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比翼連理

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 はあはあと二人の荒い呼吸だけが、夜中の図書室での唯一の音。
 お互いに頭をあげると、どちらからともなくキスが始まる。
 オルフィロスは、ロータスの汗でしっとりと湿る背中を撫でる。
 
「全然足りない。肌と肌を重ねて、もっと思いっきり抱きたい」

 オルフィロスはカーディガンを拾い、ロータスにかける。そして機敏な動きでロータスを抱き上げると、図書室を後にする。
 ロータスのいた部屋に入り、最短距離でベッドまで向かう。そして彼女をベッドの上に優しく下ろす。

 オルフィロスは、ロータスの上で膝立ちになり、乱暴に服を脱ぎ捨てる。
 美しい肉体美に目が釘付けになる。盛り上がった胸筋、はっきりと割れた腹筋、上腕二頭筋が、彫刻で彫られた像のように完璧なバランスを保っている。
 しかしそんな完璧なオルフィロスの肉体の心臓の所には、イグニスに剣で貫かれた時の傷が残っていた。ロータスは、鍛えられた胸筋の上の傷跡をそっと撫でる。
 
「これ、まだ痛いとかあるのですか?」
「本当は綺麗に消えるけど、敢えて残しているんだ。この傷はかつて私たちが繋がっていたことを思い出させてくれるから」
「一度死にかけたから、鎖が壊れたんですよね」

 苦しい思い出でもある気もするが、オルフィロスは気にしていないようだった。

「剣が身体を貫通したからか、背中にも傷跡があるんだ。イグニスにやられた時、もう今回ばかりは死を覚悟したよ」

 オルフィロスが前屈みになると、さらりと銀髪がロータスの肩にかかる。
 
「私も、あなたは死んでしまったとずっと思っていました」
「メドウだったから、何とか一命を取り留めたんだと思う。聖水の源の町だし、リュミエール神のお膝元でもある」
「また落ち着いたらメドウやレムリーア山に、行きたいですね。温泉も入ってないし、ぁん、ああっ」

 話の途中にも関わらず、オルフィロスはロータスに覆いかぶさり、自身をぐっと挿入する。ロータスの蜜口はぬるりと彼を受け入れる。
 
「ん、っ、結婚式が終わって、落ち着いたら、また行こう。ハウス・メドウのこと、結構気に入ってたよね」

 話をしながら、オルフィロスはゆるゆると腰を動かし始める。少し硬さを取り戻したそれは、ロータスの柔らかな媚肉を堪能するように大きくゆっくりと律動する。
 先端がロータスの良い所を余すことなく、擦っていく。

「そ、そうなんです。けど、あっ、あ、やあ、もうどうしてそんなにっ、……硬くなってきているのですか?」
「そんなの君と愛し合いたいからに決まっているじゃないか。すっかり元通りにきつくなってしまっているから、また私の形に整えないといけないね」

 オルフィロスは、彼女の両太ももを抱えると、片方の手をロータスの顔の横につく。ロータスは上気したオルフィロスの顔を見つめる。
 
「いつもと違ういい所も見つけていかないと。やることたくさんあるね?」
 
 オルフィロスはにこりと笑うと、ロータスの身体をくの字にまげ、今度は上から腰を打ち付ける。
 内奥まで攻められ、ロータスはあまりの快感に、言葉が出ない。

「あっん、やぁ、っんん、ぁあ」
 
 口から出るのは、自身の甘い喘ぎ声と荒い息だけだ。
 ぐちゃぐちゃと卑猥な音を立て、二人は睦み合う。

 ガチガチに固まったオルフィロスの昂りは、何度もロータスのポルチオ辺りを突く。
 
 弱い場所を徹底的に攻められて、ロータスは半ば強制的に達してしまう。

「ああぁ、ん、オルフィ、頭が……真っ白になっちゃう。……私、すごく怖い」

 息も絶え絶えにオルフィロスへ抗議する。力が入らない手で、ぽかぽかとオルフィロスの肩を叩く。脚はいまだに痙攣し、ガクガクと震えている。
 
「大丈夫、普通のことだよ。イクのにも慣れていこうね。何度抱いても全然慣れてくれないから、頑張り甲斐があるね」

 オルフィロスは、穏やかな笑顔を浮かべながら、今度はロータスをうつ伏せにする。背中からロータスの上に乗り、すっかり臨戦状態になっている自身を再び、ぐっとねじ込む。

「やぁ、まだダメ。敏感だからぁ、っ」
「それがいいんじゃないか」

 奥まですべて埋めると、すぐには動かずオルフィロスはロータスの背中を愛撫し始める。触れるか触れないかの距離を保つ、彼の唇に、ロータスは身悶える。

「あぁ、んん……、何だかくすぐったいような、気持ちがいい、ようなぁ……変な感じ」
「ふぅん、余裕ありそうだね。そろそろ私のと馴染んできた頃だし、もう激しくしても平気かな」
「充分激しっ、……ああっ」

 オルフィロスは容赦なく抽挿を始める。彼の筋肉の線に沿って、汗が流れ落ちる。穏やかな神官オルフィロスは、そこにはいない。愛する人を激しく求める美しい野獣のような男は、逃がさないとばかりにロータスを貪っている。

 うつ伏せに組み敷かれて、ロータスは動けない。シーツをぎゅっと握りしめて、快楽の波に抗う。
 愛液はしとどに流れてシーツに広がる。オルフィロスの猛りは、更に滑らかにピストンを続ける。

