 「お嬢様、あの者……精霊の色をまとわせていました」
 「ってことは……」

 リクはこちらをみてはっきり言った。

 「精霊となんらかの関わりがあるということです」
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