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第二章 奴隷とかムカつきます
092 思い詰めないでください
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カトラは最近、同じ夢を何度も見ていることに気付いた。それは、いつからだろうと考えて思い当たったのは、ターザへの気持ちを自覚してからだということだった。
「なんでかな……」
朝、目を覚まして最初に口にするのはこの言葉。なぜそれがきっかけだったのか。そう思ってしまう。
そして、より鮮明になったのは天使ビフォラの存在を知ってから。その理由の答えは夢の中にあった。
夢の中で、カトラは戦っていた。邪神となった天使を打たなくては、その世界は壊れてしまうというところまで来ていたのだ。
愛した人を殺され、家族を殺され、大切にしていた国を滅ぼされた。その時の胸の痛みを感じながら、それでも堕ちてしまった天使を不憫に思った。
地上に降りてきたからこそ、近くで人々を見たからこそ失望し、堕ちてしまったと知っていたから。
醜い姿で涙を流しながら牙を剥く邪神。それに剣を突き立てたところで夢は終わる。
「はあ……訳がわからない……」
ため息を付かなくては起きられない日々が続いていることに気付いて背を丸めた。
王都にやって来て二日が経った。
せっかくだからここで、聖王国に関する集められるだけの情報を集めようと決めたのだ。何より、この王都に来る途中で拾った人達が問題でもあった。
「お嬢様、お目覚めですか」
ケイトが部屋に入ってきた。
「うん。今日も待機?」
「はい。まだ旦那様はお戻りになっておりません」
「そう……」
王都へ来て二日、泊まっている宿にはターザとフェジの姿がない。
この王都に来る途中、怪我をした体を引きずりながら城を目指していた騎士を拾ったのだ。それは、セルカを護送してきた騎士だった。
その体を治療したのはフェジとカトラだ。
フェジには、怪我を神聖魔術の訓練として治してもらった。ただ、それだけでは不十分で、カトラが怪我によって感染していた病を薬によって治したのだ。もう少し遅ければ、耳が聞こえなくなる所だった。
これにより、ターザとフェジは城に呼ばれ、それから二日、帰ってきていないのだ。
「朝食が済んだら、トゥーリと武器屋に行こうと思うの。その後、ギルドに行くけど、ケイト達はどうする?」
「私とコルはここに残ります。キュリとクスカをお連れください」
ターザが帰ってきた場合や、何かがあって連絡がくる場合もあるので、留守番をする者は必要だ。ナワちゃんだけでも良いが、ケイトはその辺はきちんとしたいらしい。
「わかった。ナワちゃんは置いて行くよ」
《ーまた分身いたしますが?ー》
「今はあまり無理して欲しくないんだ。それに、連絡なら黒子さん達が居る。あまり仕事取らないでやって」
《ーわかりましたー》
『黒子』とは、元影の者達のことだ。『元影』と呼ぶのもどうかと考えていた時に、ターザが『なら、黒子でよくない? コードネーム黒子ってことで』と言って決定したのだ。
これにより、更にターザについて考えることが増えた。
そうして悩んでいるのが、キュリとクスカには分かってしまったらしい。武器屋に向かう間に尋ねられた。
「どうかされたのですか?」
「何か困ったことでも?」
「……ちょっと、夢見が悪いだけだよ」
「それだけですか?」
「旦那様のことでは?」
「っ……そう……だね。ターザに聞きたいこととかは……ある……」
「「やっぱり」」
なんだか納得された。
「顔に出てる?」
「それほどではないですけど、ちょっと違うかなって思ったくらいです」
「旦那様が居なくなってからですよね。あまり思い詰めないでください」
「そうね……」
少し恥ずかしかった。けれど、悪い気はしない。見ていてくれた事が嬉しかった。前までは心配させて申し訳ないと思っただろう。だが、今は違う。
「ありがとう」
「いいえ。旦那様が早く帰って来ると良いですね」
「あと二日くらいしたら、私が連れ戻して来ますよ」
「あっ、ズルい! 私も行きますよ!」
「お城の一つくらい簡単に潰せなくてはいけませんよね」
「当然よ!」
「……」
城攻めの方法を教えてくださいと言ってくる二人に呆れながら、声を小さくする結界を張っていて良かったとほっとした。
その時、二人は空気を一転させた。次いで感じたのは、二人に向けられた殺気だ。自身に向かっていなかったために、反応が一瞬遅れた。
「カーラ様。お下がりください」
「狙いは私たちのようです」
「……あの女の子……」
