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2章
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「はぐれ精霊が人間の子供をさらうって……実際にあったことなんですの?」
恐る恐るレイ様に尋ねると、レイ様はニコニコと笑いながら答えた。
「それがね~、らしいっていう噂はあるんだけどどこの子がいなくなったとかは聞かないんだって~」
「それではただの噂では?」
「そう。だから噂なんだよ~」
そう言って目をさらに細めて笑みを浮かべるレイ様にゾクっとした。子供が実際にいなくなったわけではないのだからと自分に言い聞かせる。
「でもなぜはぐれ精霊が子供をさらうのでしょう?」
ハンナが単純な疑問を問いかけた。
「精霊は子供が好き」
突然リクが口にした言葉に少し疑問を持った。
「リクは子供が好きなの?」
「いいえ、私はまったく。地域によってはそんな認識があるそうです」
「初めて聞いたわ。何故かしら?」
「妖精と精霊を勘違いしている人間が未だに多いのです」
──妖精
妖精とは前世ではおとぎ話でよく出てきた、悪戯好きの神秘的な生命体の認識だった。確かに妖精と精霊の違いは前世ではあまり相違がなかった記憶だ。
こちらの世界では違うのだろうか。
「妖精って一体どういうものなの?」
「妖精とは全く精霊とは違うものです。私達精霊はまず、精霊界で生まれます。必要とするエネルギーも自然のマナや魔力です。妖精はここ、人間界で生まれます。必要とするエネルギーはあらゆる生き物の魂です」
「た、魂……」
物騒な感じになってきて思わず顔が引き攣る。レイ様が「ん~でもさ」と不思議そうな表情を見せる。
「魔物なんかは死んだら魔石になるじゃん? 魔石が好きってこと?」
確かに魔物は死んだら魔石になり、それを魔道具の核に活用されている。
レイ様の質問に対してリクは首を振る。
「妖精は魔物の魔石になる前の魂だけを抜き取ることが得意なのです。魔石になってしまうと取りづらいし、魂を得るには魔物と戦わざるを得ないので魔物から取るときは死にかけの魔物から抜き取るぐらいですかね。あとは死んでも魔石にならない、動物や人間の魂とか」
ファンシーな想像をしていたのが脳内で崩れていく。思わずギャップに打ちひしがれている横でレイ様はリクに続け様に質問する。
「たまに森の中とかで傷もなく息絶えている動物を見るけど、あれは妖精の仕業だったのかな~」
「その可能性は高い。あと奴らは精霊と違って享楽的な部分が多い、気まぐれで悪戯好き」
それは前世での物語の妖精のイメージと一致する。
「じゃあ、どうして妖精と精霊を混同する人が大きのかしら」
首を傾げながら口にするとリクはいささか苦い表情をした。
「おそらく、平民は精霊召喚の儀を行うことがあまりないからでしょう。そして下位精霊や中位精霊であれば気まぐれな部分は似ているところはあるのでそれを勘違いしているのではないでしょうか。あと、悪知恵に関しては妖精は頭が回ります」
「そうなの?」
「昔に妖精が人間の子供を拐かす時に精霊を騙って人気のないところに連れ込んで魂を抜き取る手口がありました。それに味をしめた妖精が人間の子供をさらって魂を抜き取ることが多発したのです」
「えええっ……それはすごく怖いわね」
「その時に運よく逃げ出せた子供が『精霊に拐かされた』と言ったせいで、貴族の精霊召喚の儀の際にどこからか聞きつけた平民が恨んで精霊の目の前で契約者を殺すできごとことがあったのです。その逆も然り、下位精霊を狙って攻撃を仕掛けるものもいました」
遠い昔を思い出しているのかいささかリクの表情は暗い。
「そして精霊や契約者を粛清する動きがあちこちで起こりました。今でこそそんなバカな間違いはないのですが、精霊召喚をするのは貴族だけだったので魔力を多く持たない平民が多かった時代は精霊も妖精も似たような認識だったのでしょう」
「そんな……精霊側から釈明して貴族から平民へ伝えることはできなかったの?」
「今より、貴族は選民意識が強かった時代なので一部の貴族が伝えても信じないものが多かったのです。むしろ平民側は精霊を使って貴族がさせているとさえ思っている者が少なからずいました」
「それでどうやって終結したの?」
「妖精が精霊を騙っているのを突き止め、上位精霊が人間界へ降り立ち、その時いた妖精の半数以上を粛清しました。そして我らが精霊王が妖精女王に名を語らない制約を取り付けました」
話を聞いているとまるで戦争のような凄まじさだ。
「それでも人間の子供が魂を抜き取られたらまた精霊のせいにならない~?」
レイ様の最もな疑問にリクは首を横に振る。
「向こう百年は妖精は人間を乱獲して襲わないと約束をしたのです。百年もあれば人間は忘れるでしょうし、何より妖精のエネルギーにもなる魂を取らないという約束を取り付けるのは期限付きでないと難しいことでしたから」
百年あれば人間は忘れるというリクの言葉に少し背筋が冷たくなる。つまり精霊が子供を好きなわけではなくて、妖精が子供の魂を抜き取る事件があったことから一部でねじ曲がって伝わってそのまま言い伝えられているというわけか。
