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帰還と成果

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「誠に申し訳ございませんでしたっ!」

「いやいや、ティファは悪く無いって!あれだけの人数相手に無事で良かったよ、それにメリーの言ってた魔女がまた現れて飛ばされるなんて…」

 帝国四将を倒しきれず、大森林の魔女が現れて城から飛ばされてしまい撤退を余儀なくされてしまった俺達。

 自分のせいだと、凄い勢いで謝ってくるティファを男前に受け止め、肩に手を置き優しい言葉で返し、見つめ合う二人…

「…んんっ、げふんっげふん」
 …良い感じの空気をぶち壊しカットインしてきたのは、愛らしい雰囲気と明るい栗色の髪を揺らすアスナと言う少女だ。
 妹キャラが好物のヲタには堪らん容姿と雰囲気を醸し出している。
 …う~んたまらん!

「あの~、どうやら助けて頂いたみたいで申し訳ないのですけど、皆様はいったいどちら様なのでしょうか?」

「この方々はシュウト様のお知り合いです。シュウト様が来られるまで粗相の無いようにして下さいね。」

 コハルが俺の方を見ながら申し訳無さげにアスナをフォローしてくれる。
 けど…初期のお前さんの態度はもっと酷かったぞコハル!

「コハルさんもどうしたの?なんだか、シュウト様を自分のご主人様みたいに…」

「それは…」
「あぁっ、分かった!ういろう様を見限ってシュウト様を取ろうって事ね!ダメだよ?ぜーったいダメェ!」

「…はぁ。」

 自分の立ち位置を守るべく必死なアスナにコハルは最大級のため息で答えていた。


「それで、ユウト様?この煩いのが救出対象なのは分かりましたが、前に聞いた話と違い過ぎる気がするのですが…」

「そうだな、メリーとシュウトが来たら全部説明するよ。」

 俺はそう答えながら、シュウトの居城である小ぶりな城…は言い過ぎなので、結構な規模の武家屋敷って感じな屋敷で全員集合を待っている。

 すると、しばらくして襖の前に人の気配がして声がかかる。
「シュウト様がお戻りになられました。お連れ様もご一緒でございます。」

「わかりました。」

 コハルの返事を聞いて女性は居なくなり、そのすぐ後に二人の人影が襖を開け放つ。

「コハル無事で!?…ア、アスナ!アスナも」
「お待ちなさい。」

 メリーによって単純に呼び出されたからだろう、コハルとアスナの無事に飛びかかる勢いで動くシュウトをメリーが制止する。

「ぐっ…」
 室内を見渡し、何かを悟ったのか歯を食いしばり震えながら両膝を床に落とした。
「カザマユウト…いや、ユウト様。俺が悪かった、何でもする!命が欲しければくれてやる!だから、だから…二人だけは、無事に、無事に解放してやって欲しい。頼む!!」

 床に頭を擦り付け盛大に勘違いする様子を見ながら、俺の仲間や家族を傷つけてきた男の変わり様に俺は動揺していた。

「シュウトさまぁっ!シュウト様は悪くありません。わたしが、捕まった私が悪いのです!だからシュウト様に酷いことをしないでぇっ!!」

 シュウトの姿を見ていられなかったのか、アスナが勝手に駆け寄りシュウトを庇う。

「へっ?…ア、アスナ?お前何もされてないのか?それに言葉遣いが…目も見えるのか?」

「シュウト様、ユウト様とアイアンメイデンの皆様が協力して下さり、アスナを取り戻す事が出来たのです。」

 涙を流して命を取られる事まで覚悟していたシュウトは、訳の分からない展開にコハルの説明が頭に入っていないようだった。

「コハル、アスナを別室に連れて行ってくれ。経緯を全部説明するよ」

「かしこまりました。ユウト様」

 コハルは一礼すると嫌がるアスナを諭しながら別の部屋に連れて行く。
 その様子を見送ってから呆然と座り込んでいるシュウトに全てを説明してやった。


 コハルが自分の命を賭して助けを求めて来た事
 停戦中の帝国に真っ向から喧嘩を売る羽目になった事
 救出したアスナがボロボロにされていて、全てを治癒するエクスポーションを使い、コハルの了承を得て記憶を消去した事
 二人には何もしていないし、する気もない事
 だからと言ってお前を安易に許した訳では無い事

