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想定外の溺愛に心臓がついていけません
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……もういる。
聖人節は祝日のため、街は混み合っていた。
奇跡的に休みが取れたカーネリアは、噴水広場から少し離れた木の影に潜んでいた。
騎士団の休暇はシフト制で、早い者勝ちだ。通常、恋人や家族の日とされている競争率の高い聖人節のような祝日に休むためには、かなり前からの申請が必要なはずなのだが。
なぜだか、すんなり休暇申請が通ったんだよね。
仕事に復帰すると副騎士団長が、「聖人節から年始までの2週間、有給消化しなさい」と頼んでもいないのに休暇を追加して承認してくれたのだ。
約束の時間に行くのか、行かないのか悩み、昨日は一睡もできなかった。
どうしても気になって、約束の1時間前に待ち合わせ場所へ行ってみれば、既に噴水近くのベンチにリオンは座っていた。
黒水晶のような黒髪を横でゆるりと1つにまとめ、優雅に魔法書を読んでいる。時折顔を上げ、周りを見渡す。
道行く女性たちがリオンを見て、うっとりと頬に手を当てている。近寄りがたい美貌のせいか、声をかける女性は今の所はいない。
……どうしよう。待ち合わせ場所に行く?
でも別れるって言い切っちゃったし。
話なんてしたら、泣いて縋ってしまいそう。未練がましい女だと軽蔑されたり、嫌われたりしたら、もう生きていけない。
このまま何もしなければ、別れることはないけど、自然消滅してしまうだろう。
その方が、精神的にはいいのかも……。
木の影で、もじもじと悩んでいると、あっという間に待ち合わせ時間になってしまった。
よし、これ以上待たせても悪いし、玉砕覚悟で話をする。そして盛大に振られて、失恋すれば未練もすっぱり断ち切れるだろう。
女は度胸だ!
いざ! と木の影から出たところで、リオンに近づく女性か現れた。
アイオラ様……。
足は一歩踏み出した所で止まってしまう。リオンとアイオラは、完璧な恋人同士の一枚の写真の様だ。
楽しげに微笑みながら挨拶をするアイオラとそれに応えるリオン。決心したはずなのに、痛む胸。
(キッパリ別れて、失恋……しないと。もう私の恋人ではなくなるんだから)
そう自分に言い聞かせても、ぴくりとも足は動かない。
どんな魔物が出た時も、怖いなんて一度も感じたことはない。でも今、足が震えてあの二人に近付くこともできない。
リオンの元に行き、彼女を愛しているんだと言われたら、どうなってしまうのだろうか。そんなことを直接言われたら、立ち直れないかもしれない。
や……やっぱり無理。もう会わない方がいい。銀青騎士団も辞めて、故郷の教会に帰ろう……。
噴水に背を向けて帰ろうとした時、「カーネリア、来てくれたのですね」とリオンが腕を取った。
え? 気付かれた? この一瞬で100メートル以上はあった距離を一気に詰めて、ここまでやってくるなんて。転移魔法?
「……え、あの。アイオラ様と一緒だったし、あの、もう分かりましたから」
「彼女には何の用事もないですよ。たまたま会ったから、挨拶をしただけです」
でも……すごい目でこちらを睨んでるし、「リオンー!」と大声で叫んでいる。
少なくとも、アイオラは、リオンと復縁したがっているように見えた。
カーネリアが口を開きかけたその時、「きゃーっ!」という叫び声が響く。
叫び声の方へ視線を向けると、噴水の前にアンデッドドラゴンが、禍々しいドス黒いオーラを放っている。ドラゴンは周りを見渡すと、ガーッと咆哮する。
その声で人々はパニックになり、散り散りに逃げていく。
「え、アンデッドドラゴン……? こんな街中に? 」
「ちっ、こんな時に……」
「え?」
一瞬、リオンが不機嫌な表情を浮かべたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。
「何でもありません。行きましょう!」
「は……っはい!」
カーネリアは、手元にアイアンウッドの杖を顕現させる。リオンはミスリル銀製の細い杖を手に取る。
噴水広場へ向かうと、「リオン! 怖い」とアイオラが青い顔でリオンに抱きつく。
「危ないから、向こうへ避難して」
「リオン様、皆さんを非難させて、防護結界をお願いします。私、倒してきます!」
「分かった!」
リオンはアイオラを街を巡回していた赤騎士団の騎士に任せ、避難を指示し、応援を呼ぶように依頼する。そして、あっという間に堅固な結界を噴水の周囲に張る。
「カーネリア、結界張りましたよ!」
「ありがとうございます!」
カーネリアは、頑丈に張られた結界を惚れ惚れしながら見つめる。
「さて、ここからは私の出番よ!」
杖を構えると、聖魔法をドラゴンへ放つ。この結界なら、一気に神聖魔法を叩き込める。
特大の一撃がドラゴンへ撃ち込まれる。
グアアアアー
ドラゴンは苦しみながらのたうち回る。結界内の噴水や公園に出ていた出店、建物を壊す。
飛んでくる破片を避けながら、もう一撃を繰り出そうとしたその時、
「リオンー、私のこと守って!」
防御決壊の外から、アイオラが飛び込んでくる。
リオンが、アイオラを抱きしめる。
横目でその様子が見えてしまい、カーネリアは動揺する。
ああ、もうお似合い過ぎて、泣きたい。物語のクライマックスで、王子様がお姫様を守るワンシーンの様だ。普通にドラマなら素敵なんだけど!