路地から放たれる殺気。目を向けるとそこにいるのはガラの悪い男達。その後ろ。暗い目をして殺気を放っていたのはあの少女。セルカだった。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
「なんでかな……」
朝、目を覚まして最初に口にするのはこの言葉。なぜそれがきっかけだったのか。そう思ってしまう。
そして、より鮮明になったのは天使ビフォラの存在を知ってから。その理由の答えは夢の中にあった。
夢の中で、カトラは戦っていた。邪神となった天使を打たなくては、その世界は壊れてしまうというところまで来ていたのだ。
愛した人を殺され、家族を殺され、大切にしていた国を滅ぼされた。その時の胸の痛みを感じながら、それでも堕ちてしまった天使を不憫に思った。
地上に降りてきたからこそ、近くで人々を見たからこそ失望し、堕ちてしまったと知っていたから。
醜い姿で涙を流しながら牙を剥く邪神。それに剣を突き立てたところで夢は終わる。
「はあ……訳がわからない……」
ため息を付かなくては起きられない日々が続いていることに気付いて背を丸めた。
王都にやって来て二日が経った。
せっかくだからここで、聖王国に関する集められるだけの情報を集めようと決めたのだ。何より、この王都に来る途中で拾った人達が問題でもあった。
「お嬢様、お目覚めですか」
ケイトが部屋に入ってきた。
「うん。今日も待機?」
「はい。まだ旦那様はお戻りになっておりません」
「そう……」
王都へ来て二日、泊まっている宿にはターザとフェジの姿がない。
この王都に来る途中、怪我をした体を引きずりながら城を目指していた騎士を拾ったのだ。それは、セルカを護送してきた騎士だった。
その体を治療したのはフェジとカトラだ。
フェジには、怪我を神聖魔術の訓練として治してもらった。ただ、それだけでは不十分で、カトラが怪我によって感染していた病を薬によって治したのだ。もう少し遅ければ、耳が聞こえなくなる所だった。
これにより、ターザとフェジは城に呼ばれ、それから二日、帰ってきていないのだ。
「朝食が済んだら、トゥーリと武器屋に行こうと思うの。その後、ギルドに行くけど、ケイト達はどうする?」
「私とコルはここに残ります。キュリとクスカをお連れください」
ターザが帰ってきた場合や、何かがあって連絡がくる場合もあるので、留守番をする者は必要だ。ナワちゃんだけでも良いが、ケイトはその辺はきちんとしたいらしい。
「わかった。ナワちゃんは置いて行くよ」
《ーまた分身いたしますが?ー》
「今はあまり無理して欲しくないんだ。それに、連絡なら黒子さん達が居る。あまり仕事取らないでやって」
《ーわかりましたー》
『黒子』とは、元影の者達のことだ。『元影』と呼ぶのもどうかと考えていた時に、ターザが『なら、黒子でよくない? コードネーム黒子ってことで』と言って決定したのだ。
これにより、更にターザについて考えることが増えた。
そうして悩んでいるのが、キュリとクスカには分かってしまったらしい。武器屋に向かう間に尋ねられた。
「どうかされたのですか?」
「何か困ったことでも?」
「……ちょっと、夢見が悪いだけだよ」
「それだけですか?」
「旦那様のことでは?」
「っ……そう……だね。ターザに聞きたいこととかは……ある……」
「「やっぱり」」
なんだか納得された。
「顔に出てる?」
「それほどではないですけど、ちょっと違うかなって思ったくらいです」
「旦那様が居なくなってからですよね。あまり思い詰めないでください」
「そうね……」
少し恥ずかしかった。けれど、悪い気はしない。見ていてくれた事が嬉しかった。前までは心配させて申し訳ないと思っただろう。だが、今は違う。
「ありがとう」
「いいえ。旦那様が早く帰って来ると良いですね」
「あと二日くらいしたら、私が連れ戻して来ますよ」
「あっ、ズルい! 私も行きますよ!」
「お城の一つくらい簡単に潰せなくてはいけませんよね」
「当然よ!」
「……」
城攻めの方法を教えてくださいと言ってくる二人に呆れながら、声を小さくする結界を張っていて良かったとほっとした。
その時、二人は空気を一転させた。次いで感じたのは、二人に向けられた殺気だ。自身に向かっていなかったために、反応が一瞬遅れた。
「カーラ様。お下がりください」
「狙いは私たちのようです」
「……あの女の子……」
路地から放たれる殺気。目を向けるとそこにいるのはガラの悪い男達。その後ろ。暗い目をして殺気を放っていたのはあの少女。セルカだった。
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