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第三章 制裁させていただきます
107 後遺症が残るよ
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レフィアが薬を飲むと、眠気がやってきたのだろう。すぐに眠ってしまった。
「効いてるね」
ターザが覗き込むようにしてレフィアを見るとそう口にする。
「うん。次に起きたら、動けるようになると思う」
「そっか。うん。なら、その間にこっちも次のことしようか」
「次?」
まだ何かあるのかとターザを見上げると、部屋から出るように促される。長い廊下をターザに続いて歩く。
足を止めると、そこではナワちゃんがドアを固定していた。
《ーお疲れ様ですー》
ドアの把手の部分と、壁に付いている燭台を上手く使って締めているようだ。
「開けてくれる」
《ーどうぞー》
中に居たのはレフィアと同じくらいの年齢の男女が一人ずつ。夫婦だろう。
それと、その子どもの夫婦一組。そして、その子どもで、カトラと同じくらいの少年が二人だった。
「っ、お前たち!こんなことをして、どうなるか分かっているのか!」
「あの怒鳴ってるのが、レフィアさんのお兄さんだってさ。元大司教だね」
「へえ……」
言われても、カトラはどうも思えなかった。
特に拘束はしていないのだが、部屋にはナワちゃんの分身体が三体(?)控えていて、出て行こうとしたり、暴れたりした者達を転ばせていたらしい。微妙に顔に擦り傷があるので、そういうことだろう。
部屋の隅には二人の元影の黒子達。なので、脱走はまず不可能だった。
「おい! 聞いているのかっ!」
「プツっていくよ? 気をつけて」
「何を言ってっ……っ」
倒れた。
「っ、あなた!」
「父上!」
「ほら……だから言ったのに」
このまま放っておくとかなり危ない。
「しょうがないな……」
「カーラ? いいのに」
「でも、お祖母様にちゃんと謝らせたいし」
「なら良いよ」
あっさり考えを変えた。カトラが近付いて行くと、当然だが立ちはだかる者がいる。
「近付くな!」
「何するつもりよっ」
彼の息子と妻が睨んでくる。だが、カトラは気にしなかった。一般人の睨みなど、ただ目つきが悪い人なのかなと思う程度だ。
だが、そんな彼らの行動を気にしたのだろう。黒子が動いた。
「わたくしが?」
「ううん。今回のはちょっと難しいからね。外傷じゃないから」
「なるほど……見させていただいても?」
「うん。また教えるけど、見てて」
「はい」
神聖魔術は、全てを治せるわけではない。もちろん、技術の高さによるものではあるので、極めていけば何でも治せるようになる。だが、一般的な神聖魔術と呼ばれる現象では、外傷しか治せないのだ。
よって、壊死した足を治すことも、本来はできなかった。内部で起きている損傷は、治せているように見えるのだが、時を戻す魔術ではないので、出てしまった血はどうすることもできない。
細胞の活性化をするのが効果なので、いずれは消えることが多いが、脳なんて場所は放っておけない部分だ。
「どいてくれる? そのままだとその人、死んじゃうし」
「私が治す!」
神聖魔術を使わなくてはならない状態だとわかったのだろう。
「やめなよ。後遺症が残るよ」
「うるさい!」
息子は神聖魔術の遣い手だったらしい。だが、これでは当然だが、今回は治らない。
その上、黒子達よりも能力は遥かに下だったのだ。
「あ~あ……面倒くさいことに……」
ため息をつくカトラ。その理由がこれだ。
「父上! 父上! 大丈夫ですか!?」
「……」
「父上?」
「……」
目を開けたが、呆けてしまっている。残った血が重要な場所を圧迫しているのだろう。あれでは思考が出来ていても、行動が伴わない。寝たきり老人生活が始まる。
「お前! どういうことだ!」
「どういうことって言われても、それはあなたの神聖魔術のせいだよ。正しく理解していないと、場合によってはそういうことにもなる。そのさ……『神聖魔術は神の御技だからなんでも治る!』って認識やめなよ。使えるのは純粋にその人の適性であって、神さまは関係ないんだからさ」
「……何を言って……っ、何てことを!」
「事実だし」
不敬だという顔をされた。だか、父親の状態を見てショックだったのだろう。ちょっと大人しくなっていた。
「どうする? そのままにする? それとも治す?」
この提案に口を挟んだのは、これまで静かにことの成り行きを見ていた少年達だった。
「治るのか? 神聖魔術は万能ではないのだろう?」
「そう言ったよな? 治る方法があるのか?」
二人は、祖父が心配というわけではないようだ。その目には、興味を示す色が浮かんでいた。
「魔術はどれもそうでしょう? 要は熟練度。なんでも極めればすごいことができる」
「そっか……神聖魔術は……魔術なんだな」
「なら分かる。神さまに、より愛された者が高位の術者だというのは嘘だな。そうじゃなきゃ、レフィアばあがあんな風な扱いを受けたりしない」
少年二人を改めて見ると、どうやら、神聖魔術の適性がないようだ。この国で、この家でそれでは、かなり悩んだだろう。なぜ使えないのか。それを二人は必死で知ろうとしていたのではないだろうか。
「なあ。さっきあんた、レフィアお祖母様って言ったよな?」
「うん」
「なら、従兄弟か? レフィアばあさま、治るか?」
「もう治したよ。あとは目が覚めれば動けるようになる。ただ、筋力は落ちてるから、訓練しなきゃいけないけど」
「そっか。よかった! ありがとな!」
心からの感謝を映す笑みに、カトラも嬉しくなる。
「ふふ。うん」
「「っ……かわいい……」」
二人が顔を赤らめる。だが、すぐに青ざめさせた。
「おい……」
「「っ、すみません!」」
「ん?」
