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第四章 聖女は幸せになるようです
闇夜に消える
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ぬっと伸ばされた太い腕が天音に影を落とす。天音は、急所を守るように自分の身体を抱きかかえる。圧倒的な体格差からそんなことをしても無駄だというのに、前世での癖が無意識に出てしまう。
全てを諦めた時、コロリと何かが落ちる音がした。
何となく場の雰囲気が変わったような……。天音はおそるおそる目を開く。
瞳を開くと、持ってきた聖水晶がのいくつかがコートのポケットから床に落ちたようだった。オーガたちを見ると、先ほどまでの狂暴な様子は見えず、興味深そうにキラキラと白銀に輝く聖水晶を見ていた。
身体はすごく大きいけれど、中身は子どもなのかな? 天音は、慎重に観察をする。
オーガたちは綺麗なものや不思議そうなものが物珍しいのか、聖水晶にくぎづけだった。一人が、聖水晶を指でツンと続く、光の反射でキラキラとする。驚いた顔をして、聖水晶を手に取ると周りのオーガも覗き込む。
興味津々の顔とは裏腹に、腕の隷属紋や連行されてきた時についた傷が皆痛々しかった。
(何だか痛そう……。聖水晶が無駄になるのはもったいないし、せっかくだし傷を治してあげよう)
天音は、持っている聖水晶を使って、「治癒」と唱える。
瞬く間に、近くにいたオーガたちの傷が治る。
よく分からないが、隷属紋も消えた。契約魔法の一種なので傷とは違うと思うのだが。隷属紋を消してあげたいと思いながら力を使ったからなのかもしれない。
傷が治ったオーガたちは、聖水晶で遊ぶのを止めて、天音をじっと見つめる。
和気あいあいとしていた場の雰囲気が、しんと静まる。
……あ、ついに殺されちゃうかな。あれだけ人から嫌な目にあった後だし仕方ないか……。天音は、奥歯を噛み締め、再び覚悟を決める。
一人のオーガが天音に近づいてくる。
「キズ……治った、アリガト」
「どういたしまして。って言うか、言葉話せるの?」
天音は、一般的にオーガには言葉が通じないと聞いていたので、当惑する。オーガたちは、こくこくと首を上下に揺らす。
「習った、ペルケレ、教えた」
どうやら魔族王ペルケレが、どう言う経緯か分からないが、オーガたちに言葉を教えてあげたらしい。
「俺たちより、兄さんたち、キズ酷い」
一人のオーガの子が天音の手を引き、檻の奥の方へ向かう。奥には手前にいた子たちよりももう少し大人のオーガがいた。
引き締まった小麦色の筋肉質の上半身には複雑な紺の刺青が施され、動物の牙で作ったピアスをつけていた。皮のパンツを履き、青年といった風情のオーガが五名ほど檻の柵にもたれかかっていた。
身体には鞭で叩かれた新しい跡があるものや、既に何らかの実験をされたのか注射針の跡があるもの、傷から何か菌が入ったのか、熱があるものたちがいた。
天音は新しい聖水晶を取り出すと、隷属紋からも解放したいという気持ちを込め、治癒をかける。
「兄さんたち、治った?」
不安げに子どもオーガが、天音に話しかける。天音は、こくりと頷く。
子どもオーガの声が聞こえたのか、一人がゆっくりと目を開く。黒の髪に、小麦色の肌、鷹のような金の瞳が、天音を見上げる。
「あ、あの身体大丈夫ですか?」
「ああ、すごいな。あんなに酷い熱と隷属魔法による不快感が一気に消し飛んだ」
「ボルテク兄さん、よかった」
ボルテクと呼ばれたオーガが、すっと立ち上がる。身長は二メートル以上ありそうだった。それに追従するように他の青年たちも立ち上がる。
「この力、メイオール王国の聖女様とお見受け致します。この度は私どもをお救い下さり、ありがとうございます。私は、レーラズ族次期族長のボルテク・レーラズと申します」
左胸に右手の拳を当てて、直角にお辞儀をする。子どもたちと比べて、流ちょうな共通言語が口から出て、天音は驚く。