(リオン様の腕の中で、私だって守られたい! でも今ドラゴンを討伐できるのは私だけ!)
「リオン様ー! 大好きでした! どうかお幸せに!」
カーネリアは、杖を地面に突き立て、先ほどよりも出力多めの神聖魔法を放つ。魔法が巻き起こす風の音とものが破壊される音で、彼女の声はかき消される。
白い閃光にアンデッドドラゴンは、包まれる。苦しげに激しく横転をしていたが、しばらくすると動かなくなった。
身体を覆う腐った紫色の肌は浄化され、骨だけが残った。
魔法で割れた道路や建物の破片が、すっと顔を掠める。チリっとした痛みを感じる。額を切ったらしく、血が流れる。
それに噴水が壊れたことにより、全身ずぶ濡れのひどい有様だ。
お、終わった。疲れた。その場に座り込む。
カーネリアは、びちゃりと水の中に座り込んでしまう。
防御結界が解除され、ざわざわとした街の喧騒が再び聞えてくる。
結界の外に集まっていた銀青騎士団や赤騎士団は、一斉に噴水の周りで状況確認を始める。
見慣れた銀青騎士団の制服を着た大男が駆け寄ってくる。
「先輩! 大丈夫ですか? また無理をして」
「セオドア、だって、こんな街中に急にドラゴンが現れるなんて。どこかの結界が機能していないのかしら。すぐに確認に行かないと!」
「結界には問題ありませんでした。ドラゴンを召喚した媒介は、今見つかり、銀青騎士団で浄化中です。早く病院へ行きましょう。結構深く切れてますよ」
「うん……。疲れた、色々と……」
カーネリアが、セオドアから差し出された手を取ろうとすると、いきなり横から腕を掴まれる。
そのまま強い力で、抱き上げられてしまった。
気が付けば、リオンにお姫様抱っこをされていた。
「あれ? リ、……リオン様?」
先ほどまで、アイオラを抱きしめながら、銀青騎士団の副団長と話をしていたはずなのに。
「カーネリア、ひどいケガです。私の家で治療をしましょう。セオドア君、後は宜しく」
「はい、承知いたしました! 先輩は休暇を楽しんでくださいね」
セオドアは、「では」と逃げる様にその場から立ち去っていく。
「え、ちょっ」
出血と魔力の枯渇に、うまく身体が動かせない。リオンの腕の中でじたばたと身体を動かしても、びくともしない。強い力で腕の中に閉じ込められているみたいだ。
守られる様な可憐で繊細なキャラでもないのに。ケガだって大したことないし。
他の騎士たちが、生暖かく見守っているのも恥ずかしく、カーネリアは顔を両手で隠す。
どうして! こんなことになってるの⁉︎
移転魔法で一気にレイヴンブラック家に到着する。祖父から相続したというリオンの家は、貴族制度があった時に建てられた古城であった。
建物の周りをぐるりと水の張った堀で囲まれており、堅牢な要塞の様でもある。
部屋に通されると、ソファーに座らされる。リオンに額を治療してもらう。
顔が近い! 琥珀色の瞳が真剣にカーネリアの傷の状態を見ている。
緊張のあまり鼻息が荒くなってしまう。
(だめだ、落ち着かないと。キモすぎるでしょう、私!)
それにしても、先ほどから一言も話さない。恐る恐るリオンの顔色を窺う。
何か、怒っている、かも?
