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1章
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「エヴァンの精霊召喚の儀を明日執り行うとする」
昼食後にお父様から皆に告げられた。
「とうとうエヴァンも精霊召喚の儀を迎えるのね」
お母様がしみじみと言う。
それでティアお姉様が屋敷に帰ってきたのかと合点がいった。精霊召喚の儀は貴族にとって大イベントである。
何日も前から儀式に必要なものの準備を行うため、精霊召喚の儀は屋敷の人手が足りなくなる。皆儀式の準備やその後屋敷の人間だけでちょっとしたパーティーを行うため、その準備に追われるためメリダが期間限定でお手伝いとして屋敷に訪れたということだった。
前回メリダが屋敷へ来たのはティアお姉様の精霊召喚の儀の時だった。もうすぐとは言っていたものの、まさか明日行うとは。
ギリギリまで私が知らなかったのももしかしたら前回色々あったから気を使わせてしまったのかもしれない。
確か前回のティアお姉様の精霊召喚の儀の時に、ティアお姉様の精霊にはっきり嫌いって言われて、やっぱり精霊に嫌われているんだって悲しくなったんだっけ……。
またあんな風にエヴァンお兄様の精霊に嫌われちゃうのかな……。
思わず不安にかられて、下を向いてしまうと手をギュッと握られた。握られた手を見て顔を上げると、エヴァンお兄様が微笑んでいた。
「大丈夫だよ、僕がついているから」
「お兄様……」
エヴァンお兄様は明日儀式を行うのに私を気遣ってくれている。実は精霊召喚の儀で必ずしも誰もが、精霊と契約できるわけではない。
精霊召喚の儀を行い、精霊に呼びかけても応じてもらえなければ儀式は失敗とされる。
貴族の大半は精霊と契約に成功することが多いとされるが、中には精霊に応じてもらえず失敗に終わった貴族だっていた。
精霊と契約できなかった貴族は、騎士団に入団したり、優秀であれば王宮で文官に就職することができるも、狭き門である。
しかも出世はあまり見込めない。ひどい家だと契約できなかった場合、家を出されたりする。
それほど精霊と契約するということは、この国の貴族社会にとって重要視されている。
エヴァンお兄様だって今後の人生を左右するといってもいい儀式を明日に控えているというのに、不安な素振りなど見せずにこうして私の手を握って安心させようとしてくれている。
それだけでなんだか心強くて、少し泣きそうになった。
ふと、周りを見ると両親や、ティアお姉様、ハンナを始め、使用人たちが心配そうな表情でこちらを伺っていた。
私は一人じゃないんだと少し不安な気持ちが和らいだ。
嫌われていたっていいや、私にはこんなに私を好きでいてくれる人達がいるんだから。
何より明日儀式を控えているエヴァンお兄様に気を使わせてどうする。
「私は大丈夫です」
エヴァンお兄様の手をギュッと握り返して私はしっかりと答えた。
「本当かい? 儀式の最中はメリダと一緒に屋敷の中で過ごしてもいいんだよ、必ずしも儀式は家族全員で迎える必要はないのだから」
お父様がエヴァンお兄様と同じ翡翠色の瞳で心配そうに声を掛ける。お母様もどこか不安そうだ。
「いいえ、私も立ち会わせてください」
今度は先程よりも明るく答えた。
私の答えに心配そうな表情をしながらも両親達はどこかホッとした様子だった。
ティアお姉様はまだ心配そうな表情をしていたため、お姉様ににっこりと笑顔を見せると少し微笑んで私にうなづいて見せた。
「アリアお嬢様のお手製のデザートを食後にどうぞ」
空気を変えるようにメイド長のマーサが配膳を始める。さすがマーサ、気遣いが素晴らしい。
目の前のテーブルに、私が朝からせっせと焼いたベイクドチーズケーキが運ばれる。ブルーベリーソースがかかっていててっぺんにちょんとのったミントの葉が可愛らしい。ミントの葉だって朝から庭師のポル爺とハンナで家庭菜園で育てていたものを詰んだものだ。
ティアお姉様が「わあああ」とキラキラと目を輝かせている。エヴァンお兄様は私に「綺麗だね」と声を掛けてくれる。みんなが食べ始めたのを見届けてから私も出来栄えを気にしながら、いそいそとフォークを手に取ってケーキを口に運ぶ。
口に入れた瞬間、滑らかな下触りとヨーグルトの酸味がなんとも爽やかだ。下のタルト生地もほろっと崩れて美味しい。
ブルーベリーソースも果実の食感が楽しい。前世の記憶をもとに試行錯誤してなんとか作り上げたものだ。
美味しさに思わず噛み締めているとなんだか周りが静かだ。気になって周りの様子を伺うと、みんな黙々と食べていた。
お父様とティアお姉様は無心で食べ続けているし、お母様とエヴァンお兄様は目を閉じて味わっているようだ。
メリダの方を見るとメリダは私の視線に気づいたのか驚いた表情で
「アリアお嬢様、とっても美味しいですわ」
と褒めてくれたのを機にみんなハッと気づいたように口々に褒めてくれた。
「また腕をあげたんじゃないか?」とお父様。
「下のクッキーの生地が好きだわ」とお母様。
お姉様は一際大きな声で「これ、とっても美味しい!」と興奮した様子。
「僕はクリームのケーキも好きだけど、これが一番好きかも」とご機嫌な様子のお兄様。
