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第二章 奴隷とかムカつきます

099 単純に格が違うんだ

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宿に落ち着いたカトラ達は、ターザが城の一部を消しただけではなく、城の者全員を呪ってきたと聞いて絶句した。

「これで簡単には俺達の邪魔はして来ないよ」
「……」

清々しい笑顔だ。そんなターザにピタリと張り付かれてカトラが隣に座っている。

首を傾げたのはケイトだった。

「ですが旦那様。権力者というのは、下の者のことなど考えていないのではありませんか? どのような王か知りませんが、旦那様がお怒りになるほどですし……呪いの効果を知っていながら、下の者を動かせる可能性はありませんか?」
「あり得るねえ」
「旦那様……」

ニコニコと笑いながら肯定したターザに、ケイトも口を噤む。

「そこまでして近付いてくるようなら、返り討ちにしても文句ないでしょ」
「……それが狙いじゃ?」

カトラが見たターザの横顔には、とってもいい笑みが浮かんでいた。間違いない。この後の方が彼のお楽しみなのだ。

「ターザ……」
「ふふっ、だってさあ。俺に王女と結婚しろって言って、カーラを消すとか言ったんだよ?」
「「「「は!?」」」」

叫んだのはケイト達四人娘だ。トゥーリも口をポカンと開けて動きを止めている。

ゆっくりと怒り膨らませていくケイト達。顔が怖い。だが、不意に顔を伏せると、ゆらりとドアに向かった。

「ケイト?」
「お嬢様……諸用を済ませて参ります。夕食までには一度戻りますので、それまでごゆっくり旦那様とお過ごしください」
「あ……うん……」

失礼しますと言って、トゥーリも連れて四人は出て行った。残ったのはお茶を用意したりと細々と動くフェジだけだ。

「そうだ。フェジ。黒子達に武器を用意したんだ。フェジの分も選んできてね」
「見慣れない武器を持っている者がいると思いましたが、そうでしたか。では、今から行って参ります」
「今から……あ、うん。気を付けてね」
「はい。では、失礼いたします」

そうして、フェジも出て行ってしまった。

カトラが隣を向くと、ターザが微笑んでこちらを見ていた。それを見ると、急に恥ずかしくなってカトラは買ってきた魔効武器を見せることにした。

「見て、これ。全属性の魔効武器なんだ」
「全属性? 本当だ……レイピアかあ。こんなのが作れる職人がここに?」
「そう。すごいでしょう?」

さすがのターザもはじめて見たのだろう。心から感心していた。それから、武器屋で聞いたことなどを話して聞かせる。

「そんな人なら、エルケートに来てもらおうか。あんな王の治める国だからね。ここに居てバレたら聖王国に売りかねないよ」
「……本当に嫌な感じの王だったんだね」
「誰を前にしているのかもわかってないバカだよ。だから、あんな女に良いようにされたんだろうね」
「そっか……」

王女にまで手を出されて、その後国外に逃がされていたことさえ気付かなかった。今回、慌ててセルカを探していたが、何もかも、対応が遅すぎる。

その上にターザ達を拘束するという愚かな判断。程度が知れるというものだ。

「大丈夫だよ。俺は君に手を出すやつは誰であっても容赦しないからね。それが王であっても、神であってもだ。心配しないで」
「……神って……そうだ。あのセルカがいなくなったことで、彼女を操ってた奴が、ターザに目を付けていない?」

天使ビフォラ。それがセルカに手を貸していた。ならば、セルカが死んだことで、関わっていたターザに手を出してこないとも限らない。

だが、ターザは余裕の表情で笑っていた。

「無理だよ。天使ごときには俺はどうにもできない。ここの世界の神よりも俺は上だからね」
「……神よりも上? 力がってこと?」

確かに、Sランクは伊達ではない。神が来ても対峙できると言われれば、そうなのかと思ってしまう。大昔に現れた邪神と対峙したのもSランクの冒険者であったと言われているのだから。とはいえ、神は神だ。揶揄だろう。しかし、そうではなかった。

「力だけじゃないよ。単純に格が違うんだ」
「……どういうこと?」

ターザはニヤリと笑うと、あっさり答えた。

「俺は全ての神より上の、最高神の力を持ってるんだ」
「……」
「カーラ、俺がどういう存在か、聞いてくれる?」
「……うん」

それは壮大で、あり得ないと思えるような話だった。

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読んでくださりありがとうございます◎
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