リオンは、傷口を消毒すると、無言で魔法薬を塗る。ヒヤリとした後、じんじんする痛みがすっと引く。熱を持っていた肌が、元の乳白色に戻る。
とても高価な薬を使用してくれたようで、傷は閉じて、既に元通りになっている。
後は、魔力が回復すれば、問題ない。
「あ、あの、ありがとうございます。私、寮へ帰ります……ね?」
「帰すわけ、ないだろ」
「え?」
いつもと口調が違うリオンに、カーネリアはびくっと肩を震わせる。
怒っている。穏やかな美人が怒るとかなりの迫力だ。
リオンは、カーネリアの怯えた深藍色の瞳を見て、はっと息を飲む。
「カーネリア、私はもう我慢の限界です。あなた無しで、私がどうやったら幸せになれるというのですか?」
聞こえないと思って叫んだ、ドラゴンを倒す時の言葉を聞いていたんだ……。
「ずっと忘れられなかった恋人が戻ってきて、また寄りを戻せそう……じゃないですか。私は、リオン様と付き合うことができて、よかった……。この思い出だけで一生過ごせます。あれ……」
カーネリアの瞳から、大粒の熱い涙がぽろぽろと流れる。
(リオン様の前では泣きたくなかったのに。でもここで泣いてすっきりして、ちゃんと自分の気持ちに決着をつけないと)
「カーネリア、愛している」
リオンがカーネリアを抱きしめる。
「君だけを愛しているんだ。彼女のことは、ずっと前に吹っ切れていたんだよ」
「嘘です……。私に絆されて、可哀そうにおもっているだけです。それは、愛ではなく同情です」
「私から離れられないように意図して行動していたことが、裏目に出てしまったようだね……。私の思惑から外れて、大きな誤解を生んでしまったな」
リオンは、カーネリアの茜色の髪を一房手に取り、キスをする。
「愛しています。ずっと前から、あなたは私の唯一無二で、とても大切な人なのです」
「そ、そんなこと、一度も仰ってくれなかったじゃないですか。冷静になって、自分の心に向き合えば、おのずと答えが……んっ」
リオンの唇が、カーネリアの言葉を遮る。強く抱きしめられて、キスをされる。
リオンはカーネリアの唇を無理やり開き、舌で口内を侵す。そのままソファーに押し倒される。
両腕はリオンに捕まれ、頭上で1つにされる。
「んっ……ぅんんっ」
悩まし気な声が漏れると、リオンの琥珀色の瞳はいつかのようにギラリと光る。暗くてリオンの表情はよく分からない。
「身体にも教え込むしかないですね。私はあなたと離れるつもりはないのですよ」
それからあっという間に、寝室へ連れ込まれ、翌朝を迎えた。
◇
朝の光に目を開くと横で、リオンが見つめている。
「おはよう、私のカーネリア」
「おはようございます……、リオン様」
寝顔見られてた! よだれとか寝癖とか大丈夫かな。
起き上がり、慌てて顔や髪を整える。身体にかけられていたブランケットがハラリと落ちる。
うっすらと明るい室内で、形良い胸がぷるりと揺れる。腕や身体には、薔薇の花びらの様なキスマークが散りばめられている。
「きゃっ」
カーネリアは昨夜のことを思い出し、赤面しながら、再びブランケットで身体を隠す。ベッドの上で、ブランケットにくるまったカーネリアを背中から抱きしめると、リオンが耳元で囁く。
「カーネリア、私と結婚してくれないか?」
「ふ……ぇっ、けっこん⁉︎」
「昨日、あなたにプロポーズをしようと思っていたのです」
「ちょっと、思考が全く追いつかないのですが……。私のこと、お好きなのですか?」
「そんな質問をするとは。私の分からせが足りなかったのでしょうか?」
リオンの大きな手が、ブランケットの合間から差し込まれ、カーネリアの薄い腹の上を這う。
昨日散々中で出されたものが、どろりと流れ出すのを感じる。
や、嘘、出てきちゃ……。
「ちょ、待っ、分かってます! 充分、分からせられてますから」
「だったらいいのですが……。それで、お返事お聞かせいたたけますか?」
カーネリアは、うつむき少し恥ずかしそうに肩を震わせる。
「……はい、不束者ですが、末長く宜しくお願いします」
リオンの方へ振り向き、消え入りそうな声で答えると、リオンの満面の笑み。
くぅー破壊力!
眩しくて目を開けていられない。
輝きに慣れようと、目をぱちぱちしていると、リオンが薬指に指輪をすっとはめる。
「カーネリア、ありがとう。最愛の人。愛しています」
リオンはぎゅっとカーネリアを抱きしめる。
「リオン様、アイオラ様とのことはいいのですか?」
「いいも何も、始めからどうでもいいんだ。せっかく長い間をかけて、私から離れられないように、調きょ……、いやあなたとの信頼関係を築いていたのに台無しされるところでしたよ」
あれ、今、調教って言った?
