惑星保護区

ラムダムランプ

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第1章『ベサーイの最後』

第20節『ベサーイの最後』

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 ファモ族が緊急用の太鼓からオレンジ色の塵を放つと、星を襲っている捕食者の塵に襲い掛かった。

(ファモ族は、以前塵に襲われた後に再び遭遇する事態に備え、自分達の知恵と能力を組み込んだ、オレンジ色の塵を開発していた)

その間に脱出させようとソウエは全市民に伝える。

『今、我々が捕食者に対抗すべく製造した塵を放ちました。

何処まで時間を稼げるか、判りませんが今の内に脱出をお願いします!』

更に続けて

『皆さんが乗り込む球体や我々のスペース(お煎餅)は、全て別々の宇宙や星に行くよう、予め設定されており、自動で移動します。

同じ場所に向かうと捕食者に襲われやすいので、分散する事で種の存続に繋がります。

それぞれ向かう星は生存出来る可能性がある星です。

それから中に、細い銀色の棒に球体が付いた物がありますが、1度だけ短時間なら乗っている物を操る事が可能です。

新たな星に着陸する際、減速に使用して下さい。
突発的な事態が起きた場合、コースを変える事は出来ますが、大きく逸脱すると元のコースには戻れませんので注意して下さい。

互いが近い距離にいる場合は、映像や会話も出来ます。

最後に、皆さんと会えて嬉しかったです。
どうか無事に生き残って下さい。』

とソウエは言った。

都市はパニック状態で、ソウエの声がちゃんと届いたのかは不明だ。

何も持たずに乗り込む者、出来るだけ物を運ぶ者、訳もわからなく泣き叫ぶ者、家族とはぐれる者や、別れを惜しむ者など
少し前まで平穏だった街の光景とは真逆の大混乱となっていた。

地上ではオレンジ色に発光するファモ族の塵が本物の捕食者を襲撃していたが、徐々に劣勢になり始めていた。

着陸した太鼓の居住スペースから、沢山の煎餅が地上と地下の出入口付近に飛んできた。

ソウエが出入口を開けると同時に、地上からファモ族の煎餅が次々と降りて来て、地下に居たファモ族や、乗れなかった市民を乗せて勢い良く地上に飛び出して、星を脱出して行く。

ここで遂に、本物の捕食者によって、ファモ族が製造した塵は全て駆逐された。

捕食者は、出入り口から地下に侵入すると共に脱出する球体や煎餅までも襲い始めた。

ソウエは移動用の太鼓を最後の囮(おとり)にして、脱出をする者から捕食者を遠ざけようと、再び浮上させ、出入り口付近にいる塵の集団に突入させた。

それにより、地下へ侵入していた塵も地上に戻り太鼓を捕食する。

この突入で、ほんの僅かな時間を稼ぎ、その隙に沢山の者が星を脱出して行く。

『出来る事は全てやった。後は、皆さんが塵から無事に逃げ切って欲しい。』

と思いながら、ソウエは静かにテーブルから離れ、ふと後ろを見ると、まだそこにはラム王一家が居た。

ソウエは驚いて

『何故まだそこにいるのですか!なぜ避難されなかったのです!!』

と言うとラム王は

『私は王です。皆を見届けてから最後に避難するのが私の役目です。ソウエも早く避難して下さい。』

ソウエは慌てて、残っている球体や煎餅を呼び寄せようとしたが、もう残ってはいなかった。

するとソウエは、銀色のテーブルの表面を波立たせ始めて、緑色に発光した瞬間、テーブルを2つに分離させ、その片方をラム王に渡して、家族達に急いで一緒にベサーイの所に来るよう言い、ソウエは慌てるように部屋を後にする。