ターザが威圧したと気付かなかったカトラは首を傾げただけだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
また一週空きます。
よろしくお願いします◎
「効いてるね」
ターザが覗き込むようにしてレフィアを見るとそう口にする。
「うん。次に起きたら、動けるようになると思う」
「そっか。うん。なら、その間にこっちも次のことしようか」
「次?」
まだ何かあるのかとターザを見上げると、部屋から出るように促される。長い廊下をターザに続いて歩く。
足を止めると、そこではナワちゃんがドアを固定していた。
《ーお疲れ様ですー》
ドアの把手の部分と、壁に付いている燭台を上手く使って締めているようだ。
「開けてくれる」
《ーどうぞー》
中に居たのはレフィアと同じくらいの年齢の男女が一人ずつ。夫婦だろう。
それと、その子どもの夫婦一組。そして、その子どもで、カトラと同じくらいの少年が二人だった。
「っ、お前たち!こんなことをして、どうなるか分かっているのか!」
「あの怒鳴ってるのが、レフィアさんのお兄さんだってさ。元大司教だね」
「へえ……」
言われても、カトラはどうも思えなかった。
特に拘束はしていないのだが、部屋にはナワちゃんの分身体が三体(?)控えていて、出て行こうとしたり、暴れたりした者達を転ばせていたらしい。微妙に顔に擦り傷があるので、そういうことだろう。
部屋の隅には二人の元影の黒子達。なので、脱走はまず不可能だった。
「おい! 聞いているのかっ!」
「プツっていくよ? 気をつけて」
「何を言ってっ……っ」
倒れた。
「っ、あなた!」
「父上!」
「ほら……だから言ったのに」
このまま放っておくとかなり危ない。
「しょうがないな……」
「カーラ? いいのに」
「でも、お祖母様にちゃんと謝らせたいし」
「なら良いよ」
あっさり考えを変えた。カトラが近付いて行くと、当然だが立ちはだかる者がいる。
「近付くな!」
「何するつもりよっ」
彼の息子と妻が睨んでくる。だが、カトラは気にしなかった。一般人の睨みなど、ただ目つきが悪い人なのかなと思う程度だ。
だが、そんな彼らの行動を気にしたのだろう。黒子が動いた。
「わたくしが?」
「ううん。今回のはちょっと難しいからね。外傷じゃないから」
「なるほど……見させていただいても?」
「うん。また教えるけど、見てて」
「はい」
神聖魔術は、全てを治せるわけではない。もちろん、技術の高さによるものではあるので、極めていけば何でも治せるようになる。だが、一般的な神聖魔術と呼ばれる現象では、外傷しか治せないのだ。
よって、壊死した足を治すことも、本来はできなかった。内部で起きている損傷は、治せているように見えるのだが、時を戻す魔術ではないので、出てしまった血はどうすることもできない。
細胞の活性化をするのが効果なので、いずれは消えることが多いが、脳なんて場所は放っておけない部分だ。
「どいてくれる? そのままだとその人、死んじゃうし」
「私が治す!」
神聖魔術を使わなくてはならない状態だとわかったのだろう。
「やめなよ。後遺症が残るよ」
「うるさい!」
息子は神聖魔術の遣い手だったらしい。だが、これでは当然だが、今回は治らない。
その上、黒子達よりも能力は遥かに下だったのだ。
「あ~あ……面倒くさいことに……」
ため息をつくカトラ。その理由がこれだ。
「父上! 父上! 大丈夫ですか!?」
「……」
「父上?」
「……」
目を開けたが、呆けてしまっている。残った血が重要な場所を圧迫しているのだろう。あれでは思考が出来ていても、行動が伴わない。寝たきり老人生活が始まる。
「お前! どういうことだ!」
「どういうことって言われても、それはあなたの神聖魔術のせいだよ。正しく理解していないと、場合によってはそういうことにもなる。そのさ……『神聖魔術は神の御技だからなんでも治る!』って認識やめなよ。使えるのは純粋にその人の適性であって、神さまは関係ないんだからさ」
「……何を言って……っ、何てことを!」
「事実だし」
不敬だという顔をされた。だか、父親の状態を見てショックだったのだろう。ちょっと大人しくなっていた。
「どうする? そのままにする? それとも治す?」
この提案に口を挟んだのは、これまで静かにことの成り行きを見ていた少年達だった。
「治るのか? 神聖魔術は万能ではないのだろう?」
「そう言ったよな? 治る方法があるのか?」
二人は、祖父が心配というわけではないようだ。その目には、興味を示す色が浮かんでいた。
「魔術はどれもそうでしょう? 要は熟練度。なんでも極めればすごいことができる」
「そっか……神聖魔術は……魔術なんだな」
「なら分かる。神さまに、より愛された者が高位の術者だというのは嘘だな。そうじゃなきゃ、レフィアばあがあんな風な扱いを受けたりしない」
少年二人を改めて見ると、どうやら、神聖魔術の適性がないようだ。この国で、この家でそれでは、かなり悩んだだろう。なぜ使えないのか。それを二人は必死で知ろうとしていたのではないだろうか。
「なあ。さっきあんた、レフィアお祖母様って言ったよな?」
「うん」
「なら、従兄弟か? レフィアばあさま、治るか?」
「もう治したよ。あとは目が覚めれば動けるようになる。ただ、筋力は落ちてるから、訓練しなきゃいけないけど」
「そっか。よかった! ありがとな!」
心からの感謝を映す笑みに、カトラも嬉しくなる。
「ふふ。うん」
「「っ……かわいい……」」
二人が顔を赤らめる。だが、すぐに青ざめさせた。
「おい……」
「「っ、すみません!」」
「ん?」
ターザが威圧したと気付かなかったカトラは首を傾げただけだった。
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