「とにかく私の愛する人は、カーネリアだけです」
「――っ」
今までそんなそぶりは少しも見せなかったのに。言って欲しいと思っていた言葉を実際に聞くと、恥ずかしくて身体が熱くなる。
昨夜もずっと愛の言葉を囁かれて、抱かれたことを思い出す。
「そうですよ。あれ、どうしたのですか、そんなに真っ赤になって。食べてしまいたいほど、かわいいですね」
「ちょっと、待って下さい! さっきから刺激が強すぎて……」
「一緒になるのですから、慣れて……ね?」
「はいぃ……」
リオンは、カーネリアの顔中にキスを降らす。リオンの腕の中で夢見心地だ。
「本当は、結婚するまで我慢するつもりだったんですけど、あの女のせいであなたを失うって思ったら冷静ではいられなかったです」
「絆されて、仕方なく付き合ってくれたのかと思っていました」
「そんな不実なことをするわけがないじゃないですか」
「だって何も言ってくれなかったですし、長期出張に出ても連絡くれないですし。そもそも初デートの後、電話したのに!」
「ああ、あの日は、ベタベタと彼女に触れられたのが気持ち悪いし、せっかくのデートも邪魔されて腹が立ったので、君のところの副団長とサウナへ行ってから飲みにいってたんですよ」
カーネリアのぷくりと膨らんだ頬を指で突く。
「愛していますよ」
「……ぅ」
「それに愛の言葉を囁くのはベッドの上でと、決めているのです。そうすれば、聞いた時に密事を思い出して、反応するようになるでしょう? ほら、今のあなたのように」
「わ、わざとだったんですか⁉︎」
「それはどうでしょうか……ね?」
琥珀色の瞳を甘美に揺らすと、リオンはカーネリアをうつ伏せに寝かせる。
「今度はこちらで繋がってみましょうか。これまで我慢し過ぎたのか、昨日から全然萎えないのです。もう少しお付き合いいただけると嬉しいです」
「や、ちょっ、ダメです…………あ、んっ」
結局、年始までレイヴンブラック家で過ごし、リオンのご両親にご挨拶させられ、結婚式の日取りまでも決められてしまった。
◇
その後休み明け、銀青騎士団に仕事復帰すると、副騎士団長が心配そうに話しかけてきた。
「大丈夫だったか? その感じだとうまくいったようだな。あいつ結構腹黒なとこあるからさ」
聞けば、副騎士団長は、リオンと同級生らしく学生時代はルームメイトだったらしい。
年末年始に休暇が取れたのは、付き合いだしたばかりなのに長期遠征に何度も出させて、と切れられたからもあるらしい。
そしてお詫びとして、リオンへカーネリアの遠征時の状況報告を毎日させられていたそうだ。
つまり連絡しなくても、全部状況は筒抜けだったってことよね……。
一番驚いたのは、アイオラが憂国のハザードの工作員だったことだ。あの事件の後、アイオラはリオンに赤騎士団へ連行され、投獄された。
今は裁判を待っている。都会に出て、リオンを捨てて、付き合った男に愛国主義を植え付けられ、組織へ組み込まれた。
昔の恋人であり、魔法師団副師団長であるリオンを組織に取り込もうと、彼に近づいたということだった。
彼の気持ちを利用して、魔法騎士団の副団長を組織に入れようとするなんて、許せない。
カーネリアは、唇をぎゅっとかみしめる。
「リア、どうしたの? 唇をそんなに強く噛んではだめだろう?」
リオンは、カーネリアの唇を指先でそっとなぞる。
「あ、ちょっと考え事をしていまして……」
「ふぅん?」
まるで何を考えていたかわかっているかのように、リオンはカーネリアを抱きしめる。薄い生地の寝間着なので、リオンの熱い体温を直に感じ取れてしまう。入浴後の彼の肌はしっとりと湿っており、開いた胸元にほほを寄せる。
婚約してからのリオンは、表面的には何も変わらなかった。
カーネリアは騎士団の寮の部屋からすぐにリオンの家へと引っ越しさせされた。あんなセキュリティが、がばがばな場所にリアを住まわせるわけにはいけないからね、とほほ笑むリオンはとても艶っぽく、今まで見たことのない表情に腰が抜けるかと思った。
「二人で過ごす夜なのに、他のことで心を惑わすなんて、私の愛し方がまだ足りないのかな?」
「そ、そんなことは」
慌てて否定したが、腰へ当てられていた手が、するりと下へと下がっていく。
「リア、昼間のあなたははつらつとしてさわやかで、とてもかわいいのに。夜のあなたは、未熟な私をあおるサキュバスのように魅惑的ですよ」
「ん、くぅ、……あぁ」
「そういうギャップもたまりませんね。リア、愛おしい人。愛しています」
耳元でささやかれる低音ボイスに、体が熱く反応する。毎夜繰り広げられる、ベッドの上での密事を思い出し、潤み始める。
「今日は、どうやって愛せばいいですか? 私のリア、どうかあなたにとらわれて正気を失いつつある哀れな私を導いて下さい」
(正気を失ってしまうのは、いつも私なのに! その色気は一体どこから出てくるのでしょうか!)
