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ハーレムエンドのはずなのに
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ロータスは城に着くと極度の緊張と疲労により、体調を崩し、臥せってしまった。やっと起き上がれるようになったのはそれから半月ほど経った頃だった。
聞いたところによるとあの国外追放が言い渡された日、オルフィロスは、前もって情報を秘密裏に入手しており、一足先に国境の街で待機してくれていたそうだ。
そのままプリマヴェルでロータスを保護しようとしていた。しかしいつまで経ってもロータスは現れず、翌日死の森へ連れて行かれたことを知り、プリマヴェル側から森へ入り、探索していたそうだった。
あれからまだ一ヶ月しか経っていないなんて不思議だ。
ロータスは、王城の日当たりの良い貴賓室から春の花々で色づく庭をぼんやりと眺めていた。
ここは、光の神リュミエールの加護を受けているため、常春の国とも呼ばれている。温暖な気候と豊かな資源は、神を信じるものたちに恩恵を与え、神聖力を持つ神官が多く生まれる場所であった。
ロータスは、体調は良くなったものの、依然として脚は思うように動かない。ヒュドラの毒は既に抜けているが、深々と突き刺さった牙は骨を砕き筋を断絶していた。
時が経てば歩けるようになるが、一生脚を引き摺ることになるかもしれないと医師には言われていた。
あの森を何とか生きて出てこれたということに感謝しなければと思う。しかし一方で、隣国で国外追放になった自分はここにいてもいいのだろうかと悶々とする。
オルフィロスに迷惑をかけたくない。そして、ゲームの攻略対象と一緒に居ることで再びゲームの強制力に巻き込まれるのではないかと不安になる。
こんな落ちぶれた自分をこれ以上見せたくないという気持ちもある。もう昔とは違うのだ。
もう少し身体が良くなったら、当初の計画通り旅に出よう。
コンコンとノックの音がする。
「リリィ、庭でお茶をしない? 外は風が気持ちいいよ」
「殿下……。お忙しいのでは? 私のことは大丈夫ですから」
ロータスが『殿下』と呼んだ時、オルフィロスの眉がほんのわずか不快そうにピクリとした。そして傷ついたような顔をしながら、「リリィ、君のこと以上に優先されることなんてないよ」と優しく言葉を繋げる。
「でも……」
ロータスは胸元の光の加護を受けているイエローダイヤモンドのネックレスを無意識に握りしめる。その様子を見て、オルフィロスはふっと微笑みを浮かべる。
「それ、いつも身につけていてくれるんだね。嬉しいよ。さ、準備はもうできているから」
「え?」
オルフィロスは、ロータスを抱き抱えると、庭へと向かう。
「重いですから! 車椅子に乗せてください」
「全然。落ちると危ないから、私の首に腕を回して」
額にキスを落とされて、顔が熱くなる。
「何をするんですかっ!」
「言うこと聞かないと、その度にキスするから気をつけて」
甘ーい! 甘すぎるっ。さすがは乙女ゲームの攻略対象だわ。
クスクスとオルフィロスが楽しそうに笑っている。
恥ずかしくて仕方ないけど、こういう扱いをされたのは初めてで。悪役令嬢ではなく、まるで自分が可愛らしい愛され姫にでもなった気持ちになる。
青い三角屋根に白い柱を持つガゼボには、既にティーセットが用意されていた。白の丸い大理石でできたテーブルには、向かい合わせに座るように椅子が置かれている。
オルフィロスは、椅子を引いてロータスを座らせ、向かいに置いてある自分の椅子をロータスの隣に移動して、さっと真横に座る。ピッタリとくっつくように並んで二人が座ると、使用人により紅茶が注がれる。
肩が触れそうなほど近い……。毛穴とか大丈夫かな……。
「さ、君の好きそうなものを揃えたから、遠慮なく食べて」
「殿下、ありがとうございます。ですが、私はフェアファクスから国外追放された平民です。療養させて下さっているだけでも恐れ多いのに……」
「リリィ、殿下なんてよそよそしい呼び方はやめてほしい。どうかあの頃のように気安く私を呼んで」
「でも……」
「お願い。君の命の恩人なのだから、この位の我儘は許してくれるよね?」
深い海のような青い瞳がロータスを懇願するように見つめる。
う……。全然引いてくれない。そして悲しげな顔をするから、何だか自分が悪いことをしているような気持ちなり、罪悪感が湧き上がる。
「はい。オルフィ……」
「よくできました。はい、じゃあこれ食べてみて」
オルフィロスはお菓子を手に取り、ロータスの口元に添える。
「じ、自分で食べられます!」
「そう言わないで」
柔らかな笑みには、光の神リュミエールの姿が見えるならこんな姿だろうと思えるほど人を超えた圧倒的な美があった。優し気に細められた深い海の青はまっすぐに自分を見つめている。薄い形の良い唇はつややかで、その声は耳を甘くしびれさせる。胸までの銀の髪は艶々と輝き、まるで後光が差しているように見える。
こんなの抗えるわけがない! 攻略対象に相応しい麗人。自分の姿を恥ずかしくなってしまうほどの美人さんだ。
前世では神官オルフィロスはビジュアルだけだったら、ザカライアス殿下より好みだったなぁ。
遠い目をして諦めると、ロータスはその薔薇色の唇を少しだけ開く。そっと口へと運ばれたお菓子は、甘さ控えめで上品な味がした。
「あ、少し口元に残っている」
