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安堵

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「もしかして……ご主人様ですか?」

 再び、騎士は俺に尋ねて来る。

 そして「さぁ!答えよ!」とばかりに俺に着けられていた口の布を外す。


 これは、絶好の機会ではある。
 …だが、しかし、しかしだ!

 俺には、フルプレートアーマを着こなし、ドアをぶち抜いて、幼気な少年を救うヒーローの様な知り合いは、いない…そう、いないのだ。

 …いや、と言うか、俺はこの世界に知り合いなんていねーし!


 …
 ……
 一応、無難に師匠対応してみるか…?
 あーあー…ごほんっ
「あ、あれー?お、お姉さん?ぼくの知り合いなのー?顔が見えないから分からないよー」


 どうだ?謎は全て解けたかっ?!
 …いや、解けないか。



 俺の対応に、やや首を傾げる仕草で答えた騎士は、フルフェイスのバイザーを上げた。
 …偉い美女さんの顔がそこにあった。

 …
 ……でも、誰!?


 い、いやいや、本当に分かりません!
 ただ、ただ…ここで、ご機嫌を損ねると、俺の未来が、明るい家族計画ががが…


 ……なので、正体を考える。
 必死にだ。

 でも無理だ。(早
 だって、ゲームの世界で知り合いとか、クイズにしてもハードル高すぎだって!!



 諦めて、いっちょやってみる…

「ぁ、あぁ~おねぇ……」
「ティファです。ティファ・エード・ノートです、ご主人様。」

 俺が適当ぶっこいて乗り切ろうと、口を開いたら、名乗りを上げられた。

 ……ティファ?

 ん~
 ……どっかで聞いた?


 いや、この、俺がイキって付けそうな感じの、
 その名前は…
 君の名は!
 俺がソロで戦う為に作った、NPCキャラの名前じゃねーか…



 何、人の黒歴史を暴こうとしてんだよ…
 マジで、どんだけタチの悪い運営様だよ!


 …神に悪態を付いて、騎士の顔を見る。



 PCの画面越しに設定しただけだし、そこまで細かく決めれた訳じゃなかったけど、初めて作った、俺の仲間だったから、確かに見覚えはある…かも。



 …意を決して、俺は尋ねた。

「…お前、ほんとに俺が作ったティファなのか?」
「はい!その通りです。ご主人様に作って頂いた、ティファにございます!」
 騎士から笑顔が溢れる。

 しかし、

 ーーガンゴン!
 ーードカ…ボコっ!    うわぁっ
 ーーくそ!    ゴーン!…固えぇ


 …俺達の感動の名シーンをぶっ壊すべく、喋っているティファの後ろから、暴漢共が攻撃しているのが見える。

 まったく、ダメージは入っていないようだし、ティファも気にせずニコニコしているが…絵面が可笑しいだろ!?

 …何か、怖いって。



 ごくり、と唾を飲み込みお願いしてみる。
「あ、あのーティ、ティファさん?その…後ろの人達を、どうにかしてから、ゆっくり話さないか?」


 俺の発言に、後ろの野党達の顔が一瞬で真っ青になる。
 ……顔芸豊かだな。


「ひっ!ひぃぃー」
 野党の一人が、恐れに耐え切れず、入り口に向かおうと駆け出した。
 が、その瞬間……後ろから追いついたティファに、頭を掴まれ地面に投げつけられた…


 地面に血の花が咲く。


「うぉっ!」
「うわぁあ!」
「ぎぃぃやぁ~」

 等と、雑魚共の悲鳴が聞こえるが、お子様の俺は眼を硬く瞑り、瞑想モードに入る。

 ……
 ものの一瞬で辺りは静まり返り、俺の吐息が掛かる距離で人の気配がしたかと思うと、後ろ手に縛られていた拘束を、ティファが解いてくれていたのが薄目に見えた。


「……あっ、ありがとう…ございました。」
「勿体無きお言葉です。」

 畏るティファを見て、心に高揚感が湧き上がる。
 これは、もしかしてお約束の俺が作ったキャラだから、好き勝手に命令出来るってやつかぁ!?