きっと睨みながら、見上げる。挑発的に上がる口角とは反対に、真摯な琥珀色が深藍色を様子を伺うように見つめている。
そんな心許なそうな顔をされたら、何も言えないじゃないですか。反則です……。
カーネリアは、リオンを抱きしめ返すと、「今日はずっとくっついていたい気分です……」と消え入りそうな声で答える。
リオンは、精一杯のお誘いに満足そうに笑うと、「仰せのままに」とカーネリアを抱き上げ、寝室の扉を閉めた。
聖人節は祝日のため、街は混み合っていた。
奇跡的に休みが取れたカーネリアは、噴水広場から少し離れた木の影に潜んでいた。
騎士団の休暇はシフト制で、早い者勝ちだ。通常、恋人や家族の日とされている競争率の高い聖人節のような祝日に休むためには、かなり前からの申請が必要なはずなのだが。
なぜだか、すんなり休暇申請が通ったんだよね。
仕事に復帰すると副騎士団長が、「聖人節から年始までの2週間、有給消化しなさい」と頼んでもいないのに休暇を追加して承認してくれたのだ。
約束の時間に行くのか、行かないのか悩み、昨日は一睡もできなかった。
どうしても気になって、約束の1時間前に待ち合わせ場所へ行ってみれば、既に噴水近くのベンチにリオンは座っていた。
黒水晶のような黒髪を横でゆるりと1つにまとめ、優雅に魔法書を読んでいる。時折顔を上げ、周りを見渡す。
道行く女性たちがリオンを見て、うっとりと頬に手を当てている。近寄りがたい美貌のせいか、声をかける女性は今の所はいない。
……どうしよう。待ち合わせ場所に行く?
でも別れるって言い切っちゃったし。
話なんてしたら、泣いて縋ってしまいそう。未練がましい女だと軽蔑されたり、嫌われたりしたら、もう生きていけない。
このまま何もしなければ、別れることはないけど、自然消滅してしまうだろう。
その方が、精神的にはいいのかも……。
木の影で、もじもじと悩んでいると、あっという間に待ち合わせ時間になってしまった。
よし、これ以上待たせても悪いし、玉砕覚悟で話をする。そして盛大に振られて、失恋すれば未練もすっぱり断ち切れるだろう。
女は度胸だ!
いざ! と木の影から出たところで、リオンに近づく女性か現れた。
アイオラ様……。
足は一歩踏み出した所で止まってしまう。リオンとアイオラは、完璧な恋人同士の一枚の写真の様だ。
楽しげに微笑みながら挨拶をするアイオラとそれに応えるリオン。決心したはずなのに、痛む胸。
(キッパリ別れて、失恋……しないと。もう私の恋人ではなくなるんだから)
そう自分に言い聞かせても、ぴくりとも足は動かない。
どんな魔物が出た時も、怖いなんて一度も感じたことはない。でも今、足が震えてあの二人に近付くこともできない。
リオンの元に行き、彼女を愛しているんだと言われたら、どうなってしまうのだろうか。そんなことを直接言われたら、立ち直れないかもしれない。
や……やっぱり無理。もう会わない方がいい。銀青騎士団も辞めて、故郷の教会に帰ろう……。
噴水に背を向けて帰ろうとした時、「カーネリア、来てくれたのですね」とリオンが腕を取った。
え? 気付かれた? この一瞬で100メートル以上はあった距離を一気に詰めて、ここまでやってくるなんて。転移魔法?
「……え、あの。アイオラ様と一緒だったし、あの、もう分かりましたから」
「彼女には何の用事もないですよ。たまたま会ったから、挨拶をしただけです」
でも……すごい目でこちらを睨んでるし、「リオンー!」と大声で叫んでいる。
少なくとも、アイオラは、リオンと復縁したがっているように見えた。
カーネリアが口を開きかけたその時、「きゃーっ!」という叫び声が響く。
叫び声の方へ視線を向けると、噴水の前にアンデッドドラゴンが、禍々しいドス黒いオーラを放っている。ドラゴンは周りを見渡すと、ガーッと咆哮する。
その声で人々はパニックになり、散り散りに逃げていく。
「え、アンデッドドラゴン……? こんな街中に? 」
「ちっ、こんな時に……」
「え?」
一瞬、リオンが不機嫌な表情を浮かべたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。
「何でもありません。行きましょう!」
「は……っはい!」
カーネリアは、手元にアイアンウッドの杖を顕現させる。リオンはミスリル銀製の細い杖を手に取る。
噴水広場へ向かうと、「リオン! 怖い」とアイオラが青い顔でリオンに抱きつく。
「危ないから、向こうへ避難して」
「リオン様、皆さんを非難させて、防護結界をお願いします。私、倒してきます!」
「分かった!」
リオンはアイオラを街を巡回していた赤騎士団の騎士に任せ、避難を指示し、応援を呼ぶように依頼する。そして、あっという間に堅固な結界を噴水の周囲に張る。
「カーネリア、結界張りましたよ!」
「ありがとうございます!」
カーネリアは、頑丈に張られた結界を惚れ惚れしながら見つめる。
「さて、ここからは私の出番よ!」
杖を構えると、聖魔法をドラゴンへ放つ。この結界なら、一気に神聖魔法を叩き込める。
特大の一撃がドラゴンへ撃ち込まれる。
グアアアアー
ドラゴンは苦しみながらのたうち回る。結界内の噴水や公園に出ていた出店、建物を壊す。
飛んでくる破片を避けながら、もう一撃を繰り出そうとしたその時、
「リオンー、私のこと守って!」
防御決壊の外から、アイオラが飛び込んでくる。
リオンが、アイオラを抱きしめる。
横目でその様子が見えてしまい、カーネリアは動揺する。
ああ、もうお似合い過ぎて、泣きたい。物語のクライマックスで、王子様がお姫様を守るワンシーンの様だ。普通にドラマなら素敵なんだけど!