「あ、いえ。大したことはできないのですが、お役に立てて何よりです」
「ミドルアースの人族に捉えられて、獣に身を落とすよりは死んだ方がましだと考えていましたが、子どもたちのことを考えるとすぐに命を絶つわけにもいかず、醜態をさらしておりました」
「運悪くエレノア様に捕まってしまったのですね」
「子どもたちがミドルアース領近くの境界線まで行ってしまったので連れ戻る途中で、捕獲用の魔法陣に捕らえられてしまったのです」
聞けば、先程天音の周りにいた十人くらいの子供たちが、自分たちの住処を抜けてレーラズ族が決めた境界線から出てきてしまったそうだ。
それを追いかけてきた自分達も子どもたちと一緒に拉致されたらしい。
天音の手にオーガの手が重なる。固い皮膚に熱い体温、彼らも自分たちと同じように生きているのだと改めて実感した。
「聖女様、ヴァルハラの戦士としてこのご恩は決して忘れません」
そう言うと再び皆が天音に頭を下げる。
「大袈裟です……。あ、でもここから出る手伝いをしてくれると嬉しいです……」
「もちろんです。私たちもここから逃げなくてはなりません。互いに協力してここから出ましょう」
「分かりました。よろしくお願いします!」
天音は思いもよらない助っ人ができて、首の皮一枚で繋がったと思った。
「さあ逃げるための作戦会議をしましょう」
アマネとオーガたちは身を寄せ合って作戦会議を始めた。
***
状況把握をして決めた作戦は何のひねりもない単純なものだった。
三日に一度食料を届けに、エレノアの使用人がこちらに来る。隷属紋があるからと使用人は安心して、檻を開けて食料を入れるらしい。その瞬間を狙い使用人を気絶させ、隣のコンテナもその使用人の掌の認証を使って開けさせて、中のオーガを助ける。
その後、瘴気の濃い森を抜けて、その先の今は誰も住んでいない農村にいったん逃げ込むというものだ。
シンプルな作戦だが、天音は一石三鳥だと思った。
終日暗いこの時期なら、人目を避けてオーガたちも移動できるし、瘴気の満ちた森にわざわざやってくる人族はいない。さらにオーガたちに森の瘴気を取り込んでもらえれば、少しでも瘴気を減らすこともできる。
「次に使用人が来るのは、明後日の夜です。それまでは何とかカモフラージュをして過ごしましょう」
「分かりました」
「本当はこれからでも行動を起こしたいところですが、認証キーの問題があり、隣のコンテナの仲間を助けることができません。しかし早くしないと、父が来てしまう」
ボルテクの父親は部族長で、これまでもミドルアース領で部族のものたちが、捕獲されると必ず取り戻しにくるという。魔水晶の原料にされ、仲間の多くが死んでしまうことが多く、最近はかなりイラついており、奪還の仕方がだいぶ荒っぽくなっているらしい。
「もしかしてメイオール王国の海の方にもお父さんは来たのかしら。数か月前、オーガに襲撃された事件がありましたよ」
「そうだと思います。私たちを探しているのだと思います」
エレノアのせいで、メイオール王国はとんでもないことに巻き込まれていると天音は顔色が悪くなる。それと同時にやはり早く脱出して、瘴気の原因とオーガの襲撃について伝えなければと気が急いてしまう。
瘴気の濃い森を抜けるのに手持ちの聖水晶は全て使ってしまうだろう。その後は、自分に残ったわずかな神聖力だけだ。使いどころを間違えないようにしないと。
「何とか、皆が家族とまた会えるようにしますから、絶対に成功させましょう」
「聖女様のことは必ずお守りします」
他のオーガたちもボルテクの言葉に頷いた。
***
時折見回りに来る使用人には、天音のわざと破いたワンピースの裾をちらつかせたり、汚れた手足をオーガたちの間から見せることで、エレノアの思い通りに事が進んでいるように装った。
時間が許す限り、天音はオーガたちの話を聞く。
