聖女に転生しました。殿下のアレを慰めるだけの簡単なお仕事みたいです

おりの まるる

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第一章 聖女は仕事をがんばるみたいです

いざ婚約式

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 そんなこんなでむかえた婚約式の日、儀式に参加するために、多くの貴族たちが神殿に集まっていた。前代未聞の短期間の婚約式の日程だったが、神託の聖女様を一目見たいと、神殿は貴族たちでごった返していた。
 
 あの時庭園で、声をかけてくれたご令嬢たちもいた。天音の様子を見ると心配そうに力なく微笑んだり、拳をぐっと握り応援したりしてくれた。

 天音は神殿の長い階段を慣れない長い裾のドレスを踏まないように慎重に登る。婚約式用のドレスはアクアマリン色で、レースなどの装飾が少ないシンプルなものだった。この国では、婚約式や結婚式は、神前の儀式であるので、シンプルな正装で臨むそうだ。

 ただ、その生地には華麗な刺繍がふんだんにあしらわれており、ごわごわとしてとても重かった。

 亜麻色の髪は、一週間のお手入れで信じられないほど輝き、軽くハーフアップしたシンプルな髪型がその美しさを引き立てていた。二重瞼の上には、うっすらとペリドット色の瞳を引き立たせる濃い目のシャドーが乗せられ、何もしなくてもおおきくつぶらな瞳をさらに際立たせている。
 
 シンプルなドレスを身に付けた、ほっそりとした儚げな天音の姿は、とても神秘的に人々の目に映った。見つめられたら何もかもを見透かされてしまいそうな瞳や乳白色の瑞々しい肌は、皆が思い描いていた聖女像にぴったり当てはまっていた。
 
 一方、鮮やかなスカイブルーの生地に金糸で編まれた王家の紋章がついたジャケット、長い脚をを包む細身のパンツで正装したアルテアは、高貴な雰囲気も相まって、何だか今日は近寄りがたく思えた。
 
 いつもの優しく笑顔が眩しい王太子殿下とまた違う魅力に、そこにいた人々は釘付けになった。
 二人が並んで歩くとざわざわとした神殿は、神々しい二人の姿に水を打ったように静かになった。

 そんな参加者の様子など全く気にならないほど、天音の思考はフル回転していた。

(本来ならば、私なんかと結婚してはいけない人なのに、申し訳ない気持ち……)

 そう思いながらも、天音は足元を気をつけるふりをして、じっと一歩先を歩くアルテアの臀部を凝視する。
 小さく形良く引き締まっていて、お尻の形まで素敵だなんて、天は二物も三物も与える人には与えるらしい。

 あまりに凝視していたので、その熱視線に気がついたであろう、アルテアが振り返る。

「どうしました? 何かついていますでしょうか?」
「いっ、いえ」

 天音は、慌ててもごもごと否定しながらも、先日ガゼボでご令嬢たちに言われたことを何度も考えていた。
 いったい身体が裂けるほどの、巨根とはどれほどのものなのか……。変な緊張が走る。
 
 前世ではひたすらに辛い時間が早く終わることを願いながら、そういうことをこなしていたから、サイズについては考えたことがなかった。そもそも最中の記憶がほとんどない。
 ただ煽り文句で「あいつのじゃ物足りないだろう」とか言ってきた男もいたから、大きさの違いは確実にあるのだろう。

(大丈夫。シグナイ様が身体の相性も合わせて、私の依り代としてのこの身体を作ってくれたはず。彼のアレが人並みではないと知っている……はず……)

 天音は手の甲のシグナイの力が宿る飛ぶ白鳥のシルバーの紋様に手で触れる。
 きっと大丈夫……。何かあったら、すぐに治癒を自分にかけよう。志半ばで死にたくないし。
 すんとした表情のまま、動揺したり、不安になったり、頑張ろうと意気込んだり天音の心の中は忙しかった。

 階段を登り切ると神殿の奥へと進む。神殿の中は、白く明るい光で満ちていた。自分が召喚された祭壇がある青の大聖堂を通り抜け、更に奥の塔へ進む。

「じゃあ後で」 

 奥までたどり着いたところで、アルテアと別れる。
 ここでお互いに身体を清める儀式をしたあと、ついにご神体と直接対決、――いや身体の相性を確かめる儀式へと進む。

(それにしても、こんなに仰々しい婚約式を何度も行って、巨根で婚約解消になったなんて、アルテア様は少し不憫かも……。プライバシーなんてあったもんじゃないんだよなあ、王族は)