(リオン様の腕の中で、私だって守られたい! でも今ドラゴンを討伐できるのは私だけ!)
「リオン様ー! 大好きでした! どうかお幸せに!」
カーネリアは、杖を地面に突き立て、先ほどよりも出力多めの神聖魔法を放つ。魔法が巻き起こす風の音とものが破壊される音で、彼女の声はかき消される。
白い閃光にアンデッドドラゴンは、包まれる。苦しげに激しく横転をしていたが、しばらくすると動かなくなった。
身体を覆う腐った紫色の肌は浄化され、骨だけが残った。
魔法で割れた道路や建物の破片が、すっと顔を掠める。チリっとした痛みを感じる。額を切ったらしく、血が流れる。
それに噴水が壊れたことにより、全身ずぶ濡れのひどい有様だ。
お、終わった。疲れた。その場に座り込む。
カーネリアは、びちゃりと水の中に座り込んでしまう。
防御結界が解除され、ざわざわとした街の喧騒が再び聞えてくる。
結界の外に集まっていた銀青騎士団や赤騎士団は、一斉に噴水の周りで状況確認を始める。
見慣れた銀青騎士団の制服を着た大男が駆け寄ってくる。
「先輩! 大丈夫ですか? また無理をして」
「セオドア、だって、こんな街中に急にドラゴンが現れるなんて。どこかの結界が機能していないのかしら。すぐに確認に行かないと!」
「結界には問題ありませんでした。ドラゴンを召喚した媒介は、今見つかり、銀青騎士団で浄化中です。早く病院へ行きましょう。結構深く切れてますよ」
「うん……。疲れた、色々と……」
カーネリアが、セオドアから差し出された手を取ろうとすると、いきなり横から腕を掴まれる。
そのまま強い力で、抱き上げられてしまった。
気が付けば、リオンにお姫様抱っこをされていた。
「あれ? リ、……リオン様?」
先ほどまで、アイオラを抱きしめながら、銀青騎士団の副団長と話をしていたはずなのに。
「カーネリア、ひどいケガです。私の家で治療をしましょう。セオドア君、後は宜しく」
「はい、承知いたしました! 先輩は休暇を楽しんでくださいね」
セオドアは、「では」と逃げる様にその場から立ち去っていく。
「え、ちょっ」
出血と魔力の枯渇に、うまく身体が動かせない。リオンの腕の中でじたばたと身体を動かしても、びくともしない。強い力で腕の中に閉じ込められているみたいだ。
守られる様な可憐で繊細なキャラでもないのに。ケガだって大したことないし。
他の騎士たちが、生暖かく見守っているのも恥ずかしく、カーネリアは顔を両手で隠す。
どうして! こんなことになってるの⁉︎
移転魔法で一気にレイヴンブラック家に到着する。祖父から相続したというリオンの家は、貴族制度があった時に建てられた古城であった。
建物の周りをぐるりと水の張った堀で囲まれており、堅牢な要塞の様でもある。
部屋に通されると、ソファーに座らされる。リオンに額を治療してもらう。
顔が近い! 琥珀色の瞳が真剣にカーネリアの傷の状態を見ている。
緊張のあまり鼻息が荒くなってしまう。
(だめだ、落ち着かないと。キモすぎるでしょう、私!)
それにしても、先ほどから一言も話さない。恐る恐るリオンの顔色を窺う。
何か、怒っている、かも?