オルフィロスは、唇を近づけて彼女の口元のお菓子を直接口に含む。ふわりと彼の薄い唇がロータスの口元を掠める。
「……いっ、一体何を!」
「お菓子取ってあげただけだよ。顔、真っ赤にして、可愛い」
聞いたところによるとあの国外追放が言い渡された日、オルフィロスは、前もって情報を秘密裏に入手しており、一足先に国境の街で待機してくれていたそうだ。
そのままプリマヴェルでロータスを保護しようとしていた。しかしいつまで経ってもロータスは現れず、翌日死の森へ連れて行かれたことを知り、プリマヴェル側から森へ入り、探索していたそうだった。
あれからまだ一ヶ月しか経っていないなんて不思議だ。
ロータスは、王城の日当たりの良い貴賓室から春の花々で色づく庭をぼんやりと眺めていた。
ここは、光の神リュミエールの加護を受けているため、常春の国とも呼ばれている。温暖な気候と豊かな資源は、神を信じるものたちに恩恵を与え、神聖力を持つ神官が多く生まれる場所であった。
ロータスは、体調は良くなったものの、依然として脚は思うように動かない。ヒュドラの毒は既に抜けているが、深々と突き刺さった牙は骨を砕き筋を断絶していた。
時が経てば歩けるようになるが、一生脚を引き摺ることになるかもしれないと医師には言われていた。
あの森を何とか生きて出てこれたということに感謝しなければと思う。しかし一方で、隣国で国外追放になった自分はここにいてもいいのだろうかと悶々とする。
オルフィロスに迷惑をかけたくない。そして、ゲームの攻略対象と一緒に居ることで再びゲームの強制力に巻き込まれるのではないかと不安になる。
こんな落ちぶれた自分をこれ以上見せたくないという気持ちもある。もう昔とは違うのだ。
もう少し身体が良くなったら、当初の計画通り旅に出よう。
コンコンとノックの音がする。
「リリィ、庭でお茶をしない? 外は風が気持ちいいよ」
「殿下……。お忙しいのでは? 私のことは大丈夫ですから」
ロータスが『殿下』と呼んだ時、オルフィロスの眉がほんのわずか不快そうにピクリとした。そして傷ついたような顔をしながら、「リリィ、君のこと以上に優先されることなんてないよ」と優しく言葉を繋げる。
「でも……」
ロータスは胸元の光の加護を受けているイエローダイヤモンドのネックレスを無意識に握りしめる。その様子を見て、オルフィロスはふっと微笑みを浮かべる。
「それ、いつも身につけていてくれるんだね。嬉しいよ。さ、準備はもうできているから」
「え?」
オルフィロスは、ロータスを抱き抱えると、庭へと向かう。
「重いですから! 車椅子に乗せてください」
「全然。落ちると危ないから、私の首に腕を回して」
額にキスを落とされて、顔が熱くなる。
「何をするんですかっ!」
「言うこと聞かないと、その度にキスするから気をつけて」
甘ーい! 甘すぎるっ。さすがは乙女ゲームの攻略対象だわ。
クスクスとオルフィロスが楽しそうに笑っている。
恥ずかしくて仕方ないけど、こういう扱いをされたのは初めてで。悪役令嬢ではなく、まるで自分が可愛らしい愛され姫にでもなった気持ちになる。
青い三角屋根に白い柱を持つガゼボには、既にティーセットが用意されていた。白の丸い大理石でできたテーブルには、向かい合わせに座るように椅子が置かれている。
オルフィロスは、椅子を引いてロータスを座らせ、向かいに置いてある自分の椅子をロータスの隣に移動して、さっと真横に座る。ピッタリとくっつくように並んで二人が座ると、使用人により紅茶が注がれる。
肩が触れそうなほど近い……。毛穴とか大丈夫かな……。
「さ、君の好きそうなものを揃えたから、遠慮なく食べて」
「殿下、ありがとうございます。ですが、私はフェアファクスから国外追放された平民です。療養させて下さっているだけでも恐れ多いのに……」
「リリィ、殿下なんてよそよそしい呼び方はやめてほしい。どうかあの頃のように気安く私を呼んで」
「でも……」
「お願い。君の命の恩人なのだから、この位の我儘は許してくれるよね?」
深い海のような青い瞳がロータスを懇願するように見つめる。
う……。全然引いてくれない。そして悲しげな顔をするから、何だか自分が悪いことをしているような気持ちなり、罪悪感が湧き上がる。
「はい。オルフィ……」
「よくできました。はい、じゃあこれ食べてみて」
オルフィロスはお菓子を手に取り、ロータスの口元に添える。
「じ、自分で食べられます!」
「そう言わないで」
柔らかな笑みには、光の神リュミエールの姿が見えるならこんな姿だろうと思えるほど人を超えた圧倒的な美があった。優し気に細められた深い海の青はまっすぐに自分を見つめている。薄い形の良い唇はつややかで、その声は耳を甘くしびれさせる。胸までの銀の髪は艶々と輝き、まるで後光が差しているように見える。
こんなの抗えるわけがない! 攻略対象に相応しい麗人。自分の姿を恥ずかしくなってしまうほどの美人さんだ。
前世では神官オルフィロスはビジュアルだけだったら、ザカライアス殿下より好みだったなぁ。
遠い目をして諦めると、ロータスはその薔薇色の唇を少しだけ開く。そっと口へと運ばれたお菓子は、甘さ控えめで上品な味がした。
「あ、少し口元に残っている」
オルフィロスは、唇を近づけて彼女の口元のお菓子を直接口に含む。ふわりと彼の薄い唇がロータスの口元を掠める。
「……いっ、一体何を!」
「お菓子取ってあげただけだよ。顔、真っ赤にして、可愛い」
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