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夢魔と神官
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エイシェは、鏡の中の自分の姿にうっとりとする。
サラサラとしたキャラメル色の髪は艶々と輝き、金色の瞳は闇夜の黒猫のように神秘的だ。指で頬を押すと、素晴らしい弾力で押し戻される。
数日前のカサカサとした肌や爪は、すっかり修復されている。自分史上最高の仕上がりだ。
「信じられない。初物からしか得られない栄養素があるって、お姉様が言っていたけど、本当ね」
一晩、精液を摂取しただけなのに。まるで何歳も若返ったみたい。
シミもシワもすっかり消えたみたい。
顔の角度を変えて隅々まで確認する。
「エイシェ、起きていますか? 朝ごはんが、できましたよ」
控えめなノックが響き、サマエルが声をかける。
「はい、神官様、今参ります」
腰までの長いキャラメル色の髪を1つに結び、ダイニングへ向かう。
シンプルなレースが付いた白のパフスリーブの半袖ブラウスからのぞく腕は、雪のように白く、ネイビーの膝丈のフレアスカートからはすらりとした脚がのぞく。
「神官様、おはようございます」
「エイシェ、おはようございます。よく眠れましたか?」
エイシェは、「はい」と微笑み、サマエルが持っていたトレーを受け取ると、上に乗っていたスクランブルエッグとサラダを手早くテーブルの上へ並べる。
「それは良かったです」
サマエルは、少年のようなあどけなさが残るダークレッドの大きな瞳を嬉しそうに細める。マッシュカットされた銀灰色の髪は、緩くウェーブしており雲のようにふわふわとしている。
「あ、神官様、髪がはねてますよ」
寝癖に気がついたエイシェは、そっと猫っ毛に触れる。
「あっ、ありがとうございます」
「お茶入れますね。神官様は座っていてください」
頬をピンクに染めて恥ずかしそうにするサマエルの反応に、胸がキュンとする。
サモエドの子犬みたいに可愛いっ! チェリーボーイの尊さに、新しい世界が開いてしまいそう。
それにしても……と自分の顎に手を添える。
こんなに初々しくてあどけないのに夢の中では、いっぱしの雄だった。
自分にガツガツと遠慮なく腰を打ちつけた昨夜の彼とは、あまりにも違う。
その濃い精液を、欲望のままに何度も自分の中へ注いだ男と同一人物とは思えない。
夢から出たのにも関わらず、身体があの快感を思い出し、お腹がむずむずとする。
これがギャップ萌えってやつ?
まあ現実の彼の身体は、正真正銘の童貞なんだけど……。
エイシェは、落ちこぼれの夢魔だった。
サマエルの所へ来るまでは、姉や妹のおこぼれをもらい生活していた。
いつもお腹が空いていたが、壊滅的に夢へ入るのが下手で、相手と性交まで至らなかったり、射精する前に相手が目を覚ましてしまったりと失敗ばかりの日々だった。
更に夢魔としてのテクニックもないくせにイケメン、チャラ男ばかりを狙うので、充分な食事にありつけないことが多かった。
彼らは、人間の女とも致しまっくているので、精液は薄く、栄養価が低いのだ。
姉のアルメリナのように、どんな男からでも摂食できればよかったが、どうしても軽薄なイケメンばかりを選んでしまう。そんな自分にうんざりしながらも、なかなか宗旨替えができなかった。
食事とはいえ、手慣れたイケメンと素敵な状況で、ロマンチックにいとなみたいじゃない。
だんだんと肌が荒れ、ガリガリに痩せていくエイシェを見て、妹のメリディが「私が狙っていた人間だけど、エイシェ姉様に譲ってあげるわ」とノースウィンド地区の教会にいる神官のサマエル・ノーブルロットを紹介してくれた。
メリディは枯れ専なので、この年若い神官が歳を取るまで見守っていたらしい。絶対歳を取ったら、自分好みのイケオジになると熱弁をふるっていた。
顔がどタイプというわけではないけど、年下ワンコ属性も全然いける。カワイイは、落ちこぼれの夢魔も救うのだ。
今まで自分の嗜好に執着しすぎて、時間を無駄にしてたわ……。
お茶を入れて、席に着くと、サマエルに感謝の合掌する。
「エイシェ、一体どうしたのですか?」
突然、キラキラとした金色の瞳で見つめられ、戸惑ったのか、頬を再び赤らめながら彼は尋ねる。
「神官様、見ず知らずの私をここに置いてくれて、ありがとうございます。とても感謝しています」
――上質な精液もご馳走様です。おかげで消滅するのは免れそうです。
心の中で重ねてお礼を述べる。
「そんな……。困っている方がいたら、お助けするのが神の使徒である私の務めですから」
エイシェは、乱暴を働く婚約者から逃げてきた町娘の振りをして、この教会へやって来た。ほとぼりが覚めるまで、匿って貰うことになっていた。
「神様の慈悲に感謝して、今日も1日頑張ってお手伝いしますね」
「それはありがたいですが、あまり無理をしないで下さい」
微笑む彼は、無垢で汚れを知らない年若い神官であり、あどけない青年に見える。
後光が差して、本当に天使様みたい。守りたい、この笑顔!