リオンは、傷口を消毒すると、無言で魔法薬を塗る。ヒヤリとした後、じんじんする痛みがすっと引く。熱を持っていた肌が、元の乳白色に戻る。
とても高価な薬を使用してくれたようで、傷は閉じて、既に元通りになっている。
後は、魔力が回復すれば、問題ない。
「あ、あの、ありがとうございます。私、寮へ帰ります……ね?」
「帰すわけ、ないだろ」
「え?」
いつもと口調が違うリオンに、カーネリアはびくっと肩を震わせる。
怒っている。穏やかな美人が怒るとかなりの迫力だ。
リオンは、カーネリアの怯えた深藍色の瞳を見て、はっと息を飲む。
「カーネリア、私はもう我慢の限界です。あなた無しで、私がどうやったら幸せになれるというのですか?」
聞こえないと思って叫んだ、ドラゴンを倒す時の言葉を聞いていたんだ……。
「ずっと忘れられなかった恋人が戻ってきて、また寄りを戻せそう……じゃないですか。私は、リオン様と付き合うことができて、よかった……。この思い出だけで一生過ごせます。あれ……」
カーネリアの瞳から、大粒の熱い涙がぽろぽろと流れる。
(リオン様の前では泣きたくなかったのに。でもここで泣いてすっきりして、ちゃんと自分の気持ちに決着をつけないと)
「カーネリア、愛している」
リオンがカーネリアを抱きしめる。
「君だけを愛しているんだ。彼女のことは、ずっと前に吹っ切れていたんだよ」
「嘘です……。私に絆されて、可哀そうにおもっているだけです。それは、愛ではなく同情です」
「私から離れられないように意図して行動していたことが、裏目に出てしまったようだね……。私の思惑から外れて、大きな誤解を生んでしまったな」
リオンは、カーネリアの茜色の髪を一房手に取り、キスをする。
「愛しています。ずっと前から、あなたは私の唯一無二で、とても大切な人なのです」
「そ、そんなこと、一度も仰ってくれなかったじゃないですか。冷静になって、自分の心に向き合えば、おのずと答えが……んっ」
リオンの唇が、カーネリアの言葉を遮る。強く抱きしめられて、キスをされる。
リオンはカーネリアの唇を無理やり開き、舌で口内を侵す。そのままソファーに押し倒される。
両腕はリオンに捕まれ、頭上で1つにされる。
「んっ……ぅんんっ」
悩まし気な声が漏れると、リオンの琥珀色の瞳はいつかのようにギラリと光る。暗くてリオンの表情はよく分からない。
「身体にも教え込むしかないですね。私はあなたと離れるつもりはないのですよ」
それからあっという間に、寝室へ連れ込まれ、翌朝を迎えた。
◇
朝の光に目を開くと横で、リオンが見つめている。
「おはよう、私のカーネリア」
「おはようございます……、リオン様」
寝顔見られてた! よだれとか寝癖とか大丈夫かな。
起き上がり、慌てて顔や髪を整える。身体にかけられていたブランケットがハラリと落ちる。
うっすらと明るい室内で、形良い胸がぷるりと揺れる。腕や身体には、薔薇の花びらの様なキスマークが散りばめられている。
「きゃっ」
カーネリアは昨夜のことを思い出し、赤面しながら、再びブランケットで身体を隠す。ベッドの上で、ブランケットにくるまったカーネリアを背中から抱きしめると、リオンが耳元で囁く。
「カーネリア、私と結婚してくれないか?」
「ふ……ぇっ、けっこん⁉︎」
「昨日、あなたにプロポーズをしようと思っていたのです」
「ちょっと、思考が全く追いつかないのですが……。私のこと、お好きなのですか?」
「そんな質問をするとは。私の分からせが足りなかったのでしょうか?」
リオンの大きな手が、ブランケットの合間から差し込まれ、カーネリアの薄い腹の上を這う。
昨日散々中で出されたものが、どろりと流れ出すのを感じる。
や、嘘、出てきちゃ……。
「ちょ、待っ、分かってます! 充分、分からせられてますから」
「だったらいいのですが……。それで、お返事お聞かせいたたけますか?」
カーネリアは、うつむき少し恥ずかしそうに肩を震わせる。
「……はい、不束者ですが、末長く宜しくお願いします」
リオンの方へ振り向き、消え入りそうな声で答えると、リオンの満面の笑み。
くぅー破壊力!
眩しくて目を開けていられない。
輝きに慣れようと、目をぱちぱちしていると、リオンが薬指に指輪をすっとはめる。
「カーネリア、ありがとう。最愛の人。愛しています」
リオンはぎゅっとカーネリアを抱きしめる。
「リオン様、アイオラ様とのことはいいのですか?」
「いいも何も、始めからどうでもいいんだ。せっかく長い間をかけて、私から離れられないように、調きょ……、いやあなたとの信頼関係を築いていたのに台無しされるところでしたよ」
あれ、今、調教って言った?
