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第三章 制裁させていただきます
102 吊るしておいで
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カトラ達は、フェジ達黒子を使い、寝返り作戦を一気に加速させた。
それにはまず、影達を治療する薬が足りなかった。なので、精製の途中になっていた薬を大急ぎで作って追加した。材料は過剰なほど手に入れていたので、作るのには問題はない。
そうして二日。どうやったのかは知らないが、全ての影を寝返らせたらしい。知らず薬漬けにされ、死が近くまで来ていたという事実は、彼らにとって衝撃だったようだ。
神聖魔術の素質があるからと、強引に連れてこられた彼ら。勝手に連れ去ってきて、勝手に見限って薬漬けにされ、使い潰されようとしていたという事実を知って不満が爆発したらしい。
今まで我慢を強いられていたということに気付いたのだ。何より、人生を無茶苦茶にされた。これは正当な怒りだった。
もちろん、それらを説得するフェジ達がとても説明上手であったというのもあるかもしれない。そんなこんなで、こちらに反発する者はおらず、教育途中であった者達まで残らず救出したのだ。
「命を助けていただいたのです。いかようにもお使いください」
「あれらを倒すのならば、協力させて欲しい」
「私にもまだやれることがあるのなら、やらせてください」
彼らは、この恩を返すとカトラ達の元に集った。寧ろ復讐させてくれと乗り気だ。
「うん。なら、神聖魔術を確実に使えるようになってもらう。あなた達の価値を勝手に決めた奴らをこれでまずは見返そう」
復讐心に燃えていた彼らを、カトラはまず落ち着かせようと思った。怒りだけで突っ込むのは良くない。だからこそ、こんな時でもこれを教えようと考えた。
カトラの指導は的確で、元々素質のあった彼らは、半日もすれば問題なく扱えるようになった。それに一番驚いたのは本人達だ。
「こんなに簡単に……」
「本当に魔術だったんだ……」
「けど、これでまたあいつらに捕まったり……」
頭が冷え、心配したのは、彼らの新たな価値に気付いて捕らえようとする教会の者達だ。だが、心配はいらない。
「大丈夫。だって、実行部隊の影がいなくなったんだもの」
「あ……」
「そうだったっ」
「ははっ、ざまあみろ!」
そう。影は全員寝返ったのだから、実行する者がいない。
「さあ、次は実戦訓練ね。神聖魔術が使えるあなた達は、魔力操作の能力が高い。それが十全に使えるようになった。きっと、自分たちでもびっくりするくらい動けるよ」
ターザが中心となり、丸二日。聖結界の弊害によって強くなった魔獣を相手に戦い方を教わり、どの国も驚くほどの戦闘部隊が出来上がった。
聖王国王都に着いて五日後。
全ての準備は整ったのだ。カトラ達は教会を強襲した。それも白昼堂々とだ。
「なんだっ!?」
「どこの国の者だっ! 貴様ら! わかっているのか! 今後一切、神聖魔術による恩恵は与えんぞ!」
「どこかわからぬなら、全ての国に制裁をかけてやるわ!」
自分達が優位であるということを疑っていないようだ。呆れた様子で、笑いながらターザが前に出る。
「好きにしたらいい。因みに、俺の国はほとんど君たちに頼るようなことはしていないからね。どっちでもいいよ」
「「「っ……」」」
ターザの国は薬師が多いらしく、神聖魔術に頼ることはこれまで特になかったという。何より、呪術が盛んな国だ。神聖魔術では対抗できないため、重要視されていなかった。
「何より、俺たちは冒険者だ。国に所属するものでもないし、王侯貴族にしか派遣を許さないようなお前たちなど、あてにしたことはないよ」
「「「……っ!」」」