エイシェは、眼福眼福とご機嫌で今日も頑張ろうと思った。
サラサラとしたキャラメル色の髪は艶々と輝き、金色の瞳は闇夜の黒猫のように神秘的だ。指で頬を押すと、素晴らしい弾力で押し戻される。
数日前のカサカサとした肌や爪は、すっかり修復されている。自分史上最高の仕上がりだ。
「信じられない。初物からしか得られない栄養素があるって、お姉様が言っていたけど、本当ね」
一晩、精液を摂取しただけなのに。まるで何歳も若返ったみたい。
シミもシワもすっかり消えたみたい。
顔の角度を変えて隅々まで確認する。
「エイシェ、起きていますか? 朝ごはんが、できましたよ」
控えめなノックが響き、サマエルが声をかける。
「はい、神官様、今参ります」
腰までの長いキャラメル色の髪を1つに結び、ダイニングへ向かう。
シンプルなレースが付いた白のパフスリーブの半袖ブラウスからのぞく腕は、雪のように白く、ネイビーの膝丈のフレアスカートからはすらりとした脚がのぞく。
「神官様、おはようございます」
「エイシェ、おはようございます。よく眠れましたか?」
エイシェは、「はい」と微笑み、サマエルが持っていたトレーを受け取ると、上に乗っていたスクランブルエッグとサラダを手早くテーブルの上へ並べる。
「それは良かったです」
サマエルは、少年のようなあどけなさが残るダークレッドの大きな瞳を嬉しそうに細める。マッシュカットされた銀灰色の髪は、緩くウェーブしており雲のようにふわふわとしている。
「あ、神官様、髪がはねてますよ」
寝癖に気がついたエイシェは、そっと猫っ毛に触れる。
「あっ、ありがとうございます」
「お茶入れますね。神官様は座っていてください」
頬をピンクに染めて恥ずかしそうにするサマエルの反応に、胸がキュンとする。
サモエドの子犬みたいに可愛いっ! チェリーボーイの尊さに、新しい世界が開いてしまいそう。
それにしても……と自分の顎に手を添える。
こんなに初々しくてあどけないのに夢の中では、いっぱしの雄だった。
自分にガツガツと遠慮なく腰を打ちつけた昨夜の彼とは、あまりにも違う。
その濃い精液を、欲望のままに何度も自分の中へ注いだ男と同一人物とは思えない。
夢から出たのにも関わらず、身体があの快感を思い出し、お腹がむずむずとする。
これがギャップ萌えってやつ?
まあ現実の彼の身体は、正真正銘の童貞なんだけど……。
エイシェは、落ちこぼれの夢魔だった。
サマエルの所へ来るまでは、姉や妹のおこぼれをもらい生活していた。
いつもお腹が空いていたが、壊滅的に夢へ入るのが下手で、相手と性交まで至らなかったり、射精する前に相手が目を覚ましてしまったりと失敗ばかりの日々だった。
更に夢魔としてのテクニックもないくせにイケメン、チャラ男ばかりを狙うので、充分な食事にありつけないことが多かった。
彼らは、人間の女とも致しまっくているので、精液は薄く、栄養価が低いのだ。
姉のアルメリナのように、どんな男からでも摂食できればよかったが、どうしても軽薄なイケメンばかりを選んでしまう。そんな自分にうんざりしながらも、なかなか宗旨替えができなかった。
食事とはいえ、手慣れたイケメンと素敵な状況で、ロマンチックにいとなみたいじゃない。
だんだんと肌が荒れ、ガリガリに痩せていくエイシェを見て、妹のメリディが「私が狙っていた人間だけど、エイシェ姉様に譲ってあげるわ」とノースウィンド地区の教会にいる神官のサマエル・ノーブルロットを紹介してくれた。
メリディは枯れ専なので、この年若い神官が歳を取るまで見守っていたらしい。絶対歳を取ったら、自分好みのイケオジになると熱弁をふるっていた。
顔がどタイプというわけではないけど、年下ワンコ属性も全然いける。カワイイは、落ちこぼれの夢魔も救うのだ。
今まで自分の嗜好に執着しすぎて、時間を無駄にしてたわ……。
お茶を入れて、席に着くと、サマエルに感謝の合掌する。
「エイシェ、一体どうしたのですか?」
突然、キラキラとした金色の瞳で見つめられ、戸惑ったのか、頬を再び赤らめながら彼は尋ねる。
「神官様、見ず知らずの私をここに置いてくれて、ありがとうございます。とても感謝しています」
――上質な精液もご馳走様です。おかげで消滅するのは免れそうです。
心の中で重ねてお礼を述べる。
「そんな……。困っている方がいたら、お助けするのが神の使徒である私の務めですから」
エイシェは、乱暴を働く婚約者から逃げてきた町娘の振りをして、この教会へやって来た。ほとぼりが覚めるまで、匿って貰うことになっていた。
「神様の慈悲に感謝して、今日も1日頑張ってお手伝いしますね」
「それはありがたいですが、あまり無理をしないで下さい」
微笑む彼は、無垢で汚れを知らない年若い神官であり、あどけない青年に見える。
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