「とにかく私の愛する人は、カーネリアだけです」
「――っ」
今までそんなそぶりは少しも見せなかったのに。言って欲しいと思っていた言葉を実際に聞くと、恥ずかしくて身体が熱くなる。
昨夜もずっと愛の言葉を囁かれて、抱かれたことを思い出す。
「そうですよ。あれ、どうしたのですか、そんなに真っ赤になって。食べてしまいたいほど、かわいいですね」
「ちょっと、待って下さい! さっきから刺激が強すぎて……」
「一緒になるのですから、慣れて……ね?」
「はいぃ……」
リオンは、カーネリアの顔中にキスを降らす。リオンの腕の中で夢見心地だ。
「本当は、結婚するまで我慢するつもりだったんですけど、あの女のせいであなたを失うって思ったら冷静ではいられなかったです」
「絆されて、仕方なく付き合ってくれたのかと思っていました」
「そんな不実なことをするわけがないじゃないですか」
「だって何も言ってくれなかったですし、長期出張に出ても連絡くれないですし。そもそも初デートの後、電話したのに!」
「ああ、あの日は、ベタベタと彼女に触れられたのが気持ち悪いし、せっかくのデートも邪魔されて腹が立ったので、君のところの副団長とサウナへ行ってから飲みにいってたんですよ」
カーネリアのぷくりと膨らんだ頬を指で突く。
「愛していますよ」
「……ぅ」
「それに愛の言葉を囁くのはベッドの上でと、決めているのです。そうすれば、聞いた時に密事を思い出して、反応するようになるでしょう? ほら、今のあなたのように」
「わ、わざとだったんですか⁉︎」
「それはどうでしょうか……ね?」
琥珀色の瞳を甘美に揺らすと、リオンはカーネリアをうつ伏せに寝かせる。
「今度はこちらで繋がってみましょうか。これまで我慢し過ぎたのか、昨日から全然萎えないのです。もう少しお付き合いいただけると嬉しいです」
「や、ちょっ、ダメです…………あ、んっ」
結局、年始までレイヴンブラック家で過ごし、リオンのご両親にご挨拶させられ、結婚式の日取りまでも決められてしまった。
◇
その後休み明け、銀青騎士団に仕事復帰すると、副騎士団長が心配そうに話しかけてきた。
「大丈夫だったか? その感じだとうまくいったようだな。あいつ結構腹黒なとこあるからさ」
聞けば、副騎士団長は、リオンと同級生らしく学生時代はルームメイトだったらしい。
年末年始に休暇が取れたのは、付き合いだしたばかりなのに長期遠征に何度も出させて、と切れられたからもあるらしい。
そしてお詫びとして、リオンへカーネリアの遠征時の状況報告を毎日させられていたそうだ。
つまり連絡しなくても、全部状況は筒抜けだったってことよね……。
一番驚いたのは、アイオラが憂国のハザードの工作員だったことだ。あの事件の後、アイオラはリオンに赤騎士団へ連行され、投獄された。
今は裁判を待っている。都会に出て、リオンを捨てて、付き合った男に愛国主義を植え付けられ、組織へ組み込まれた。
昔の恋人であり、魔法師団副師団長であるリオンを組織に取り込もうと、彼に近づいたということだった。
彼の気持ちを利用して、魔法騎士団の副団長を組織に入れようとするなんて、許せない。
カーネリアは、唇をぎゅっとかみしめる。
「リア、どうしたの? 唇をそんなに強く噛んではだめだろう?」
リオンは、カーネリアの唇を指先でそっとなぞる。
「あ、ちょっと考え事をしていまして……」
「ふぅん?」
まるで何を考えていたかわかっているかのように、リオンはカーネリアを抱きしめる。薄い生地の寝間着なので、リオンの熱い体温を直に感じ取れてしまう。入浴後の彼の肌はしっとりと湿っており、開いた胸元にほほを寄せる。
婚約してからのリオンは、表面的には何も変わらなかった。
カーネリアは騎士団の寮の部屋からすぐにリオンの家へと引っ越しさせされた。あんなセキュリティが、がばがばな場所にリアを住まわせるわけにはいけないからね、とほほ笑むリオンはとても艶っぽく、今まで見たことのない表情に腰が抜けるかと思った。
「二人で過ごす夜なのに、他のことで心を惑わすなんて、私の愛し方がまだ足りないのかな?」
「そ、そんなことは」
慌てて否定したが、腰へ当てられていた手が、するりと下へと下がっていく。
「リア、昼間のあなたははつらつとしてさわやかで、とてもかわいいのに。夜のあなたは、未熟な私をあおるサキュバスのように魅惑的ですよ」
「ん、くぅ、……あぁ」
「そういうギャップもたまりませんね。リア、愛おしい人。愛しています」
耳元でささやかれる低音ボイスに、体が熱く反応する。毎夜繰り広げられる、ベッドの上での密事を思い出し、潤み始める。
「今日は、どうやって愛せばいいですか? 私のリア、どうかあなたにとらわれて正気を失いつつある哀れな私を導いて下さい」
(正気を失ってしまうのは、いつも私なのに! その色気は一体どこから出てくるのでしょうか!)
きっと睨みながら、見上げる。挑発的に上がる口角とは反対に、真摯な琥珀色が深藍色を様子を伺うように見つめている。
そんな心許なそうな顔をされたら、何も言えないじゃないですか。反則です……。
カーネリアは、リオンを抱きしめ返すと、「今日はずっとくっついていたい気分です……」と消え入りそうな声で答える。
リオンは、精一杯のお誘いに満足そうに笑うと、「仰せのままに」とカーネリアを抱き上げ、寝室の扉を閉めた。
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