オーガたちにも様々な部族があるようで、彼らのレーラズ族は、ペルケレの好意でヴィエルガハ領の森の奥深くに普段住んでいるそうだ。
他種族との無駄な小競り合いを避けて、大人しく生活していたが、子どもならではの好奇心でミドルアース領近辺まで出て来たところで、人族の罠にかかりここまで拉致されてしまった。こんなことが無ければ、ヴィエルガハ領から出ない人生だったという。
二日後、ついに待ちかねていた脱出のチャンスがやってきた。
かちゃりとコンテナのドアの開く音がする。天音はオーガたちの巨体の間で、息をひそめる。
使用人が、いつものように食べ物の袋を運び込みコンテナに入ってくる。
使用人が檻のカギを開けたところで、一人が突然立ち上がり、使用人を床に転倒させる。
使用人が声を上げる間もないくらい一瞬の出来事だった。
すぐに鍵を奪い奥の檻を開ける。
ぐったりとしていた隣の檻のオーガたちにも治癒をこっそりとかけていたので動けるところまでは回復していた。
さらに奥にいたオーガ、ヤラルも檻から出てくる。その腕には、エレノアの元侍女マリーノを抱きかかえていた。マリーノはぐったりとしている。どうやら気を失っているらしい。
「連れて行くのですか?」
「子ができている。マリーノが嫌がるかもしれないが、子には罪はない。子は責任を持って引き取る」
「そうなの? ヤラルが母子ともに面倒を見ればいいのではないですか?」
「人族の女はオーガの俺のことを嫌がるだろう。子が生まれたら彼女はペルケレ様に面倒をみてもらおうと思っている」
そのヤラルの表情はとても悲し気で胸がチクリと痛む。身勝手な実験のために無理矢理、人族と交合させられた気高いオーガの戦士。その誇りを踏みにじる行為をしたエレノアに対して、不快感と怒りを感じる。その感情を押さえて、今はとにかくここから逃げなければと冷静になる。
「とにかくここにいるよりはマシだと思うから、連れて行きましょう」
天音とオーガたちは、コンテナから脱出する。二日ぶりの外の空気は、相変わらず痛いほど冷たい。しかしこんなにも解放感を感じる。
隣のコンテナに捉えられていたオーガたちも救出し、瘴気が充満している夜の森に闇へ天音たちは消えていった。
全てを諦めた時、コロリと何かが落ちる音がした。
何となく場の雰囲気が変わったような……。天音はおそるおそる目を開く。
瞳を開くと、持ってきた聖水晶がのいくつかがコートのポケットから床に落ちたようだった。オーガたちを見ると、先ほどまでの狂暴な様子は見えず、興味深そうにキラキラと白銀に輝く聖水晶を見ていた。
身体はすごく大きいけれど、中身は子どもなのかな? 天音は、慎重に観察をする。
オーガたちは綺麗なものや不思議そうなものが物珍しいのか、聖水晶にくぎづけだった。一人が、聖水晶を指でツンと続く、光の反射でキラキラとする。驚いた顔をして、聖水晶を手に取ると周りのオーガも覗き込む。
興味津々の顔とは裏腹に、腕の隷属紋や連行されてきた時についた傷が皆痛々しかった。
(何だか痛そう……。聖水晶が無駄になるのはもったいないし、せっかくだし傷を治してあげよう)
天音は、持っている聖水晶を使って、「治癒」と唱える。
瞬く間に、近くにいたオーガたちの傷が治る。
よく分からないが、隷属紋も消えた。契約魔法の一種なので傷とは違うと思うのだが。隷属紋を消してあげたいと思いながら力を使ったからなのかもしれない。
傷が治ったオーガたちは、聖水晶で遊ぶのを止めて、天音をじっと見つめる。
和気あいあいとしていた場の雰囲気が、しんと静まる。
……あ、ついに殺されちゃうかな。あれだけ人から嫌な目にあった後だし仕方ないか……。天音は、奥歯を噛み締め、再び覚悟を決める。
一人のオーガが天音に近づいてくる。
「キズ……治った、アリガト」
「どういたしまして。って言うか、言葉話せるの?」
天音は、一般的にオーガには言葉が通じないと聞いていたので、当惑する。オーガたちは、こくこくと首を上下に揺らす。