脅しなど冒険者には通用しないということさえも頭になかったらしい。自分たちは誰に対しても優位に立っていると思い込んでいたようだ。指摘されて『そういえば!?』となっている。
こんな奴らを、一時的にでも脅威と思ったことがバカらしくなる。
「さて、話はこれでいいよね? ということで、反省するといい」
「捕まえて」
「「「はっ!」」」
「「「なに!?」」」
黒子の装束を纏った一団が唐突に姿を現し、教会内に居た者達を容赦なく張り倒すと、全員ナワちゃんで縛り上げていく。
十五分ほどで、教会内に居た神官達は全て聖堂に転がされていた。その間、カトラはのんびり椅子に腰掛けて置いてあった聖書を読んでいた。読んだことないなと呟いたら、ターザが読んでみたらと言ったのだ。時間を潰すにはとてもよかった。
「上から五人はここに転がしておいて」
そんなターザの指示も、耳半分で聞いている。
「残りは外に上から吊るしておいで。もうすぐ雨が降るしね。それが済んだら、外にいる国の代表達を呼んできて」
「「「承知しました!」」」
吊るせるということでだろうか。黒子達の声が心なしか弾んでいるように聞こえた。偉そうに踏ん反り返って駒のように扱われてきた黒子達は、自分たちが優位に立ったことが嬉しかったらしい。喜ぶのは当然だ。
そうして、残された五人。教皇を中心としたこの国の代表を移動させる。
聖堂の中の椅子を全てターザが一度亜空間に収納し広くなったその中央に、他の部屋で見つけた大きなテーブルを置いた。
長椅子を間隔を少し空けて並べれば、立派な会議室のようになった。因みに、教会へ礼拝に来た一般人はいない。ここ最近の他国からの外交官達の訪問。それを見て、ただでさえ少なくなっていた参拝者が居なくなっていたらしい。念のため、ケイト達が見回って人の出入りを止めてくれている。
椅子に縛り付けて五人を並べて座らせる頃。各国の代表がやって来た。
「ん?」
部屋の端でターザに用意された椅子に座り、相変わらず聖書を読んでいたカトラは、その気配を感じて顔を上げた。
やってきた国の代表の中に父がいたのだ。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
それにはまず、影達を治療する薬が足りなかった。なので、精製の途中になっていた薬を大急ぎで作って追加した。材料は過剰なほど手に入れていたので、作るのには問題はない。
そうして二日。どうやったのかは知らないが、全ての影を寝返らせたらしい。知らず薬漬けにされ、死が近くまで来ていたという事実は、彼らにとって衝撃だったようだ。
神聖魔術の素質があるからと、強引に連れてこられた彼ら。勝手に連れ去ってきて、勝手に見限って薬漬けにされ、使い潰されようとしていたという事実を知って不満が爆発したらしい。
今まで我慢を強いられていたということに気付いたのだ。何より、人生を無茶苦茶にされた。これは正当な怒りだった。
もちろん、それらを説得するフェジ達がとても説明上手であったというのもあるかもしれない。そんなこんなで、こちらに反発する者はおらず、教育途中であった者達まで残らず救出したのだ。
「命を助けていただいたのです。いかようにもお使いください」
「あれらを倒すのならば、協力させて欲しい」
「私にもまだやれることがあるのなら、やらせてください」
彼らは、この恩を返すとカトラ達の元に集った。寧ろ復讐させてくれと乗り気だ。
「うん。なら、神聖魔術を確実に使えるようになってもらう。あなた達の価値を勝手に決めた奴らをこれでまずは見返そう」
復讐心に燃えていた彼らを、カトラはまず落ち着かせようと思った。怒りだけで突っ込むのは良くない。だからこそ、こんな時でもこれを教えようと考えた。
カトラの指導は的確で、元々素質のあった彼らは、半日もすれば問題なく扱えるようになった。それに一番驚いたのは本人達だ。
「こんなに簡単に……」
「本当に魔術だったんだ……」