「ああ、ほんとっに、もうダメ。またイッちゃう、もうああああ……」

 ロータスの隘路は、一気に収縮し、オルフィロスの芯を包む。オルフィロスはロータスの華奢な身体に、後ろから両腕を回し、抱きしめる。
 お互いの肌が熱くて、気持ちがいい。

「リリィ、待って。私も一緒にイキたい」
「ああ、あっ、や、んんっ、あぁぁ……」

 ベッドのスプリングが壊れてしまいそうなほど激しくオルフィロスは腰を打ちつける。
 
「リリィ、愛してる。ああ、っ」

 どくどくとオルフィロスの凶暴なものは、精を吐き出す。
 ロータスを全身を痙攣させ、ゆっくりと中のものを解放する。力がなくなった自身をすぐには抜くつもりがないようで、オルフィロスは抜かずに話し出す。

「子どもは十人くらいほしいな。でもまだ二人だけの生活を楽しみたいな」
「でもこんなに……したら、すぐ妊娠しちゃいますよ……」

 ロータスは、何度も中出しされた自分の腹を無意識に撫でる。
 
「さすがに結婚式までは、気を付けないと。まあ君の周期は把握しているから、問題ないよ」
「……さすがです」

 ロータスは伏目がちになり、流石にちょっとそれは怖いかも……と思う。
 
「いや、ちょっと引かないでよ。王族として、子を残すってことは大切なことだろう?」
「そうですけど……、何だかその笑顔、怖い時があるのですよね」
「裏表はあるけど、リリィに対してだけは、嘘はないから。私の身体も心も全て君のものだよ」
「もう! そうやって、ずるいんだから……」
「そんなの、知っているでしょ」
 
 二人はクスクスと笑いながらキスをする。
 オルフィロスの少しだけ大人しくなった分身が、名残惜しそうにずるりと抜ける。
 ロータスは、オルフィロスへ向き合い、胸に頬を寄せる。どくどくと心音が聞こえる。
 オルフィロスが、生きているということを感じるだけで、こんなにも幸せな気分になる。
 今まで死と隣り合わせの生活だったから、余計にそう思うのかもしれない。ただそこに在るだけで、尊いものなのだ。
 
 オルフィロスは、ロータスをふわりと抱きしめる。

(どうせ、閉じ込められるならこの腕の中がいい……。何てね)
 
 かつて比翼連理の鎖につながれていたお互いの魂ように、二人はぴったりと寄り添って眠りについた。





◇◇◇

 とある日の夕方、家路を急ぐ人、飲みに行く人、これから出勤の人、様々な人が行き交う街。
 カフェで時間つぶしをしている女性が二人、話をしている。

「ねぇ、『救国の乙女と選ばれし四人の護り人』のスピンオフが出るんだって。今度はオルフィロスのプリマヴェル神聖国が舞台らしいよ」
「え、そうなの? オルフィロスかっこいいよねー。穏やかで優しいのに、意外と腕力がゴリラなギャップもいい」

 話を始めた女性は、隣の友達にスマホをスクロールしながら、ゲームの内容を話す。
 
「なんと話は、オルフィロスと悪役令嬢ロータスの結婚式の一ヶ月前から始まるんだって」
「オルフィロス、ロータスと結婚するの⁉︎   何その急展開! 気になり過ぎる!」

 もう一人の女性が興奮したようにカフェのテーブルをバンバンと両手で叩く。
 
「でしょうー。それにしても本当にこのゲームの製作者はロータスのこと好きだよね。主人公のエンディングのほとんど全てに悪役令嬢のエピソードをぶっ込んでくるとか。歪んだ愛を感じる」

 少し温くなってしまったロイヤルミルクティーを口に含む。

「確かに、使い勝手がいいのかもね、ロータスは。それで、どんな内容なの?」
「プリマヴェルで聖なる水が枯渇の危機になるんだって。その謎を解き明かしながら、メドウの神官ネヴァとして、ストーリーを進めるらしい」
「ロータス……また当て馬なのか……。いい加減ヒロインちゃんにしてやれよって! という気持ちもある。まあちょっと可哀想だけど、ストーリーがいいから絶対やるわ」
「攻略対象のヴィジュもいいし、萌えるよねー。私も絶対プレイするっ。あ、やば、もう時間だ、行こ!」

 時計を見て、二人は慌てて荷物を片付け、外へ出ていった。


***

END
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みんなの感想(4件)

夢子
2023.01.27 夢子

完結おめでとうございます。
もう続きが読めないなんて残念です。
主人公の二人が今度こそ幸せに暮らせますように、祈っています。

ザカライアスやイグニスたちの最後どうなったか知りたい気持ちもあります。

おりの まるる
2023.01.28 おりの まるる

お読みいただきありがとうございました。感想、嬉しいです。きっと困難があってもまた二人で乗り越えることができると思っています!

解除
kokekokko
2022.09.27 kokekokko

ひょっとして。。と最後の最後に気づいたらやっぱり!
私もその後があったら読んでみたいです。

おりの まるる
2022.09.29 おりの まるる

お読みいただき、ありがとうございました!
すっきりと落として終わるつもりだったので、続きは考えていなかったのですが、表に出せそうなら時間がある時に書いてみます。

解除
kokekokko
2022.09.27 kokekokko

5話目、ロータスが殿下と『呼んだとき』が、読んだとき、になっていたので報告です。続き読みに行ってきます!

おりの まるる
2022.09.29 おりの まるる

ご指摘ありがとうございました!

解除
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