頑張って試行錯誤して作った甲斐があったな。
家族が喜んでいる様子を見て明日への不安が和らいだ気がした……。
昼食後にお父様から皆に告げられた。
「とうとうエヴァンも精霊召喚の儀を迎えるのね」
お母様がしみじみと言う。
それでティアお姉様が屋敷に帰ってきたのかと合点がいった。精霊召喚の儀は貴族にとって大イベントである。
何日も前から儀式に必要なものの準備を行うため、精霊召喚の儀は屋敷の人手が足りなくなる。皆儀式の準備やその後屋敷の人間だけでちょっとしたパーティーを行うため、その準備に追われるためメリダが期間限定でお手伝いとして屋敷に訪れたということだった。
前回メリダが屋敷へ来たのはティアお姉様の精霊召喚の儀の時だった。もうすぐとは言っていたものの、まさか明日行うとは。
ギリギリまで私が知らなかったのももしかしたら前回色々あったから気を使わせてしまったのかもしれない。
確か前回のティアお姉様の精霊召喚の儀の時に、ティアお姉様の精霊にはっきり嫌いって言われて、やっぱり精霊に嫌われているんだって悲しくなったんだっけ……。
またあんな風にエヴァンお兄様の精霊に嫌われちゃうのかな……。
思わず不安にかられて、下を向いてしまうと手をギュッと握られた。握られた手を見て顔を上げると、エヴァンお兄様が微笑んでいた。
「大丈夫だよ、僕がついているから」
「お兄様……」
エヴァンお兄様は明日儀式を行うのに私を気遣ってくれている。実は精霊召喚の儀で必ずしも誰もが、精霊と契約できるわけではない。
精霊召喚の儀を行い、精霊に呼びかけても応じてもらえなければ儀式は失敗とされる。
貴族の大半は精霊と契約に成功することが多いとされるが、中には精霊に応じてもらえず失敗に終わった貴族だっていた。
精霊と契約できなかった貴族は、騎士団に入団したり、優秀であれば王宮で文官に就職することができるも、狭き門である。
しかも出世はあまり見込めない。ひどい家だと契約できなかった場合、家を出されたりする。
それほど精霊と契約するということは、この国の貴族社会にとって重要視されている。
エヴァンお兄様だって今後の人生を左右するといってもいい儀式を明日に控えているというのに、不安な素振りなど見せずにこうして私の手を握って安心させようとしてくれている。
それだけでなんだか心強くて、少し泣きそうになった。
ふと、周りを見ると両親や、ティアお姉様、ハンナを始め、使用人たちが心配そうな表情でこちらを伺っていた。
私は一人じゃないんだと少し不安な気持ちが和らいだ。
嫌われていたっていいや、私にはこんなに私を好きでいてくれる人達がいるんだから。
何より明日儀式を控えているエヴァンお兄様に気を使わせてどうする。
「私は大丈夫です」
エヴァンお兄様の手をギュッと握り返して私はしっかりと答えた。
「本当かい? 儀式の最中はメリダと一緒に屋敷の中で過ごしてもいいんだよ、必ずしも儀式は家族全員で迎える必要はないのだから」
お父様がエヴァンお兄様と同じ翡翠色の瞳で心配そうに声を掛ける。お母様もどこか不安そうだ。
「いいえ、私も立ち会わせてください」
今度は先程よりも明るく答えた。
私の答えに心配そうな表情をしながらも両親達はどこかホッとした様子だった。
ティアお姉様はまだ心配そうな表情をしていたため、お姉様ににっこりと笑顔を見せると少し微笑んで私にうなづいて見せた。
「アリアお嬢様のお手製のデザートを食後にどうぞ」
空気を変えるようにメイド長のマーサが配膳を始める。さすがマーサ、気遣いが素晴らしい。
目の前のテーブルに、私が朝からせっせと焼いたベイクドチーズケーキが運ばれる。ブルーベリーソースがかかっていててっぺんにちょんとのったミントの葉が可愛らしい。ミントの葉だって朝から庭師のポル爺とハンナで家庭菜園で育てていたものを詰んだものだ。
ティアお姉様が「わあああ」とキラキラと目を輝かせている。エヴァンお兄様は私に「綺麗だね」と声を掛けてくれる。みんなが食べ始めたのを見届けてから私も出来栄えを気にしながら、いそいそとフォークを手に取ってケーキを口に運ぶ。
口に入れた瞬間、滑らかな下触りとヨーグルトの酸味がなんとも爽やかだ。下のタルト生地もほろっと崩れて美味しい。
ブルーベリーソースも果実の食感が楽しい。前世の記憶をもとに試行錯誤してなんとか作り上げたものだ。
美味しさに思わず噛み締めているとなんだか周りが静かだ。気になって周りの様子を伺うと、みんな黙々と食べていた。
お父様とティアお姉様は無心で食べ続けているし、お母様とエヴァンお兄様は目を閉じて味わっているようだ。
メリダの方を見るとメリダは私の視線に気づいたのか驚いた表情で
「アリアお嬢様、とっても美味しいですわ」
と褒めてくれたのを機にみんなハッと気づいたように口々に褒めてくれた。
「また腕をあげたんじゃないか?」とお父様。
「下のクッキーの生地が好きだわ」とお母様。
お姉様は一際大きな声で「これ、とっても美味しい!」と興奮した様子。
「僕はクリームのケーキも好きだけど、これが一番好きかも」とご機嫌な様子のお兄様。
頑張って試行錯誤して作った甲斐があったな。
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