 学生時代に習った世界史でも、王家の方々についての記録から、性的嗜好や病気、生活、恋愛が赤裸々に学問という大義名分で暴かれているからな。
 そういうものだと思ってないと、気が狂いそうになるかもしれない。有名税とか言う人もいるけれど、反対の立場になった時に果たしてそう言えるものなのか。

(別に誰が悪いわけでもないと言うのに、アルテア様も大変だ。持って生まれた身体なのだから、誰も責めることができないはずだし、やむなく婚約解消したご令嬢たちもそうだ)

 とにかく今は何とかこの国のため、最終的には自分の幸せな来世のために頑張るだけだと考えると、最後の砦としての責任が重くのしかかるような気もして胃がキリキリと痛む。


 儀式が終わる頃には日はすっかりと落ちていた。新月の夜なので、たくさんの星が綺麗に輝いて見える。塔から出て、中庭を囲む、外廊下をお付きの神官と共に進む。壁に取り付けられているトーチの光が、優しい明るさを保っている。
 ここにきて、夜は真っ暗なものだったなと思い出す。前世で自分が住んでいた場所も、夜は電気で明るかった。あれはちょっと異常なことだったのかもしれない。
 ひときわ重厚なドアの前で神官は止まる。

「それでは明朝八時にお迎えに参ります」

 神官は足音も立てずに、天音を置いて去っていった。
 両手で重いドアを開く。手前に簡単なソファーとローテーブルが置かれており、奥の窓際にちらりと天蓋が見えた。
 室内は既に雰囲気たっぷりに薄暗く、これから始まることを暗示しているかのような気がした。
 あそこにベッドがある……。ドキドキと緊張で鼓動が早まる。
 
 アルテアが来るまで、どこに居たらいいのかよく分からず、硬いソファーに腰をおろす。テーブルの上には、アイスティーが用意されており、ガラスの表面にはうっすらと水滴がついていた。
 アイスティーを口に含むと、冷たさが緊張を冷ますようにのどから胃へ流れていく。
 ほうと息を吐いたところで、ぎいっとドアが開く。

「アマネ様、お待たせしました」

 いつものかっちりとした服装ではなく、肌触りの良さそうな、ゆるりとV字に胸元が開いた寝間着を着たアルテアがするりと天音の隣に座る。天音も同じデザインのワンピース型の寝間着を着ている。
 ふわりと石鹸の良い香りが漂う。

「だ、大丈夫です」
 
 こんな時うまく会話を続けられる性格だったらよかったのかもしれない。
 天音はどう会話を続けたらいいか分からなかった。前世では乱暴にされる一方的な行為ばかりだったので、経験は全く役にはたたない。

「緊張……していますね?」

 天音の緊張が伝わったのか、気遣うようにアルテアは天音の顔を覗き込む。

「はい……。こういう状況は初めてですので、どうしたらいいか分からなくて」
「いきなり召喚されて、私の妻になるように強制されて、戸惑いは大きいと思います。けれど……」

 アルテアは、天音の頬に手を添えて、自分の方へ顔を向けさせる。

「召喚されたのが、あなたでよかった。初めてあった時、身体が雷に打たれたように衝撃を受けました。今まで伴侶が見つからなかったのも、あなたに会うためだったのかもしれない」

 ……ごめんなさい。きっとそれはシグナイ様が私の身体に付与してくれたバフです……。
 天音が心の中で謝罪していると、ためらうような軽いキスが天音の唇に落とされる。天音はほんの触れ合うだけのキスなのに背筋がぞくぞくとする。アルテアの琥珀色の瞳が艶かしくゆらめいている。

(シグナイ様のお力強すぎない? 殿下の言葉、しぐさ、触れられた所がとても心地よい気がする。身体の相性がよいというのはこういうことを言うのかな?)