 …だが、同時にゲーム時代みたいに"俺に付き従って行動する"ってのが、本当に当てはまるのか?
 と言う疑問が湧き出す。


「…こんな所では何ですので、私達の家に移動されては如何でしょうか?」

 俺はブンブンと、素直に頷いた。


 ……てくてく    …カツカツ
 …通りをティファの家に向かいながら歩く。
 俺は疑問に思っていた事を、言葉を選んで、慎重に聞いてみた。


「あのー、ティファ…さん?何でこんな姿になったのに、俺だと気づけたの?…ですか?」
「……ご主人様、何故、そんな喋り方をされるのでしょうか?」

 若干、ご機嫌が悪そうに見えるんですけど…

「どうぞ、以前のように「おまいら!ポーション買い集めて来い!」と、仰って下さい。」


 拒否を許さぬ威圧感に、おっ、ぉぅ…と、頷いた。
 ……ぐぅぅ~
 そして、腹が盛大になった。

 ティファの眼が輝いている、命令しろって事?
 か…少し怖い気もするが、本人がああ言うのだから大丈夫だよな?

「ティファ、肉串を買って来い!」
「はっ!ユウト様、お幾つ買われますか?」
「み、三つだ…」

 畏まりましたと頷くと、直ぐさま近くの露店へ並ぶ。
「あっ、金が…」と言い掛けて、止める。
 後で請求されたら、泣いて謝ればいいだろう。


 …しかし、フルプレート纏った騎士が、肉串の露店に並ぶ様は、かなりシュールだな。
 屋台のオヤジの顔が引きつっとる…

 タレとか飛んだら、ぶっ飛ばされそうだし、次からは店の人にも気を使ってあげようと、俺が天使の心で様子を見守っていると、串を買い終わったティファがダッシュで帰ってくる。

 …自分のパシリ時代を思い出すようで、軽く鬱な気分になるな。

「ユウト様!買ってまいりました!」
 ティファの声のデカさに、周りがギョッとして、こちらを見てくる。

「あ、ありがとうティファ、家に着いたら頂くよ…」
 俺は、小声で言うと、案内を促した。


 そして、途中でさらに質問責めする。
 違う責めもしたい……
 いやいや、しょうもない考えは置いておこう。

 何故、ゲーム内での背格好と違うのに、俺だと気付いたのか?と言う質問には、相手をよく見れば、名前とジョブが表情される事、そして希望すればLVも表示出来るらしい事も知った。

 しかし、これらは偽った情報も入力出来るとの事で、信頼し過ぎるのも問題だと教えてくれた。

 成る程、馬鹿正直に実名公開したり、隠しジョブを知られる必要も無いって事か…
 ただ、名前を偽るのは少なからず居るが、ジョブまで隠す者は少ないと補足してくれたので、今後のために頭に入れておく、ら

 …ちなみに、ティファは全部正直に公表しているのは、目を凝らして確認済みだ。

【ティファ・エード・ノート / パラディン  ロード  】
 と、なっていた。


 レベルについても聞いてみたが、以前のまま、LV100はキープしているとの事。
 LVが高いと、依頼や頼み事が多くなり大変だったので伏せているそうだ。

 俺が趣味で着せていた、露出が高い服(キャラ詳細の画面でしか、あまり意味が無いグラフィックだが)は、恥ずかしいので、鎧に変えているのだとか…残念だ。

 だが、しかし!
 かっ、感情や、それに基づく行動を取れるのか…
 最初から感じてはいたけど、それは、もはや人間…だよな?



 逆にティファからも質問される。
 何故、子供の体で、名前も違うのかと……


 …そんなの俺が聞きたいわ!