そしてリクはいささか憂鬱そうに私達の顔を見渡した。
「それにもうそろそろ百年経つので妖精も人間を他の生き物と同じように魂を抜き取ることができます」
恐る恐るレイ様に尋ねると、レイ様はニコニコと笑いながら答えた。
「それがね~、らしいっていう噂はあるんだけどどこの子がいなくなったとかは聞かないんだって~」
「それではただの噂では?」
「そう。だから噂なんだよ~」
そう言って目をさらに細めて笑みを浮かべるレイ様にゾクっとした。子供が実際にいなくなったわけではないのだからと自分に言い聞かせる。
「でもなぜはぐれ精霊が子供をさらうのでしょう?」
ハンナが単純な疑問を問いかけた。
「精霊は子供が好き」
突然リクが口にした言葉に少し疑問を持った。
「リクは子供が好きなの?」
「いいえ、私はまったく。地域によってはそんな認識があるそうです」
「初めて聞いたわ。何故かしら?」
「妖精と精霊を勘違いしている人間が未だに多いのです」
──妖精
妖精とは前世ではおとぎ話でよく出てきた、悪戯好きの神秘的な生命体の認識だった。確かに妖精と精霊の違いは前世ではあまり相違がなかった記憶だ。
こちらの世界では違うのだろうか。
「妖精って一体どういうものなの?」
「妖精とは全く精霊とは違うものです。私達精霊はまず、精霊界で生まれます。必要とするエネルギーも自然のマナや魔力です。妖精はここ、人間界で生まれます。必要とするエネルギーはあらゆる生き物の魂です」
「た、魂……」
物騒な感じになってきて思わず顔が引き攣る。レイ様が「ん~でもさ」と不思議そうな表情を見せる。
「魔物なんかは死んだら魔石になるじゃん? 魔石が好きってこと?」
確かに魔物は死んだら魔石になり、それを魔道具の核に活用されている。
レイ様の質問に対してリクは首を振る。
「妖精は魔物の魔石になる前の魂だけを抜き取ることが得意なのです。魔石になってしまうと取りづらいし、魂を得るには魔物と戦わざるを得ないので魔物から取るときは死にかけの魔物から抜き取るぐらいですかね。あとは死んでも魔石にならない、動物や人間の魂とか」
ファンシーな想像をしていたのが脳内で崩れていく。思わずギャップに打ちひしがれている横でレイ様はリクに続け様に質問する。
「たまに森の中とかで傷もなく息絶えている動物を見るけど、あれは妖精の仕業だったのかな~」
「その可能性は高い。あと奴らは精霊と違って享楽的な部分が多い、気まぐれで悪戯好き」
それは前世での物語の妖精のイメージと一致する。
「じゃあ、どうして妖精と精霊を混同する人が大きのかしら」
首を傾げながら口にするとリクはいささか苦い表情をした。
「おそらく、平民は精霊召喚の儀を行うことがあまりないからでしょう。そして下位精霊や中位精霊であれば気まぐれな部分は似ているところはあるのでそれを勘違いしているのではないでしょうか。あと、悪知恵に関しては妖精は頭が回ります」
「そうなの?」
「昔に妖精が人間の子供を拐かす時に精霊を騙って人気のないところに連れ込んで魂を抜き取る手口がありました。それに味をしめた妖精が人間の子供をさらって魂を抜き取ることが多発したのです」
「えええっ……それはすごく怖いわね」
「その時に運よく逃げ出せた子供が『精霊に拐かされた』と言ったせいで、貴族の精霊召喚の儀の際にどこからか聞きつけた平民が恨んで精霊の目の前で契約者を殺すできごとことがあったのです。その逆も然り、下位精霊を狙って攻撃を仕掛けるものもいました」
遠い昔を思い出しているのかいささかリクの表情は暗い。
「そして精霊や契約者を粛清する動きがあちこちで起こりました。今でこそそんなバカな間違いはないのですが、精霊召喚をするのは貴族だけだったので魔力を多く持たない平民が多かった時代は精霊も妖精も似たような認識だったのでしょう」
「そんな……精霊側から釈明して貴族から平民へ伝えることはできなかったの?」
「今より、貴族は選民意識が強かった時代なので一部の貴族が伝えても信じないものが多かったのです。むしろ平民側は精霊を使って貴族がさせているとさえ思っている者が少なからずいました」
「それでどうやって終結したの?」
「妖精が精霊を騙っているのを突き止め、上位精霊が人間界へ降り立ち、その時いた妖精の半数以上を粛清しました。そして我らが精霊王が妖精女王に名を語らない制約を取り付けました」
話を聞いているとまるで戦争のような凄まじさだ。
「それでも人間の子供が魂を抜き取られたらまた精霊のせいにならない~?」
レイ様の最もな疑問にリクは首を横に振る。
「向こう百年は妖精は人間を乱獲して襲わないと約束をしたのです。百年もあれば人間は忘れるでしょうし、何より妖精のエネルギーにもなる魂を取らないという約束を取り付けるのは期限付きでないと難しいことでしたから」
百年あれば人間は忘れるというリクの言葉に少し背筋が冷たくなる。つまり精霊が子供を好きなわけではなくて、妖精が子供の魂を抜き取る事件があったことから一部でねじ曲がって伝わってそのまま言い伝えられているというわけか。
そしてリクはいささか憂鬱そうに私達の顔を見渡した。
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