「けど、これでまたあいつらに捕まったり……」
頭が冷え、心配したのは、彼らの新たな価値に気付いて捕らえようとする教会の者達だ。だが、心配はいらない。
「大丈夫。だって、実行部隊の影がいなくなったんだもの」
「あ……」
「そうだったっ」
「ははっ、ざまあみろ!」
そう。影は全員寝返ったのだから、実行する者がいない。
「さあ、次は実戦訓練ね。神聖魔術が使えるあなた達は、魔力操作の能力が高い。それが十全に使えるようになった。きっと、自分たちでもびっくりするくらい動けるよ」
ターザが中心となり、丸二日。聖結界の弊害によって強くなった魔獣を相手に戦い方を教わり、どの国も驚くほどの戦闘部隊が出来上がった。
聖王国王都に着いて五日後。
全ての準備は整ったのだ。カトラ達は教会を強襲した。それも白昼堂々とだ。
「なんだっ!?」
「どこの国の者だっ! 貴様ら! わかっているのか! 今後一切、神聖魔術による恩恵は与えんぞ!」
「どこかわからぬなら、全ての国に制裁をかけてやるわ!」
自分達が優位であるということを疑っていないようだ。呆れた様子で、笑いながらターザが前に出る。
「好きにしたらいい。因みに、俺の国はほとんど君たちに頼るようなことはしていないからね。どっちでもいいよ」
「「「っ……」」」
ターザの国は薬師が多いらしく、神聖魔術に頼ることはこれまで特になかったという。何より、呪術が盛んな国だ。神聖魔術では対抗できないため、重要視されていなかった。
「何より、俺たちは冒険者だ。国に所属するものでもないし、王侯貴族にしか派遣を許さないようなお前たちなど、あてにしたことはないよ」
「「「……っ!」」」
脅しなど冒険者には通用しないということさえも頭になかったらしい。自分たちは誰に対しても優位に立っていると思い込んでいたようだ。指摘されて『そういえば!?』となっている。
こんな奴らを、一時的にでも脅威と思ったことがバカらしくなる。
「さて、話はこれでいいよね? ということで、反省するといい」
「捕まえて」
「「「はっ!」」」
「「「なに!?」」」
黒子の装束を纏った一団が唐突に姿を現し、教会内に居た者達を容赦なく張り倒すと、全員ナワちゃんで縛り上げていく。
十五分ほどで、教会内に居た神官達は全て聖堂に転がされていた。その間、カトラはのんびり椅子に腰掛けて置いてあった聖書を読んでいた。読んだことないなと呟いたら、ターザが読んでみたらと言ったのだ。時間を潰すにはとてもよかった。
「上から五人はここに転がしておいて」
そんなターザの指示も、耳半分で聞いている。
「残りは外に上から吊るしておいで。もうすぐ雨が降るしね。それが済んだら、外にいる国の代表達を呼んできて」
「「「承知しました!」」」
吊るせるということでだろうか。黒子達の声が心なしか弾んでいるように聞こえた。偉そうに踏ん反り返って駒のように扱われてきた黒子達は、自分たちが優位に立ったことが嬉しかったらしい。喜ぶのは当然だ。
そうして、残された五人。教皇を中心としたこの国の代表を移動させる。
聖堂の中の椅子を全てターザが一度亜空間に収納し広くなったその中央に、他の部屋で見つけた大きなテーブルを置いた。
長椅子を間隔を少し空けて並べれば、立派な会議室のようになった。因みに、教会へ礼拝に来た一般人はいない。ここ最近の他国からの外交官達の訪問。それを見て、ただでさえ少なくなっていた参拝者が居なくなっていたらしい。念のため、ケイト達が見回って人の出入りを止めてくれている。
椅子に縛り付けて五人を並べて座らせる頃。各国の代表がやって来た。
「ん?」
部屋の端でターザに用意された椅子に座り、相変わらず聖書を読んでいたカトラは、その気配を感じて顔を上げた。
やってきた国の代表の中に父がいたのだ。
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