「アルテア様……」
「アマネ、様はつけないで。私たちは夫婦になるのだから、二人の時だけはどうか」

 懇願されるように亜麻色の髪にキスされる。 

「……アルテア、んんっ」

 名前を呼ぶと、天音の唇は、アルテアに再び塞がれた。そしてうっすら開いていた唇から、アルテアの舌が侵入する。
 アルテアの舌が、天音の舌を絡めとる。天音も舌でアルテアに答える。
 アルテアの両手は、天音をぎゅっと抱きしめる。ほっそりとしているように見えるが、意外とがっちりとした胸元に鼓動が更に早まる。
 
 着やせするタイプなのかしら。

 お互いの薄手の寝間着を通して、体温が伝わる。唇を離すと、天音は息を整える。頬が熱い。
 キスとはこんなに激しく、気持ちの良いものだったのだろうか。乱暴で投げやりに、気分が赴くままに自分を凌辱した前世の男たちとは明らかに違う。

「キスしただけなのに、こんなに呆けてしまって。可愛すぎて我慢できなくなったら、どうするのですか」
「アルテア様が、とてもお上手なのではないですか?」
「アルテア、ね?」

 天音はアルテアの顔を見てその表情にびくっとする。
 妖艶な表情に戸惑う。いつもの穏やかな表情とのギャップがすごい。普通に爽やかな作り笑いしている時には気がつかなかったけれど、本来すごく色っぽい人なのかもしれない。

 再びアルテアの顔が天音に近づく。天音はギュッと目を閉じる。
 アルテアの片手が太ももの上にふわりと置かれる。耳元に暖かい呼吸を感じた時、かぷりと耳たぶを甘噛みされる。

「ひゃっ」
「私の噂、聞いたでしょう?」

 耳をまんべんなく甘噛みされ、ときおりぬるりと耳の中まで舐められる。アルテアの聞きなれない、低く小さな声が、耳の中を犯すように響く。

「う、噂……? 婚約がダメになったという話ですか?」

 凶悪巨根でご令嬢方が血まみれになったというやつですかとは、さすがにストレート過ぎて言えなかった。

「その理由ね。私のモノは少し人より大きいらしくて、なかなか合った人に出会えなくて。婚約式の儀式も何とか頑張って、あまり大きくしないようにしたんだけど……」
「そ、そんなことできるのでしょうか⁉」
「色々、強面の近衛団長の顔とかを想像したり、何度か手洗いで自分でしたりして、萎えさせていました。しかし、今日は、無理そうです。あなたと絶対に結婚したいのに、さっきから全然治まってくれない」

 ……ごめんなさい。それ全部シグナイ様のせいですと再び心の中で謝罪をする。

 アルテアは、天音の手を取り、自分のモノを触らせる。
 寝間着の上からもはっきりとわかる巨大なモノは、触れるととても熱く、既に硬くなっていた。

(これは、想像以上……かも。ペットボトル、いや確かに薪サイズ? ……シグナイ様、大丈夫でしょうか? 私はここでジエンドなのでは⁉)

「これは……」
「本当にごめん。アマネを傷つけたくないのに。嫌なら、婚約解消しても……。今後のあなたのお世話は王宮が責任を持って……」

 隣で耳がしょんぼりとたれている大きくふわふわな美しいプラチナブロンドのゴールデンレトリバーが見える。
 肩を落とす姿に、天音は、アルテアの素の姿を見た気がした。
 
 優しく、寛大で、次世代を導く賢王となる人。その完璧な人が、自分の巨根が女性に入らなくて、何度も婚約解消し、悲しく微笑んでいる。

 王としても役割に後継ぎをなすこともあるだろう。その責任とプレッシャーは、一庶民に理解できるものではないし、とても孤独な立場なのかもしれない。

 天音は、想定以上のアルテアのアレの大きさにひるんだが、自分にはシグナイ様が与えてくれたチートな神聖力とこの身体があるとすぐに自分を鼓舞する。

「アルテア様、まずは試してみましょう。一緒に頑張りましょう! いざとなったら、神聖力を使って秒で治癒します!」

 天音は、スポーツマンガの女子マネージャーのような気持ちになり、アルテアの手を両手でぎゅっと握る。顔は相変わらずの無表情だったが。
 アルテアは少し驚いた顔をして、固まってしまった。

「――ごめんなさい、雰囲気台無しですね」

 天音は感情のままに変なことを言ってしまったとすぐに謝罪をしたが、次の瞬間に身体がふわりと宙に浮いた。

「きゃっ」
「アマネ、ありがとう。少し勇気が出ました。続きはベッドでしましょうか」

 アルテアは、天音をお姫様抱っこすると、奥の天蓋付きのベッドに向かった。
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