それを聞いたサルンは子供達の手を引きベサーイの所へ走る。

ラム王は、伝記を持ち出し王室を出る直前、ふと窓から都市の光景を見た。

少し前まで、そこには市民達が普段通りの生活を送る光景があったのに、僅かな時間で何もかも変わってしまった事に辛く寂しい表情になるラム王。

『あなた早く!!』と妻が呼んでいる声に急いで部屋を出た。

ファモ族が帰って来てから、少し大きくなったベサーイの元に着くと、ソウエがベサーイに何かを話しかけていた。

するとベサーイの傘から小さな小さな球体が1個だけ落ちて、ラム王と家族達の前で少し大きな球体となり入り口が開く。

ソウエが

『早く乗って下さい!』

と言い、ラム王達が乗り込むと

ソウエは輪を取り出し、ベサーイの上から輪を落とすと、ベサーイの形に合わせるように広がり、地面まで落ちて沈んだ後、ベサーイごと持ち上げ浮き上がって来た。

その姿は、まるでシャボン玉に包まれている様なベサーイ。

ソウエがラム王達に

『我々の友人を宜しくお願いします。』

と言い、シャボン玉に包まれたベサーイを渡す。

『宜しくお願いしますって、一緒に乗るのに何故そんな事を言うのですか?』

ラム王がソウエに言うと

『私は、これには乗れません。』

『何言ってるの!ソウエ、あなたも早く乗って!』

とサルンが言うと

『これが最後の球体で、本来2人までしか乗れません。
ラム王と王妃、子供達2人で何とか速度は出せますが、私が乗るとスピードが遅くなり捕食者に追い付かれます。』

と言うとラム王が 

『ならば私が降りる!私が残る!!』

と言って球体を降りた。
  
するとソウエがラム王に

『貴方は王の意味を履き違えてます。
星の守護者としての王なのですよ?
貴方は、これまで立派に星を守って来ました。
しかし、この星は、そう長くは持ちません。
王として次の役目は、ムカーク族の存続と家族を守るの事です。
貴方は王としての役目を、ここで終えてはいけませんよ。
私の事でしたら心配無用です。
以前にも、私は一度捕食者から逃げ切ってますから、今度も逃げれますよ。さあ乗って!』

優しく言うが、それでも乗りたがらないラム王。

するとソウエはラム王に触れる。

ソウエに触れられたラム王は、初めて限定地に降りた時のように、半透明の薄く白い光に覆われた。

前回とは違い、光に覆われたラム王は動けなかった。

ソウエは、ラム王が持っている半分になったテーブルに触れて

『これは役に立つので、上手く使って下さい。私からの贈り物です。』

と言うと、薄く銀色に発光していたのが、鏡の様になった。

ソウエが動けないラム王を、そっと球体に乗せると入り口が閉じ、ラム王の覆っていた光は消え、動けるようになった。

浮上を始めると球体の内側がガラスのように透明になり外が見えた。

その球体に向かってソウエはウゲルカ器官を使ってラム王一家に

『私はムカーク族が好きです。
そしてラム王、サルン、子供達、あなた方に会えて嬉しかった。ありがとう。必ず生き残るのですよ!お元気で!』

と笑顔で伝えた。

球体内ではラム王が

『ソウエ…どうして…ソウエ!!』とガラスの壁を叩く。

サルンは子供達を抱き締めながら

『ありがとう…ソウエ…』と泣きながらソウエを見つめる。

すると地下出入り口の穴や、地下都市の、あちこちの地面から捕食者が侵入して街を襲い始めた。

地面から勢いよく飛び出した塵は、うねるように街の建物を突っ切り再び地面に潜り、別の場所の地面から再び飛び出して街を破壊して行く。

塵に突っ込まれた建物は、補食者が通過した所だけ穴が開き、他の部分は、通過する速度と威力で一瞬でバラバラになり吹き飛び、飛んだ破片は、ラム王達が住んでいた宮殿にも、ぶつかり宮殿は崩れるように破壊された。

至る所で地面に穴が開き、その先から外の星空が見えていた。

捕食者は、ムカーク族が長い年月をかけて築き上げた都市を無残に破壊し食い尽くして行く。

タルカの時代から、ベサーイと名付けられた都市の最後の姿だった。 

ラム王達を乗せた球体は、地上の出入口の穴に向かって加速して行く

地上に出ると、酷い光景だった。
  
大地も、その下にあったはずの氷河も削り取られ、都市を覆っていた球体の外側が露出して穴だらけだった。

ラム王達が乗っている球体を見つけた塵は、その開いた穴から集まって向かって来た。

ソウエは片方になった銀色のテーブルに触れ、まるで星と対話するように

『さあ、最後の役目を果たしましょう。』

するとログカーロが円錐形の形に閉じ、オレンジ色に発光して、ムカーク星が動き始め加速して行く。

ラム王達の球体を追っていた塵は、星が移動し始めた事に気付いて引き返して行く。

星を逃すまい、と塵はログカーロに集団で襲い掛かりに行くと、更に強くオレンジ色に発光して急加速して行く。

穴だらけでボロボロになった星は方向が定まらず不安定な軌道で加速を続け、球体の外側が剥がれ飛散し、都市の瓦礫も宇宙に撒き散らしながら捕食者を引き連れて、遥か彼方に飛び去って行った。