 冷静に話たつもりだったけど、結構な早口でまくし立てたっぽくて、所々はティファやメリーがフォローしてくれていた。


 その話を無言で聞き終えたシュウトは視線を落とし静かに何かを考え込んだ。

「ユウト…様、俺はあんた…あなたの下僕になります。だけど、二人の所有権を移転するのだけは勘弁して欲しい!」

「いや…」

「図々しい願いなのは分かってる。感謝なんて言葉では済まないし、俺が嫌いなのも承知の上だ!でも、だけど、これだけは…これだけ……」

 人の発言を遮りながら悲劇のヒロインのように顔を伏せて涙ぐむシュウト

「お前な、人の話も聞けよ!」

 ビクッと身体を震わせるとオドオドと此方を伺う姿に、今までのキャラは何処に行ったんだとツッコミたくなる。

「俺はオッサンの下僕なんかいらん。ましてや同郷の下僕なんて嫌な思いしか湧いて来ん!」

「な、なら…ならば、どうしたら?」

「二人はお前に返すし、所有権とかもいらん!お前の国とは同盟関係…もちろんウチが上の立場で。だけどなっ!」

「ユ…ユウト…様」

「様とか気持ち悪りぃよ、ユウトで良い。だけど、今後俺を裏切ったらお前の全部を奪ってやるからな。」

「わ、分かった。同盟でも何でも良い、約束も守るし恩も忘れない。」

 はっきり言って嫌悪感は簡単に消えないが、この国でやってる事やアスナとコハルを痛いほど大切に思う気持ちは解ってしまうからな…

 だから、感情は置いといてビジネスとして最大限の恩を売るとしよう。

 それから俺はアスナの現状について説明した。
 万能回復薬であるエクスポーションで身体を全快させ、酷い想いを沢山抱えたであろう心の傷に関しては、コハルの同意を得て記憶を消す事にした。
 これには、たまたまクエストアイテムをボックスに入れっぱなしにしていた『忘却水』ってのを使ってみたんだ。
 どれくらい記憶を失うか分からなかったけど、どうやら俺が転生してきたタイミングまでの記憶にリセットされてるようだった。

 つまり、俺が使ったら転生初日の記憶に戻されてたって事だ。
 なぜか俺だけ他の皆より転生時期がズレてたおかげで、アスナにコハルと出会った時の記憶が残ってたのはラッキーだったな。

 さらにラッキーな事に色々あって無くなってしまった視力と感情も取り戻せたみたいで、一石三鳥にも四鳥にもなった訳だ。


「…そんな奇跡みたいな事が。」

「まぁ、俺の日頃の行いが良かったからだけどな。」

 監禁中にアスナが受けたであろう仕打ちは少しボカしたけど、シュウトもそこには深く突っ込んで来なかった。
 だけど、皇帝カイザーと宰相カリオペ…この二人は許されないだろう
 …俺なら絶対許さないからな。

 俺の軽口に真剣な表情で頷き返してくるシュウトに話は終わりだと告げ、ついでに国を取り返した状況をメリーから説明させる。

「…と言う感じですわね。」

「この短時間でそこまで把握するなんて、おま…貴方は優秀なんですね。」

「…気持ち悪いですわ。」

 メリーにも喋り方がキモいと言われ若干ダメージを受けてそうなシュウトを、いい気味だと笑い二人を返してやる。

 腫れ物でも触るように大切にアスナの感触を確かめるシュウトを見ながら、皆にアスペルへ帰るかと話をしていると
 コハルが真剣な表情で俺達の元にやって来た。

「この度のご恩は返しようがありませんが、先の約束通り私を好きにしていただいて構いません。」

 口を真一文字に結んだその表情からは、相当の覚悟が伺えた

「いやっ…」

「貴方のような小娘、ユウト様には必要ありませんわ」
「そうです。これ以上、倍率は上げないでもらいましょうか。」
「そ、そそそ、そうですね!私達が居るので、コハルさんはシュウトさんと一緒に居るべきですよ!」

「皆さん…」

 若干ベクトルが違う方向で断っていそうだけど、俺が何か言う前に皆が代弁してくれたので俺は静かに頷くだけだ。

「そーゆー事だ、シュウトが裏切らないよう、側でしっかり見張っててくれよ」

「…御意。」

 少し涙ぐみ俯くコハルに、俺や仲間達が声を掛けていると、その日は泊まる事になり異世界の日本みたいな場所で一夜を過ごす事になった。

 久々に食べる洗練された日本食には不覚にも少し涙が出てしまった。
 この世界の料理にも慣れたつもりだったけど、やっぱり故郷の味は絶対だと教えられたよ。
 …また食べたくなったら、こっそりお邪魔する事にしよう

 俺はそう心に決めるのであった。





 ーーーー翌朝
「それでは、我々はここで失礼致す。貴殿らに会えて本当に良かった。我が故郷に寄られる時は是非に頼ってほしい。」

「水臭えよ!冒険者時代のよしみじゃねぇか、なぁマジ?」
「おうよザジ!昔の商売敵は今日の友ってな!」

 どう見ても顔がプードルで体とのバランスがおかしい武者っぽいチチワと言う剣士とザジマジが握手を交わす。

「そなたらも、我が森で困り事あらば我が名を呼ぶ事を許そう」

「ありがとうございます。女王様!」
「…おなか…へった」

 そして、チチワに護衛されていた偉そうな女性が、風の精霊族を司る精霊達の女王様だそうだ。

 それぞれ地下牢と貴賓室(牢屋)に捕まっていて、皆がついでに助けたおかげで思わぬ縁を作る事が出来た。
 なんでも帝国の街に入って、女王が好き放題に暴れたせいで連行されたそうだ…


「近いうちにお邪魔すると思うから、二人共宜しくなっ!」

「生意気な!吹き飛ばしてやろうかっ」
「女王様、恩人の総大将殿です、抑えて抑えて…」

 若干の不安を抱きながらも、今回の救出劇は色々あったが一応はプラスになったな、と思い返す。
 そして俺達も意気揚々と日の本を出発して、ホームがあるアスペルを目指した。


 …そう、意気揚々と。
 浮かれてしまっていた。

 家に帰るまでが遠足だったのに。
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