片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる

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つながる心と体、そして罪の告白

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 午前3時、雷はおさまったが、雨は相変わらず降り続いていた。
 心を確かめ合うように、二人は身体を重ねた。
 何度かの射精の後、ユディットは椅子に座るジェラルドに跨がったまま、ジェラルドの胸に頬を寄せていた。
 二人とも半裸で抱き合っている。お互いの肌は汗でじっとりと濡れていたが、心地よい疲れと幸福感に包まれていた。
 
「疲れたでしょう? 一度抜くね」
「……いやです。まだつながっていたいです」
「全く、君はやっぱりかわいい……ね。空っぽになるまで、抱き潰してしまいそうだ」
 
 耳元で甘く囁きながら、長椅子の上にユディットを押し倒す。ユディットの金色の髪が、椅子の上に広がる。

 クスクスと二人で笑い合う。そして再び愛の行為が始まろうとしたその時、ガチャリと扉の開く音がした。
 コツコツと杖をつき、ズルズルと足を引きずる音が、近付いてくる。

 えっ! こんな時間に、一体誰が入ってきたの!?
 ジェラルドを見上げると、口元で人差し指を立てて、「静かに」と口を動かしている。
 うなずくと、人の気配に意識を集中させる。

 足音は、二人のいる懺悔室の前で止まる。

 え、嘘! 入って来ちゃう!

 物音を立てないように様子を伺っていると、信者側の扉が開いた。来訪者は椅子に座ったようだった。
 部屋の間には目の細かい格子が斜めにはめ込まれており、向こう側は見えないが、音は聞こえる。

――罪の告白ヲ……す……マス。こノ、ことは墓まで……モ、グッデ、ぉも、……思いま……が、ォグ、お……奥様ダ、たちが毎夜、わたく……ジィの夢に、あ、アラ……現れて苦しいと嘆く……っ、デ

 しわがれ声の老爺ろうやは、告解を始めたようだった。所々言い淀んだり、言葉が不明瞭になったり非常に聞きづらい。
 
 ここが教会だったのは、50年以上前だ。
 間違えて入ってくるにしても、書庫のドアは認証カードキーが無ければ開かない。
 雨が降ると許しを求めて亡者がやってくる……という噂話の……? まさか。
 
 再びジェラルドを見上げると、神妙な顔をしており、心なしか顔色が悪いように見えた。

――きっ今日、アズ……にもジュ命が尽きる、ォッ……老いボレ、家のため……オガッ……した罪は数えキ…………
 今更、ジブン、肯定スルコトッ、ゼッ……善ニン、……ブル、こともシ……な、亡くな……られたオグゥ……様のダメニィ……告白……

 半裸の状態で動くこともできず、身なりを整えることもできない。ショーツは床に落ち、ワンピースはウエストのあたりでグチャグチャになっている。
 大股を広げてジェラルドを挿入したままという不謹慎な状態で、もうすぐ死ぬという誰とも分からない老人の罪の告白を聞いている。

――ゴォ、シユ人……3人の奥……ザマは、ジゴで、わあ、なく……コ、コ、ロ……殺され……

 目を見開き、再びジェラルドを見上げると、微笑を浮かべながら、キスをしてくる。
 えっ、ちょっと! 室長、こんな場面で一体何を!
 
「怖がっちゃって、可愛い……。嘘だよ。怖がらせ過ぎちゃったかな」

 耳元で囁くと耳を甘噛みしながら、ピチャピチャと舐め始める。甘い刺激に声が上がる。

「……くっ……んぅ。はぁん……」

 抑え気味ではあるが、ついつい喘いでしまう。
 
 この声、聞こえてないの!? 音を出したら、こちらが何をしているのか気付かれてしまいそう!
 しかし老爺は、こちらの状況などお構いなしに話を続ける。
 
――ル……ブルー家、由緒ア……奥様ニィ、ジ、ジュ……従順、求め……ラレ
 シユ人様、命令ハ、ゼッタイ、躾、ル、悪い女ハ、許され、イ
 一人目、奥ザマ、……屋敷の使用人、トゥ、……不貞、ウタガわれ、屋敷、追放。ボウ漢になぶられて、シニ……