その頃、球体の中ではラム王家族が、住んでいた星や街、そしてソウエを失った事に悲壮感で泣いていた。

すると球体内部にノイズで乱れた音声が聞こえ始めた。

『ラム王聞こえて…ますか!見えていますか!!』

ラム王は、気を取り直し球体内部にある細い銀色の棒に触れて話す。

『聞こえている!誰だ?大丈夫か?』

と言うと、向こうの映像が、かなり乱れた状態で映し出された。

向こうは、かなり大きな空間に沢山の市民達が乗っていて、みんな不安そうな表情に見えた。

『私です、わかりますか?』

映し出されたのは、サルンの妹ルミアだった。

サルンも棒に触れて

『ルミア!無事なの?何処にいるの!!』

と言い球体の外(宇宙)を見るが、何処に居るのかわからない。

『こっちは皆無事!だけど何処の星に向かっているのか、わからない。そっちは大丈夫なの?サルン達は何処に向かってる?』

とルミアが聞いてきた。

ラム王とサルンは自分達も何処に向かっているのか周囲のガラスの壁を見るも分からず、棒の先の球体に触れると、小さな立体図が出て、知らない星までの道筋を示していた。

『ルミア!棒の先にある球体を触れると行き先が見える!私達は、かなり遠い水のような星に向かうみたい!』

サルンが言うとルミアも球体に触れ

『こっちも行き先がわかった!でも…途中何か箱?みたいな所があって、その中にある緑の星に向かうみたい。箱の中は…なんて言葉で表現したら良いのか?キラキラしてる?としか言えない』

とルミアが言って来た。

サルンは妹達が何処に向かうのか?
詳しく聞こうとするが、返答は、よく分からないの繰り返しだった。
  
箱の中?キラキラ?と考えていたラム王が、もしかして!!と思い

『ルミア!それは移動点だ!別の宇宙に行くんだ!キラキラは移動点!』

サルンとルミアが同時に 

『移動点って何?別の宇宙?』とラム王に聞く。

『ルミア、よく聞いて!移動点は別宇宙に繋がっているんだ!今、我々がいる宇宙とは別の宇宙なんだよ!』

とラム王が伝えるも映像と音声が更に乱れ始め

『別の…宙に行くと…事?良く聞こえ…かった、もう一度教えて!もう箱に……』

ルミアが話している途中で映像と音声が途切れた。

『ルミア!ルミア聞こえてる?ルミア!』

サルンが何度も繰り返すがルミアからの応答は無い。

ラム王が

『移動点に入ったんだ。』

と言うとサルンは

『そんな…。ルミアにはもう会えないの?別の宇宙って…』

と泣きながら言った。

ラム王はサルンに

『以前ソウエが、宇宙には移動点が沢山あって、入り口と出口が異なるような事を言っていたんだ。

だからルミア達は、もしかして別宇宙では無く、私達と同じ宇宙で、さっき居た場所から、別の場所に移動しただけの可能性だってあるじゃないか?