「習った、ペルケレ、教えた」
どうやら魔族王ペルケレが、どう言う経緯か分からないが、オーガたちに言葉を教えてあげたらしい。
「俺たちより、兄さんたち、キズ酷い」
一人のオーガの子が天音の手を引き、檻の奥の方へ向かう。奥には手前にいた子たちよりももう少し大人のオーガがいた。
引き締まった小麦色の筋肉質の上半身には複雑な紺の刺青が施され、動物の牙で作ったピアスをつけていた。皮のパンツを履き、青年といった風情のオーガが五名ほど檻の柵にもたれかかっていた。
身体には鞭で叩かれた新しい跡があるものや、既に何らかの実験をされたのか注射針の跡があるもの、傷から何か菌が入ったのか、熱があるものたちがいた。
天音は新しい聖水晶を取り出すと、隷属紋からも解放したいという気持ちを込め、治癒をかける。
「兄さんたち、治った?」
不安げに子どもオーガが、天音に話しかける。天音は、こくりと頷く。
子どもオーガの声が聞こえたのか、一人がゆっくりと目を開く。黒の髪に、小麦色の肌、鷹のような金の瞳が、天音を見上げる。
「あ、あの身体大丈夫ですか?」
「ああ、すごいな。あんなに酷い熱と隷属魔法による不快感が一気に消し飛んだ」
「ボルテク兄さん、よかった」
ボルテクと呼ばれたオーガが、すっと立ち上がる。身長は二メートル以上ありそうだった。それに追従するように他の青年たちも立ち上がる。
「この力、メイオール王国の聖女様とお見受け致します。この度は私どもをお救い下さり、ありがとうございます。私は、レーラズ族次期族長のボルテク・レーラズと申します」
左胸に右手の拳を当てて、直角にお辞儀をする。子どもたちと比べて、流ちょうな共通言語が口から出て、天音は驚く。
「あ、いえ。大したことはできないのですが、お役に立てて何よりです」
「ミドルアースの人族に捉えられて、獣に身を落とすよりは死んだ方がましだと考えていましたが、子どもたちのことを考えるとすぐに命を絶つわけにもいかず、醜態をさらしておりました」
「運悪くエレノア様に捕まってしまったのですね」
「子どもたちがミドルアース領近くの境界線まで行ってしまったので連れ戻る途中で、捕獲用の魔法陣に捕らえられてしまったのです」
聞けば、先程天音の周りにいた十人くらいの子供たちが、自分たちの住処を抜けてレーラズ族が決めた境界線から出てきてしまったそうだ。
それを追いかけてきた自分達も子どもたちと一緒に拉致されたらしい。
天音の手にオーガの手が重なる。固い皮膚に熱い体温、彼らも自分たちと同じように生きているのだと改めて実感した。
「聖女様、ヴァルハラの戦士としてこのご恩は決して忘れません」
そう言うと再び皆が天音に頭を下げる。
「大袈裟です……。あ、でもここから出る手伝いをしてくれると嬉しいです……」
「もちろんです。私たちもここから逃げなくてはなりません。互いに協力してここから出ましょう」
「分かりました。よろしくお願いします!」
天音は思いもよらない助っ人ができて、首の皮一枚で繋がったと思った。
「さあ逃げるための作戦会議をしましょう」
アマネとオーガたちは身を寄せ合って作戦会議を始めた。
***
状況把握をして決めた作戦は何のひねりもない単純なものだった。
三日に一度食料を届けに、エレノアの使用人がこちらに来る。隷属紋があるからと使用人は安心して、檻を開けて食料を入れるらしい。その瞬間を狙い使用人を気絶させ、隣のコンテナもその使用人の掌の認証を使って開けさせて、中のオーガを助ける。
その後、瘴気の濃い森を抜けて、その先の今は誰も住んでいない農村にいったん逃げ込むというものだ。
シンプルな作戦だが、天音は一石三鳥だと思った。
終日暗いこの時期なら、人目を避けてオーガたちも移動できるし、瘴気の満ちた森にわざわざやってくる人族はいない。さらにオーガたちに森の瘴気を取り込んでもらえれば、少しでも瘴気を減らすこともできる。
「次に使用人が来るのは、明後日の夜です。それまでは何とかカモフラージュをして過ごしましょう」