 …とは言えず、目覚めるとこうなっていて、名前も悪意のある物に変えられていたと教える。


 後、何故に名前も含めて、俺との共通点が無いこの状態で、俺だと分かったのか?と言うと、名前の横に【主たる者】って、称号が見えるれしい。
 俺には見えないけどな…
 毎日探してくれていたのもあって、
 だから…俺かも、と思ったそうだ。

 何か、簡単に騙されたりしそうな性格だな。


 しかも、ティファがボス討伐後に、入り口に転移させられてから、今までで、およそ一ヶ月経過しているらしく、このレベルでどうやって生き延びて居たのか、と不思議がられた。


 …俺は今日、目覚めたばかりだけどね。

 良く分からないんだよね、と話したところで…



 着いた……



 ……屋敷に。



 ……でかっ!!うそん。


「ティファはこれに一人で済んでるのか?だっ、誰かの従者にでもなったから、ここに住んでいるのか?」
 頭を過ぎる不安に、早口に聞いてしまったが、兜を脱いだ彼女に笑顔で返される。

「ここは、ご主人様をお迎えする為に、我々で購入した物でございます。」


 …ほっ

 ……どうやら、鞍替えならぬ、ご主人様替えをした訳では無かったようで安心する。

 推しメンチェンジは勘弁して欲しい、アイドルの気持ちは、こんな感じなのかな…



 豪勢な庭を抜けて、屋敷の扉を開けてもらい中に入る。
 ……中もスゲーな…

 嫌らしい感じでは無い程度だが、審美眼の無い俺にでも分かる位の調度品が置かれ、この屋敷が、かなりの値が張るであろうことが伝わって来た。

 横を見ると、少し申し訳なさそうにティファが頭を下げて来た。
 …?

「この屋敷を買い取るに当たって、ご主人様からお預かりしていた、資金の殆どを使い切ってしまい……」
 怒られるのでは、と少しオドオドと言い訳っぽく説明している。

 ……そうか、俺が自分で何かを買う事なんて無かったから、パーティーメンバーに渡していたのか。

 だからって自分の所持金0て……アホか俺は。


 ティファに「大丈夫、大丈夫」と伝えると、目に見えてホッとしているのが分かった。


 …俺はそんなに恐ろしかったのだろうか?
 別にNPC相手に優しくするのも変だから、特別優しかった訳じゃ無いけど、基本的にはお使いと、バトルのサポートくらいしか…あっ!

 そこまで考えた俺は、自分の指示を思い出した。



 …そういや、盾キャラだったティファには、他の必要キャラの為に、「盾になって攻撃を止めろ!死んでも構わん!」とか、偉そうに指示してた気はする…


 で、ても、それは他のプレイヤーもやってるし、違反でも何でも無い…
 無いけど、気分が良いものではないわな……


 そう考えて、黙り込んでしまう。

 俺が無言でいるのを、どう思ったのか分からないが、急ぎリビングへ案内される。
 お茶を用意しますので、少しお待ち下さい。と言われ座らされた。


 …ぐぅー、くぅ

 俺の腹から、可愛い音が鳴る。
 ほんとに昔とは大違いだ。


 自分の出したその音で、そういえば、腹減ったなぁ…
 と思っていると、キッチンから香ばしい匂いが漂って来て、口からヨダレが垂れそうになる。

 じはらくすると、お茶と焼き直した肉串を持ってティファが登場したんだが…



 その姿は、…まさに女神だった!!


 鎧を脱いで、洋服に着替えた彼女は、超が付く美人で、ボンキュッボンのナイスバデーで素晴らしいの一言に尽きた。
 洋服も胸元までしか布の部分が無い、貴族の令嬢とかが着そうなやつだ!

 …ティファさん、こんなに素敵女子だったのか。


 鎧姿からでは想像しなかった、嬉しい誤算に、上がるテンションを必死に抑える。
 そして、まずは、持って来てくれた肉串とお茶を頂戴する。


「んぐんぐ…むしゃむしゃ……ごくん。」
 何の肉か分からんが、空腹に支配された俺の胃袋には「そんなの、かんけーねぇ!」と吸い込まれて行く。

 …タレのパンチと、野菜の優しさもしっかり堪能し、ご馳走様。をする…


 …あぁ、うんまかったぁぁ‼︎


 一心不乱に食べていたので、お茶を貰いながら、状況の整理をしようと、向かいに座るティファへ話しかけようとしたところで…


 カチャン…
 …ガチャッ!


「ただいまですわぁ~」
「…戻りました…」



 二つの声がリビングにいる俺の耳にも届いて来た。


 ティファが居るって事は、もしかしてこの二人って……。
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