それだったら、またいつか会えるかも知れないじゃないか?諦めちゃ駄目だよ!』

と言うとサルンは

『そうかもね…諦めてはいけないよね…』

と言い、少しだけ落ち着いた感じだった。

その後もラム王は、近くに誰かいるかも知れない、と思い頻繁に交信を続けるも誰からも返事は無かった。

『何の応答も無い…みんな無事だろうか?』

と、ガラスの壁に映る漆黒の宇宙を不安な表情で見つめていた。

子供達は、この状況を掴めているのか?わからないのか?壁の向こうに広がる星空に夢中のようだ。

ラム王が少し休もうとした時に双子のオーロが

『あそこに何か変な動きしながら飛んでいるのがある!』

すぐさま、ラム王とサルンは捕食者が追って来たのか?と思い外を見た。

かなり遠い場所に小さな白い物体が上下に波を打つように移動している。

この距離からでは、それが何なのかわからない。

ラム王が交信を試す

『こちらラム王、誰かいないか?返事してくれ!』  

と言うが、先程と同じく何も応答はない。

ラム王は、その上下する物体が仲間なのか?捕食者なのか?別の生物なのか?と暫く観察するが遠すぎて判別がつかない。

ラム王がふと、
そういえばファモ族の太鼓に乗った時、壁に触れて望遠鏡みたいに拡大出来た事を思い出した。

ラム王は壁に手を触れてみる。
しかし何も変わらない。

やっぱりファモ族しか出来…待てよ?ソウエがくれた半分の机なら!と机に触れるが何も変化は起きず、自分顔が映っているだけだった。

何とか見れないのか?と、交信に使っていた棒を掴みながら地面に座り、下に広がる星空を見ながら、無意識に地面(壁)を手で軽く擦ると、星空が拡大した。

ラム王は、拡大した!と驚き、これなら見える!と物体の方にある壁に手を伸ばすが届かない。

おかしな動きを始めたラム王に

『一体、何をしているの?』

とサルンが言い、ラム王が棒に触れながら壁を擦ると拡大出来たんだ!と伝え、

二人は棒に触れながら物体が見えてる壁に何とか触れようと夫婦揃って、おかしな行動をしている後で、子供達が棒に触れず外を拡大して見ていた。

その様子に気付いたラム王

『?棒に触れてなくても擦れば見れるのか』

先程まで夫婦揃って、必死におかしな行動をしていた事に思わず笑ってしまい、サルンもつられて笑った。
親が笑っている姿に子供達も笑う。

久しぶりに皆で笑ったね。とサルンが言った。
星に捕食者が現れてから、皆ずっと緊張が続いていたが、ようやく笑顔になった時だった。

ラム王は、上下しながら飛んでいる物体を拡大して見ると、それは白い球体で何か粉のような物を飛散しながら飛んでいた。

『何なんだあれは?』

と思いつつ再度交信を試みるが、応答は無かった。

暫くその物体を注視していると、段々こちらに近付いて来る。

それと同時に雑音が聞こえ始めた。

先程より近くなり、拡大せずとも、それが球体である事がはっきりと分かる距離になると、雑音の中に音声が聞こえ始めた。

『聞………か?誰…聞…え………か?』

何か話しているようだ。
ラム王も交信してみる。

『こちらラム王、聞こえているか?そちらの声は雑音が酷く聞き取れない』

暫く同じやり取りを繰り返した後、お互いの球体が、更に近づいた時だった。

『ラム!聞こえ…か?ヤヤルカだ!』

と聞こえた。

ヤヤルカとラム王は幼なじみ。

ラム王が

『ヤヤルカ?ヤヤルカなのか!無事だったのか!他に誰かと一緒か?』

と聞くと

『一人だ!ラムの方は皆いるのか?』

とヤヤルカの返答にラム王は、こちらは全員無事だと伝え、何故1人なんだ?と聞いた。

ヤヤルカによると、最初は家族と一緒に避難しようとしたが、街の混乱で家族皆バラバラにはぐれてしまい、
家に戻って暫く家族を待っていたが、誰も帰って来ず、
家の外に出ると周囲には殆んど誰も居なくなっており、途方に暮れていた所、目の前に小さな球体があり、乗り込むと勝手に閉まり飛び始めた。との事

そして地上に出た時、捕食者が球体の一部に触れ、損傷したのか?動きが不安定なのと、交信が全く出来なかった事もラム王に伝えた。

『ヤヤルカ、行き先はわかるか?』

ラム王は、ヤヤルカに行き先の調べ方を教えるが、返答は何も出てこない、何も映らない。と伝えて来た。

(この時、ヤヤルカの球体は捕食者に襲われた際の損傷によって、予定のコースを逸脱し、他と交信出来る距離も極端に短く、更には映像を映し出す事も不可能、外が見える範囲も縮小している深刻な状況に陥っていた。)

