精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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2章

2−5

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 次の日は空が曇っていてどんよりした天気だった。窓の外を見ながらハンナに髪を結ってもらう。
 今日の髪型は三つ編みにしてもらい、服はキャメルベージュのワンピース。ワンピースの胸元には白い控えめなフリルの襟、そしてワインレッドの細いリボンが可愛いくてお気に入りだ。
 おとなしめのデザインは間違いなくフリルを私に着せたいティアお姉様には少し物足りない装いだろう。そう思ったところでティアお姉様を思い出す。

 今回の旅はティアお姉様の耳に入るだろうとは思うがそれが少し心配だ。過保護なティアお姉様は旅のことを聞いたら学園を休んで追いかけてきそうだからだ。

 「ねえ、ハンナ。この旅のことはティアお姉様の耳には入るのかしら」
 「サラさんには伝わっているとは思いますが、ティア様には伝えていないと思われます。その……旦那様がアリアお嬢様を追っていきかねないから、と」

 言いづらそうに告げるハンナに苦笑する。ティアお姉様付きのメイドのサラはきっとうまく隠すだろう、ティアお姉様にはできれば私が帰ってくるまでバレませんようにと心の中で願った。
 部屋にノックの音が響き、ドアの向こうでリクが声を掛けてきた。

 「アリアお嬢様、少しよろしいでしょうか」

 ハンナがドアを開けるとリクがちょこんと一人で立っていた。部屋に招き入れながらリクが一人でいることに不思議に思っていると、ハンナが怪訝な顔でリクにたずねていた。

 「リク、見たところあなた一人のようですがレイ様は?」
 「騒ぎがあったようで、レイ殿は問題がないか確認しに行っている」
 「騒ぎ?」
 「どうやらまた子供が行方不明のようです」
 
 その言葉にぞわりと背筋が寒くなる。

 「それで、街の様子は?」
 「自警団で近くの森へ捜索隊を出しているようです。幸い、早朝ということもあり今はまだ大きな騒ぎにはなっていません」

 そこでまたノックの音が室内に響き渡った。レイ様が戻ってきたようだった。

 「いや~大変なことになっちゃったよ」
 
 レイ様は少しため息をついた。その様子になんだか不安になる。
 話によると、今行方がわからない子供はどうやら今日私達が利用する馬車の御者の子供らしい。
 
 御者は子供の行方がわからないため、捜索に加わるということで今日馬車を出すことはできないと私たちが泊まっている宿に申し出があったそうだ。
 確かにこの状況で馬車を走らせることは酷だろう。しかしこの町で他の馬車を借りるにも全て出払っていて空きがないとか。
 御者なしで馬車だけ借りるにも商売道具である馬を他人に貸すなんてできないだろう。他の馬車が戻ってくるまで二日はかかるとのことだった。

 つまり、あと二日はこのキヨラに滞在するということになる。

 「では宿に取り急ぎ滞在期間を伸ばす旨を伝え、部屋の空きを確認して参ります」
 「そうね、あとお父様達に事情があってキヨラにしばらく滞在することを手紙で伝えてちょうだい」

 そう指示を出すと、ハンナはすぐに部屋を出て行った。

 「子供はいつからいなくなったのですか?」
 「確か昨日の夕方ぐらいから帰って来ないって騒ぎになって、朝からもずっと探しているみたい。んで、最近三人立て続けにいなくなっているから四人目かな~って噂されてる」

 自警団が近くの森へ捜索隊を出しているということだが魔物も出るのではないだろうか、そんな疑問を口にするとレイ様は困ったような表情で答えた。
 
 「魔物は出るだろうね~、この辺だとゴブリンやオークも出るだろうね」
 「基本的には森に必ずと言っていいほど魔物はいます。森へ子供だけで行っては行けませんよ」

 そう言ってリクが私に言い聞かせるように小さい人差し指を振った。真剣なリクにコクコクと頷く。それをみたレイ様は笑った。
 
 「森に行くときはリクがついていけばいいじゃん~」
 「もしや一人で行かれるかもしれないだろう」

 リクがムッとした表情でレイ様に返した。非力な私が森へ一人で行くことなど絶対にない。まず怖くて無理だ。そこは安心して欲しい。

 すると思っていたより早くハンナが帰ってきた。

 「宿の方には連泊できるよう手配いたしました。下に少しいるだけで噂が耳に入ってくるぐらいですからたくさんの人間が知っているみたいですね。それとお嬢様、今日利用するはずだった馬車の御者の者が謝罪をしたいと来ています。隣の部屋へ通しますか」

 わざわざ挨拶に来てくれたことに申し訳なく思いながらも隣の歓談ができるスペースのある部屋へ通すように指示を出した。


 「本日は誠に申し訳ございません」

 部屋に入るなり、御者の男性は頭を下げた。御者の男性に座るように席に促す。
 近くで見ると御者の男性は目の下に酷い隈ができており、精神的な疲れも相まって全体的に焦燥感を漂わせていた。その姿を気の毒に思い、ハンナに少しでもリラックスできるようにハーブティーを入れるようにお願いする。 

 男性は恐縮しながらも、ハーブティーを飲んで少し落ち着いたのか状況を整理するように私がたずねる前にぽつりぽつりと話してくれた。
 彼の名前はダンテといい、いなくなった子供の名前はヨシュア。親一人、子一人で生活しており、ヨシュアは普段は馬の世話などをして家業を手伝っているそうだ。

 昨日の夕方、家に帰らないのを心配したダンテさんはヨシュアの友達の家を尋ねて聞きまわるも、どの家の子も今日は見ていないと首を横に振ったという。その後、自警団に訴えてヨシュアを捜索する願いを出して自警団は森へ、ダンテさんと町の知り合い達は町の中を探しているという。
 家出の可能性も指摘されたが父親であるダンテさんにはいなくなる心当たりもなく、親子関係も良好らしい。

 「やっぱり精霊がうちの子をさらったんでしょうか……」

 独り言のようにダンテさんが呟くその言葉は部屋に響いた。

 
 
 
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