「ユディット、はあ、全然萎えないよ。まるで十代の頃のようにガチガチだ」
「あ……、っはぁん、ダメッ、……そんな場合じゃないのにっ」

 自分の中のジェラルドが再び硬度を増してくる。声を押し殺そうとしても、気持ちよすぎて止められない。
 話を聞きたいのに、集中できない……。
 
――二人目……様は、お子、金髪碧眼で、ナカっタ、……自分のコでナイ、トォ、子と……地下牢へ、……そのまま餓死ィ
 三人目、奥様は、こレカらは、事業をオコシ、家……守るベキ、シュジン様へ意見、許サレズ、……両足を切断サれ、滝壺へ落とサ……

「室長、ちょっと待って下さい! 声がっ、聞こえ……」
「ふふ、声なんて聞こえないよ」

 いたずらっ子の顔をして、ジェラルドは微笑む。
 ダメだ、私だけに聞こえるみたい!
 何度も達して敏感になった身体はささやかな刺激で簡単に再燃し、ぎゅうぎゅうと彼のものを締め付けてしまう。
 ゆるゆるとした抽挿が始まる。彼のモノは、ユディットの良いところを感じ取って、執拗に擦る。

「……っ、ああっ、んんっ、……奥ダメェ……」
「どうして声を抑えてるの、もっと可愛い声聞かせて」

 ずんと奥まで突かれて、軽く達してしまう。その様子を嬉しそうに見下ろすと、肩にユディットの両脚をかける。

「こうすれば、もっと啼けるかな?」と、意地悪そうに言うと、上から腰を打ち付ける。彼の切っ先は、最奥を責め立てる。
  
「あああ、っ! いや、そんなに……っ、激しく……しちゃ、はぁん!」
 
 向こうの人に声が、聞こえちゃう! 隣の部屋にいるのは、人なの? 幽霊なの? 分かんない! もうさっきから聞こえちゃってるよね! 手遅れだよね?
 
 事故で片付けられた3件の殺人事件についての懺悔、どこかで聞いたような話だ。特定できそうなのに、思考がまとまらない。

 3人の妻が、事故で亡くなる事件なんて、よくある話かしら?
 思考を巡らせながらも、激しい抽挿で中を擦られ、あんあんと声を上げる。

――ご主人ザマ……逆らうこと、できズ、暴漢を雇……、襲わせ、コロ、地下牢へ食事、運ばズ、ミ殺し、ニげるオグ……様を拘束しまシタ
 全テ、事故死として処……リ

 老爺は嗚咽し、しばし言葉が途切れる。

 はあはあと息を乱し、汗だくになりながら、終わらない愛の交わり。その行為中に聞く陰惨な告白。頭が混乱する。

「ふう。ほら、今度はここに手を置いて」

 ジェラルドに導かれ、格子へ手を置く。格子に近づくと、うっすらと信者側の部屋が見える。
 何か……いる? 黒いモヤの様なモノが、見える気がする。けれど暗くてよく分からない。
 
 ジェラルドは椅子に座り直し、背面座位にユディットの身体を動かすと、熱杭を再びズブズブと挿入する。
 
「はぁ、んっ、くっぅ……すごいっ……です、っん。違うっ、所にあたって……るぅ」
「ああ、ユディット、堪らないよ。もっと深くまで繋がりたい」

 彼は下から激しく突き上げる。ばちゅぱちゅと、淫猥な音が響く。ユディットは思考を放棄する。
 
「ああ、……すごいのっ、ぅあ、ダメ、また……イッちゃ……」
「ほら、イケッ、種付けしてやるっ!」

 ガタガタと音を立てて、クライマックスへ向けて、ジェラルドは一層激しく腰を打ちつける。

「孕めっ! 孕めっ!」
「ああんっ、んあっあ……ああ、すごいっ、一番すごいのきちゃうー!」
   
 ――罪ハ、……ワタシ、背負っていギま……、これ以上犠牲者が出ない……、願い……マス
 まだバル……家、アトツぎ、イナイ、で……シンパ……

 その後は何も聞こえなくなった。
 
 これは、一体誰の話なの。いつのことなの。
 痺れる様な快感と陰惨な自分にしか聞こえない告解。

 ぬるりと彼のものが身体から抜け、秘裂からどろりと白濁が流れ太ももを伝う。再び隣の部屋の方を見たが、もう何も見えなかった。
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