精霊に嫌われている転生令嬢の奮闘記

あまみ

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1章

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 「それでグレースの眷属である精霊の話に戻ろうか」
 「先程言った通りアリアの持つ菓子の力ならば黒精霊化しつつある彼奴を救えるかもしれないのだ」
 「聖魔法が浄化作用を持つのは昔の文献に残っているから言っていることはわかるけど、危険すぎる。アリアはまだ守護精霊もいない自分の身を守ることのできない女の子なんだ」

 エヴァンお兄様は冷静にグレース様に危険性を説いた。それを聞いてもグレース様は真っ直ぐに私を見据えた。

 「それについては考えがある」

 そう言ってリクの方を見て「おい」と声を掛けた。
 「今はリクと呼ばれています」とリクは若干嫌そうな顔をして返事をした。

 「そうか。ではリク、お前がアリアを守るがいい」

 その言葉を聞いたエヴァンお兄様がすぐさま「何を言っているんだ!」とグレース様に言い寄った。

 「リクがどれほどの力を持っているかわからないし、何より黒精霊化しつつある精霊がアリアに危害を加えるとしたらリクでは守りきれないかもしれないだろう!」

 これほどまでにエヴァンお兄様が感情をあらわにしているのを見るのは滅多にないので驚いていると、シリルが「エヴァン様、落ち着いてください」とグレース様との間に入ってお兄様を宥めすかした。それでもグレース様を睨みつけているエヴァンお兄様を見てグレース様が苦笑した。

 「やはり、アリアのこととなると兄バカだな。心配しなくとも此奴はそこいらの精霊よりかはよっぽど腕が立つので問題はない」

 意外な事実にまたもや驚きながらリクを思わず見ると、リクはくりくりの目を半目にして呆れたようにため息をついた。

 「結局人任せではないですか……」

 こんなにまるで丸いネズミのような風体の可愛らしいリクが腕が立つ?疑問に思っていると

 「アリア様」

 声を掛けられてリクを見るとリクは身体ごと私の方を向けて真剣な声音で言った。

 「まずは、アリア様のお気持ちです。黒精霊化しつつあるかもしれないことを除いても、精霊は基本臆病です。アリア様の体質からして大人しく話を聞くとは思えません、ましてや契約者を失ってその精霊はその場に留まっていることから精神不安定でアリア様に危害を加えないとは限りません」

 リクの言葉を聞いたお兄様が立ち上がろうとするも、シリルが制止する。

 「グレース様が言っていることは賭けにも近いことです、私は助けてくれたあなたをみすみす危険な場所に行かせたくはない。それはあなたの周りの人間は誰もが思うことです。断っても誰もあなたを責めはしません」
 
 私の気持ち……。
 
 前世はいつの間にか私は死んでいてこの世界に転生した。高校生だった記憶があるだけでどうやって死んだのかも覚えていない。
 前世のことをよく思い出出すたびに懐かしさより胸にモヤモヤとした気持ちが広がるだけ。お菓子に関する記憶は手が覚えているのに。
 今日見た夢のことと言い、前世の記憶は今のアリアである私に何かを訴えているようにも思える。
 いっそ前世の記憶なんて忘れてしまえれば楽なのに……。
 そう思うと僅かにチクリと胸の奥が痛む。アズだった私はいい人生だったのかはわからない。でもこのいいようのないモヤモヤとした気持ちはアズ自身が感じたことなのか。アリアである私はどうするべきなのか。

 私はは悔いなく楽しい一生でありたい。この貴族人生生きていく上では精霊の力は不可欠だ。
 そのためには自分の体質のことを知るということが精霊に嫌われることを解決する糸口になるかもしれないならまずはそれに賭けてもいい。
 やれるだけやってそれでも無理なら平民になってお菓子屋さんになるのもいいかもしれない。
 何より、もっと自分のことが知りたい。

 「私は、行きたい……自分の体質を知るために。グレース様の依頼はその解決の糸口になりそうな気がするの、自分が非力なのはわかっている。それでも何かが掴めそうな気がするの……リク、ついてきてくれる?」

 恐る恐る口に出してリクに尋ねるとリクはパチパチと瞬きをしたあと小さく頷いた。

 「一度救われたこの命、精神誠意私がお守りします」

 思わずホッとしているとエヴァンお兄様は「アリアが行くなら僕も行く」と言いだした。その発言にシリルが慌て出す。
 なぜかというとお兄様は来年魔法学園の入学を控えている。そして一年前からは学園に入学前の貴族間の顔合わせの社交がある。
 今現在社交や入学前の準備で忙しくしているお兄様は私に同伴している場合じゃない。

 「エヴァン様、今だって忙しい合間をぬってのひとときだっていうこと忘れてます? この後手紙を書いたり、入学前の準備だってまだあるんですけど」
 「何、問題ない」
 「涼しい顔して言ってますけど、最近召喚の儀に合わせて社交を控えている状態でお茶会やらパーティーの招待状たくさんきてるんですよ?」
 「返事くらいだったらシリルが私の字を真似て書けばいいだろう」

 エヴァンお兄様が無茶苦茶なこと言っている。
 いつもは真面目なお兄様が反対なことを言ってシリルを慌てさせている。シリルはため息をついた。
 
 「アリアお嬢様が心配なのはわかりますがその前にお二人とも許可を取らなければならないお方がいるのをお忘れですか?」

 視線をこちらに向けられ思わず「あ」と声を出す。忘れていたわけじゃないけどまず最初に許可を取らなねばならない人物のことをすっかり忘れていた。

 
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