「分かりました」
「本当はこれからでも行動を起こしたいところですが、認証キーの問題があり、隣のコンテナの仲間を助けることができません。しかし早くしないと、父が来てしまう」
ボルテクの父親は部族長で、これまでもミドルアース領で部族のものたちが、捕獲されると必ず取り戻しにくるという。魔水晶の原料にされ、仲間の多くが死んでしまうことが多く、最近はかなりイラついており、奪還の仕方がだいぶ荒っぽくなっているらしい。
「もしかしてメイオール王国の海の方にもお父さんは来たのかしら。数か月前、オーガに襲撃された事件がありましたよ」
「そうだと思います。私たちを探しているのだと思います」
エレノアのせいで、メイオール王国はとんでもないことに巻き込まれていると天音は顔色が悪くなる。それと同時にやはり早く脱出して、瘴気の原因とオーガの襲撃について伝えなければと気が急いてしまう。
瘴気の濃い森を抜けるのに手持ちの聖水晶は全て使ってしまうだろう。その後は、自分に残ったわずかな神聖力だけだ。使いどころを間違えないようにしないと。
「何とか、皆が家族とまた会えるようにしますから、絶対に成功させましょう」
「聖女様のことは必ずお守りします」
他のオーガたちもボルテクの言葉に頷いた。
***
時折見回りに来る使用人には、天音のわざと破いたワンピースの裾をちらつかせたり、汚れた手足をオーガたちの間から見せることで、エレノアの思い通りに事が進んでいるように装った。
時間が許す限り、天音はオーガたちの話を聞く。
オーガたちにも様々な部族があるようで、彼らのレーラズ族は、ペルケレの好意でヴィエルガハ領の森の奥深くに普段住んでいるそうだ。
他種族との無駄な小競り合いを避けて、大人しく生活していたが、子どもならではの好奇心でミドルアース領近辺まで出て来たところで、人族の罠にかかりここまで拉致されてしまった。こんなことが無ければ、ヴィエルガハ領から出ない人生だったという。
二日後、ついに待ちかねていた脱出のチャンスがやってきた。
かちゃりとコンテナのドアの開く音がする。天音はオーガたちの巨体の間で、息をひそめる。
使用人が、いつものように食べ物の袋を運び込みコンテナに入ってくる。
使用人が檻のカギを開けたところで、一人が突然立ち上がり、使用人を床に転倒させる。
使用人が声を上げる間もないくらい一瞬の出来事だった。
すぐに鍵を奪い奥の檻を開ける。
ぐったりとしていた隣の檻のオーガたちにも治癒をこっそりとかけていたので動けるところまでは回復していた。
さらに奥にいたオーガ、ヤラルも檻から出てくる。その腕には、エレノアの元侍女マリーノを抱きかかえていた。マリーノはぐったりとしている。どうやら気を失っているらしい。
「連れて行くのですか?」
「子ができている。マリーノが嫌がるかもしれないが、子には罪はない。子は責任を持って引き取る」
「そうなの? ヤラルが母子ともに面倒を見ればいいのではないですか?」
「人族の女はオーガの俺のことを嫌がるだろう。子が生まれたら彼女はペルケレ様に面倒をみてもらおうと思っている」
そのヤラルの表情はとても悲し気で胸がチクリと痛む。身勝手な実験のために無理矢理、人族と交合させられた気高いオーガの戦士。その誇りを踏みにじる行為をしたエレノアに対して、不快感と怒りを感じる。その感情を押さえて、今はとにかくここから逃げなければと冷静になる。
「とにかくここにいるよりはマシだと思うから、連れて行きましょう」
天音とオーガたちは、コンテナから脱出する。二日ぶりの外の空気は、相変わらず痛いほど冷たい。しかしこんなにも解放感を感じる。
隣のコンテナに捉えられていたオーガたちも救出し、瘴気が充満している夜の森に闇へ天音たちは消えていった。
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