ヤヤルカは自分の行き先が分からない上、乗っている物が何処まで持つのか?という不安と、孤独感から落ち込んでいる様子。

ラム王とサルンは、ヤヤルカを自分達の球体に乗り移れないのか模索していた。

『ヤヤルカ、大丈夫だって。今こっちに乗り移る方法を探してるから、もう少し待っててくれよ』

とラム王が伝えると

『ラム、ありがとう、』

と返信があった。

ラム王とサルンは鏡、棒、球体、そして壁のあちこちを触れたりしたが何も変わらず、時間だけが経って行く。

そうしている内に、ヤヤルカの球体はラム王達の球体から再び離れ始めていた。

何か方法があるはず!と懸命に探す二人にヤヤルカが

『ラム、もう良いよ、ありがとう。』

半ば諦めの様子で伝えて来た。

『諦めては駄目だ!必ず方法はあるはずだ!』

ラム王はヤヤルカに鼓舞する様に言う。

すると子供達が何か後ろで騒いでいる。

何か方法が見つかったのか!ラム王が振り返ると同時にヤヤルカが叫んだ。

『ラム!!捕食者だ!!追ってきているぞ!!』

後ろを見ると、ラム王達に目掛けてら、うねるように一直線に向かって来る塵の姿があった。

まだ追ってくるのか!!まずい、どうすれば…

本来2乗りに子供達をあわせると4人乗っている為、速度が出ないのだ。

ヤヤルカの球体も損傷から同じく速度が出ない。

後ろから徐々に迫り来る捕食者に、焦りと恐怖から、ラム王は無意識に棒を掴んだまま、どうする事も出来ずにいた。

『怖いよ!!』

『襲われる!!』

『あなた!どうしたらいい!』

『どうすればいいんだ!!』

恐怖でパニックに陥るラム一家の音声がヤヤルカにも聞こえていた。

その状況にヤヤルカは意を決した。

『ラム、頼みたい事がある。』

混乱状態のラム一家に、ヤヤルカの声が聞こえた。

『こんな時に頼みたい事ってなんだ!』

パニック状態で、ついキツイ言い方をしてまったラム王。

『こんな時に悪いなラム、子供の頃、沢山助けてくれてありがとう。』

妙に落ち着いた声でヤヤルカは話した。

『こんな時に何の話をしている!今はそれどころじゃ無いだろ!』

とラム王が言うと

『そうだよな』とヤヤルカの笑った声が聞こえ、続けて

『もし私の家族に会ったら元気だったと伝えてくれ、それからラム、ムカーク族を絶やすなよ!家族を大事にな!』

と言うと、突如ヤヤルカの球体は急旋回をして追って来る塵に向かって行った。

『ヤヤルカ!何やっているんだ!!早く元に戻すんだ!!戻るんだ!!』

ラム王が叫ぶ。

ヤヤルカは

『ラム!!私が塵を引き付ける!その間に出来るだけ逃げるんだ!!』

ヤヤルカが乗った球体は、迫り来る塵に目掛けて不安定な動きのまま急加速して行く。

一度きりの操作を行ったのだ。

『やめろヤヤルカ!!駄目だ!やめろ!!』

『やめなさい!駄目よ!戻りなさい!!』

ラム王とサルンは必死に言う。

ヤヤルカと距離が離れ、雑音が混じった音声が聞こえた。
  
『あり……う、ラム、サ……、子供……みんな元気でね。』

とヤヤルカは言い、塵にぶつかる直前に球体を急上昇させた。

損傷していたヤヤルカの球体は、無理な急加速によって球体表面が更に損傷して、白い粉のような航跡を残しながら捕食者を引き連れて、ラム王達から離れて行った。

『何で…どうして…ヤヤルカ…』

ラム王は悲しみに打ちひしがれた。

再び悲しみに包まれたラム一家に、一難去ってまた一難が起きる。

『あなた!!正面!!』とサルンが叫ぶ。

ラム王は、悲しみの表情のまま正面を向くと、星空の中、横一線におびただしい塵が待ち構えて居た。

そして横一線だった塵は形を変え、大きな網のように前方を塞いだ。

子供達が、後ろ!後ろからも来ている!と叫び振り返ると、先程の塵が戻ってきた。

捕食者達の挟み撃ちだ。

切迫した状況で咄嗟にラム王は棒に付いている球体を掴み、一度きりの操作を、やむを得ず行った。

ラム王達が乗る球体は急降下を始める。

サルンが

『あなた!あまりコースから外れると元のコースには…』

とラム王に言うと、被せるようにラム王が

『それはわかっている!!逃げるにはこれしかない!!』

前方にいた塵と後方から追って来た塵が、合流して大きな集団となり、急降下するラム王達に、うねりながら迫って来る。

『追い付かれそう!!』

『早く!もっと早く!』

子供達が叫ぶ。

ラム王は逃げ切る為に加速させ続けた。

球体は限界に近い速度で宇宙空間を突き進む。

猛烈なスピードに、きしみ音が球体内に響く。

徐々に捕食者との距離を引き離し始める。

ラム王は緊張から、どの位時間が経ったのかわからないまま、棒に付いた球体を握り締めていた。

『あなた!もう大丈夫よ!速度を落として!』

後ろで妻が何か言っている。

逃げる事に集中していたラム王は、妻の方を見ると

『あなた、もう塵は追って来ない、追いかけるのを途中でやめたよ。だから速度を落として』

と落ち着かせるように言うサルン。

握り締めていた球体から手を離し、周囲を見渡すと捕食者は、もう何処にもいなかった。

振り切ったんだ!良かった。と落ち着きを取り戻し、速度を落として元のコースに戻そうと球体に触れるが無反応。

何度試しても変わらない。

『サルン…速度が落ちない』

一度きりの操作を終了していたのだ。

【第一章完】

第二章へ続く。
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